朝、8時29分。

毎日毎日、大体この時間帯に恭一達は教室に駆け込む。

「おっし、ぎりぎりセーフ」

教室のドアを叩き壊すぐらいの勢いで開け、恭一が教室に入る。

その後ろから、朱音と胡太郎も教室に入ってくる。

「あんた達ねぇ、もう少し余裕を持ってこれないかしら?」

そんな3人の前に、メガネをかけた少女がこめかみを押さえながら言いに来る。

少女は花葉 千佐都。 恭一たちのクラスの委員長である。

「んな事言ってもよいいんちょ、義姉さんが起きねぇんだから仕方がないだろ?」

やれやれと言った風に恭一は答える。

「むぅ〜、きょーいちとこたろーが早く起こしてくれないからだよ」

少し剥れて、朱音は恭一に言い返す。

「余裕を持って起こしに行ってるつもりなんだけどなぁ」

そんな朱音に笑いながら言って、恭一達は自分の席に座る。

教室の一番後ろに恭一、その前に胡太郎、そしてその胡太郎の横に朱音が座っている。

「やぁ恭一、胡太郎、おはよう」

「あぁ、しばか。 はよぅ」

「おはよう、五百里」

挨拶をしてきたのは柴原 五百里。 胡太郎とは一年からのクラスメイトである。

ちなみに、五百里と朱音、恭一の3人で漫才トリオと呼ばれているのはもはや有名である。

一部の女子の間では五百里、胡太郎、恭一でやおいトリオとも呼ばれているが……

「おっ、おはよう……恭一くん」

そんな中、一人の青髪で眼鏡をかけた少女が恭一に挨拶をする。

「おぅ、おはよぅ、佳推さん」

恭一も、知り合いだから普通に挨拶を返す。

少女は杉浦 佳推。

演劇部所属の少し引っ込み思案な性格の女子である。

ちなみに、恭一の事を好きなのだが、中々言い出せずにいる(恭一が鳥羽莉と付き合っている事を知らない)

後ここにはいない尾瀬道 櫻子を合わせた7人が大体いつも一緒にいるメンバーである。

「そう言えば、今日は演劇部の集まりがあるから、恭一も来いよな」

椅子の背もたれに肘を置いて、胡太郎が恭一に言う。

「ほとほと信用ねぇなぁ、俺……まっ、これもこたからの愛の試練か」

「誤解されるような事を言うなっ!!」

やれやれという風に言った恭一に、胡太郎のパンチが飛んでくる。

恭一はそれをいとも簡単によける。

「おいおい、僕を忘れてないかい? 胡太郎、僕にも胡太郎の愛をおくれ」

そんな二人に、今度は五百里が言い出す。

「はぁ、お前らマジで勘弁してくれよな……ただでさえ、よからぬ噂になってるんだからさ」

「別に、何言われても俺はかまわねぇし」

「僕も、むしろ実現して欲しいぐらいだね」

頭を抱えて言う胡太郎に、恭一も五百里も笑いながら言い返す。

「むぅ〜、きょーいちにも五百里くんにもこたろーは渡さないんだからねっ」

そんなやり取りを見ていた朱音がこたろーに抱きついて恭一と五百里に言う。

「はははは、安心しろよ義姉さん。 義姉さんのこたはとらねぇって」

「僕はどうしようかな」

笑いながら否定する恭一と、同じく笑いながら考える五百里。

「あんた達、そろそろ先生がくるわよ」

千佐都の言葉に皆は時計を見て、納得して自分の席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼達の優雅な学園生活

 

 

 

 

 

 

 

毎日毎日、授業の繰り返し。

単調だけど、馬鹿やって楽しくて、気が合う知り合い達と囲まれていると、それなりに楽しいものである。

「づぁぁ、やっと昼飯かぁ……」

机に寝そべって、恭一が言う。

「昼飯かぁって、恭一殆ど寝てただろ」

前の自分の席を移動させながら、胡太郎が言う。

そこに朱音が自分の席を引っ付けて、恭一が自分の隣の生徒に一言断りをいれて、席を合体させる。

そして、窓から恭一、佳推、櫻子、五百里、千佐都、朱音、胡太郎の順番で四つの机を囲む。

「こたろー、おっひる、おっひる」

「はいはい」

朱音にせがまれ、胡太郎は鞄から自分達のお弁当を取り出す。

勿論、火乃香作のお弁当である。

千佐都と佳推も自分のお弁当を取り出す。

五百里、櫻子はコンビニのパン、おにぎりを取り出す。

「先食っといてくれ、購買で飯買ってくる」

そう言って財布を持ち、恭一は立ち上がる。

「きょーいちも火乃香にお弁当作ってもらえば良いのに」

弁当を開き、もぐもぐと食べながら朱音が恭一に言う。

「さすがにわりぃだろ」

苦笑しながら恭一が教室から出て行こうとすると……

「あっ、あのっ」

佳推が、恭一を引き止める。

「どうかした、佳推さん? 何か欲しい物があるとか?」

教室の扉に手をかけて、恭一は佳推に尋ねる。

「恭一くん、いつも購買だから……その、お弁当…作ってきたんだけど……」

顔を赤くして、佳推は鞄からもう一つお弁当を取り出す。

「良いの?」

キョトンとした表情で、恭一は佳推に尋ね返す。

佳推は少しうつむきながら、頷いた。

「なら、遠慮なくもらおっかな」

小さく笑って、恭一は席に戻り佳推から弁当を受け取る。

ちなみに、その様子を櫻子と五百里と千佐都は笑いながら、胡太郎と朱音は少し哀れな眼で見ていた。

恭一は後に語る、このとき胡太郎と朱音の哀れな目の意味に早い所気付いていれば良かった、と。

そんな事も露知らず、恭一は佳推から受け取った弁当の蓋をあける。

中には質素だが、見た目からして美味しそうな和食なおかずと白いご飯が入っていた。

「おっ、かなり美味そうだな」

笑いながら言って、恭一は弁当の定番、玉子焼きを口に入れる。

「砂糖じゃなくて、薄いだしで味付けしてるんだな、これ」

もぐもぐと食べながら、恭一はそういう。

「美味しくなかった……?」

恐る恐る、佳推は恭一に尋ねる。

「まさか、薄味は俺の好みだよ」

笑いながら恭一が言うと、佳推は顔を真っ赤にして小さく良かったと言う。

「このぉ、ラブコメかー」

そんな二人を見て、櫻子が茶化す。

「おいおい、おぜは相手がいねぇからって僻むなよ」

苦笑しながら、恭一は櫻子に言い返す。

「がびーん」

ショックな心情を言葉で表し、櫻子はパンを食べる。

「って言うか、むしろそれは前の二人に言ってやれ」

恭一が箸で、目の前の二人を指す。

恭一の目の前には胡太郎と朱音が座っているわけで……

「はい、こたろー、あ〜ん」

「あっ、あ〜ん」

朱音が胡太郎に、おかずを食べさせていた。

「あれはもう、なしってことで」

ぐっと親指を立てて、櫻子は言う。

「つーか、あちぃよ」

「同感ね」

恭一の言葉に千佐都が賛同し、皆も同じように頷いた。

「なに、きょーいちもやってほしいの?」

自分も胡太郎に食べさせてもらって、朱音は恭一に尋ねる。

「謹んで遠慮する」

真面目にそう言って、恭一はご飯を口にする。

「そういやこた、今日の演劇部の集まりって何やんの?」

持って来ていたペットボトルの水を飲みながら、恭一は胡太郎に尋ねる。

「あぁ、次の舞台で何をやるか決めようと思ってね」

今は自分で昼ごはんを食べている胡太郎が、言い返す。

「そっか、そろそろ夏休み前の演目決めないといけないんだっけ」

パックのお茶を飲みながら、櫻子が言う。

「今年は一年が4人だっけか、これで多い方だからな」

「まぁでも、一年には申し訳ないけどまだ裏方だな」

恭一と胡太郎が言い合う。

「胡太郎もすっかり演劇部の部長が板についてきたわね」

笑いながら、千佐都が言う。

「まぁ、実力も人望もあるからな」

「こた、それは自分で言う事じゃないぞ」

胡太郎の言葉に恭一がつっこみ、皆は笑い出す。

「皆して笑う事ないだろ……」

少々いじけて、胡太郎は言う。

「わりぃわりぃ、こたは実力も人望もあるよ」

笑いながら、恭一は胡太郎に言う。

「そうそう、じゃなきゃ部長になんてなれないよ」

櫻子も、笑いながら胡太郎に言う。

「よしよし、お姉ちゃんが慰めてあげるからね〜〜」

そんな胡太郎の頭を撫でながら、朱音が言う。

「ちょ、朱音、人前だって」

恥ずかしいからか、胡太郎は朱音に止めさせようとする。

「あ〜んが恥ずかしくなくて、頭撫でられる方が恥ずかしいってか? 普通逆じゃね?」

桃色空間を展開している胡太郎と朱音を無視して、恭一は皆に尋ねる。

「まぁ、これもいつもの事だよ」

小さく笑いながら五百里が言う。

「気にしてちゃ駄目ってことね」

どこか悟りきったように、千佐都も言う。

「ここは一つ、皆もイチャイチャするとか」

名案とばかり、櫻子が言う。

「この残ったメンツでか? どんな組み合わせ作る気だよ」

笑いながら恭一は言って、最後のおかずを口に放り込んだ。

「美味かった、ありがとな、佳推さん」

そして、綺麗に包みなおし、佳推に弁当を渡す恭一。

「どういたしまして……」

やや顔を赤くして、佳推は受け取った弁当を鞄になおす。

「あっ、あの……明日も、作ってこようか……?」

「そりゃありがたいけど、佳推さん面倒じゃない?」

佳推の言葉に恭一が尋ね返すと、佳推は首を横に振る。

「そう? ならお言葉に甘えようかねぇ」

その恭一の言葉に、佳推は嬉しそうな顔をして頷いた。

「ふっふっふ、佳推〜〜」

そんな佳推を、櫻子はニヤニヤしながら見る。

「なっ、なに…櫻子?」

少しひきながら、佳推は櫻子に尋ね返す。

「何気にポイントアップ?」

そしてその言葉に、佳推の顔は一気に赤くなった。

(ねぇ、こたろー、きょーいちって何気に女たらしだよね)

(あぁ、無自覚な分余計に性質が悪い)

そんなやり取りを見ていた朱音と胡太郎がひそひそと言い合う。

「そこ、人聞きのわりぃ事言わねぇの」

そのやり取りが聞こえていたのか、恭一は胡太郎と朱音を指差しながら言う。

恭一は吸血鬼なので、結構小さな音や話し声でも聞き取れるのだ。

「だって……なぁ?」

「うん」

しかし、胡太郎と朱音は二人揃ってありえないという風に言った。

「さぁて、そろそろ戻すか」

恭一の言葉に皆は頷き、机を元に戻していく。

まぁ結局、元に戻し終えても皆で集まるわけだが。

「五時間目数学だっけか、睡眠確定だな」

壁にもたれながら、恭一は言う。

「恭一の場合、起きている授業のほうが少ないんじゃない?」

その恭一に、五百里が笑いながら言う。

「だってつまんねぇんだもんよ」

至極当然に言う恭一。

これもまた、吸血鬼の恩恵か、恭一は物覚えは人以上に良い。

更に運動神経も抜群で、体育の時はかなり目立っている。

そして、殆ど授業も聞いていない、勉強もしていないのに学年10位以内をキープしている。

「その調子でいつ勉強してるのかしらね」

「ん〜〜〜、睡眠学習?」

千佐都の言葉に恭一は素で答える。

「それは私だってば」

それに、朱音がつっこむ。

そして、皆がそれを見て笑う。

「まぁさ、要するに要領よくやれば意外と勉強なんて簡単だぜ」

「学年10位以内は言う事が違うねー」

茶化すように、櫻子が言う。

「それは実力」

笑いながら、恭一は言い返す。

「つーかよ、そんなこと言ったら佳推さんだってすげぇじゃんよ。 この前の模試、俺佳推さんに負けてたぜ?」

「たっ、たまたまだよ……」

少々顔を赤くし、うつむきながら言う佳推。

「謙遜しなくても良いって、義姉さんなんて得意教科以外壊滅的だしよ」

「私はフトゥーだもーん」

引き合いに出され、朱音は頬を膨らませて言う。

「はいはい、フトゥーね」

恭一が苦笑しながら言うと、ちょうどチャイムがなる。

「んじゃ、また放課後な」

恭一の言葉に頷き、皆自分の席へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

前回に引き続き吸血鬼達の優雅な日常シリーズ第2弾〜〜

フィーア「今回は学園生活メインね」

うむ、まぁ前回からの続きだな。

フィーア「それにしても恭一もててるわね」

もててるって、佳推にだけだろ。

フィーア「でもさ、恭一鳥羽莉と付き合ってるのに良いの?」

これはね、後々重要な意味合いを持つのさ。

フィーア「まぁ良いけどね」

次回は放課後の話かな。

フィーア「演劇部の話ね」

まぁそこでまた一波乱起こそうかね。

フィーア「その前に、お姉様の要望の朱音のイチャイチャをちゃんと書きなさいね」

えっ、今回イチャイチャしてただろ?

フィーア「温過ぎるわっ!!」

あべしっ!!

フィーア「もっと、読み手が砂糖を吐き出すぐらい甘くしなさいっ!!」

いっ、今の技量じゃ無理だよ(汗

フィーア「お仕置きね」

やっ、やめろ!! 早まるなっ!!

フィーア「は〜い、言い訳は向こうでね〜〜〜♪」

イヤァァァァァァァァァァァ!!!!!!!

フィーア「それでは皆さん、ではでは〜〜〜〜」





騒々しくも楽しい日常って感じだな。
美姫 「フィーア、グッジョブ!」
いや、そこはアハトさんだろう。
美姫 「何を言ってるの。フィーアの努力あってでしょう」
こらこら。朱音とのイチャイチャがこんなに早く実現するとは…。
美姫 「だから、フィーアが頑張ったのよ」
いや、アハトさんが頑張らされた、の間違いだろう。
美姫 「同じよ」
いやいや、激しく違うから。
美姫 「さーて、次は放課後ね」
お、おーい。
美姫 「何が起こるのかしら。あ、それと鳥羽莉がこの事を知ったらどうなるのかも楽しみ」
それはまだ先じゃないのか。
多分、何かあるんだよ、きっと。
美姫 「分かってるわよ。続きを楽しみに待ってますね〜」
ではでは。



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