その日、アヴァターにある王家の一つ、バーンフリート王家の王女、クレシーダ・バーンフリート。

彼女は部屋にて書類の整理をしていた。

破滅との戦いが激化してきた今、戦いで村を追われた民達が次々に王都へとやって来ている。

その民達の食料や住む場所など、色々とやらねばならないことがある。

貴族達の財を民に分け与えるような案もあるが、そんなものは賢人会議で通るはずもない。

だから、王家の財を少しずつ民に分け与えている状態である。

「ふぅ……今日はここまでか」

整理していた書類に一区切りをつけ、クレアは椅子にもたれる。

もう少しすれば、救世主候補達が救世主の鎧を取りにいく。

そうすれば、後は破滅との全面対決を残すのみ。

こちらにはレベリオンもある。

全員が一丸となり、立ち向かえば勝ちは十分に見えてくる。

そう、思いたいのだが……

クレアには、そう思えない理由があった。

「恭也……」

ふと、口からこぼれ出る名前。

先日、この城にまでやってきた……破滅の将が一人、堕ち鴉の不破 恭也。

彼の言った一言が……クレアの決意を鈍らせる。

(もし、ホワイトパーカス目掛けてレベリオンを撃つなら……)

「私を、殺す……か」

ぎゅっと、胸の前で手を握る。

好きな相手に、想っている相手にそんなことを言われては、決意が鈍る。

紙面上の気持ちなら何とでも代弁できる。

レベリオンを撃ち、破滅を倒すことが一番なのだ。

だが、自分の心がそれを否定してしまう。

嫌われたくない、ただその一点だった。

殺されるのは、何故か怖くはないと思っていた。

恭也に殺されるなら、その腕の中で逝けるなら……それは、どんなに幸せだろうか。

ただ、恭也に嫌われるのだけは我慢ならなかった。

そんなまま生きていても、きっと死んでいるのに違いはない。

「考えても仕方ないな……今日は、もう休もう」

クレアは座っていた椅子から降り、部屋から出て行こうとして。

部屋の扉が、ノックされた。

「? だれだ?」

こんな真夜中に、自分を訪ねてくるものはいないはず。

そう思いつつも、クレアはドアの向こうにいるものに声をかける。

「クレシーダ・バーンフリート王女」

ドアを開け、入って来たのは……

「貴様っ、何者だっ!?」

全身黒のローブで顔も体も全てを覆った、人の形をしたものだった。

僅かに開いた口元から見える口で、人だと言うのが微かに判る。

そして、声からして男のように聞こえる。

「あなたに是非会いたいと言う者がいるのです……失礼を承知で、お会い願いませんか?」

男は感情を込めず、クレアに言う。

「私が、黙ってついて行くとでも言うのか?」

気丈に、クレアは言い返す。

少しでも時間を稼げば、衛兵がここを通るかもしれない。

それに期待しているのだが……

「無駄ですよ、衛兵は皆眠っていますので」

「なっ」

その言葉に、クレアは驚く。

「クレア王女、こちらも害意あってのものではありません……どうか、お越し願えませんかな?」

「………………いいだろう」

男の言葉に、偽りがないことを見抜いたのか。

それとも、もしかしたらと言う淡い気持ちが……クレアを動かしたのか。

クレアは、頷いた。

(こやつについていけば、もしかすれば恭也の元にいけるやもしれん)

そう思い、クレアは男の後ろについていく。

そしてそのまま、誰にも会わずに……城を抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

王女さまと魔法使い

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く歩いて、岩場のような場所にたどり着いた。

「クレア王女を、お連れしました」

「ありがとう」

男が声をかけると、闇の中から少女と思わしき声が返ってくる。

そして、闇の中から出てきたのは……

「久しぶり、でいいかな……クレアさん」

「お前は、不破……なのは」

クレアが、驚きの声でその名前を呼ぶ。

闇から出てきたのは、元救世主候補…そして、今は破滅の魔法使い…不破 なのはだった。

数秒の間、二人はお互いを見詰め合う。

「では、私は向こうで待機していますので」

そう言って男は二人から少し遠くの岩場へと移動した。

「なぜ、私を呼んだのだ?」

男がいなくなって、クレアがなのはに尋ねる。

「貴女と一度、二人だけでゆっくりお話をしたかったから……」

空を見上げつつ、なのはは答えた。

「そうか……」

クレアは短く答え、同じように空を見上げる。

明かりも殆ど無い為、夜空に輝く星が良く見える。

「星の数だけ人はいて、人の数だけ、思いがある」

ポツリと、なのはが呟く。

「でも、小さな思いは大きな思いに潰されてしまう……」

クレアに視線を移し、なのはは言う。

「平穏に、人と同じように生きたい人達の想いを……何故、貴女達は潰そうとするの?」

その言葉が、クレアの心に突き刺さる。

それは、少し前に恭也に教えられた事……

国境で行われている一方的な虐殺……

確認をとってみたが、一部しか明るみには出てこなかった。

そして、その虐殺を行った者達も、すでに物言わぬ死体となっていた。

「私も、出来る事ならそんな事などしたくはない……今まで、していたなどと言う感覚もなかった」

自分に向かって言うように、クレアは言う。

「無知だったのだ……私も」

自傷気味に、クレアは呟いた。

「あの時、恭也に言われるまでそんな事が起こっていたなど知りもしなかった……」

まるで、信じていた者に裏切られたかのような感覚だった。

あれから、ホワイトパーカスとの州境の警備は最小限度の人数に削減した。

報告を聞けば聞くほど、向こうから攻められる事など殆どなかった。

殆ど、此方から攻めて被害を被っていたものばかり。

何と浅はかな事だろうと、自国の騎士に対して思ってしまっていた。

「そう……」

小さく、なのははそう言い返した。

「私は、もし戦わないで済むんだったらそれが一番良いと思います……おにいちゃんだって、ロベリアさん達だって、本当は戦わないでいたいはずなんです」

真剣な目で、なのはは言う。

その目に、偽りはない。

「そろそろお時間です」

そこに、先ほどの男がやってくる。

「そっか、もうそんな時間なんだ……」

「はい、これ以上遅くなりますとロベリア様達が心配します」

男の言葉に頷き、なのははクレアを見る。

「今日はこれで終わり……でも、どうか考えていてほしいの」

「……判った」

なのはの言葉に、クレアは頷いた。

「じゃぁ、私は先に帰るから、クレアさんをお城に無事帰してあげて」

男はそれに頷き、なのはは帰還呪文を使って帰っていた。

「では、参りましょうか?」

「その前に……」

男が手を差し出すが、クレアは男を見つめる。

「そろそろその無用の覆面はとらんのか、恭也?」

クレアのその言葉に、男は少し動く。

「見抜けんと思ったか……姿を隠し、声を変えようとも……判る」

「…………ふぅ、クレアにまで見抜かれるとはな……」

そう言って、男は顔を覆っていたローブを取る。

そこに現れたのは、正しく不破 恭也だった。

「いつから気付いていた?」

「ついさっきだ、私をここまで連れてきた男と多少なりとも違和感があった」

恭也の問いかけに、クレアは答える。

「だが一番の根拠は……私の勘だ」

その言葉に、恭也は驚く。

「そうか、恐ろしい勘だ」

少々苦笑しながら、恭也はクレアに言う。

「笑うでない、恭也!」

その恭也に向かって、クレアは少し叫ぶ。

「すまん、笑うつもりはなかったんだがな……」

そう言いつつ、恭也はクレアの頭を撫でる。

「あっ……」

多少クレアは驚くが、すぐにジッとする。

(やはり、恭也に頭を撫でられると……気持ちがいい……)

そんなことを思いつつ、クレアは頭を撫でられる。

「クレア、そろそろ行くぞ?」

ポンポンと、クレアの頭を撫でて恭也が言う。

「むぅ、そうか……」

残念そうな顔をして、クレアは言う。

「クレア、次に会う時は……」

「あぁ、判っておる」

恭也の言いたい事が、クレアには判っていた。

次に会う時は、お互い敵同士だろうと言うことが……

そして、クレアは知らない……

この後、破滅と王国軍との戦いの末……

自分が死んでしまうと言うことも……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第21弾〜〜〜

フィーア「あら、もう20話突破してたの」

あぁ、そうみたいだね。

フィーア「これも一重に私の……」

読者様のお陰ですっ!!

フィーア「……まぁ、それは否定できないから何も言わないであげるわ」

今回は、浩さんにネタ出しをして貰いました、夜の会話なのは.verです。

フィーア「うたわれるもののハクオロとクーヤみたいな会話、って言うのを聞いたのよね」

うん、それで以前リクのあったなのはを出してみようと思って。

フィーア「まぁ会話部分がかなり短いけどね」

それを言わないで……

フィーア「で、次回は?」

アルストロメリアが人気あるんだよねぇ。

フィーア「それで?」

過去から未来に跳ばして見ようかと言う意見もちらほら……

フィーア「まぁ、さっさと書きなさいよね」

いえーすさー

フィーア「ではでは〜〜」





アハトさん、ありがと〜。
美姫 「夜中の密会」
やって欲しかったんだよな〜。
敵と味方に図らずも別れてしまった二人。
美姫 「誰も知らない夜空の下での少しの対話」
うんうん。いやー、良い!
美姫 「アハトさん、本当にありがとうね〜」
感謝。
美姫 「フィーアもご苦労様」
また次を楽しみにしてます。
美姫 「それじゃ〜ね〜」

祝、20話突破!



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