恭也達は、突如上空へとその姿を現したガルガンチュワへと戻ってきていた。

何せ突然このようなものが現れたのだ。

恭也達はかなり驚きながら、ガルガンチュワへとやってきた。

ミュリエルとなのは、エンディアナの魔法で空を飛んできたのだ。

不気味なほどの静けさをかもし出すガルガンチュワを少し不審に思いつつも、恭也達はそのまま道を奥へと進む。

兵と言う兵も、モンスターとすら遭遇せずに、恭也達は程なくして大きな広間に出た。

その中心には、金に輝く巨大な鎧……遥か太古より救世主が身に纏ったといわれる救世主の鎧。

そして、その鎧が座する……黄金の玉座。

「待っていましたよ、堕ち鴉」

その鎧の後ろから、声が掛けられる。

「この声…主幹か?」

「そうです。 貴方達の前に姿を見せるのは初めてですね」

恭也の問いに答え、声の主、破滅の主幹が鎧の後ろからその姿を現す。

その姿に、ミュリエルは絶句した。

「ダウニー…先生……」

「おや、ミュリエル学園長もいましたか」

ミュリエルの言葉どおり、そこにはフローリア学園の先生であった……ダウニー・リードが立っていた。

「正式な自己紹介はまだでしたね。 私は第42代破滅軍主幹、ダウニー・リードです」

そう言って、ダウニーは会釈する。

「ダウニー先生が…破滅の、主幹……」

その紹介に、ミュリエルは誰より驚いていた。

「えぇ、そうです。 もっとも、気付かれないように動いていましたから無理もありませんが」

そこまで言って、ダウニーは恭也の方を見る。

「堕ち鴉、貴方の働きは皆から聞いています。 我等破滅の為によく働いてくれましたね」

「俺は破滅の為に戦ったわけではない。 ロベリアやイムニティ、ホワイトパーカスの民の為に剣を振るっただけだ」

ダウニーの賞賛の言葉に、恭也ははっきりと答える。

「ところで主幹、ロベリアやイムニティはどうした?」

辺りの気配を探っては見たものの、恭也に二人の気配が感じ取れなかった。

だからこそ、ダウニーに尋ねる。

「イムニティならいますよ……」

言いながらダウニーは、笑みを浮かべる。

「あなたの目の前にね」

言葉が終わるのと同時に、鎮座していた救世主の鎧が雄叫びを上げる。

「っ、まさか……っ!!!」

一瞬で、恭也はその考えにたどり着く。

ダウニーの言い分にまるで反応するかのような救世主の鎧の雄叫び…

そこから導き出される答えは……

「イムニティを、取り込んだのかっ!!?」

その叫び、ダウニーは薄く笑った。

あたかも、それが答えであるといわんばかりに……

「これも神を降ろす為です。 判っていただけますか?」

ダウニーの問いに、恭也は答えない。

ただただ、握り締めている手に力を込める。

「ならば、俺のとるべき道は唯一つ……」

言って、恭也は……小太刀を、抜刀する。

「そのガラクタを叩き潰すっ!!!」

即座に神速の領域に入り、恭也は救世主の鎧目掛けて歩みを進める。

辺りの風景は色が抜け落ち、全てがモノクロとなる。

そして、まるで何かが絡みついてくるような感触の中、恭也は段々と救世主の鎧との距離を縮める。

しかし……

「っ!!!?」

救世主の鎧の手前で、恭也は急ブレーキをかけ体を反転させる。

それと同時に、恭也の進む先にマシンガンの弾がいくつも打ち込まれる。

「お下がりなさい、堕ち鴉」

神速の領域から抜け、恭也は声のした方を向く。

そこには、銃口から硝煙が立ち上るマシンガンを構える仮面の男、シェザル。

巨大な剣を肩に担ぎ、げひた笑いを浮かべながら恭也達を見る巨漢、ムドウ。

この二人が立っていた。

「とうとう尻尾を出しやがったな」

見下すような笑いをしながら、ムドウは恭也に言い放つ。

「あなた達の叛乱は、とっくに見抜いておりましたよ、堕ち鴉」

ムドウに続けるように、ダウニーが語りかける。

「なん…だと……?」

信じられない、と行った風に恭也は言いかえす。

「裏切るにせよ、あなたには利用価値があった、だから生かしておいたのですが……」

そこまで言って、ダウニーは何もない空間から細剣を取り出す。

「それはっ!?」

「これは神が私に与えてくださった力…召喚器、ディスパイァーです」

言葉と共に、ダウニーを紫色の魔力が包み込む。

「今の私達は神による恩恵を受け、救世主と同等の力を得ています…それでも、かかってきますか?」

「言った筈だぞ……俺はそのガラクタを破壊し、イムニティを助け出すと!!」

ダウニーの言葉を、恭也は真っ向から切り捨てる。

「愚かな……ムドウ、シェザル、手を出さないように」

ダウニーの言葉に、二人は少し面白くなさそうな顔をして、頷く。

そして、その瞬間に恭也がダウニー目掛けて走り出す。

その刹那、ダウニーの持つ召喚器 ディスパイァーから一条の光が放たれる。

恭也はそれを魔法と判断し、そのまま走り出そうとするが……

「がっ!?」

その光は恭也の前で霧散せず……そのまま恭也の腹を突き抜ける。

突き抜けた瞬間、恭也の腹と背中から夥しいほどの血が流れ出す。

「恭也ぁっ!!」

「おにいちゃんっ!!」

「君主恭也!!」

それを見たミュリエル、なのは、エンディアナの悲痛な叫びが響き渡る。

「ぐぅっ……」

突き抜けた部分を手で押さえながら、恭也はダウニーを睨む。

「あなたの魔法無効化も、よくて救世主候補の魔法を打ち消す程度。 神の力によって得た私の魔法は防げませんよ」

言って、ダウニーは再び魔法を恭也目掛けて撃ち放つ。

「くっ……」

傷口から血を垂れ流し、口からも血を吐き出しつつも、恭也は地面を転がりながらそれを避ける。

「エンディアナッ!!!」

「任せろっ!!!」

転がりながら恭也はエンディアナの名を叫び、エンディアナも何を意味するのか即座に理解し叫び返す。

恭也の前に立ったエンディアナは一瞬で防御壁を築き上げる。

しかし、それもダウニーの放った魔法一発で粉々になる。

だが、エンディアナは全く慌てない。 まるで、その光景すら予想通りだといわんばかりに次の動作に移る。

「ミュリエルッ!」

エンディアナの叫びにミュリエルは頷き、瞬時に呪文を詠唱。

四人はこの場から消え去った……

「ちっ、逃げやがったか」

「追う必要はありません。 遅かれ早かれ彼も神の前にひれ伏すのですからね」

そう言って、ダウニーは黄金の玉座に座する救世主の鎧を見る。

「ふふふふふ、王国を苦しめ続けた堕ち鴉ももはや敵ではない……後は、神の降臨を待つとしましょうか」

ダウニーの笑い声だけが、ガルガンチュワに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

開闢

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ、ごほっ」

「おにいちゃんっ!」

咳き込み、血を吐き出す恭也に、なのはは悲痛な叫びを上げながら近づく。

「なのはさん、今は治癒魔法をっ」

ミュリエルの言葉になのはは頷き、すぐさま恭也の傷に治癒魔法をかける。

しかし、傷は塞がるどころか血すら止まらない。

「なんでっ、何で塞がらないのっ!」

半ば半狂乱になりながら、なのはは恭也に治癒魔法をかけ続ける。

「落ち着け、なのは!」

そんななのはに、エンディアナは落ち着くように叫ぶ。

「叫んでも、君主恭也の傷は塞がらん」

言って、エンディアナは恭也の傷を見る。

「……魔法ではないな…呪いの一種か?」

自身で治癒魔法を恭也に施しながら。エンディアナはそう恭也に尋ねる。

「判ら、ごほっ、ごほっ…ん」

質問に答えようとして、恭也はまた血を吐き出す。

「……君主恭也、プレアデスを出せ」

その言葉に、恭也は咳き込みながら驚く。

「プレアデスの力を解放すれば、この程度の呪いなど一瞬で治癒できる」

「プレアデス……?」

エンディアナの口から出てきたその名前に、なのはは疑問符を浮かべる。

「恭也のもつ最古参召喚器の長にして全ての召喚器の原点、ですね」

そんななのはにミュリエルが答え、それを聞いた恭也とエンディアナは驚く。

「私がヘスペリデスを手に入れた時に、彼女達が私に言いました。 ヘスペリデスはプレアデスを護る為にある、と」

何故知っているのか、そんな疑問を表情に出しながら見ていた恭也とエンディアナに、ミュリエルは説明する。

「そして私達がガルガンチュワで見つけたあの部屋は、プレアデスとアストライア、この二つを持つ者がいなければ現れない仕組みになっていると聞きました。 だから私は恭也がその召喚器を持っているだろうと思ったわけです」

「なるほどな……」

ミュリエルの説明に、エンディアナは頷く。

「ならば、君主恭也。 此処にアストライアとヘスペリデスがあるのなら、なおさらプレアデスを呼び出せ。 このままでは命に関わる」

真剣な表情で迫るエンディアナに、恭也はうめきながら頷く。

そして、エンディアナに背中を支えてもらい、何とか両手を持ち上げる。

「応え…ろ、プレ…アデス……ッ」

つまりながらも、恭也はその名を呼ぶ。

刹那、恭也の持ち上げた手の中に二つの光が急速に集束していく。

そして、その光が弾けた後には…銀色に光り輝く二振りの小太刀が握られていた。

「これが……」

「恭也の召喚器、プレアデス……」

恭也の掌に握られた銀の小太刀を見ながら、なのはとミュリエルは呟く。

「なのは、ミュリエル、アストライアとヘスペリデスを」

エンディアナのその言葉に二人は頷き、手を翳す。

「来て、アストライアッ!」

「応えて、ヘスペリデスッ」

二人の言葉と同時に、なのはの手の中に金の先端を持つ杖型の召喚器 アストライアが。

ミュリエルの右掌を覆うように、紅きグローブ型の召喚器 ヘスペリデスがそれぞれ現れる。

すると、まるでその3つの召喚器は揃った事に歓喜するかのように、輝きを増す。

「召喚器になった今でも、何万年ぶりの再会を喜んでいるのだな」

少し苦笑し、エンディアナは直ぐに真剣な表情に戻る。

「二人とも、プレアデスに自分の召喚器を重ねるんだ」

頷き、二人は言われたとおり片方ずつ自分の召喚器を恭也の持つプレアデスに重ねる。

すると、3つの召喚器は先程と同じくらいの眩い輝きを放つ。

「なんだろう…凄く暖かくて、懐かしい気持ちが溢れてくる……」

まるで優しい何かに包まれているような、そんな表情でなのはが呟く。

「これは…歓び……?」

多少首を傾げながら、それでもミュリエルはこの温かさを素直に受け入れる。

「傷が、塞がっていく……体の中に、何か大きなものが流れ込んでいくような…それでいて、安心できる……」

まるで元から傷などなかったかのように、恭也の傷は塞がっていき、恭也は驚きながらもこの暖かさに身を委ねる。

「友との再会も、プレアデスが望んだ事だったのだろうな」

光に包まれている3人を見つめながら、エンディアナはそう言って、自分が生まれた時に想いを馳せる。

時に厳しく、時に優しく、皆を見守る姉のようだったヘスペリデス達。

親愛の情に溢れ、その笑顔で皆を癒す妹のようだったアストライア。

そして、皆の為に一番心砕いて、それでもなお前を見続けてきたプレアデス達。

神の歪んだ愛の犠牲になった皆を救うために、エンディアナは新たな君主達の力になると決めた。

だからこそ、これは始まりなのだ。

「三人とも、脳裏に言葉が浮かぶな。 それを読み上げるんだ」

エンディアナの言葉に、3人は頷く。

「紅き明星、エデンの園を守護せし暁の女神達…【守護乙女】ヘスペリデス」

厳粛な声で、まずはミュリエルがその名を宣言する。

「白き流星、天空を駆け巡る星々に愛された乙女…【星乙女】アストライア」

続けるように、なのはが透き通る声でその名を宣言する。

「紫光の星、すべての始まりにして終わりを司る乙女達…【開闢星団】プレアデス」

最後に、厳格な声で恭也がその名を宣言する。

すると、3つの召喚器はその宣言に応える様に先程より更に光を放つ。

そして、その光が最高潮に達すると同時に、弾ける。

弾けた光の中には…姿形は先程と変わらないものの、先程までより数倍その存在感を増した3つの召喚器があった。

「今3人の手の中にある召喚器は、救世主の召喚器だ」

「救世主の……」

「召喚器……?」

エンディアナの言葉に、なのはとミュリエルが驚きながらエンディアナに尋ねる。

「救世主とは、何も赤の精と白の精を統合すれば良いわけではない」

「世界を創りかえる過程で折れない心、か」

続けるように答える恭也に、エンディアナは頷く。

「それも必要だが、救世主自身が使う召喚器…これも重要になってくる。 なにせ、今救世主候補達が使っている召喚器は、覚醒していない状態だからな」

その言葉に、恭也達は驚くと同時に疑問を浮かべる。

「召喚器の覚醒とは、一体どう言うことだ?」

恭也が代表するように、その疑問をエンディアナに尋ねる。

「これはリュート殿が残してくれた資料に書いてあったことだが、救世主は赤と白、二つの精を統合しどちらかを世界を創りかえる為のパートナーとして選ぶ。 そこまでは三人とも知っているな」

3人は頷き、続きを促す。

「だが、それだけでは世界をまず破壊する事はかなり難しいらしい。 ではどうするのか? その疑問の答えが救世主の持つ召喚器の覚醒だ」

言って、エンディアナは何もない空間から一冊の本を出現させる。

「これはリュート殿が書いた研究資料だが、ここには救世主がどんな存在なのか、リュート殿が独自に過去の文献などを調べながら書いてある。 その中に、こんな一説がある。 救世主を救世主たらしめるものは、覚醒し絶大な力を持つ召喚器である、とな」

「つまり、俺達が知る救世主の凄まじい破壊の力は、その覚醒した召喚器によるところが大きいと?」

恭也の言葉に、エンディアナは頷く。

「そして、それは今いる救世主候補全てにも当てはまる。 彼女達の召喚器全てがもし覚醒したとすれば……」

「神に対する、絶対的な力になる」

その結論に、四人はしばし言葉を失う。

「言い辛いが、幾ら私達が覚醒した三大古参召喚器を持つといってもそれだけで神を倒せるかは判らない。 その疑念は、プレアデス自身が生きている頃から常に思っていたものだ」

「では……」

ミュリエルがその先の言葉を言う前に、エンディアナは頷く。

「救世主候補達の力を、借りるしかあるまい」

エンディアナの言葉に、恭也は頷いた。

「しかし、やつらは俺たちの話を聞いてくれるかな」

苦笑気味に、恭也はミュリエルに尋ねる。

「どうでしょうね…あなたは彼らにとっての最大の壁であり、私となのはさんは裏切り者ですからね」

そんな恭也に、ミュリエルも少し苦笑して言い返す。

「とにかく、話が出来れば良いな。 まずはそこからだ」

暗い夜空に向かって、恭也はそういいきる。

全ての終わりが…今、始まる。

 

 

 

 


あとがき

 

 

堕ち鴉第39弾をおおくりしました〜〜

フィーア「随分と日があいたわね、もう皆忘れてるんじゃないの?」

そうかも…でも、こっちも色々と忙しかったんだよ。

フィーア「パソコン自体なかったもんねぇ」

引越しって辛いね、しんどいし。

フィーア「まぁ、人生山あり谷ありだし」

そうだね。

フィーア「で、次回は恭也達が救世主候補と合流するの?」

まぁ一様は。 まだ考えが固まってないけど。

フィーア「とにかく早く書きなさいよね」

Sir.

フィーア「ではでは〜〜」





おお、ダウニーたちと袂を分かったな。
美姫 「まあ、恭也の目的はイムニティとロベリアの二人を守ることだものね」
こうなるのは必然か。そして、恭也たちは救世主候補たちに接触を。
美姫 「果たしてどうなるのかしら」
いやー、とっても楽しみだな。
美姫 「本当よね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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