「全く、爺は本当にうるさいのぅ……」

ぶつぶつと文句を言いながら、一人の少女が街の中を歩いていた。

少女はこのアヴァターでは重要な役割を持つ【選定姫】クレシーダ・バーンフリートである。

小さいなりだが、政治的手腕なども高いと言われている。

そして、千年前の救世主戦争で赤の主と一緒に戦ったアルストロメリア・バーンフリートの子孫でもある。

そんな彼女が何故街中を歩いているかと言うと……

単に、王女としての仕事を放り出してきただけである。

彼女もまだ遊びたい盛りなのだ。

だが、王女としての責務に負われ、それどころではないのだ。

だからこそ、彼女はこうやって何度か城を抜け出しているのだ。

「うむ、やはり街は活気があっていいのぅ……」

自分の治めている街の活気を見て、クレアは頬を緩ませる。

そして、そのまま人通りを避けて目立たない裏路地を歩いていると……

「お嬢ちゃん、一人かい?」

いかにも柄の悪そうな2人組の男が、クレアに声をかける。

「いかにも、我一人だが?」

その男を見て、クレアは内心溜息をつきながら答える。

「だったら、俺たちとどっかにいかねぇか?」

「断る、そんな暇はない」

男の言葉に、クレアはすぐに言い返す。

「そんなつれねぇこというなよ」

「断るといったら断る。 大体、我にはお前達と一緒に行く理由がない」

そう言い放ち、クレアは歩き出そうとする。

「おい、調子に乗るなよ」

そんなクレアの腕を、男の一人が掴む。

「離さぬか!」

その腕を解こうとするが、クレアの非力な腕ではほどくことができない。

そして、更に悪い事に裏路地で人通りがないため、あまり人通りもない。

「へへへへ、これからいいところに連れて行ってやるぜ」

そう言って男が歩き出そうとした瞬間……

 

「嫌がる少女に対して、それ以上何をしようという気か?」

 

耳に吸い込まれていくような声が、男達とクレアの耳に入った。

慌てて男達が前を見ると、そこには黒ずくめの青年が立っていた。

「女性に対しては礼節をもって接しろと、教わらなかったか?」

呆れたように、青年はクレアの腕を掴んでいる男達に言う。

「何だてめぇはっ!!」

男の一人が、青年に向かって叫ぶ。

「なに、ただの通りすがりだ……ただ、その少女が嫌がっているようなのでな、声をかけたんだ」

目を瞑って、へ以前と当たり前のように青年は言う。

「そうかい、ならとっとと向こうへいきな」

馬鹿にした様な笑を浮かべ、男は青年に言う。

「ふむ、もしお前達がそういう仲だったのなら、ここは俺が悪いが……明らかに無理やりと言った感じだな……」

「てめぇ、しにてぇのか!」

青年の言葉が頭に来たのか、男は懐からナイフを出す。

「へへへへ、怪我したくなかったらとっとと……」

ナイフをちらつかせながら男は言うが……

「刃物を出したと言う事は、命をやり取りする度胸があると見ていいのだな?」

青年の言葉と共に男にピンポイント放たれた殺気に、男は震えだす。

「刃物を出したと言う事は殺されても文句は言えんぞ……」

行って、青年が男達の方へと一歩を踏み出した時……

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

その殺気を浴びる事に耐えられなくなったのか、男達はクレアをほって一目散に逃げ出した。

「ふぅ……どうしてこんな所にいるかは聞かんが、もう少し人通りの多い場所をお勧めする」

そう言って、青年が踵を返そうとするが……

「待つがよい」

青年の服を掴みながら、クレアが青年を呼び止める。

「何か、俺に用でも?」

振り返って、青年は尋ねる。

「うむ、助けてもらったのだ。 礼ぐらいはしないとの」

自信満々に、クレアは青年に言う。

「別に、礼をされるほどのことではないと思うが?」

苦笑しながら、青年はクレアに言う。

「それは我の気が納まらん。 助けてもらってそれでさようなら、と言うのは失礼だからの」

にんまり笑って、クレアは言った。

そのクレアに降参といって、青年は両手を上げる。

「うむ、ならばついて参れ」

「仰せのままに、お姫様」

クレアの言葉に、青年は恭しく頭を下げる。

「そっ、そういえば、おぬしの名前を聞いていなかったな。 私はクレアだ」

その仕草に少々見惚れ、慌てて青年の名前を尋ねるクレア。

「俺の名前は……恭也だ」

青年、もとい恭也の名前を聞いて、クレアは表通りへと歩みを進めて行った。

 

 

 

 

 

 

 

王女様と黒い騎士

 

 

 

 

 

 

 

クレアに連れられて、恭也は街の中をクレアと2人で歩いていた。

「う〜む、恭也は何か苦手な食べ物はあるか?」

前を歩いていたクレアが、後ろに振り返って恭也に尋ねる。

「そうだな、甘い物はなるべく避けたいな」

少々考えて、恭也は答える。

「そうか、ならば私の行き付けの店に行こう。 あそこなら恭也でも気に入るはずじゃ」

嬉しそうにクレアはそう言って、恭也の手を引っ張る。

「そんなに引っ張らなくても、俺は逃げないし、その店も逃げないだろう?」

苦笑しながら、恭也は引っ張られた方向へと歩いていく。

「だが時間は有限じゃ、一秒たりとも無駄にはしたくない」

恭也の言葉にクレアはそう言って、歩いていく。

一方の恭也は、そのクレアの言葉に肩をすくめ、歩いていく。

それから10分ほど歩いて、中々落ち着いて、それでいてお洒落な喫茶店にたどり着いた。

「いらっしゃいませ、二名様でしょうか?」

クレアが先に入ると、店員が尋ねてきたので、それに頷く。

そして、そのまま少々奥の席に案内される。

「どうだ、私のお気に入りの店だ……中々落ち着いている所が好きなのだが……」

椅子に座って、クレアは恐る恐ると言った風に恭也に尋ねる。

「あぁ、俺もこの雰囲気は嫌いではない……むしろ、落ち着く」

「そっ、そうか」

恭也の言葉に安堵し、クレアは店員が持ってきた水を一口飲む。

そして、二人して店員の持ってきたメニューを見る。

クレアはもう何度も来ているからか、頼む物は決まっているので、メニューを見ないで、メニューを見ている恭也をチラチラと見る。

「……どうかしたのか?」

その視線を感じたのだろう、恭也はメニューから顔をあげ、クレアを見る。

「なっ、なんでもない」

どもりながら答えるクレアに、恭也は首を傾げて再びメニューに視線を落とす。

クレアは恭也に見惚れてみているのだが、恭也にそんな考えが及ぶはずもない。

精々、初対面だから緊張しているぐらいしか考えていない。

それに、クレアだって恭也の見た目に見惚れているわけではない。

王女として、クレアは人を見る目は確かである。

だからクレアは先ほど助けてくれた時や、ここまでくるときの恭也の態度などを見て、その結果見惚れているのだ。

だが、クレアもまだまだ恋などを経験した事がない為に、今の自分の気持ちを理解できないでいた。

「うむ……これにしよう」

その恭也の言葉にクレアは思考を中断する。

そして、クレアが机に備え付けられているベルを鳴らすと、店員が注文をとりに来た。

クレアは紅茶とスコーン、恭也は珈琲にした。

恭也本人は和贔屓な上に甘い物が苦手なので、宇治茶などが欲しいのだが……

(さすがに、こういう喫茶店にはないか)

内心笑って、恭也はメニューを店員に渡し、水を一口飲む。

「ところで恭也、おぬしはどこか違う場所からここにきたのか?」

クレアが、唐突にそうきり出す。

「行き成りだな……まぁ、確かに俺はこの街の住人ではないがな」

苦笑しつつ、恭也は答える。

「やはり…この辺りでは見たことがなかったからのぅ」

「そうか……この街に来たのも2、3日前だからな」

そんな話をしていると、店員がクレアの紅茶とスコーン、恭也の珈琲を持ってくる。

「この街には観光か何かできたのか?」

早速スコーンにジャムを塗って食べながら、クレアは恭也に尋ねる。

「まぁ、そんなところだ」

曖昧に答え、恭也も珈琲を一口。

「なにやら訳ありなようじゃな、私に手伝える事はあるか?」

心配そうに、クレアは恭也に言う。

「いや、大丈夫だ……その気持ちだけでも受け取っておこう」

小さく笑って、恭也は言い返した。

その笑みを見てクレアの顔は一瞬にして真っ赤になったが……

「どうした、顔が赤いぞ?」

そんなクレアを見て風邪か何かと思った恭也は尋ねる。

「なんでもない!」

そう言って、クレアはスコーンを勢いよく食べだす。

(恭也はきっと、自分がいかに人を惹きつけるか判っておらんのだな……)

内心そう恭也の事を判断するクレア。

「んぐっ!?」

しかし、一気に詰め込んだからか、スコーンが喉に詰まる。

「そんなに慌てて食べるからだ……ほら」

苦笑しながら、恭也はクレアの紅茶をクレアに渡す。

クレアハそれを受け取り、一気に喉に流し込む。

「んぐっ、んぐっ……はぁ……」

喉に詰まっていたすコーンが流されて、クレアは軽く息を吐く。

「すまなかった、見苦しい所を見せて」

カップを置いて、クレアハ恭也に謝罪する。

「いや、そんなに気にするな。 それに、俺はクレアのスコーンをとったりはしないぞ?」

笑いながら恭也はそう言って、クレアの頭を撫でてやる。

「あっ……」

突然そんな事をされて、クレアは小さく声を上げる。

「嫌だった? 嫌なら止めるが……」

「いい、このままでいい」

止めようとする恭也にそう言って、クレアは頭を撫でさせる。

(母上や父上にも……あまり撫でてもらった事がなかったから……気持、いいな)

目を瞑って、クレアはまどろむ。

「恭也、そなたやけに慣れていないか?」

「あぁ……妹にもよくしてやっていたからな」

クレアの問いに、恭也は懐かしむように答える。

「むっ……」

自分で聞いておいて、クレアはむっとした表情になる。

見たわけでも、その場にいたわけでもないのに……恭也の話したその妹に、嫉妬した。

「クレア、そろそろ良いか?」

「名残惜しいが……まぁ良いだろう」

恭也の問いに、クレアは本当に名残り惜しそうに答えた。

「いい店を教えてもらった礼だ、ここは俺が払おう」

言って、恭也はお金を店員に渡した。

そして、二人して店を出る。

(流石にそろそろ帰らないと……皆が心配するか)

クレアも、城の皆の事が好きだからあまり本気で迷惑をかけたいとは思っていない。

だから、こうして早く帰ろうと思っているのだが……

「恭也、今日はそなたのお陰で有意義な一日を過ごせたぞ」

「そう言ってもらえると、俺も嬉しいな……それに、俺も楽しかったぞ、クレア」

お互い笑いあう。

「では、そろそろ私も帰る」

そう恭也に言って、クレアは歩き出す。

「恭也、また……会えるか?」

少し歩いた所で、クレアは振り返って恭也に尋ねる。

「そうだな……会えるんじゃないか」

小さく、意地悪そうに笑って、恭也はそう答える。

「そうか……ならば、また会おう」

そう言って、クレアは今度こそ人込みの雑踏の中へと歩いていった。

「ふっ……流石に、アルストロメリアの子孫だ……性格がとても似ている」

誰とはなしに、恭也は呟く。

(アルストロメリア……お前の生きた証を、クレアから感じることができた)

空を見上げ、恭也は考える。

「だが、俺はまたもお前の血筋達と戦う事になりそうだ……」

寂しげにそう呟いて……恭也も歩き出した。

 

 

今だイムニティは目覚めず、救世主候補も全員が揃ったわけでもない。

だが、この出会いは……後に大きな意味を持つ。

それをまだ……誰も知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

今回は予告どおりクレアとの出会い編〜〜

フィーア「時間軸は大河達がまだアヴァターに来ていない所ね」

イムニティもまだ目覚めていないから恭也はロベリアのことも知らないしね。

フィーア「恭也はクレアがアルストロメリアの子孫だって事、何でわかったの?」

恭也がクレアを見たときに、一瞬アルストロメリアの姿がダブった……そんな所。

フィーア「曖昧な理由ねぇ……」

まぁ、そうかも……でもこの後、恭也は色々選択肢が増えるんだねぇ、これが。

フィーア「へぇ、例えば?」

クレア付の騎士……王国騎士団最強のロイヤルガードとか

フィーア「王女付の騎士……ねぇ」

まぁ、かなりありえないだろうけどね。

フィーア「恭也は基本ロベリアとイムニティ付だもんね」

次回はイムニティとの話か……思い切ってルビナスとの話か……

フィーア「恭也がこの時代に破滅と合流した時の話とか?」

色々案はあるんだけどねぇ……

フィーア「じゃあさっさとどれでもいいから書きなさいよ」

書ければ苦労しないよ……

フィーア「まぁいいわ、どうせ書かせるし」

言うと思った……

フィーア「ではでは〜〜〜」




クレアとの出会い〜。
美姫 「王女としてではなく、女の子してるクレアがラブリー」
一層、このままクレア付きの騎士にというのも面白いかもな。
美姫 「いや、それだと話が変わるし」
あはは。さて、次回はどんな時間軸のどんなお話になるのかな。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね」
待ってます!



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