「…なるほど」

ガルガンチュワの探索から帰ってきた恭也は、ミュリエルやなのは、ロベリアとイムニティ、エンディアナと居間に集まっていた。

ミュリエルが、召喚器を手に入れたことについて話していたのだ。

詳しい事は話していないが、とにかくガルガンチュワで召喚器:ヘスペリデスを手に入れたことを説明したのだ。

「まさかミュリエルが再び召喚器を持つとはねぇ……」

ソファに凭れながら、ロベリアはミュリエルに向かって言う。

「また一段と、信頼を失いそうね、ミュリエル」

皮肉げに、イムニティはミュリエルに言う。

幾らミュリエルが恭也達の仲間になったといっても、元は王国側の人間。

やはり、快く思っていない者達も何人かいるのだ。

「その事ですが…私が召喚器を手に入れた事は、この場にいる6人だけの秘密にしてほしいのです」

「確かに、表立ってみんなに教えると逆効果だな……」

ミュリエルの言葉に、恭也は考える。

「勿論、戦いの時には使いますが…それ以外では、秘密にしておいてほしいのです」

ミュリエルは、ヘスペリデスの真の目的を知っている為に、なるべく外部に知られたくはないと考えたのだ。

「まぁ、余計な混乱は避けたいからね」

そう言って、ロベリアは立ち上がる。

「そろそろ行く準備をしないとね」

「学園の地下遺跡か?」

恭也の言葉に、ロベリアは頷く。

「救世主候補が救世主の鎧を取りに行ったって報告が入ってる。 それで、主幹からの命で私達4人がそこまで行く事になってね」

「赤の主と主幹が一緒にそこまで来るから、迎えに行くようなものね」

ロベリアに続けるように、イムニティが言う。

「気をつけてな」

恭也の言葉に頷いて、二人は居間を出て行った。

「恭也、破滅の主幹とは一体誰なのですか?」

此処に来て、ミュリエルはまだ破滅軍の主幹を見たことがなかった。

だからこそ、ミュリエルは恭也に尋ねる。

「すまないが……俺もな、会った事がないんだ」

その答えに、ミュリエルは驚く。

「ロベリア達は知っているそうだが、教えてはもらっていない。 なのはも、エンディアナも会った事はないしな」

「うん、私も一度も会った事がないよ」

「私もだな。 主幹がいる、と言うことまでは聞いているがそれが誰かは知らん」

恭也に続けるように、なのはとエンディアナも知らないと答える。

「ただ、ミュリエルには悪いと思うがフローリア学園に潜入していると聞いた記憶がある」

恭也の言葉に、ミュリエルは再び驚く。

「学園にいる時には、気付きませんでしたが……」

「それだけ、うまく隠れていると言うことだろうな」

苦笑しながら、恭也はミュリエルに言う。

「君主恭也、少しいいか?」

そこで、エンディアナが恭也に尋ねる。

「どうした、エンディアナ?」

「あぁ、君主恭也に持ってきてもらった本…あれに、封印の解除の仕方が載っていた事は既に言ってあっただろう」

エンディアナの言葉に、恭也は頷く。

「中に入っていたのは、リュート殿が調べていた文献などのデータだ」

その言葉に、恭也達は驚く。

「まだ解読は出来ていないが、かなり調べてある」

「有益な情報はありそうか?」

「確証はないが…たぶんあるだろうな。 もしかしたら、私達の真の目的を達成するための何かが書かれている可能性もある」

恭也の言葉に、エンディアナは頷きながら答える。

「そうか。 なら、引き続き……」

「不破様っ!!!」

恭也の言葉を遮って、男が居間へと入ってくる。

「どうした?」

その慌てようから、恭也は何かあったのか尋ねる。

「大変です! 州境に、王国の騎士団がっ!!!」

その叫びを聞いて、恭也達はすぐさま立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

戦いの輪舞(ロンド)

 

 

 

 

 

 

 

州境から一番近い町。

恭也はそこに兵士達を集め、陣を張っていた。

「イムニティやロベリア達がいない時に来るとはな……間が悪すぎる」

魔法で映し出された王国の騎士団を見ながら、恭也は呟く。

「大軍団だな…本格的に、征服にでも来たか」

恭也の隣で、エンディアナが騎士団を見ながら呟く。

見る限り、凄まじい大群を引き連れた騎士団。

「ホワイトカーパスが端の州でよかったと、今は思えるな」

州境は1つのみ…これが、中央州であれば全方面からの攻撃になっていただろう。

「住民の避難は?」

「ほぼ完了しています。 今は州都の方で受け入れを開始しています」

恭也の問いに、ミュリエルが答える。

「そうか……進軍はしない。 この先の平原で奴等を迎え撃つ」

「専守防衛に徹する、と言うわけですか」

「あぁ、向こうから仕掛けてきたのならそうなる。 こちらから仕掛けても徳にはならん」

むしろ、立場を悪くするだけだ、そう恭也は言い足す。

「ミュリエルはなのはと共に後方で援護してくれ。 後は、怪我人の治療も任せる」

「えぇ、判りました」

ミュリエルの召喚器の事を、あまり周りの者達に見せないと言う配慮から、恭也は二人を後方に回す。

ミュリエルなら、召喚器がなくても魔法の威力は高い。

なのはも、前衛より今は後衛に徹してもらえた方が恭也も安心できる。

「前衛は俺とエンディアナで務める。 エンディアナ、頼むぞ」

「任せろ、君主恭也」

恭也の言葉に、エンディアナは力強く頷く。

「エンディアナの魔法攻撃を合図に戦闘開始だ、それまでは兵には動かないように伝えてくれ」

そう言って、恭也はエンディアナと共に前線へと駆け出す。

そしてすぐさま前線へとやってきた恭也とエンディアナは、目の前に広がる王国の軍勢を見渡した。

「侵略ではなく、完全な破壊を望む……そんなところか」

その軍勢を見つめ、エンディアナはポツリと漏らす。

「エンディアナ、その言葉は?」

それを聞いた恭也は、同じように王国の軍勢を見つめながら尋ねる。

「私が生まれた時代にな、よくプレアデスが読んでいた詩だ。 侵略と破壊は、似ているようでまるで違う」

過去を思い出しているのか、エンディアナは王国の軍勢を見つめながらも、遠くを見つめている様な感じを思わせる。

「侵略は、後に生が残るものだ。 だが、破壊は生を残さん……ただただ、死だけを撒き散らせる」

エンディアナの言葉に、恭也も過去を思い出す

王国との戦い、その戦いでは生など塵にも等しかった。

気付けば、直ぐに狩りとられていく儚い生。

勝手な都合で死を撒き散らせて行く王国の軍…

そこまで思って、恭也は笑った。

自分とて、何十、何百もの兵をこの両の小太刀で切り捨ててきた。

向こうからすれば、自分も死を撒き散らすだけのバケモノだろう。

きっと、自分が殺した者達の親兄弟、恋人などは自分を怨みぬいて死んで逝っただろう。

だが、それでも自分は幸いだ。

護るべき者が、共に戦う朋が、最愛の家族が、自分を支えていてくれる。

そして、自分を大事に想っていてくれる者達の為に、自分は何だってすると誓った。

周りから見れば、なんとも愚かで、道化師だとすら罵られるかもしれない。

それでも、この路を逝くと決めた。

最後に己が死でしか抗えないことが迫っても、きっと歩みを止める事はない。

「……エンディアナ、そろそろ行くぞ」

「了解だ、君主恭也」

恭也の言葉にエンディアナは頷き、掌に魔力を凝縮させ始める。

「天空に君臨せし雷帝よ…紫光の刃となりて、敵を撃ちぬけッ」

言葉とともに、エンディアナは腕を後ろに引き、矢が弓に弾かれるように、その腕を突き放つ!

 

「天輪ッ!!」

 

刹那、凄まじい魔力の流動が、王国の軍勢目掛けて撃ち放たれる。

その魔力の流動は王国の軍勢を容赦なく飲み込んでいく。

巨大な爆発音のような音が戦場全体に響き渡る。

「さぁ行くぞ【鴉の人形(ブラック・ドール)】」

「【私の御主人様(マイマスター)】も、遅れるなよ」

二人はお互いにそう言い合いながら笑って、血と死が蔓延した、地獄へ飛び出した。

 

 

 

エンディアナの放った巨大な魔力の流動を、ミュリエルとなのはは本陣近くで見ていた。

辺りに走る緊張感、そして慌しく動き回る人達。

前線にはモンスター達と、それを纏める少数の兵。

知性のないモンスター達を、兵達はイムニティの加護を受けた宝玉で御していく。

その戦場独特の空気に、ミュリエルは懐かしさを、なのはは初めての緊張感を味わっていた。

嘗て戦場に出たときは、自分の中は空っぽだった。

何も感じない空虚な心。

最愛の兄がいない、その真実だけがなのはの心を支配して、色のない世界がなのはの全てだった。

だけど、兄が生きていると知ってからは、その世界にも色が戻った。

そして思った。

兄がいれば、きっと何処だってそこは天国と同じだと。

だから、この戦いはなのはにとって初陣に近い。

世界に色が戻って、感覚も戻った。

戦場に渦巻く様々な思いが、形容しがたい何かとなって、なのはに近づく。

そして、この戦場独特の空気をなのははお腹一杯に吸い込み、それを体の隅々にまで行き渡らせる。

空気に味なんてないと思うけど、何かが体の中に入ったような、変な感覚。

(これが、おにいちゃんがずっと吸ってきた戦場の空気……微かな血の味のする、嫌な空気)

そこまで考えて、なのはは召喚器を持つ手に力を込める。

今回の自分は後衛で負傷者達の治療や、いるとは思わないが恭也達を抜けて此処まで来る者達の迎撃だ。

大丈夫だ、訓練通りにやればうまく行く。

エンディアナもイムニティも、隣に立つミュリエルもそう言ってくれた。

だから、その教えを胸になのはは遠くの戦場を見つめる。

「なのはさん、あまり肩肘を張らないように」

そんななのはを見て、ミュリエルはなのはの肩に手を置いて落ち着くように言う。

「大丈夫です、ミュリエル先生」

力いっぱい、なのははミュリエルを心配させないように答える。

「戦場では適度な緊張感を維持すれば、普段通りの力が発揮できます。 しかし、あまり緊張しすぎると普段の半分以下の力しか出ません」

それは、ミュリエルの経験則でもあるし、きっと幾度も戦場に出た事がある者にとっては聞き慣れた言葉であろう。

「戦う事でしか得られない経験も確かにありますが、今は落ち着いて、成すべき事に全力を注ぎましょう」

「はいっ、全力全開で!」

ミュリエルの言葉に、なのはは力強く、それでいて普段通りの表情で頷く。

そうだ、自分はいつだって全力全開。

兄の為にも、皆の為にも、何よりも自分の為にも。

自分自身に悔いを残さない為に、全力全開で、立ち向かおう。

そんななのはを見たミュリエルは、小さく笑って、己が眼前に広がる戦場を見渡す。

昔は、この軍勢の中に自分もいた。

だけど今は、その軍勢とは反対の軍の中に身を置いて、戦いに赴こうとしている。

千年前の、何も知らなかった自分が今の自分を見れば、どう思うだろうか。

そんなとりとめのない事を思いつつ、ミュリエルは体中に魔力を行き渡らせる。

最悪の事態で、最悪の結果にしない為に。

(恭也、エンディアナ……こちらは私となのはさんに任せて、あなた達はあなた達の戦いを)

きっと届く、そう確信しながら、ミュリエルは祈った。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

叫びと共に、恭也は戦場を疾っていた

急加速で目の前の兵士に近寄り、恭也は小太刀を一閃。

上から体を斬り捨て、恭也は次の目標へと走る。

止まる事などしない。

流れるように、恭也は敵対する兵士を斬り捨てていく。

そんな恭也に、兵士達の後方から幾百もの魔法が降り注ぐ。

炎、氷、雷…etc

普通なら、そんなものが降り注げば防ぐのは容易ではないし、正しく必殺であろう。

だが、どんなものにも例外があるように―――――――

破滅の堕ち鴉と恐れられる不破 恭也に、そんなものは意味をなさい。

降り注ぐ魔法の嵐の中を、恭也はまるで何もないかのように疾走する。

そしてまるでそこに見えない階段があるかのように―――――上空へと翔け上がる。

そこから、視界に捕らえた魔法使い達の手元目掛けて飛針を投げつける。

腕に刺さった飛針の痛みに、魔法使い達は呪文の詠唱を止める。

その一瞬の隙さえあれば―――――

「エンディアナッ!!」

恭也の叫びと共に、強大な魔力の流動が兵士達を飲み込んでいく。

上空から凄まじい量の魔法が、まるで雨のように降り注ぐ。

そんな中を、恭也はまるで意に介していないかのように駆ける。

恭也に直撃するかと思われた魔法は、全て恭也の直前で元の魔力へとその姿を変え、霧散する。

魔法使いに対する最高の切り札、魔法無力化。

その力を持って、恭也は戦場に死を流布する死神となる。

既に何十もの兵を切り捨てている。

辺りに広がるのは、ホワイトパーカスの兵やモンスターと、王国の兵士が殺しあう風景。

そして足元に広がるのは、無数の死体。

人と獣の焼ける臭い、強烈な血の臭い。

何よりも、色濃くあたりに漂う……死の臭い。

それは千年前の戦いを思い出させる。

歴史は繰り返す、とはよく言ったものだ。

全くもって……

「その通りだからな」

言って、恭也は目の前の兵士を切り捨てる。

直後、次に動こうとして王国の軍勢の後ろから何かの合図の様な音が響き渡る。

そして、その音を聞いた王国の軍勢は、背を見せて恭也達から逃げていく。

おそらく、撤退の合図だろうと、恭也は考える。

「追撃はするな! 全員負傷者の救護にあたれ!!」

そのまま、恭也は響く声で指示を出す。

その声に、兵士達は雄叫びを上げながら、武器を上空へと振りかざす。

全員がこの勝利に歓び、生きている事に安堵している。

「お疲れだな、君主恭也」

辺りが負傷者達に手を貸して移動している中、エンディアナは恭也に近づき、その言葉を放つ。

恭也の黒ずくめの服も、明らかに服の黒ではない…どす黒い黒が、染み込んでいる。

声をかけたエンディアナの黒いドレスにも、血が空気に触れた時に変色するような、どす黒い黒が染み付いていた。

「エンディアナも、ご苦労だったな」

そう言って、恭也は懐から小太刀の血を拭き取る為の紙を取り出す。

「…………使い物に、ならんな」

「それはそうだろう」

恭也が取り出した紙は、恭也が浴びた返り血でどす黒く変色してしまっていた。

「はぁ、戻ってから拭くか」

このままでは鞘に収められない為、恭也は両手に小太刀を持ったまま本陣の方へと向かう。

「このまま、再び王国が攻めて来ることはないのか?」

「数日はないだろう。 今日攻め込んできた軍勢も、王国の騎士団からすれば少ない方だからな」

本陣へと戻りながら、エンディアナと恭也は話し合う。

「此処に攻め込んでくる王国の軍勢は、賢人会議がほぼ独断で動かしているからな。 あまり大きくなりすぎれば、王女の耳にも入り、やりにくくなるだろう」

きっと、クレアは無益な争いは望まない子だと、恭也は確信していた。

だからこそ、そのクレアを裏切るような形を取っている賢人会議の連中を、恭也は憎々しげに思う。

そして、恭也達が本陣の近くまで来た時…前から、ミュリエルとなのはがかなり慌てながら此方へと向かってくる。

その感じに、恭也は嫌な予感が脳裏をよぎる。

「恭也ッ! 大変です!!」

次に、ミュリエルが発した言葉に、恭也は言葉を失った。

 

 

 

 

 

「【黒の魔道要塞(ガルガンチュワ)】が、上空にその姿を現せました!」

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第38弾をおおくりしました〜〜

フィーア「今回は、王国の軍勢との戦いね」

恭也達の戦い、そのオリジナルな部分を書いてみました。

フィーア「後は、なのはやミュリエルの心境ってところね」

なのはにとっては、ほぼ初陣。 ミュリエルにとっても、破滅としての初陣だからね。

フィーア「で、次回はどんな感じなの?」

ついに姿を現す破滅の主幹! その考えに恭也はどんな答えを出すのか!

フィーア「そろそろクライマックスね」

このまま書ききれたらいいな、と思いつつ。

フィーア「また次回にね〜〜〜〜」





おお、続く。
美姫 「急に動きを見せたガルガンチュワ。一体……」
主幹と恭也の対面。そこには何が待っているのやら。
美姫 「楽しみね〜」
うんうん。次回も待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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