「今日、君をここに呼んだ理由は……判っておるな?」

麻帆良学園学園長室、魔璃はそこに呼ばれていた。

「はい、申し開きもありません」

尋ねてくる学園長に、魔璃は凛とした態度で答える。

先日の、エヴァとネギの戦いに乱入し、エヴァと戦ったことについて聞かれているのだ。

魔璃の後ろには高畑と、エヴァがいる。

「おいじじぃ、魔璃をどうする気だ?」

軽く殺気を込めながら、エヴァは尋ねる。

もしここで魔璃に対して何かするようであれば、エヴァは襲いかかりかねない。

「ほっほっほ、どうもせんわい。 ただ、何故魔璃君がそのような行動に出たのか、興味が出ての」

心配ない、と学園長は答える。

「私があの日エヴァさんと戦った理由は、ごく私的なものです…正義感や、義務感など、そんなものではありません」

ハッキリと、魔璃は答える。

「ただ、剣士として……全盛期に近いエヴァさんと戦ってみたかった…それだけです」

あの時感じた衝動、それに身を任せただけである。

「そうか…魔璃君も、御神の剣士、と言うわけじゃな」

「そう名乗るのもおこがましいですが、そう思います」

学園長の言葉に、魔璃はどこか誇らしげに答えた。

「さて、魔璃君の処遇だが……何人かの魔法先生は君を危険だと、野放しには出来ないと言う」

「そう、なるのですかね」

「と言うわけでの、君には学園の警備を任せたいのじゃ」

その言葉に、魔璃は驚く。

「君を野放しには出来ない…かといって、君を監視し続けるような時間があるわけではない」

「なるほど…野放しに出来ない、監視し続けられない、そうなると……その力を、自分たちの為に使わせようと」

学園長の言いたい事を理解し、魔璃は言う。

「うむ、しかし形だけでよい。 君に何かあると、国内の夜の一族全てが敵に回るからの」

「苦労をおかけします」

苦笑する学園長に、魔璃は申し訳なさそうに言う。

「魔璃君は非常時のみの警備員として他の先生にも言っておくから、呼ばれない限りは普通の生活を送っとくれ」

その言葉に、魔璃は頷いた。

「では学園長先生、私はこれで失礼します」

「うむ…おぉ、エヴァは少し残っとくれ」

頭を下げ、魔璃は踵を返す。

そして、魔璃と一緒に出ようとするエヴァを引き止める学園長。

「魔璃、外で待っておけ」

「はい、エヴァさん」

エヴァの言葉に頷き、魔璃は部屋を出て行く。

「用件は何だ、じじぃ?」

「エヴァ…お主、魔璃君を従者にしたそうじゃな」

「あぁ、といっても仮契約もしていない状態だ」

学園長の言葉に、エヴァは不敵な笑みを浮かべながら答える。

「どうせ、魔法先生の連中から報告を受けたんだろう?」

「その通りじゃ…そして、そのことで魔法先生の一部からお主に対して危険だと言う意見が出ておる」

エヴァの問いに、学園長は頷きながら言う。

「お主が『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』として従者を増やしているのではないか、とな」

大人しくしているとはいえ、エヴァは元600万$の賞金首。

力を取り戻し、反旗を翻すのではないかと、一部の魔法先生が考えたのだ。

「はっ、馬鹿馬鹿しい…私が魔璃を従者にしたのは魔璃が真剣に私に頼んだからだよ。 それに、あいつ等にも借りがあるしな」

あいつ等、とは魔璃の両親の月村夫妻である。

内心は、ただ魔璃と一緒にいる時間を増やしたかったからなのだが。

そんな事はおくびにも出さず、エヴァは答える。

「そうか……まぁ、魔璃君は悪さをするような娘でもないしの」

笑いながら、学園長はうなずく。

「これで話はおしまいじゃ」

「あぁ、じゃぁな」

そう言って、エヴァは学園長室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

舞踏(ダンス)の後に

 

 

 

 

 

 

 

「エヴァ姉さん、学園長先生は何と?」

学園長室から出てきたエヴァに、魔璃は尋ねる。

「あぁ、別段何もないさ」

そんな魔璃に、心配させないようにエヴァは答える。

魔璃と一緒に待っていた茶々丸と合流し、3人は学校のカフェに立ち寄る。

「エヴァ姉さん、そろそろ修学旅行があると聞いたのですけど」

頼んだ珈琲を飲みながら、魔璃はエヴァに尋ねる。

「あぁ、そういえばもうそんな時期か……」

エヴァも、頼んだ珈琲を飲みながら、相槌をうつ。

「私は行けないからな…お前は楽しんでくるといい」

「私も、マスターと共に残りますので」

エヴァは登校地獄の呪いのせいで、学園から外に出られないので、必然的に修学旅行にはいけない。

茶々丸も、マスターであるエヴァが行かない為に残る事になる。

「あの、エヴァさんはご存じないのですか?」

キョトンと、魔璃はそんな表情をしてエヴァに尋ねる。

「何をだ?」

「修学旅行は、大体1年次からお金を積み立てて行っているのですけど」

尋ね返すエヴァに、魔璃は答えだす。

「私は3年の編入で、修学旅行の積立金などないので修学旅行にはいけないのですけど……」

その言葉に、エヴァも茶々丸も言葉を失う。

むしろ、呆けた顔をして、魔璃を見つめている。

「じゃぁ、魔璃も…私達と一緒に、残るのか?」

「はい、そうせざるを得ませんし……言ってはなんですが、旅行中は鍛錬ができそうにもありませんので」

おおよそ、この年の学生の台詞ではない。

だが、魔璃は本気でそう思って言っているし、何より旅行など母に連れられてよく出かけていた。

もっぱらここ、麻帆良学園が主だったが……

「そうか」

それを聞いたエヴァが、嬉しそうな顔をする。

「それなら魔璃、期間中は私の家で寝泊りをするか?」

「えぇ、別に構いませんよ。 別荘もお借りできますし」

エヴァの問いに、魔璃は少し笑って答える。

魔璃の言う別荘とは、エヴァが魔法で作った中の一日が外の一時間と言う効果を持つものである。

「そうだな、あれを使えばお前の修行もはかどるしな」

普通の一日が約24倍になるので、短い期間でかなりの修行が出来るのだが。

その分早く歳を取ってしまう、と言う欠点がある。

だが、魔璃は半吸血鬼であるしエヴァは吸血鬼なので、人よりは寿命がはるかに長い。

なので、あまり問題はないのだ。

「では、早速……むっ」

意気揚々と立ち上がり、家に戻ろうとしてエヴァは目の前に見える人物に顔を顰めた。

「あっ、エヴァンジェリンさんに茶々丸さん、それに魔璃さんも……」

エヴァの目線の先には、アスナとカモを連れたネギがいた。

「ネギ先生、こんにちは」

魔璃は立ち上がり、軽く会釈をする。

「はっ、はい。 こんにちは、魔璃さん」

そんな魔璃に、ネギも会釈をする。

「先日はどうもご迷惑をおかけしまして」

申し訳なさそうに、魔璃は謝る。

「そんな事はないです! あっ、魔璃さんこそ腕のほうは……」

そんな魔璃に、ネギはそんな事はないと言い、先日の魔璃の腕の事を心配しながら尋ねる。

「はい、私の腕でしたらご覧のとおり……もう、問題はないです」

袖を捲って、魔璃は折れ飛んでいた場所をネギに見せる魔璃。

そして傷などが全くない事が判り、ネギもアスナも安堵の息を漏らす。

「あの、月村さんもやっぱり…ネギ達みたいな魔法使いなのよね?」

あの時から疑問に思っていたアスナが、魔璃に尋ねる。

「魔法使いの存在に関しては知っていますが、私自身が魔法使いか、と聞かれれば違いますよ」

少し苦笑しながら、魔璃は答える。

エヴァに習っている魔法も、基礎中の基礎だし、殆ど座学が多い。

「私の家は、少し複雑な家系でして……まぁ、ネギ先生達と同じ世界にいる、とだけ言っておきます」

魔璃の答えに、アスナはそうなんだ、と納得する。

「でも、月村さんの腕が折れ飛んだのを見たときは焦ったわ」

「ふふ、ご心配をおかけした様で」

苦笑しながら言うアスナに、魔璃も苦笑しながら謝る。

「神楽坂さんとネギ先生には血を輸血してもらったそうで、何とお礼を申してよいか」

「そっ、そんなに畏まられても……」

頭を下げる魔璃に、アスナは苦笑しながら言う。

「月村さんは、その…友達、だしさ……別に、そんなに畏まらないでいいよ」

「僕のほうも、先生として生徒を助けるのは当然ですから」

少し顔を赤くして、頬を指で掻きながらアスナは言い、ネギも気にしていないと言う風に言う。

「そうですか、そう言っていただけると助かります」

小さく笑いながら、魔璃はお礼を言った。

「そういえば神楽坂さん、まさかあの時エヴァさんの顔を足蹴にするとは思いませんでしたよ」

その言葉に、エヴァは飲んでいた珈琲で咽る。

「ごほっ、ごほっ、魔璃! その話は止めろ!」

思い出したのか、エヴァは少し怒りながら叫ぶ。

「そうですね、これ以上はエヴァさんの機嫌を損ねてしまいそうですし」

クスクスと、小さく笑いながら魔璃は言う。

「では、そろそろ行きましょうかエヴァさん」

飲み終えたカップを乗せたトレーを持って、魔璃は立ち上がる。

「あぁ、そうだな」

魔璃の言葉に頷き、エヴァも立ち上がる。

「神楽坂さん、ネギ先生……ではまた」

「またね、月村さん」

「はい、また学校で会いましょう」

二人の言葉を聞いて、魔璃とエヴァは歩いて行った。

 

 

 

 


あとがき

 

 

魔璃譚第5弾〜〜

フィーア「今回は前回のあとがきの予告どおりになったわね」

うむ、まぁあの戦いも監視があったって言う裏設定をチラホラ聞くのでそれを元にこんな感じにしてみました。

フィーア「魔璃とアスナは友達のまんまなの?」

何れ進展がある……はず。

フィーア「で、修学旅行編は?」

魔璃は修学旅行には行かないから、最後のリョウメンスクナノカミあたりは書こうかなと思ってる。

フィーア「でも、実際中途編入だと修学旅行にいけないって本当?」

そこは、推測です……

フィーア「実際行けたらどうするのよ……」

見逃してもらいます(泣)

フィーア「はぁ、次回は?」

修学旅行前のお話を書きたい、かなと。

フィーア「じゃぁ、さっさと書きなさい」

イエッサー。

フィーア「ではでは〜〜」





今回は、エヴァとの対決後日談といった所。
美姫 「バトル後だけあって、少しのんびりとした感じね」
ああ、まったり〜。
美姫 「にしても、あの戦いによって魔璃も教師に目を付けられたのよね」
これが今後、何か影響してくるのかしないのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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