これは浩さんが書いたクロスSS【黒に堕ちる偉大なる魔術師】の続編的SSです。

この話を読む前に、まずはそちらを読むことをお勧めします。

前作と少々言動等に違いが出るかもしれませんが、ご了承を。

多少なりともオリジナルな設定が出てきますが、そう言うのが嫌いな方は見てからの批判をおやめください。

では、どうぞ……

 

 

 

 

 

 

「よくぞ、ここまでたどり着いたな」

暗闇の中、声が響く。

ガルガンチュワの中を駆ける大河とリリィの前に現れたのは……

「不破っ!」

トレイターを構えつつ、大河はその名を叫ぶ。

「大人しく、白の主に殺されに来たのか?」

「はっ、馬鹿言え」

恭也の言葉を、大河は一笑にふす。

「だろうな、俺もそんなことはあり得んと思っているからな」

そう言って、恭也は小太刀に手をかける。

「ロベリアはルビナスが、イムニティはオルタラが抑えているのだろう……ならば」

言って、小太刀を鞘から抜き出す。

「貴様を早く退けんとな」

「大河、あんたは先に進みなさい!」

そんな恭也と大河の間にリリィが割って入り、叫ぶ。

「あんたは未亜を助けるためにここまで来たんでしょ、ならこんなやつに構ってる暇なんてないはずよ」

ライテウスを突き出し、リリィは言う。

「サンキュ、リリィ」

苦笑しながら大河はそう言い、恭也に向かって走り出そうとする。

「ブレイズノン!」

しかし、大河とリリィの足元に、炎の弾が飛んできて地面に穴を開ける。

「誰っ!!?」

リリィは叫ぶ。

自分と同じ魔法だが、威力が違う事は今の一撃だけで判っていた。

だが、今まで戦ってきた破滅側にそんな魔術師はいなかったはずである。

だからこそ、リリィは叫ぶ。

そして、恭也の後ろ……闇より出でたのは……

「う、そ…だろ……」

「そんな…………」

大河とリリィの顔が、驚愕に変わる。

「新しい召喚器との相性は良い様だな」

「えぇ、申し分ないわ」

恭也が、その人物に声をかけ、その人物も答える。

声の主は女性であった。

「そんな、どうして……どうしてここにいるんですか……」

カタカタと、リリィは震えながら尋ねる。

「お義母様っ!!!」

大河とリリィの視線の先には…永久封印されたはずのフローリア学園学園長のミュリエル・シアフィールドがいた。

 

 

 

 

 

 

 

堕ちた魔女の未来

 

 

 

 

 

 

 

「お義母様…永久封印されたはずのお義母様が……どうして、ここに……?」

震えながら、リリィはミュリエルに尋ねる。

「恭也に、助けてもらったからです」

そう答えるミュリエルの手には、ライテウスと同じ手袋型の召喚器が装着されていた。

「ミュリエルは昔の仲間だからな……永久封印されると聞いて、黙っていられると思うか?」

「でも、でもどうして破滅なんかにっ!!?」

悲痛な面持ちで、リリィはミュリエルに叫ぶ。

「恭也と共に生きる事を選んだからよ……ただ、それだけ」

親としてではなく、女として生きる事……

それが、ミュリエルの選んだ選択だった。

「その為には世界が滅んでも良いと言うんですか、お義母様っ!!?」

信じられないと言った風に、リリィは叫び続ける。

尊敬し続けていた、自分をあの破滅の荒野から救い上げてくれたあの優しかった母を。

だからこそ、リリィには信じられなかった。

その母が、世界を滅ぼそうとする事に……

「世界を滅ぼそうとは、思ってはいない」

そんなリリィに、恭也が言いだす。

「世界を滅ぼす事に、興味などはない」

「なにを……」

恭也の言葉に、大河は言い返そうとするが、恭也の瞳に揺らぎが全くないことに気付く。

「俺の目的は別の所にある……そして、その想いを……ミュリエルは理解してくれた」

小太刀を構え、恭也は言う。

「そして、その想いの為に……お前たちをここから先へ行かせるわけにはいかんっ!!」

叫びと共に恭也は大河へ、ミュリエルはリリィに向かって魔法を放つ。

リリィはその魔法を何とか避け、大河は恭也と正面からぶつかり合う。

「ミュリエル! その女は任せた!」

恭也はミュリエルに向かって叫び、自身は大河を吹き飛ばす。

そして、そのまま大河へと斬りかかった。

「リリィ、恭也に任された以上……あなたを倒します」

自分の手に装着された召喚器を翳し、ミュリエルは言う。

「ヘスペリデス、魔力シリンダー一番から三番までを起動」

言葉と共に、ミュリエルの手の召喚器、ヘスペリデスの宝珠が光を放つ。

そして、それと共にミュリエルを高密度の魔力が包み込む。

「お義母様……その、召喚器は……」

自分の持つ召喚器、ライテウスと似た召喚器に、リリィは驚きを隠せない。

否、それよりもミュリエルが自分の目の前に敵として立ちはだかることを理解できない。

「この召喚器はガルガンチュワに眠っていた召喚器の一つ……私の想いを聞いて、力を貸してくれているわ」

「お義母様の…想い……?」

「そう、愛する男と共に生きていく事……今の私は、フローリア学園学園長でも、あなたの母親でもない……」

話すミュリエルの眼に、揺らぎはない。

「ただのミュリエル・アイスバーグ……世界よりも、愛しい人をとった愚かな女よ」

言葉と共に、炎の塊がリリィ目掛けて放たれる。

リリィは咄嗟に同じように炎の塊を放ち、相殺する。

ミュリエルの教え……魔術師は咄嗟にだろうとも反応できるようにしろとよく言われ続けていた。

それは、恭也が1000年前にミュリエルに言った言葉でもあるのだが……

「良い反応ね、リリィ……」

ヘスペリデスを翳し、ミュリエルは言う。

そのヘスペリデスも光を放ちながら魔力をも放つ。

「お義母様……私には、戦えません……」

戦えるはずがない……尊敬していた、誰よりも……憧れていた、目標だった。

そんな母と、戦えるわけがない……

「では、ここで倒れなさい…リリィ」

そんなリリィに向かって、ミュリエルは容赦なく魔法を放っていく。

「お義母様っ」

戦えない、だけど、死ぬこともできない。

リリィは襲い掛かる魔法を相殺していく。

「エスト・フリーグス」

そして、ミュリエルの呟きと共にリリィの頭上にかなり巨大な氷の塊が現れる。

その大きさ、かつてリリィが見たときよりも、遥かに巨大。

「っ、ファルブレイズンッ!!」

一瞬の間を空け、リリィは自身最強の炎魔法をその氷塊にぶつける。

ぶつかった瞬間、その氷塊が一瞬にして蒸発し、辺りが煙に包まれる。

「ヴォルテカノンッ!!」

その一瞬に、ミュリエルの放った雷がリリィを捉える。

「ぁぁぁぁぁぁっ!!」

先程の氷塊が蒸発した時にできた水蒸気のせいもあり、リリィに伝わる伝導率が上がる。

その所為で、リリィが羽織っていた赤い外套が黒焦げになる。

多少の魔法防御を持つ外套だったが、今のミュリエルの攻撃には耐えられなかったのだ。

「耐えますか……中々やりますね、リリィ」

少々息を荒くしながら、ミュリエルは言う。

今のミュリエルは召喚器の力により、普段の数倍の速さで呪文の詠唱が出来る。

それに加え、召喚器 ヘスペリデスの力により魔力量そのものも増加している。

リリィの召喚器 ライテウスと似た形をしているこのヘスペリデスだが。

このヘスペリデスこそライテウスなどの装着系召喚器の原点。

召喚器自体に魔力を込める事の出来る魔力シリンダーを十個搭載。

その魔力シリンダーも並みの魔術師十人分の魔力を保有。

更には周囲の魔力を吸収し続ける事で、理論上無限に魔力供給を可能にしているのだ。

だが、ヘスペリデスを扱うには持ち主自身の魔力量の大きさが関係してくる。

ミュリエルほどの魔力量を保有しない限り、この召喚器は扱えないのである。

魔力シリンダーの使用と、周囲の魔力を吸収する能力は、元となる魔力がなければ動かない能力なのだ。

だからこそ、この召喚器はガルガンチュワで眠っていた。

真に自分を使うことの出来る主を待って……

そして今……真に自分を使いこなせる持ち主…ミュリエル・アイスバーグと共に戦う道を選んだのだ。

「ハァ、ハァ……ヘスペリデス、四番シリンダーを解放……」

ミュリエルの呟きと共に、ヘスペリデスは魔力を放つ。

度重なる大魔法の連発で、ミュリエルの疲労はかなり溜まっていた。

魔力があるといっても、魔法を唱えればその分体力は削られる。

そして、ヘスペリデスを使う上で一番厄介な点が……魔法での体力回復が効かなくなる点である。

故に、体力回復の魔法は使えない。

だからこそ、ミュリエルは勝負を急がなくてはならない。

(恭也、あなたの考えは判っています……そして、どうなるかも)

戦う前に聞かされていた恭也の願いに、ミュリエルは想いをはせる。

「リリィ、そろそろ私は恭也の元へ行かなければなりません……」

言葉と共に、ミュリエルの全身を魔力が覆う。

「お義母様……私も、私だって大河の元に行かなきゃならないんですっ」

リリィは叫び返し、自分も魔力を召喚器に込める。

「ふふ、だったら……全力できなさい、リリィ」

「はいっ、お義母様っ!!」

一瞬だけ、本当に一瞬だけ……二人は親子に戻っていた。

その瞬間に喜びながら、二人は召喚器を前に突き出す。

強大な魔力の胎動が……辺りの空気を揺らし、転がっている岩の破片などが空中に浮かんでくる。

そして……

「ファルブレイズンッ!!!」

浮かび上がっていた岩が砕けたと同時に、リリィがミュリエルに向かって巨大な炎の塊を放つ。

先ほどリリィが放った炎の塊よりも巨大になったものが、ミュリエルに襲い掛かる。

「イグニスッ!!!」

眼前まで迫ったその炎の塊に向かって、ミュリエルは同じ炎の魔法をぶつける。

しかし、同じ炎の魔法でも……威力に差が出る。

空中で何度も、爆発を繰り返す。

リリィの放った炎の塊を爆破し、そのままリリィに向かっていく。

リリィはそれを避けようとして……

「ぐっ!?」

リリィの近くで、その爆発が最後に大きく爆発し、一瞬リリィの動きが止まる。

その隙を、ミュリエルは逃さない。

一瞬にしてミュリエルはリリィの懐近くまで移動する。

その動きは、まさに神速。

恭也から、ミュリエルは教わっていたのだ……その、神速の呼吸を。

ミュリエルは、かなり前から教わっていたが、成功したのはこれが始めてである。

(体への負担が大きいっ……けれど!)

眼前へと迫ったリリィに意識を集中し、ミュリエルは魔法を唱える。

そして……

「エスト・アェストゥスッ!!」

ミュリエルを中心にして、大爆発が起きる。

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

その爆発を至近距離で受け、リリィは高く舞い上がる。

そしてそのまま地面へと落ちてきて……

ミュリエルが、受け止める。

「リリィ……よく頑張りましたね」

気を失っているリリィを、愛しげに見つめながらミュリエルは呟く。

「ですが、私の事はもう忘れなさい……」

ミュリエルはそう呟いて、リリィを寝かせる。

「ふぅ……ごふっ」

息を整えようとして、ミュリエルは血を吐き出す。

それはそうだろう。

ただでさえ、体力が少なくなっている時に大魔法を2発、神速を使ったのだ。

体へのダメージが、確実に現れていた。

その時、少し遠くで大きな音が響いた。

ミュリエルはそちらに目を向けると、その方向は恭也が大河を連れて行った場所であった。

「行かなくては……」

重い体を引きずるように、ミュリエルは歩き出す。

何とかミュリエルが音のした場所へ来ると、そこには恭也が仰向けで倒れていた。

「恭也っ」

それを見たミュリエルは、急いで恭也の所へ駆けつける。

「恭也っ、しっかりして!」

恭也を抱えて、ミュリエルは恭也に言う。

「ミュリエルか……」

そのミュリエルの問いかけに、恭也は目を開ける。

「良かった……あなたが倒れているから」

安堵の息を吐いて、ミュリエルは恭也に言う。

「決着は、ついたのか?」

この場に来ているミュリエルに、そう恭也は尋ねる。

「えぇ、あなたの方は?」

「あぁ…大河は、十分強くなった……あれなら白の主を救い、神を倒す事が出来るはずだ」

ミュリエルの手を借りて、恭也は立ち上がる。

「ミュリエル、行こう…ロベリア達の退避は確認している……イムニティは、きっと白の主を助ける為残るだろう」

「判りました、恭也」

恭也に肩を貸しながら、ミュリエルは歩き出す。

きっと日の下を歩く事はもうないだろう……

でも、ミュリエルはそれでも構わないと感じていた。

愛する男と共に静に過ごす事……

それが、きっと何者にも変えがたい大切なものであると感じているから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

え〜、皆さん長らくお待たせしました。

フィーア「本当に待たせたわね、あんた」

うぅ、風邪をひいちゃったんだから仕方がないだろ……

フィーア「ひいたあんたが悪い」

言い返せない……

フィーア「で、これからミュリエル達はひっそりと暮らすわけね」

うん、この後神を倒してイムニティは恭也達のところに来てね。

フィーア「でも、大河達と一緒にいても良かったんじゃないの?」

う〜ん、恭也達は一様重罪人だからなぁ……

フィーア「次回は?」

まだ考えてないけど、何となく重い話にしようか考え中。

フィーア「なんでよ?」

なんか明るい話を書いてたら反動で重い話を書きたくなった。

フィーア「まぁ出来上がったら私は文句は言わないし?」

うぃ。

フィーア「ではでは〜〜」





遂に完成ですか、アハトさん!
美姫 「おめでと〜」
いやいや、こんなラストになるとは。
美姫 「うんうん。アンタの馬鹿みたいなSSからこんな立派なSSが出来上がるなんてね」
いや、まあ、否定はしないが。
まあ、大元はアハトさんのSSだけどな。
美姫 「そう言われればそうよね。こんな面白い設定を使っているのに、あんたのSSって」
うぅぅ。って、今は俺のはどうでも良いんだよ!
美姫 「それもそうね。さて、ミュリエルとリリィの親子対決だったけれど…」
どうやら、ミュリエルの方に軍配が上がったみたいだな。
美姫 「学園長の面目躍如かしら」
いやいや、面白かったです。
美姫 「フィーア、ありがとうね〜」
アハトさんも、お疲れ様です〜。
美姫 「それじゃあ、まったね〜」



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