うたわれたもの

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、うたわれるもの本編のナ・トゥンク攻略戦の後の話です。

話し方や性格に違いがあるかもしれませんが、ご了承を。

それでもよろしいというかたは、どうぞ。

 

 

 

 

 

 

「まったく、聖上は何人の女性をおとせば気がすむんでしょうか」

「マァ、ソウ言ウコトモナイデショウ、べナウィ」

二人の男と女が宮殿の中の通路を歩きながら会話している。

「聖上モ好キデオトシテイルツモリデハナイダロウシネ」

苦笑しながら、女はベナウィと呼んだ男に言う。

「それでもです」

苦虫を噛み潰したような顔をして、ベナウィと女は宮殿の中心……朝の集いがある朝堂に来た。

「おっ、大将に姐さん」

そこにはすでに屈強な体つきをした男が来ていた。

「クロウ、早イワネ」

姐さんと呼ばれた女は珍しいといった風に言う。

「朝からオボロと訓練をしていたみたいですから、そこから直に来たのでしょう」

「その通りっすよ」

ベナウィの言葉に、クロウは頷きながら言った。

「ホゥ、オボロノ腕ハ上達シテイマスカ?」

「えぇ、来た時よりはかなりあがってるっすね」

女の問いに、クロウは答える。

「でなければ困ります。 彼は仮にも我が國の歩兵部隊隊長なのですからね」

「手厳シイワネ、ベナウィハ」

ベナウィの言葉に、女は苦笑しながら言った。

そこに、白い翼をした女性がやってくる。

「アァ、ウルトリィサマ。 オハヨウゴザイマス」

その女性にむかって、女が挨拶をすると、ベナウィもクロウも頭を下げる。

「えぇ皆さん、おはようございます」

ウルトリィ、と呼ばれた女性も微笑みながら挨拶をかえす。

「ソロソロ聖上ガ疲レタ顔ヲシテ来ルワネ」

面白そうに、女は言う。

「毎日毎日書斎と寝室と朝堂の往復だけっすからねぇ……」

クロウのその言葉に、全てが集約されている気がした。

そして文官や女官達も朝堂にやってきて、最後に何処かやつれた顔の男が入ってきた。

名をハクオロ、富國トゥスクルの聖上であり、賢皇や仮面皇とも呼ばれている男である。

「マタ一段トヤツレテイルワネ」

口元を押さえながら笑って、女は言う。

「皆、今日も一日頼む」

ハクオロの言葉に皆頷き、朝の報告が始まる。

報告書を読み上げるのはエルルゥというこの宮殿の薬師である。

國を成り立たせる上で、民の生活の状況などは必ず把握しておかなければならない。

ハクオロは街に意見書箱を置き、そこに民からの要望などを書かせていた。

エルルゥが今日もそんな中に入っていた意見を報告していく。

「ソロソロ……クルワネ」

小さく女が呟くと、右にいたウルトリィは小さく微笑み、左にいるベナウィは小さくため息をついた。

「『お姉ちゃんが胸に詰め物をしていた、負け犬』……って、なによこれっ!!?」

エルルゥの叫びが、朝堂に響く。

「アルルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」

そして、叫びながら朝堂を出て行った。

「ネェ、朝ノ報告書ヲ読ム人……代エタ方ガ良インジャナイカシラ?」

女の問いに、ベナウィは答えない。

彼自身も考えているのだろうが、いかせん人材の問題である。

「とりあえず、皆今日の仕事についてくれ」

ハクオロの言葉で今日の朝の集会はお開きとなり、皆それぞれの場所へと行く。

「朝カラオ疲レネ、聖上」

口元を押さえて笑いながら、女がハクオロに言う。

「あぁ……だが、もう慣れてしまった……」

遠い目をして、ハクオロは答える。

「慣れるのは構いませんが、今日もたくさん書簡がありますので」

目を閉じて、ベナウィはハクオロに言い放つ。

「なぁ、ベナウィ……もう少し文官の質を上げるために他に処理をさせてみればどうだ?」

「その意見は確かに的を射ていますが、今あるのは殆どが聖上の指示を仰がねばならないものばかりです」

ハクオロの提案を、絶対に断れない理由をつけて却下する。

「マァ、聖上ノ執務ニ終ワリハナイッテコトデスヨ」

笑いながら、女が言う。

「笑い事ではない」

こめかみを押さえながら、ハクオロは女に向かって言った。

「では聖上、参りましょう」

そして、ハクオロはベナウィに書斎へと拉致されていった……

「私モ少シソノ辺リヲ歩イテクルワ」

女はそういい、朝堂を出て行った。

 

 

 

女は、宮殿の一番高い所の外に面した廊下にいた。

手すりにもたれて、風にその身を任せている。

吹き抜ける風が、女の髪をさらっていく。

ふと目線を下に下げれば、広場で鍛錬をしている兵達が目に入った。

そして、鍛錬で怪我をした人達をエルルゥが手当てをしていた。

万緑叢中紅一点(ばんりょくそうちゅうこういってん)……ネ」

誰とはなしに、女は呟く。

視線を移動させれば、木漏れ日のしたではアルルゥにウルトリィの妹のカミュ、オボロの妹のユズハが日向ぼっこをしていた。

のどかで、平和なひと時……

「あら、シズクじゃありませんか」

そんな女の後ろから、女の名前を呼ぶ声がした。

「カルラ……アァ、マタオ酒ヲ飲ンデイルンデスカ」

シズク、と呼ばれた女は小さく笑いながらカルラに言う。

「えぇ、貴方も一献いかが?」

お猪口を差し出しながら、カルラがシズクに尋ねる。

「流石ニ朝カラハ飲メナイワヨ」

苦笑しつつ、シズクはお猪口をカルラに返す。

「残念ですわね、ではまた今宵に」

そう言って、カルラはかなり大きな酒樽を持ち上げて行った。

「今夜ハ忙シクナリソウネ」

空を見上げて笑い、シズクはそういった。

そして、そのまま宮殿の中へと入って行った。

 

 

 

「おやシズク、やっと来てくれましたか」

シズクが書斎に行くと、山と積み上げられた書簡がまず目に入った。

「ベナウィ、マダ減ラナイノ?」

だが、もはや見慣れたのか……シズクは気にせずにベナウィに尋ねる。

「えぇ、まだ国家の地盤は磐石とは言いがたいですからね」

つまり、やらなければいけないことは山のようにあるということだ。

「前皇ハ、ヨッポド無能ダッタノネ」

「それについては否定はしません」

呆れるように言うシズクに、ベナウィは目を閉じて言い返す。

トゥスクル……いや、ケナシコウルペの皇だったインカラはとてつもなく無能な皇だった。

政治は自ら行わず、殆ど毎日豪遊三昧。

金がなくなれば租税を上げて市民から徴発し、逆らうものは皆死刑にもしていた。

さらには侍大将だったベナウィの一時幽閉など、失策もかなり目立っている。

それに反してハクオロは、かなり優秀な皇であると言える。

叛乱軍を率いて皇都を攻略、その軍師振りも凄まじいの一言だった。

そしてハクオロが皇になり、こうやって國の、民の為の政治を行っているのである。

しかし、前皇が殆ど政治を行っていた所為か、文官があまり育っていなかったのである。

ゆえに、ハクオロの政は終わらない山となっているのである……

「デハ、ヤリマショウカ……」

言って、シズクはハクオロの近くの席に着き書簡に目を通し始める。

シズクはトゥスクルではかなり貴重な優秀な文官としての才を持っていた。

今までは殆どハクオロ一人で行っていた政を、シズクも分散してやっているのだ。

流石に大規模な治水工事や街道の整備などの書簡はハクオロが目を通している。

そしてベナウィはそんな二人のサポートをしている。

重要な書簡の仕分けや、自分で処理できそうなものは自分で処理をしていた。

シズクが来てから、政の回転スピードはかなり速くなっている。

それでも、やらなければいけないことは山のようにあるわけである。

「失礼します、お茶を持ってきました」

そこに、3つの湯飲みと急須を持ったエルルゥがやってくる。

「あぁ、エルルゥ…ありがとう」

言って、ハクオロはエルルゥからお茶を受け取る。

「ありがとうございます」

ベナウィも礼を言い、お茶を受け取る。

「シズクさんも、どうぞ」

「ンッ、ドウモ」

書簡に目を通しつつ、シズクはエルルゥからお茶を受け取る。

ちなみに、シズクはエルルゥに皇都で行き倒れになっているのを助けられた経緯がある。

その後、ハクオロと同じように何処の部族にも所属していない事がわかり、こうして宮殿で厄介になっているのだ。

理由として耳がハクオロと同じで、尻尾もなかったことが大きい。

そしてトゥスクル聖上補佐(御側付とはまた違った役職……らしい)になった。

勿論戦の時はハクオロ達と一緒に戦場へと赴いている。

武器はトウカと同じ日本刀のような武器が2刀。

トウカとオボロを一緒にしたような戦闘スタイルである。

さらに強さも二人を足したぐらいの強さを発揮している……

戦の時にハクオロについで強いとさえ言われている。

ある一定の条件が揃った時のエルルゥには敵わなかったが……

「ハァ…落チ着クワネ」

机の端っこに空の湯飲みを置いて、シズクは言う。

そして再び書簡に目を通し始める。

「しかし、シズクが来てくれたお陰で政も早く終わる事ができるな」

一つの書簡を纏めて、ハクオロが言う。

「えぇ、シズクの文官としての才は目に見張るものがありますからね」

ベナウィも、自分が見ていた書簡を纏めて、シズクにいう。

「褒メタッテ何モデナイワヨ?」

苦笑しながら、シズクが言い返す。

「でも、本当にシズクさんがきてからハクオロさんも仕事が終わるのが早くなりましたよね」

小さく笑いながら、エルルゥが言う。

最近のエルルゥは少しばかり機嫌が良かった。

政が早く終わるので、その分ハクオロに構ってもらえる時間が増えたからである。

まぁ、それは皆に言えることだが……

「マァ、エルルゥニトッテハ寵愛を受ける時間が……」

そこまで言って、シズクの口がエルルゥによって塞がれる。

その早さは誰にもわからないぐらいの早さだった……

「何をしているんだ、エルルゥ?」

そのエルルゥの行動に、ハクオロが不思議そうな顔で尋ねる。

「あはは、なんでもないですよ……」

乾いた笑みを浮かべ、エルルゥは答える。

「プハァッ!! ハァ…ハァ…死ヌカト思ッタワ……」

エルルゥの手を引き剥がし、シズクが息を荒げながら言う。

「あっ、ごめんなさいっ!」

慌てて手を戻して、エルルゥはシズクに言う。

「でも、シズクさんが余計な事を言おうとするから……」

「フフフフ、ソレハ失礼……」

小声で言ってくるエルルゥに、シズクは小さく微笑んで答える。

「デモ、コウ言ウ事ハナイ方ガ良イノダケレド……平和ハ、私ニトッテハ少シ物足リナイワネ」

「シズク」

天井を見上げながら言ったシズクに、ベナウィは少し批判的な声でシズクの名前を呼ぶ。

「判ッテイルワ、ベナウィ……コノ平和ガドンナニ尊イモノカハ理解シテイルツモリヨ」

視線をベナウィに向けて、シズクはいう。

「デモ、私ハ戦場ヲ駆ケ抜ケタイ……コウシテ宮殿デ政ヲスルンジャナクテ実際ニ集落ヲ回リ歩キタイ」

上からでは見えないことも多い、だから一緒の目線に立って、見てみたいのだ。

「ソレニ、私自身ノ事モ知リタイシネ」

そしてなにより、己自身の事を……知りたかった。

「シズク……」

その言葉に込められた意味に、ハクオロは何もいえなかった。

シズクはこの街でエルルゥに助けられるまでの記憶を一切失っていたのである。

何処で、何をしていたのか……思い出せたのは自分の名前ぐらいなもの。

ハクオロと同じように、記憶を失って、エルルゥに助けられたのである。

だからこそ、シズクは自分を探しに行きたかった。

赦されるならば、全てを捨てて探しに行きたかった。

でも、ここの空気に触れてしまった。

温かくも、懐かしい……そんな空気に。

だからこそ、シズクはこの場を護るためにここに残る事を決意した。

失われた過去(きのう)より、これから歩いていく未来(あす)を選択したのだ。

「デモ、私ハココデコウヤッテ皆デ居ル方ガ、今ハ好キダワ」

ちょっとしんみりしてしまった空気を和ませるように、シズクは笑いながら言う。

「そうか……そう言ってもらえると、こちらも嬉しいな」

ハクオロも、苦笑しながらシズクに言った。

同じ気持ちだといわんばかり、ベナウィもエルルゥも、小さく笑いながら頷いた。

うららかな日差しが、書斎に差し込んでくる。

そんな中で、四人は小さく笑いあいながら、暖かな時間をすごしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

片言娘シリーズ第2弾!!

フィーア「今回はうたわれるもの編ね」

まぁ、今アニメでやってるからなんだけどね。

フィーア「で、これはどういう設定なわけ?」

詳しくはいえないけど、ハクオロと同じように何処の種族にも属さない片言娘が主人こうなわけだよ。

フィーア「そういえば、オトボク編とキャラクターが一緒なの?」

一応はね、一緒ってことにしてる。

フィーア「じゃぁ、オトボク編となにか関係はあるの?」

それも秘密。

フィーア「秘密ばっかりじゃないっ!!」

あべしっ!!

フィーア「実は考えてないとか言うオチじゃないの?」

ちゃんと考えてるよ、あいたたたた……

フィーア「まっ、さっさと次を書きなさいよね」

はいはい、判りましたよ。

フィーア「ではでは〜〜〜」





という訳で、片言娘再び。
美姫 「今回はうたわれね」
うんうん。一時の平和。
それを過ごすハクオロたち。
美姫 「この後、片言娘は何処へと行くのかしらね」
それは次のお楽しみだよ。
美姫 「よね」
それじゃあ、今回はこの辺で。
美姫 「じゃ〜ね〜」



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