「ただいまー」

「帰ってきたぞー」

玄関の扉を開けて、エントラスへと進む胡太郎と恭一。

「おかえり、胡太郎、恭一」

「おっかえりー」

「…………」

そんな二人を、火乃香、朱音、鳥羽莉が出迎える。

「ふぃぃ、疲れたぜ」

苦笑しながらそう言って、恭一は鳥羽莉に近づく。

「ただいま、鳥羽莉」

「………………」

恭一がそう挨拶するが、鳥羽莉は恭一を一睨みしてさっさと部屋へと戻って行った。

「…………俺、なんかしたか?」

首をかしげながら、恭一は胡太郎たちに尋ねる。

「朱音、もう鳥羽莉には言ったの?」

「うん、帰ってきてからすぐに言ったよ」

鳥羽莉の不機嫌な理由を知っているのか、胡太郎と朱音はそんな会話をする。

「おいこた、義姉さん、なんかあったのか?」

訝しげに、恭一は二人に尋ねる。

「あったって言えば、あったね」

「うんうん」

真剣な眼で、二人は恭一に言い返す。

「恭一、今日昼杉浦さんにお弁当貰っただろ?」

「あっ、ああ……それがどうかしたのか?」

胡太郎の言葉に、恭一は頷きながら返事をする。

「それが、問題なんだよきょーいち」

指を一つ立てて、朱音は言う。

「鳥羽莉ちゃんね、この話をした時すっごく怒ってね」

「居間においてあったティーセットが粉々になったんだぞ」

朱音の言葉の後、火乃香が溜息交じりに言う。

「それでね、哀しそうな顔をして部屋に戻って行ったの。 私も心配になって部屋に行ったんだけど、鳥羽莉ちゃん、泣いてたんだよ」

その朱音の言葉を聞いた瞬間、恭一は頭を鈍器で殴られたような感覚に捕われた。

つまりは、自分の行動の所為で……鳥羽莉を……

「哀し…ませた……」

呆然と、恭一は呟く。

「そう……恭一、どうするの?」

朱音の言葉に、恭一はカバンを投げ捨てる。

「行くに決まってんだろっ!!」

そう叫び、恭一は鳥羽莉の部屋へ行こうとする。

「待て、恭一」

「んだよっ、火乃香っ!!?」

そう叫ぶと、目の前に鍵が飛んでくる。

「それがないと、部屋を開けられないぞ」

火乃香が投げて渡したのは、鳥羽莉の部屋の鍵。

「……さんきゅ」

そう言って、恭一は今度こそ鳥羽莉の部屋へと駆け出した。

「世話の焼ける二人だ」

恭一がいなくなって、火乃香は溜息と一緒に言う。

「でも、あの二人は絶対にお似合いだよ」

「そうだな」

朱音の言葉に、胡太郎は頷く。

「では私達は、夕食の準備をしようか」

火乃香の言葉に頷き、3人は食堂へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼達の優雅な夜

 

 

 

 

 

 

 

「鳥羽莉っ!! 鳥羽莉っ!!」

どんどんと、鳥羽莉の部屋のドアを叩きながら、恭一は叫ぶ。

しかし、中からは何の反応もない。

「鳥羽莉っ、開けんぞっ!!」

そう言って、恭一は火乃香から受け取った鍵で部屋を開ける。

「鳥羽莉っ!!」

そう叫び中に入ると……

「………………」

眼を真っ赤にした、鳥羽莉がそこには立っていた。

電気もつけずに、カーテンも締め切って。

暗闇の中に、鳥羽莉の赤い瞳だけが、光る。

「鳥羽莉……」

恭一は鳥羽莉の名前を呼んで、鳥羽莉に近づこうとする。

「近づかないで」

しかし、鳥羽莉に、拒絶される。

「鳥羽莉……」

「もう、もうたくさんよっ!」

恭一が何かを言う前に、鳥羽莉が叫ぶ。

「私の心に遠慮なく入ってきたくせに、それなのに……っ!!」

声からは、強い憎しみと、深い、悲しみが、伝わってきた。

「あなたにとって私はその程度の存在なんでしょ!? あなたにとったら、佳推のほうが……っ」

「違うっ、話を聞いてくれ鳥羽莉っ!」

「何が違うって言うのよっ! これ以上私を乱さないでっ!」

それは、深い哀しみの拒絶に、聞こえた。

「私より佳推のほうが良いなら、彼女も吸血鬼にしてしまえば良いわ。 あなたなら何の遠慮も……」

「鳥羽莉っ!!」

鳥羽莉が言いきる前に、恭一が鳥羽莉を抱きしめ、ベッドに押し倒す。

「はっ、離しなさい恭一っ!!」

「離すかよっ!」

押しのけようとする鳥羽莉を、恭一は強く抱きしめる。

そして、徐に鳥羽莉にキスをした。

むさぼるような、そんなキス。

「……なんのつもり」

キッと、恭一を睨みながら言う鳥羽莉。

「鳥羽莉、俺にはお前だけだって何度も言っただろ」

真っ直ぐに、恭一は鳥羽莉を見つめながら言う。

「俺が何とも思ってなくても、鳥羽莉にとっては酷く嫌な事があるって、判った」

懺悔のように、恭一は言う。

「俺には、さ…もう鳥羽莉しかいない……あの日、鳥羽莉を見たあの瞬間から……俺には、鳥羽莉しかいないんだ」

鳥羽莉の胸に顔をうずめて、恭一は言い続ける。

「鳥羽莉に嫌われたら、俺はもう生きていけない……生きていても、きっと死んでるのと一緒だ」

鳥羽莉を失えば、きっと世界から色が抜け落ちるような感覚になる。

それは、全てを失うに等しい喪失感。

そんなものに、耐えられるわけがない。

「例え何があっても、俺は鳥羽莉だけのものだ……鳥羽莉だけのものじゃないと、嫌なんだ」

俺を縛れるのは、鳥羽莉だけだ、と……

「俺は、もし鳥羽莉が他の奴の所に行くんなら、きっとそいつを殺す……それが、こたでも、義姉さんでも」

その言葉に、鳥羽莉は息を呑む。

「俺は、鳥羽莉だけのものだ……鳥羽莉も、俺以外の奴に、渡したくない」

だから……

「俺を、嫌わないでください……」

鳥羽莉の胸に顔をうずめ、泣きながら……恭一はそう言った。

「恭一……」

眼を伏せ、鳥羽莉は恭一の頭を撫でてやる。

「貴方の気持ちは、判ったわ……私も、あなたの事を疑ってごめんなさい」

「鳥羽莉……」

鳥羽莉の言葉に、恭一は顔を上げる。

「私だって、もう貴方以外の人の所なんて考えられない……貴方を、他の人の所に行かせるなんて、赦せない」

強さの宿る瞳で、鳥羽莉は言う。

「恭一……恋する女の子はね、世界で一番のわがままなんだよ。 こんな自分勝手な私に選ばれるなんて、あなたはきっと世界一の不幸……だから、感謝してね」

「鳥羽莉っ!!」

泣きながら、恭一は鳥羽莉を抱きしめる。

鳥羽莉も、泣いていた。

「不幸なんかじゃない……俺は、世界で一番の、幸せ者だ……」

泣きながら、でも笑って、恭一はそう言った。

「こんな可愛い子に好きになってもらえて、鳥羽莉に好きになってもらえて……不幸な事なんて、あるわけない」

「恭一、恭一、恭一っ!」

恭一の名前を呼び続けて、鳥羽莉は恭一にすがりつく。

いや、抱きしめあう。

そして、キス。

さっきのような、乱暴で、むさぼるようなキスじゃない。

相手を思いやって、慈しみあう、そんなキス。

「鳥羽莉……いい、か」

恭一は鳥羽莉の胸を触りながら、鳥羽莉に尋ねる。

「うん……いい、よ」

顔を赤くして、鳥羽莉はそう答える。

それを聞いた恭一は、もう一度鳥羽莉にキスをして、キスをしながら、鳥羽莉の服に手をかける。

そして、鳥羽莉の服を脱がそうとして……

「ねぇ二人とも〜、私お腹すいた〜〜」

「おわぁっ!!?」

「きゃあぁあぁっ!!」

突然聞こえてきた朱音の声に、恭一も鳥羽莉も悲鳴じみた声を上げて後ず去る。

「ねねねねねね、姉さんっ、いつからそこに……」

かなりどもりながら、鳥羽莉が朱音に尋ねる。

「えっとねぇ、『俺には、さ…もう鳥羽莉しかいない』ってとこからかなぁ」

「殆ど最初からじゃねぇか!!」

朱音の答えに、恭一も顔を赤くして言い返す。

「だって心配だったんだもん」

笑いながら、朱音は言う。

「それにさ、エッチならご飯食べた後でもできるでしょ」

穴があったら入りたい、恭一と鳥羽莉はそんな気分だった。

「あっ、でも恭一も鳥羽莉ちゃんも、エッチが食餌だったっけ」

「義姉さん、俺ら苛めて楽しいか……」

心底疲れきった声で、恭一は朱音に言う。

「だって可愛い妹と義弟だもん」

恭一と対照に、心底うれしそうに、朱音は言った。

そして、朱音は笑いながら部屋を出て行った。

「……俺らも、行くか」

「そうね……」

恭一がベッドから降りて立ち上がり、鳥羽莉に手を差し出す。

そして鳥羽莉はその手を取って隣に立つ。

「これからも、よろしくな、ハニー」

「えぇ、こちらこそ、ダーリン」

そう言いあって、お互いに笑いあった。

「やべぇ、嬉しいけど、なんか笑いがとまんねぇな」

「そうね、嬉しいけど、恥ずかしいわ」

心からの笑顔で、二人は笑いあう。

「まだ付き合って1年もたってないのに破局は勘弁してほしいぜ……だからさ」

鳥羽莉の顔を持ち上げて、恭一は言う。

「ずっと、捕らえてやる。 ずっと、好きにさせてみせるよ」

笑いながら言って、恭一はキスをした。

触れるだけの、羽のようなキス。

「私も、あなたのこと、離さないわよ……お願いされたって、離さないんだから」

鳥羽莉もそう言って、お返しのキス。

「もう何にもいらないぐらいだ、ここ以外、何にもいらない」

こたと、義姉さんと、火乃香と、何よりも、大好きな鳥羽莉がいるここだけがあれば、良いとさえ思える。

そんな事を、笑いながら恭一は言った。

「恭一、ちゃんと佳推には言っておいてね」

「あぁ、判ってるよ」

鳥羽莉の言葉に、恭一は頷く。

「さてと、早くいかねぇと、また義姉さんに弄られるな」

「そうね」

二人は寄り添いながら部屋を出る。

もう、離れることなんてない。

そんなこと、ありえない。

だって、世界がこんなに明るく見えるから。

こんなに、美しく見えるから。

これからの事を思って、二人は笑いながら歩き出した。

 

そして、居間に着くとやっぱり朱音に弄られた事を明記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

吸血鬼達の優雅な日常シリーズ第四弾〜〜〜

フィーア「お互い更に好きになって言った恭一と鳥羽莉のお話ね」

おう、これでもっと鳥羽莉とイチャイチャできるぜ。

フィーア「にしても、ちょっと微妙なシーンもあったわね」

あぁ、危うく発禁ものになりかけたね……かけないけど。

フィーア「仮に書いても、送るとこないでしょ」

いえてる、って言うかけないから。

フィーア「で、次回はどうなるの?」

とにかくだな。

フィーア「うん」

イチャつかせる。

フィーア「それだけしか決まってないの?」

うむ。

フィーア「この、阿呆ーー!!」

どべらっ!!

フィーア「ふぅ……全くこの阿呆は」

あががががが……

フィーア「ではでは〜〜〜」





いやいや、鳥羽莉のやきもち。
美姫 「激しいわね〜」
でも、それだけ愛情が深いってことだよ、きっと。
美姫 「次回はどんなお話かしらね」
とりあえず、イチャつかせるみたいだから。
美姫 「甘々な展開が待っているのかしら」
楽しみだな〜。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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