2、鷹狼達の特訓を見に行く(中篇)

 

 

 

 

 

 

「鷹狼お兄ちゃん、フィーアも見に行って良い?」

遠慮がちに、フィーアがたずねる。

「大歓迎なんだね!!」

「……来ると、良いかも」

先ほどまで意気消沈していたシオンとエイヴァがかなり嬉しそうにフィーアに言う。

「ふむ、でしたらフィーアにいいところを見せなくてはなりませんね」

「ふん、逆にフィーアの前で無様の姿を晒さんようにする事じゃな」

お互い睨み合って、燈狼とマグノリアは言う。

「フィーア、危ないですからちゃんと離れてみていてくださいね。 それか、私達誰かの傍にいてください」

「うん!!」

鷹狼の言葉に、フィーアは満面の笑みを浮かべ頷く。

「では、解散ということで」

馨の言葉を聞いて、それぞれが台所を出て行った。

 

 

「では、始めますよ」

家から10分ほど歩いた場所にある、開けた広場のような草原。

そこに、鷹狼達は来ていた。

「まずは燈狼とエイヴァ」

鷹狼が名前を呼ぶと、二人が前にでて、対峙する。

「禁呪法ありでやります」

頷いて、二人は構える。

禁呪法とは、ドイツ語を用いて行う特殊な呪法の事で、予め体に特定の紋様を刻む事によって使える事が出来るようになる呪文のことである。

「それから、くれぐれもフィーアに攻撃を加えないように」

鷹狼が言うと、皆がいっせいに苦笑する。

フィーアだけが、判らないといった風に顔を傾ける。

「大丈夫ですよ、フィーアに掠り傷一つでもつけたら死にますし」

「…………したら、死ぬ」

燈狼とエイヴァは同時に言って、再び相手を見る。

「……Stoswind

エイヴァが呟くと、いきなり風が吹きつけ始める。

Erde Marsch

対して、燈狼も呟くと大地がうねりをあげる。

「はじめっ!!」

鷹狼が叫んだ瞬間、エイヴァは消える。

いや、瞬き一つする間に燈狼の目の前へと駆け寄ったのだ。

「はぁぁぁぁっ!!!」

しかし、それに反応した燈狼は抜刀……一瞬にして八つの剣閃がエイヴァに向かって放たれる。

「……schlagen

エイヴァがその刹那に呟くと同時に燈狼が繰り出した八つの剣閃は風によって切り裂かれる。

erhebung!!」

それを見た燈狼はバックステップで後方へとび、瞬時に呪文を唱える。

言葉に呼応して大地が隆起し、土で出来た針のようなものがいくつも地面から生える。

「っ!!!」

その針の上をエイヴァはまるで歩くかのごとく進む。

「風は、地を防ぐ」

言って、跳躍。

かなりの高さまで跳躍して、エイヴァはかなりの速さで落下してくる。

「くっ!!」

縦一文字にかなりの速さがついた一撃を、燈狼は何とか受ける。

いくらエイヴァが華奢だからといって、かなりの高さから勢いをつけたのだ。

かなり重たい一撃にもなる。

だが、それだけでは燈狼の剣を砕けない……だから、

「…schwer

「ぐぁっ!!」

エイヴァの呟きと同時に、燈狼の剣が砕かれる。

「そこまでっ!!」

燈狼の眼前でエイヴァのナイフが止まる。

「はぁ……やはり、禁呪法戦ではエイヴァ相手では分が悪いですね」

そう言って燈狼は立ち上がる。

「疲れた……」

エイヴァはそう呟いてフィーアに近づく。

「エイヴァお姉ちゃん、凄く綺麗だったよ!!」

先ほどの戦闘を思い出して、フィーアは笑顔でエイヴァに言う。

「さっきの飛び上がるところが一番綺麗だったね!」

そして、フィーアはエイヴァに抱きつく。

「んっ……ありがとう」

エイヴァも小さく微笑んで、フィーアの頭を撫でる。

「やれやれ、フィーアはボク達の中じゃエイヴァかシオンになついてますねぇ」

苦笑しながら、燈狼がフィーア達に近寄る。

「燈狼お兄ちゃん、残念だったね」

「いえ、それなりに収穫はありましたしね」

燈狼も微笑んで、フィーアの頭を撫でる。

「次に行きますよ」

「私達の番なんだね!」

「吠え面をかかせてくれるわ」

鷹狼の言葉に、シオンとマグノリアが反応して、前に出る。

「しかしのぅ、こんな勝負にもならん試合では訓練にはならんぞ、鷹狼?」

「むっ! そんなこと言ってると、痛い目見るんだからね!!」

シオンはそう言って水で弓と矢を作り出し、構える。

「ほぅ、返り討ちじゃのぅ」

マグノリアは余裕の笑みを浮かべ、指先に雷を集める。

 

 

「本来ならば、マグノリアの負けなんですがねぇ」

「そうなの?」

燈狼の言葉に、フィーアがたずねる。

「ボク達4人はそれぞれ『地・水・火・風』の4元素の聖痕(スティグマ)というものを体に刻んでいます。 ボクは地の聖痕、エイヴァは風の聖痕といったように、マグノリアは火の聖痕なんです」

「そして、対するシオンは水の聖痕……これだけ見るとシオンの圧倒的有利なんですが……」

一旦言葉を区切って、鷹狼と燈狼は目の前の戦いを見る。

「マグノリアはその特異な魔術の家系の為、遺伝子レベルで、雷の聖痕が刻まれています」

「異例ですよねぇ、一つしか刻めない聖痕を二つも持ってるんだから」

目の前では、シオンの放った水の矢がマグノリアの手から放たれた雷によって一瞬にして無に返される。

「そんな事……フィーアに話しても、無駄」

そんな中、エイヴァがポツリともらす。

「ふふ、そうでしたね」

エイヴァの呟きに、鷹狼は苦笑する。

「フィーアにこんなこと、話す必要なないですね」

ポン、とフィーアの頭に手を置いて、鷹狼は言った。

 

 

「ぐぅぅぅぅ!!」

放った矢が近いところでマグノリアの雷に触れ、少し感電する。

「ほれほれ、どうしたシオン」

対するマグノリアは余裕そのものだ。

「そんな事では妾を倒すなど夢のまた夢だぞ?」

左手から雷を発しながら、マグノリアはシオンに近づく。

「うぅぅぅぅ、マグノリアは卑怯なんだね!! 二つも聖痕を使うのはルール違反なんだね!!」

少しずつ後ろに下がりながら、シオンは叫ぶ。

「阿呆か、戦いに卑怯などないわ」

いった瞬間、シオンの近くに雷が落ちる。

「ぐっ……」

「シオンお姉ちゃ〜〜〜ん!!!」

後に下がっていくばかりのシオンに、フィーアが叫ぶ。

「絶縁水だよっ!!」

「ばっ、フィーア!!」

フィーアの叫びに、マグノリアが叫ぶ。

「ふふふふふ、フィーアちゃん!! ありがとうなんだね!!」

高らかに笑い、シオンはフィーアに礼を言う。

「絶縁水は電気伝導率が少ないから……大丈夫なんだね!!!」

叫びと共にシオンの周りを激流が走り出す。

der reisende Strom

そして、その激流は一本の矢となってマグノリア目掛けて飛び立つ。

Donner!!

それを見たマグノリアは禁呪法を唱え、かなり大きな雷をその水の矢めがけて放つ。

「絶縁水の矢に……もう雷は効かないんだねっ!!!」

マグノリアの放った雷は、矢の中で分解される。

「ちぃっ!! 往生際の悪いやつめ!!」

叫んで、マグノリアは腕から巨大な炎の塊を生み出し、矢にぶつける。

火が水を蒸発させ、水が火を鎮める。

しかし、質量の大きさで、水が火を全て消しさる!!!

そして、その矢は逸れる事無く、マグノリアに向かっていく。

「シオンお姉ちゃん!! 駄目だよ!!」

このままではマグノリアに矢が刺さる……

そう思ったフィーアが叫ぶ。

しかし、矢がマグノリアに刺さる前に、矢が破裂した。

そして、その矢は水で出来ていたので、必然的にマグノリアに大量の水がかかる。

「むふふふふ、マァグノリアァァァ〜〜〜〜〜」

なんとも嬉しそうな顔で、シオンがマグノリアを呼ぶ。

「私の勝ち、なんだね!!」

Vサインを、高らかと掲げ、勝ちを宣言するシオン。

「なるほど、体中が濡れていては自分も雷で感電してしまいますからね」

「っっっっ!!!」

燈狼の言葉を聞き、マグノリアはかなり悔しそうな顔をする。

「やったんだね!! これもフィーアちゃんのお陰なんだね!!」

フィーアに近づき、シオンは徐にフィーアを抱きしめる。

「うん……でも、マグノリアお姉ちゃんに悪い事しちゃった」

シオンにそう言いつつ、フィーアはマグノリアを見る。

「マグノリアお姉ちゃん、御免なさい」

シオンから離れ、マグノリアの前で、フィーアは頭を下げる。

「フィーア……よい、気にするでない」

マグノリアはポンと、フィーアの頭に手を置く。

「そうじゃの、今夜妾と一緒に風呂に入ろう、それでこの件は水に流す」

「うん!!!」

苦笑するように言うマグノリアに、フィーアは元気いっぱいに返事して、抱きつく。

「ああ〜〜〜!!! マグノリアのほうがフィーアちゃんに抱きつかれてる〜〜〜!!!」

それを見たシオンが叫ぶ。

「ふふん、良いじゃろう……それに、フィーアは今夜妾と一緒に風呂に入る約束もしたぞ」

「うっ、羨ましいんだね!!!」

自慢げに言うマグノリアに、シオンは羨ましそうな視線を送る。

フィーアが風呂に入るときは、大概喧嘩になることが多い。

誰がフィーアと一緒に風呂に入るか、でだ。

男性陣のほうは遠慮しているが、フィーアがたまに恭也と入るとせがむ時があるのでその時は皆黙認している。

しかし、大概皆が自分と一緒にと言うので結構もめるのだ。

大体フィーアに決めてもらう事が多いのだが……

「さてと……では、もう一本行きますよ」

鷹狼の声に、皆が反応する。

「とにかく、今日は時間もありますので」

「そうですね」

「了解なんだね!!」

「……うん」

「行くかのぅ」

それぞれに答えて、また訓練の開始。

それが、夕飯の時間まで続けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後編へ

 

 


あとがき

 

 

中篇の一つ、鷹狼達と一緒編をおおくりしました。

フィーア「ホントにフィーアにとっては暇そうな風景ね」

いや、一様このあと遊んだことにもなっている。

フィーア「普通そこがメインじゃない?」

一様特訓を見に行くって選択肢だったからね。

フィーア「でも、何でフィーアが絶縁水なんて知ってたのかしら?」

あれはね、鼎とベルフォードが遊びで教えてたのさ。

フィーア「それに、ドイツ語なんてつかっちゃって」

かっこいいかなって思ってね。

フィーア「で、これから後編ね」

そういうこと、ちゃんと3つとも踏まえた上で書きたいので。

フィーア「ではでは〜〜〜」

 




フィーアの一日は、特訓の見学で。
美姫 「一応、その後に遊んだみたいね」
うんうん。可愛らしいじゃないか。
美姫 「にしても、物凄く激しい特訓よね」
た、確かに。でも、それ故に、あの強さだとすれば。
美姫 「まあ、それもそうかもね」
さて、残る選択肢は後二つ。
美姫 「そして、後編」
一体、どんなお話が待っているのか。
美姫 「楽しみにしてますね」
ではでは。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ