そこはまるで、生きる物の存在を許さない荒野だった。

草木一本生えておらず、生物の存在すら感じられない。

そんな荒野に、複数の人影があった。

立っているのは小太刀を2本構えた青年と、ナイフや杖などを持った男達だった。

そして、その青年の周りには複数の男が寝転んでいた。

いや、全て死に絶えて横たわっているのだ。

青年の小太刀にはわずかながらの血が付着していた。

「やれやれ、まだやるつもりか?」

右手の小太刀を男達に突きつけて、青年は尋ねる。

「うるせぇっ!! ここまでこけにされて今更退けるかっ!!」

その青年の言葉に、リーダー格の男が叫び返す。

「くだらんプライドに固執するあまり実力差も見抜けんようになったか」

突きつけていた小太刀はそのままに、青年は構える。

左手を、まるで鳥が羽をたたむ様に曲げる。

そして、2、3度つま先で地面を叩き、一瞬にして走り出す。

加速に乗ったその動きはまさに高速。

 

―――――――御神流(みかみりゅう)(うら) 奥義之参(おうぎのさん) 射抜(いぬき)―――――――

 

一瞬にして、先頭に立っていた男の眉間に小太刀が突き刺さる。

突き刺さり、前へと吹き飛ぶ反動を利用し、青年は更にその後ろにいた男を切り捨てる。

着地と同時に襲い掛かってきた男に向かって飛針を投げつける。

眼前に迫ってくる飛針を、男達は当然弾くか避ける。

しかし、弾いた者は不運。

弾いた飛針の後ろに追随するようにもう一本の飛針が飛んできており、それが眉間へと突き刺さる。

普段は牽制用のものだが、こういう使い方をすれば一撃必殺の武器にも変わる。

「くっ、お前は魔法を唱えてろ! その間に俺達があいつを足止めするぞ!!」

リーダー格の男が仲間にそう叫び、男達は次々に青年に襲い掛かる。

そして、その後方で一人の男が魔法の詠唱に入る。

次々と襲い掛かる男達を、青年はまるで舞うかのような動きで切り捨てていく。

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

斧を持った男が青年に斬りかかり、青年はそれを小太刀で受け止める。

受け止めた瞬間、後ろから襲いかかってきていた男目掛けて鋼糸を放つ。

先に重りのついたそれは襲いかかろうとしていた男の首に巻きつく。

そして、青年が腕を引くと同時に、首が切れ飛ぶ。

引いた反動で重心をずらし、青年は小太刀越しに受け止めていた斧を地面へと空振りさせる。

そのまま徹を込めた一撃で敵の内臓を破壊する。

衝撃をそのまま相手の体内へとぶつける徹。

達人クラスが使えば、相手の内臓を破壊する事もできる技である。

「化け物めぇぇぇぇっ!!」

リーダー格の男が叫びながら青年に向かっていく。

剣を振り上げて、男は青年を斬ろうとするが……

青年から見ればそれはまさに素人の動作。

ゆえに、青年からすればそれは隙だらけ。

一瞬にして男の横っ腹に徹を込めた蹴りが放たれる。

「がはっ!!」

大量の血を吐き出しながらも、男は青年を掴む。

「やれぇぇぇぇぇっ!!」

男の叫びと同時に、凄まじい炎が青年と男を包み込む。

先ほどの魔法使いが放った炎である。

男の断末魔の叫びが、炎の中から響く。

そして、魔法使いの男はそのまま地面へと座り込んでしまう。

仲間たち皆を犠牲にして、自分だけ助かったのだ、自責の念が現れているのだろう。

しかし……

「がっ!!!」

急激に心臓に強烈な痛みが襲い掛かり、男は自分の心臓のあるほうの胸を見る。

そこには、糸に括られた小太刀が、突き刺さっていた……

「ば、か…な……」

薄れ行く意識の中、男が見たのはあの炎の中で平然と立っている青年の姿だった……

 

 

 

 

 

 

 

再会の剣士と精

 

 

 

 

 

 

 

「っ……今の、魔力は……」

それは、どことも知れない場所。

現在破滅の将達が集う場所である。

現在そこにいるのは白の精であるイムニティだけであった。

そして、イムニティは先ほど微かな魔力の胎動を感じ取っていた。

「そんな…まさか……そんな事、ある訳ない……あるわけ、ないわ……」

自分で自分の中に浮かんでくる考えを否定する……が。

それでも、心が、訴えかけている。

この魔力の胎動は……間違いなく……

かつて、1000年前に自分が愛した男……そして、自分を愛してくれた男の……

しかし、今はあの時より1000年もたっているのだ。

(生きてるはずが……ない……)

浮かんでくる考え、否定したい……でも、そうであって欲しいと願う心もある。

もし違っていたら、きっとイムニティはその者を殺すだろう。

あの魔力の胎動は、自分が愛したあの男にしか許さない。

いや、あの男以外で似たような胎動を持つ者は皆殺してやる。

そんな考えで、イムニティは椅子から立ち上がる。

今は静観の時、そう破滅の主幹から言い付かっているが。

(それが、どうしたっていうのよ)

薄く笑って、イムニティは魔法を唱える。

この思いは、誰にも止めさせやしない。

それがたとえ破滅の主幹であろうとも、同じ男に愛された仲間だろうとも。

イムニティの足元に魔法陣が浮かび上がり……それが光ったと思えば、イムニティの姿はもうそこにはなかった。

 

 

 

「安らかに……眠れ」

青年は先ほどの戦いの場から少し離れた殆ど人目に付かない所に、二つの墓を作っていた。

これは、先ほど青年が殺した男達に殺された男と女の墓である。

この荒野を歩いていた青年の目に飛び込んできた光景。

複数の男達が、男と女を囲み、殺し、あろうことか身包みを剥いでいたのだ。

その行為を見た青年にとって、その光景はかつて見たことのある光景にダブった。

だからこそ、青年は男達を殺した。

そして、自分のわがままだとわかっていても、その男と女に墓を作り、葬った。

自分に対する免罪だとしても、せずにはいられなかった。

墓の前で黙祷を捧げ、青年は懐から和紙を取り出し、小太刀に付着した血を拭う。

拭い終わり、青年は空を見上げる。

澄み切って、吸い込まれてしまいそうなほどの青空……

だけど、青年にとってその青空は眩しすぎた。

(らしく、ない)

内心苦笑を浮かべ、青年は歩き出そうとするが……

 

「恭也っ!!!!」

 

唐突に、後ろから自分の名前を呼ばれた。

そして、その自分を呼んだ声に……驚きを隠せなかった。

その声の主は、自分が護ると誓いながら護れなかった相手……

もう会う事は叶わないと思っていた……相手。

だからこそ、青年……恭也は一瞬戸惑った。

もし振り返って違う人物だったらどうしようか、と。

何故自分の名前を知っているかはこの際放って置いて、恭也は振り返ろうとする。

もし違っていたら、きっとそいつを殺してやろうかと考えながら……

そして、恭也が振り返ったその先には……

 

「イム…ニティ……」

 

振り返った先にいたのは……かつて、自分が護りたかった者の一人。

もう、会えないと思っていた……相手。

「恭也……やっぱり、あなただったのね……」

ポロポロと、涙を流しながら……イムニティは言う。

イムニティ自身も驚いていた……こんなにも、自分が涙を流すことが出来るということに……

「恭也…恭也……恭也ぁっ!!」

もう、自分の心を抑えるのはできなかった。

イムニティは恭也の名前を叫んで、恭也に抱きつく。

「恭也っ、もう、もう会えないと思ったわ……」

「俺もだ……イムニティ」

恭也の胸の中で泣きながら言うイムニティに、恭也はイムニティの頭を撫でながら言い返す。

「貴方がいなくなって、私も……ロベリアも、戦えなかったんだからっ!」

恭也の胸を叩きながら、イムニティは言い続ける。

「すまなかったな……ルビナスとオルタラに、次元を跳ばされてな……」

申し訳なさそうに、恭也は答える。

「でも、もう良いわ……今こうして、再びあなたに会えたから……」

もう二度と離さないといった風に、イムニティは恭也を抱きしめる。

「あぁ……ただいま、イムニティ」

恭也もイムニティを抱きしめながら、そう言う。

「お帰り、恭也……」

恭也の胸に顔をうずめて、イムニティはそう言った。

 

 

 

「イムニティ、お前がいるということは……」

「えぇ、今回の救世主戦争が始まるわ」

恭也の言いたいことを理解し、イムニティは答える。

「そう、か……ならば、俺のとる道は一つ」

腰に挿してある小太刀を2本とも抜き去る。

「俺は再び、お前の剣となりて……敵を討つ」

イムニティに対して、恭也は頭を下げる。

「恭也、約束して……今度は、絶対に居なくなったりしないって」

真剣な目で、イムニティは恭也に言う。

もう、あんな悲しみを味わうのは、ごめんだ。

「誓おうっ。 イムニティが望むまで、俺はイムニティに付き従う」

イムニティの手をとり、恭しくその甲に口付ける恭也。

中世の騎士が、王女に対して絶対の忠誠を誓ったように……

恭也もまた、イムニティに対して絶対の忠誠を誓った。

「ほぅ、誓うのはイムニティだけか……?」

そこに、恭也も聞いた事がある声が聞こえた。

「お前はっ……」

その声の主の姿を見て、恭也はイムニティの前に立つ。

目の前に居る者は……感じる魔力は違う物の、かつて自分も何度も戦った相手……

赤の救世主 ルビナス・フローリアスだった。

「ルビナスッ……何故、お前がここに……」

小太刀を構えながら、恭也は言う。

「ふっ、恭也……まだ気付かないのかい?」

しかし、目の前のルビナスと思しき女は妖艶な笑みを浮かべながら恭也に言う。

恭也は、その笑みに見覚えがあった。

「恭也、彼女はね……ルビナスの体を乗っ取ったロベリアよ」

「な…に……?」

驚きで、恭也は目の前のルビナス、もといロベリアを凝視する。

「前回の救世主戦争の終盤で、ロベリアはルビナスの体を乗っ取ったわ……もっとも、その時に私との契約は切れてしまったけどね」

驚いている恭也に、イムニティが説明する。

「そういうことだよ、恭也……」

妖艶な笑みを浮かべながら、ロベリアは恭也に近づく。

「ロベリア……俺は、何故お前がそんな事をしたかは聞かん」

真剣な目で、恭也は近づいてくるロベリアを見る。

「だが、そんなことよりも……またこうして生きて会えたことが、嬉しい」

そう言って、恭也は笑った。

「そっ、そりゃ私だって嬉しいさ」

その笑みを目の前で見て、ロベリアは顔を真っ赤にする。

「むっ……ロベリア、それよりどうしてここにいるのかしら?」

ちょっと不機嫌な顔で、イムニティはロベリアに尋ねる。

「お前が転移魔法でどこかに移動したのを見てね、何事かと思って私も追いかけてきてやったんだよ」

「本当かしらねぇ……」

ロベリアの言葉に、イムニティは疑いの目で言い返す。

「イムニティ、仮にも私はお前の元マスターだぞ、少しは敬え」

「ふん、そんな事をする理由はないわね」

バチバチバチと、ロベリアとイムニティの目線の間で火花が飛ぶ。

「二人とも、それぐらいにしておけ」

それを見た恭也が、苦笑しながら言い返す。

昔は、日常的に見ていた風景。

もう、見られないと思っていた……掛け替えのない、風景。

だからこそ、嬉しかった。

そして、恭也は再び地面に膝をつく。

それを見たロベリアとイムニティは言い合いを止め、真っ直ぐに恭也を見る。

「俺はお前達と共にある事を、我が小太刀に誓う」

恭しく、恭也は頭を下げる。

「俺は、お前達を護ると誓いながらも、一度は破ってしまった……だからこそ」

顔を上げ、真っ直ぐ、二人を見る。

「今度こそ、護り抜いてみせる」

その恭也の言葉に、ロベリアもイムニティも微笑みながら頷いた。

恭也が側に居るだけで、こんなにも満たされた思いになる。

だからこそ、戦えるのだと……

「じゃぁ恭也、私にも……さっきイムニティにした事をしてもらおうかねぇ」

そう言って、ロベリアは手を恭也の前に差し出す。

そして、恭也は何のためらいもなく、ロベリアの手の甲に口付けをする。

絶対なる忠誠と、誓いを立てるために。

 

 

再び、戦いが始まる。

それは、避けられない戦い……悲劇へと続く、物語。

だが、この戦いを止められる者は……どこにもいなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

今回はイムニティとの再会編〜〜

フィーア「最後の方はイムニティも女の子してたわね」

あぁいう乙女なイムニティもいいかなって思ってね。

フィーア「でも、これ最初だけ見たらただの虐殺SSじゃない?」

いつか聞いたことのあるセリフだなぁ……まぁ、でもあれには訳があるわけだし。

フィーア「恭也も、誰かの為に戦うときはあんな感じになるって事?」

むしろ、ロベリアとイムニティに何かするやつにはもっと酷くなると思うね。

フィーア「なんていうか、恭也が平然と口付けするところにも違和感感じるんだけど?」

まっ、まぁ……それはおいといて。

フィーア「な〜んかはぐらかされた気もするけど、次回はどうするの?」

ルビナスとの絡みか、はたまたまた何処かのルートの一部か。

フィーア「要するに、何も考えてないって事ね」

っ、痛いところを……

フィーア「さっさと考えなさいよね」

うぃ、ラジャ。

フィーア「ではでは〜〜〜、また次回で〜〜〜」




今回はイムニティ〜。
美姫 「恭也にしては気障な行為ね」
それだけ、恭也にとっては二人が大事な人という事だよ。
美姫 「次回はどんなお話なのかしらね」
うんうん、非常に楽しみだな。
美姫 「この次も待っていますね」
ではでは。



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