フローリア学園の大広場。

そこには、王都から逃げてきた大勢の人たちが避難していた。

その人々の中で、王女であるクレアが皆を励まし、鼓舞する。

クレアの激励に人々は雄叫びを上げ、自らを奮いたたせる。

そして救世主候補達もまた、そんなクレアの姿に勇気付けられ、戦う意志を取り戻していく。

先程トレイターに聞かされた神と言う存在。

その神によって封印されてしまっている、未亜以外の救世主候補の召喚器。

立ちはだかる壁は高く、厚い。

だが、そんなことでは止められないぐらい、今の救世主候補達の意志は固かった。

「では、今から私と救世主候補達で…」

クレアが全てを言い切る前に、人々の輪の一番外側から大きな叫び声が響き渡る。

その叫びにクレアや救世主候補達はいぶかしみながらも、声のするほうを見る。

すると、人々はいっせいに真ん中の道をあける。

開けたその視線の先を見て、クレア達は驚愕の表情しか取れなかった。

だって、その視線の先にいたのは、本来ならそこに立っている筈のない者達。

「さすがクレアだな、無能な賢人会議の連中ではこうはいかないだろう」

「それは私に対するあてつけですか?」

黒服に身を包んだ男の言葉に、赤い服を着た女性はため息をつきながら尋ねる。

「何も先生が悪いわけじゃないと思うけどな」

そんな女性に、黒い服を着た女性が苦笑しながら言い返す。

「まぁその話はともかく……久しぶりだな、クレア」

「恭……也…?」

男、恭也の言葉にクレアは唇を震わせながら尋ねる。

それほどまでに、今目の前にいる人物の登場に驚いているのだ。

クレア達の視線の先にいるのは破滅の堕ち鴉と恐れられ、数多の人々の記憶に恐怖の体現として刻まれた不破 恭也。

その隣に控えているのは嘗ては此処フローリア学園の学園長であり、国家反逆罪の罪に問われ永久封印刑に処されていたが忽然と牢から姿を消したミュリエル・シアフィールド。

恭也の逆隣に立っているのは即戦力として召喚されながらも自身の信念と想いに従って王国と袂を別ち、破滅軍へと降って行った元8人目の救世主候補、不破 なのは。

更に恭也の後ろに控えるは永き数万年の刻を経て目覚めた全堕天使人形の原型ともいえる鴉の人形、エンディアナ。

この4人が、クレア達の前に立っていた。

「恭也、此処へ何をしに来たのだ?」

恭也を破滅からの刺客と判断し、クレアは威厳に満ちた表情でそう問いかける。

そんなクレアの両隣に召喚器であるジャスティを構えた未亜と、大剣を構えたセルが並ぶ。

「言っても信じられんとは思うが……俺達は、破滅として此処にやってきたのではない」

言って、恭也は自分の武器である小太刀をクレアの足元に投げた。

まるで、自分には抵抗の意志はないと言わんばかりの行為である。

「俺達は、お前たちの力を借りに来たんだ……救世主候補達の力を」

その言葉に、その場にいる者全てが驚きを隠せなかった。

だってそうだろう。

破滅軍最強の剣士として、また強大な人類の敵として立ち塞がってきたあの堕ち鴉が、救世主候補の力を借りたいなどと言い出すとは、誰が想像できようか。

「……何故、そのようなこと言う?」

半信半疑な気持ちで、クレアは恭也に尋ねる。

クレア個人としては恭也個人を信じている、が。

バーンフリート王家の王女としては、破滅の恭也(堕ち鴉)を信じられない。

「俺は、一つの誓いに従って破滅軍にいた。 俺の大事な人達を護る為に奪う者となった」

そんなクレアに、恭也は語りだす。

「今から千年も前の話だ…あの時も、今のようにアヴァターの全ての人々が戦火の中にいた。

始めは、俺も破滅と言う理不尽に蹂躙される者達を護る為に剣を振るった、あぁ今とは全く正反対に…俺は、破滅の民を切り捨てた」

その恭也の言葉に、ホワイトパーカスでの恭也を知っているなのは達は息をのむ。

ホワイトパーカスの民全てから尊敬され、そして憧憬の眼差しを向けられている恭也を知っているが故に、そんな恭也を想像できない。

「だが、俺はその後気付いてしまった…王国の人間の、残酷な仕打ちを」

そうやって語られた言葉に……クレアを始め救世主候補達は残酷な現実を識る……

 

 

 

 

 

 

 

集結

 

 

 

 

 

 

 

恭也の語った千年前の惨劇。

それは、無抵抗な子供たちですら破滅の民の子供と言うだけで迫害し、最後には殺してしまうと言う事だった。

個の意思など無視されて、集団から外れたものは全て敵と見なす。

人間の醜い部分を、恭也はその時痛烈に実感させられた。

「俺は、あの時ほど自分を殺してやりたいと思った事はない……俺がやってきた事は、結局はその迫害を続けた者達と同じだったのだからな」

自責の念に駆られたような表情で、恭也は言い切る。

「そして俺は、王国の理不尽によって殺される人達の為に剣を取った……白の世界が、人々の忘れ去られた尊い想いを思い出させてくれると信じて」

千年前にも、恭也はルビナスに言った。

そのために、悪になると……

「でも恭也…貴方は救世主がどんな存在か知っているの?」

そんな恭也に、ルビナスが一歩前に歩み出て尋ねる。

ルビナスは前回の救世主戦争の時に赤の書の精であるリコに救世主がどんな存在なのかを聞かされていた。

だからこそ、ルビナスはロベリアを…恭也を止め、知らせたかった。

世界を破滅させてしまえば、自分達が護りたいと思っていた者達ですら滅ぼしてしまうということに……

「ルビナス、お前の言いたい事は判っている…救世主が誕生し、世界を作り変えると言う事がどういう事なのかをな」

しかし、恭也はそんなルビナスの心配を杞憂にさせる。

「俺も最初は何も知らなかった…が、あの時次元断層の狭間に飛ばされたのは俺にとっての僥倖だったんだろうな」

苦笑しながら、恭也は自分の両手を前に翳す。

「招来‘プレアデス’」

言葉と共に、恭也の翳した両手に光が集結し……それぞれの手に一振りの小太刀を形成した。

「きょ、恭也……それは……?」

その光景に、この場にいた救世主候補達やクレアは息を呑み……驚愕した。

「この剣こそ現存する全ての召喚器の原型にして始まりの召喚器七つの顔を持つ【開闢星団】プレアデスだ」

恭也の言葉に反応するかのように、プレアデスはその銀の刀身を光らせる。

「皆はもう知ってると思うけど、三大古参召喚器の一つにして【星乙女】の名を持つ私の召喚器、アストライア」

恭也に続けるように、なのはは自分の召喚器を呼び出す。

「そして、三大古参召喚器の最後にして【守護乙女】の名を冠する私の新たな召喚器、ヘスペリデス」

最後に、ミュリエルが己が召喚器を呼び出す。

ミュリエルの呼び出した新たな召喚器に、クレア達は再び驚く。

「俺はあの時、お前達に次元断層の狭間へと跳ばされた……そして俺は、そこでこの召喚器を得た」

次元断層の狭間に封印されていた……始まりの召喚器プレアデス。

神に愛され、神の愛を拒み、神に戦いを挑んだ最初の、救世主と呼ばれる女性達。

「プレアデスは俺に様々な事を教えてくれた…救世主の存在意義、千年と言う周期で襲い来る破滅と言う名の害悪……そして、その害悪の根源たる…神の存在を」

全ての真実を知った恭也に、選択肢などは無かった。

この時代へと流れ着き、世界を回り、この時代の現状を知った。

ホワイトパーカスの民は今なお破滅の民と蔑まれ、州境で行なわれる無慈悲で残酷な残虐。

千年前の誓いに従い、恭也は再びホワイトパーカスの力なきもの達の為に剣を振るい続けながら待ったのだ。

神に挑み、こんな馬鹿げた茶番を終わらせるために共に戦ってくる仲間達を。

そして今、恭也はその仲間達を得た。

プレアデスと同じく始まりの召喚器に名を連ねる三大古参召喚器を持つ最愛の妹、不破なのは。

同じく三大古参召喚器を持つ嘗ての敵であり友、ミュリエル・アイスバーグ。

恭也の持つ召喚器プレアデスを持つものにのみ目覚めさせられ、ともに戦う堕天使人形エンディアナ。

そしてこの場にはいないが…千年前から恭也が護る者と定めつつも、今は捕われの身であるロベリアとイムニティ。

しかし、これだけではまだ神を倒す事は出来ない。

神の力を盲目的に信仰しているもの達は数多い。

そしてそんな者達に神は己が力を分け与えている。

「だからこそ、俺は神を倒すために……お前達の力を借りたいんだ……お前たち、救世主候補の力を」

恥も外見もかなぐり捨てて、恭也はクレアや救世主候補に頭を下げる。

そんな恭也の姿に揺り動かされたのは、クレアとルビナス。

クレアは、短時間であったとはいえ恭也と時間をともにし、恭也の実直な性格を判っている。

ルビナスも、千年前は長い間共に旅をし、背中を預け、一緒に戦ってきたのだ。

だからこそ、恭也の強い意思が、痛いぐらいに伝わってくる。

「この戦いが終わった後、俺はどんな刑にでも伏そう…それこそ、死んでも構わん」

「おにいちゃんっ!?」

「恭也っ!?」

恭也の言葉に、なのはとミュリエルは驚きと悲痛な声で恭也を見る。

「恭也……死は、安直な逃避でしかないわ……」

そんな恭也に近づきながら、ルビナスは言う。

「だから、恭也……生きて、未来を勝ち取りましょう」

ルビナスの言葉に、恭也は顔をあげルビナスを見る。

「皆、私は恭也を信じてあげたい…そして、恭也の言うとおり神を倒す為にこの力を貸してあげたいの」

救世主候補達を見ながら、ルビナスは自分の決意を口にする。

「だから皆も‘護る’為の力を、恭也に貸してあげてほしいの」

力強い言葉で、ルビナスは言い切った。

その顔に迷いなどはない…そして、ルビナスの心には今まで以上に力が漲っていた。

ずっと聞きたかった答え……袂を別ったその日から心の奥底で燻っていたモノに、やっと決着がついたのだ。

「…………判った」

「クレア様っ!?」

クレアの答えに、リリィが驚きの声を上げる。

それほどまでに、クレアの答えに驚きを隠せないのだ。

「ミュリエルの娘よ、私は恭也を信じている……あの恭也が、敵であるはずの私達に頭を下げたのだぞ?それがどれほどやつに苦悩を与えたのかは大体わかる…それに、やつの目は嘘を言ってはいない」

リリィにそう言って、クレアは恭也を見る。

その視線に気付いた恭也は、静かに頭を下げた。

「救世主候補達よ、納得できないと言うそなたらの想いを私だって判るつもりだ」

何度も敵として立ち塞がり、戦ってきた相手だ。

感情的になるなと言うほうが無理であろう。

「だがそれでも、恭也を信じてやってはくれないか?」

クレアは真っ直ぐな視線を持って、救世主候補達に問う。

その視線に揺らぎなどは、ない。

「……私達は、直ぐに割り切れそうにはないです」

そんなクレアに、未亜が目を伏せて答える。

「そうか……「でも」?」

気落ちしたクレアが続ける前に、未亜は言葉を割り込ませる。

「信じてみようと思います。 不破さんも、私達と同じ思いで戦ってるって判りましたから」

そう言う未亜の顔には、力強さが溢れていて。

「そうね。 あの堕ち鴉と一緒に戦えるなんて、ある意味光栄だわ」

続けるように、リリィが勝ち誇ったような笑みを浮かべながら恭也を見る。

「これも、何らかのお導きなんでしょうね」

ベリオも、その顔には負の感情はない。

「師匠と互角以上の剣士、その技を拙者も学ばせてもらうでござる」

意気揚々と、カエデが意気込む。

「恭也、私達の力を貴方に預けるわ。 だから、貴方の力を私達に貸して」

最後にルビナスが、厳粛な声でそう言った。

「すまない……」

そんな救世主候補達に、恭也は再度頭を下げた。

「ふむ、ではお前達に一つ伝えておこう」

エンディアナの声に、救世主候補達はエンディアナを見る。

「敵は強大だ。 神の恩恵を受けた者達は文字通り救世主と同等の力を持っていると言ってもいいだろう」

その言葉に、恭也達も救世主候補達も身を固くする。

「だが、奴等にあって私達にあるものがある…それは、我等の武器である召喚器だ」

そこまで言って、エンディアナは何もない空間から一冊の本を取り出す。

「これは君主恭也の千年前の朋リュート殿が書いた本でな、此処にある一説が記されている。 救世主を救世主たらしめるものは、覚醒し絶大な力を持つ召喚器である、とな」

「それって……」

「そうだ、今は封印状態にある白の主以外の召喚器、それら全てを覚醒させることが出来れば」

「神に対抗する為の、最高の武器になる」

エンディアナに続けるように、ミュリエルが言い切る。

その言葉に、未亜は先程の光景を思い出す。

力がないからといって、諦めたくなかった。

自分の意志に反して自分の子供を殺そうとする母を見て、それを止めたいと強く願った。

そしてその思いに答え、自分の召喚器であるジャスティは還って来た。

あの時の力…あれが、覚醒した召喚器としての力なのだろう。

「神の施した封印は、召喚器の意志を無理やり押さえつけると言うものだ……だが、そんなもので抑えられるものではないだろう、お前達と召喚器の絆は」

エンディアナのその言葉に、リリィ達は思わず笑った。

その笑い声は、まるでその通りだと言わんばかりの笑いだった。

「そうね…私達と召喚器の絆は、神なんかに抑えられるものじゃないわ」

「はい、私達はそんな封印では抑えきれないほど強い絆で結ばれています」

「そして、召喚器達も拙者達を待っているでござる」

3人の言葉に、恭也は頼もしさをおぼえ、頷いた。

「ならば行こう…あの黒き魔道要塞の玉座に座る……神を引き摺り降ろしにな」

恭也の声に、全員が頷いた。

今宵…数万年もの間続いてきた、救世主戦争と呼ばれる戦争の……最後の火蓋が、落とされる。

 

 

 

 


あとがき

 

 

いやもう、凄まじいぐらいお久しぶりです(汗)

フィーア「こんの、アホーーーーーー!!!!」

あいたー!?

フィーア「あんた、一体この長い間何やってたのよ?」

いやまぁ、いろいろあってねぇ……

フィーア「理由にすらなってないわね……」

と、とにかく随分ご無沙汰ですが堕ち鴉第40弾をおおくりしました〜

フィーア「やっと物語の最終局面ね」

これからガルガンチュワへと向かう恭也達と、救世主候補達。

フィーア「ここからは、わりと本編展開なのよね?」

まぁ、所々オリジナル要素を加えるけどね。

フィーア「次は早めに出しなさいよ」

努力はするよ。

フィーア「では〜」





恭也たちと大河たちが協力する事になるとはな。
美姫 「まあ、恭也の目的を考えればね」
だな。にしても、堂々と姿を見せるとは。
美姫 「まあ、人々から恐れられているから、下手に止めようとする者もいなかったんでしょうね」
かもな。アハトさん、次も楽しみにしてます。
美姫 「フィーアもまったね〜」



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