なのはが、恭也を追って破滅の軍勢についてから早一週間。

恭也自身の言葉もあり、なのはは破滅の中でも破格の待遇だった。

イムニティやロベリアとも表面上は打ち解けたが、恭也を巡っては激しいバトルを繰り広げている。

最初はぎこちなかった3人だが、同じ女性同士ということも手伝って今では仲良くやっている。

もっとも、その分恭也の苦労が増えた事は誰もが認める事実だが……

そんなある日のことである……

 

 

 

「買い物?」

部屋で武器の手入れをしていた恭也の元に、なのはがやってきた。

「うん、最低限必要なものはイムちゃんとロベリアさんが用意してくれたんだけど、やっぱり自分で街を見ていろいろと買いたい物があるの」

殆ど身一つでここにやってきたなのは。

そんななのはに必要最低限生活に使う物をイムニティとロベリアは与えた。

その後に、足らない物は自分で調達してもらうと言う形で資金だけは受け取っていたのだ。

「そうか……なのははまだ、この辺りの地形はよく知らないからな……」

目線をなのはに向けて、恭也は言い続ける。

「判った、付き合おう」

持っていた武器を置き、恭也は立ち上がってなのはに近づく。

「それに、なのはに変な男が近寄って来たら心配だしな」

小さく笑って、恭也はなのはの頭を撫でてやる。

もっとも、昔のように恭也の目線のすぐ近くになのはの頭があるのだが……

恭也自身は召喚されてからまだ2,3年しかたっていないので24歳なのだが……

なのはは10年もたっているので、いまや19歳である。

世間一般に見れば似合いのカップルに見えないこともない。

「大丈夫だよ、私おにいちゃん以外の男の人を好きになったりしないもん」

自信満々に、なのはも笑顔でいった。

「そうか、なら行くか……と言っても、ホワイトパーカスの街だがな」

苦笑して、恭也は武器を持つ。

破滅の軍勢の領とはいえ、何があるかはわからない。

だからこそ、武器は手放せない物なのである。

「うん、おにいちゃんとだったらどこだっていいよ」

そう言って、なのはは恭也と腕を組む。

恭也もそれを振りほどこうとせず、部屋を出る。

「あら、恭也になのは……何処かへ行くのかしら?」

そこに、ちょうどイムニティが通りかかる。

「あぁ、これからなのはと買い物で、街までな」

「必要な物を買いに行くの」

イムニティの問いに、恭也となのはは答える。

「そう、だったらついでに私のお菓子、もう無くなっていたから買ってきて頂戴」

「あぁ、判った」

イムニティも女の子なので、甘い物…特にお菓子などはよく食べている。

もちろん、ロベリアも一緒だ。

恭也はイムニティの言葉に返事をして、なのはと一緒に街へと繰り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな一時

 

 

 

 

 

 

 

「なのは、まずは何を買うんだ?」

街に着き、大通りを歩きながら恭也はなのはに尋ねる。

「服…かな」

少し考えて、なのはは答える。

「服、と言ってもな…俺はそういう店は知らんし……ロベリアかイムニティについて来てもらった方が良かったか」

恭也自身、服は動きやすい物、武器を隠して目立たない物、色は黒と言う条件さえ満たしていれば何でも良いのだ。

付け足すならば、長袖であることぐらいである。

そんな恭也だから、なのはが探しているのであろうお洒落な服を売っている店など全然知らないのだ。

「そうだな、誰かに聞くか……」

このままでは埒があかないと思った恭也は、街行く人に尋ねようとする。

「すまない、少し良いか?」

「これは、不破様……何か御用でしょうか?」

恭也が歩いていた男に尋ねると、男の方は恭しく頭を下げる。

ここ、ホワイトパーカスでは破滅の重要人物である恭也やロベリアはかなり信頼と尊敬を集めている。

彼らにとって、恭也達のほうが王に近いのだ。

「この辺りに洋服屋はないか? ちょうど、彼女ぐらいが着る様な服を売ってそうな店なんだが……」

なのはに目線を向けながら、恭也は尋ねる。

「そうですね……向こうの通りに確か、女性の服を扱う店があったと思います」

店を挟んで向こう側の道を指差しながら言う男。

「そうか、ありがとう」

「いえ、では私はこれで……」

恭也の礼に、男は恭しく頭を下げて歩いて行った。

「おにいちゃんって、結構凄いんだね」

そのやり取りを見ていたなのはが恭也に言う。

「そうか? 別段何かしたつもりはないんだがな」

苦笑しつつ、恭也は言う。

恭也自身、王国にもやはりいる破滅の者は例え女子供でも殺してしまうような輩から街の人達を護っているだけと思っている。

だが、街の住民達はそんな恭也をかなり崇拝している。

彼らは古よりの破滅の民の子孫という事で、いつも後ろ指を指されてきていたのだ。

特に、王国側の地域の住民から度々迫害も受けていた。

だが、ここの住民達に反撃をすることは許されていなかった。

そして、街外れなどで襲われているところを、恭也やロベリアに救われた事がよくあるのだ。

だからこそ、住民達は恭也達を崇拝し、恭也達に絶対の信頼と、忠誠を誓っているのだ。

「さて、せっかく教えてもらったんだ……行くか」

「うん」

恭也に促され、なのははまた恭也と腕を組んで先ほど教えてもらった店へと歩みを進める。

そして少し歩いて、目的の店へと到着した。

「ここか……確かに、女性向けの服屋だな」

店内が見える大きな窓ガラスからは、確かに女性向けの服が並んでいるのが見えた。

「なのは、ここでいいか?」

ここ以外知らないのでこのセリフは間違いなのかもしれないが……

「うん、おにいちゃんと一緒ならどこでも良かったもん」

こぼれるような笑みを浮かべて、なのはは恭也に言う。

「そうか……」

どこか安心したように恭也は呟いた。

「じゃ、はいろ、おにいちゃん」

「あぁ……」

なのはの言葉に、頷きかけて……恭也は歩みを止める。

「どうしたの、おにいちゃん?」

「いや、ここは女性向けの服屋なわけだろう? 男の俺が入るのはどうかと思うのだが……」

不思議そうな顔を向けるなのはに、恭也は説明する。

「でも、おにいちゃんにちゃんと見てほしいし」

「俺は服のことなど良く判らんぞ?」

なのはの言葉に、恭也は苦笑しながら言い返す。

「それでも良いよ、だって私はおにいちゃんに見てもらいたいんだもん」

笑顔でなのははそう言い、恭也の手を取って店内へと入って行った。

(それに、おにいちゃん一人を店の外でなんて待たせてたら他の女の人達が寄ってくるじゃない)

なのはは心の中でそう言って、店の中に目をやる。

色とりどりの女性向けの服が、結構並んでいる。

「いらっしゃいませ……これは、不破様」

頭を下げる店の女主人に、恭也も軽く頭を下げる。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「あぁ、妹の服を買いに来たんだが……俺はそう言う事には疎くてな、何着か見繕ってもらえるか?」

恭也の言葉に女主人は頷き、なのはを見る。

「そうですねぇ……色など、何か指定はありますか?」

「おにいちゃんと一緒で、黒だったら」

なのはの答えに女主人は服を探し出す。

「では、これなどいかがでしょうか?」

そう言って女主人が持ってきたのは、黒いスリーピースのセット。

スリーピースとは、ジャケット・スカート・ベストまたはコートの3つの組み合わせの事だ。

黒いで統一されているが、暗いイメージではなく、そこはかとなく、色合いの良さを感じさせる黒。

「あっ、凄くいいですね」

服を受け取り、なのはは嬉しそうに言う。

「では、これにするか、なのは?」

恭也の言葉に、なのはは頷く。

そしてあと2,3着服を買い、二人は店を出た。

「ふむ、そろそろイムニティに頼まれた物を買って帰るとするか」

傾きつつある西日を見ながら、恭也はなのはに言う。

「でも、イムちゃんってほんとお菓子好きだよね」

苦笑しながら、なのはは恭也の手をとって言う。

「イムニティは昔から好きだったぞ…ロベリアも、最近はよく食べているみたいだしな」

昔の事を思い出しつつ、恭也はなのはに言い返す。

「ちなみにな、イムニティと、まぁ昔の仲間のアルストロメリアがいつもお菓子を取り合いしていたな」

「へ〜、そうなんだ」

そんな話をしていると、イムニティ行き着けの雑貨屋が見えてくる。

その店先には、小さな屋台が立っている。

「ふむ、今日はやっていたか」

小さく笑って、恭也は言った。

「おにいちゃん? あの屋台はなんなの?」

「あぁ、あれはたいやき屋だ」

恭也の答えに、なのはは驚く。

「ここに来た際、どうしても食べたくなった時があってな、それで自分で作ってみて住人にも少し分けてやったところ人気が出てな」

「それで、屋台までできちゃったんだ」

恭也の言葉に、なのはは感心したように言う。

「なのは、食べていくか?」

「うん!」

恭也の言葉に、なのはは嬉しそうに頷く。

恭也はそれを微笑ましそうに見て、屋台へと近づく。

「これは、不破様」

「すまんが、たいやきの餡子を一つ、カレーとチーズを一つずつくれ」

恭也の注文を聞いて、店の主人は少々待ってもらいますと言うことを告げ、作り始める。

恭也しか食べないメニュー、カレーとチーズは注文があってから作る事になっているのだ。

作り置きしても、売れないのである。

恭也もそれを知っているからこそ、せかすような事もしないし、落胆する事もない。

「少々この店に用事があるから、終わってから取りに来るが良いか?」

店の主人は頷き、恭也はなのはと一緒に店に入る。

そして、手早くイムニティお気に入りのお菓子と、自分用の茶菓、ロベリアのお菓子も買い込む。

中々来る事がないので、こうしてきた時に大量に買っておくのだ。

そしてイムニティが作った保管庫においておかれる。

これは異次元といってもさし違いのない場所で、どこにいても取り出せるようにしてある。

恭也はなのはにも何か買う物がないか尋ね、なのはも少しお菓子を買う。

後、なのはに頼まれたので、後日一緒にシュークリームを作る事になったのでその材料も買い込む。

そして15分ほどして店を出ると、ちょうどたいやきが出来上がっていた。

金を渡し、たいやきを受け取って恭也達は店先のベンチに座る。

「ほら、なのは……熱いから、気をつけるように」

そう言って恭也は紙袋からたいやきを一匹、なのはに渡す。

なのははそれを受け取り、少し冷ましてから口に運ぶ。

「あっ、おいしい」

「ありがとうございます」

なのはの言葉に、店の主人が礼を言う。

「ふむ、いい加減だ……相変わらず、良い仕事をする」

たいやき一つに凄い褒め方をするが、それだけ美味しいと言うことである。

それから10分ほどで食べて、二人は帰路に着いた。

 

 

 

「あら、お帰りなさい」

二人が帰ってくると、ちょうどイムニティと鉢合わせた。

「あぁ、頼まれた物も買ってきたぞ」

持っていた袋を掲げ、恭也はイムニティに言う。

「ありがとう、後で倉庫に入れておくわ」

恭也から袋を受け取り、イムニティはそう言った。

「なのは、荷物を部屋に置いてきなさい。 それから、お茶でもしましょ」

「うん」

イムニティの言葉に頷き、なのはは部屋へと戻って行った。

「そういえば、ロベリアはどうしたんだ?」

朝から見かけないロベリアのことについて、恭也はイムニティに尋ねる。

「ロベリアは主幹の命でゼロの遺跡に行ってるわ」

「任務か……ロベリアに限ってしくじる事はないと思うが……」

「そうね、ロベリアはああ見えても強いわ。 だから、大丈夫よ」

イムニティの言葉に頷き、恭也はイムニティと一緒に居間へと移動する。

それから部屋から戻ってきたなのはと3人でお茶会が行われた。

たまの日常……恭也はそのひと時を楽しんでいた。

また戦いが始まるが……こんな日々が続けば良いと、思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第18弾〜〜〜

フィーア「やっとなのはとの日常ね」

結構前から書いてたけど、やって書き終えたよ……

フィーア「それにしても、恭也凄い街の人から慕われているのね」

まぁね、それだけ恭也が人を助けてるってことさ。

フィーア「でも、まさかアヴァターでもたいやきがあるとはねぇ」

材料は多少違うけど、恭也が自分で作ったのを広めたって言うのなら大丈夫だろう。

フィーア「じゃ、ロベリアとイムニティが好きなのは?

考えではイムニティはチョコ、ロベリアはカスタードだな。

フィーア「甘過ぎない?」

実際に見たことはあるぞ、チョコもカスタードも。

フィーア「食べた事は?」

カスタードはある、ちなみカレーも食べたことはある。

フィーア「実際に売ってるのね……」

まぁでも、カレーは悪くはなかったぞ……まずくはなかったよ。

フィーア「チーズはなかったの?」

一応あった……食べる気にはなれなかったけどね。

フィーア「で、次回は?」

とりあえず未定。

フィーア「何にも考えてないのね」

違うよ、下手に言って違うものが出来上がったらまたお仕置きされるからねぇ……

フィーア「それはあんたが悪いだけよ」

ひっ、ひどい……

フィーア「ではでは〜〜〜」





チョコも美味しいです!
美姫 「いや、力説しなくても良いから」
チーズは、たい焼きじゃなくてチーズまんってのは食べた事があるな。
美姫 「どうだった?」
…………。
美姫 「いや、どうだったのよ」
待て、今思いだす。うーんと、うん、まずくはなかった。
美姫 「微妙な言い方ね」
いや、だってチーズしか入ってないんだぞ?
他にも具らしきものが少しでも入ってれば、また違うかもしれないが。
でも、まずくはなかったな。チーズが大好きと言う人なら、気に入るんじゃないか?
美姫 「って、その話はいいわよ」
そうだった。今回はなのはとの日常。
美姫 「兄妹仲良くお買い物ね」
うんうん。戦いを暫し忘れてほのぼのと。
美姫 「フィーア、お疲れ様〜」
いやいや、アハトさんだろう、そこは。
美姫 「次回がどんなのになるのか、楽しみにしてるわね」
アハトさん、頑張ってください。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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