「どいてどいて〜〜〜〜っ!!」

厳粛なはずの恵泉女学院……その廊下から、大きな声が響き渡る。

声を出しながら廊下を走っているのは、茶色の長い髪をツインテールにした女生徒。

インテリの鼻の上にちょっとかけるだけの小さなメガネが特徴的である。

この女生徒の名前は恵泉女学院3獅堂院(しどういん) 麻美(まみ)

恵泉女学院パパラッチ娘の愛称で、下級生からは結構親しまれている。

彼女は恵泉女学院新聞部(報道部)の部長であり唯一の部員でもある。

そして、何を隠そう不破恭伽の二つ名、エルダープリンスの考案者であり、流布したのも彼女。

彼女の発行する新聞は真実1割、微妙なのが2割、嘘、勘違いが7割で構成されている。

だが、彼女の主観で語られる事件は、いまや恵泉女学院の生徒の間でなくてはならない物になっていた。

そんな彼女は、日々面白いネタを探して、学院を縦横無尽に走り回っている。

だから、よく先生に注意されているのを目撃できる。

「ハァ、ハァ…早く行かないと面白いネタが……」

首にかけているカメラを持ちながら、麻美は廊下を走っていく。

そして、曲がり角を曲がろうとして……

「きゃっ!」

「うわっ!」

誰かとぶつかる。

いや、麻美の方が勢いがありすぎて、相手を押し倒してしまったといっても良い。

「いたたたた……すいませ〜……」

頭をおさえつつ、麻美は押し倒してしまった相手に謝ろうとして……

「大丈夫かしら?」

「エッ、エルダープリンスッ!?」

驚いて、麻美はついつい叫んでしまう。

そう、麻美が押し倒してしまった相手はエルダープリンスこと不破 恭伽だった。

「あっ、あの、すいませんっ!!」

緊張のあまりか、それとも申し訳なくてか、麻美は頭を下げまくる。

「別に気にしてはいないわ……でも……」

麻美にやんわりと、でもどこか言い難そうに恭伽は語尾を濁す。

「その、胸から……手をどけてもらえないかしら?」

「はぅぅっ!!?」

恭伽に言われ、奇声を挙げながら勢いよく立ち上がる麻美。

「あっ」

立ち上がった拍子に、後ろにいた人ともまたぶつかってしまう。

「あぅぅぅ、すいませ……」

「いたたたた……」

そしてまた謝ろうとして……相手を見て固まった。

今度麻美がぶつかった人物は、エルダーシスターこと宮小路 瑞穂だった。

更に悪い事に、後ろ向きだが麻美の頭に柔らかい感触が伝わる。

つまり……麻美の頭が、瑞穂の胸の上に乗っているのだ。

「はぅぅぅぅぅ、すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません、すいませんっ!!!」

麻美は急いで立ち上がり、瑞穂と恭伽に謝り倒して走り去って行った。

「なんだったのかしら……」

「さぁ……」

瑞穂と恭伽、二人して首を傾げつつ、麻美が走り去って行ったほうを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

乙女はお姉様達に恋してる

お騒がせ、台風パパラッチ娘

 

 

 

 

 

 

 

「はぅぅぅぅ……憂鬱ですぅ……」

次の日の放課後、教室の自分の席に座って、麻美はへこんでいた。

「まさか、プリンスの胸を触ってしまうなんて……それに、お姉様の胸にも頭を乗せちゃったりして……」

自己嫌悪の渦に飲み込まれ、かなり気分が滅入っているようだ。

「はぁ、まさか記者である私自身がスキャンダル並みの事をしてしまうとは……」

そう言って、麻美は自分の手を見る。

先日、恭伽の胸を思いっきり触った手である。

「プリンスの胸の感触………………はっ」

恭伽の胸の感触を思い出して……麻美はハッとする。

「これじゃあ私、変態さんじゃないの……」

自分の考えを自分で否定して、机に突っ伏す。

その時、にわかに廊下の方が騒がしくなる。

いつもは麻美もそちらを向くのだが、今の心理状況ではそれも難しい。

しかし、段々と歓声というか、黄色い声援がこっちに近づいてきている。

「失礼します、獅堂院 麻美さんはこちらにおいででしょうか?」

名前を呼ばれ、麻美はバッと顔をあげる。

そこには……

「おっ、お姉様っ!? それにプリンスもっ!!?」

驚きのあまり、麻美は叫んでしまう。

そう、麻美に会いにきていたのは瑞穂と恭伽だった。

「ごきげんよう麻美さん、少しお話しがあるのだけれど……良いかしら?」

優雅に、瑞穂が麻美に尋ねる。

「はっ、はいっ!!」

なぜか直立不動になって、麻美は答えた。

「そんなに畏まらないで、別にとって食べたりしないから」

そんな麻美に、恭伽が苦笑しながら言う。

ちなみにこの時、お姉様達に食べられるなら喜んで……と思った生徒は全員。

「そうね……ここではなんですから、屋上にいきましょうか」

瑞穂の言葉に頷いて、麻美は恭伽と瑞穂と一緒に屋上へと行った。

そして、3人は屋上で向き合う。

「えっと、麻美さん……昨日の事なんですけど」

「はぅぅ、昨日は本当にすみません……プリンスの胸を触っただけではなくあろうことかお姉様の胸に頭をうずめてしまって……」

シュンとなって、麻美は謝る。

「その事はもういいのよ、お互いに怪我がなかったから」

ちょっと笑って、瑞穂は言う。

「昨日の事と言うのはね、廊下を声を出して走っていた事についての注意なのよ」

恭伽も、少々笑いながら麻美に説明する。

「貴子さんに言われてね、私達から注意して欲しいって」

「生徒会長から、ですか?」

キョトンと、麻美は聞き返す。

「えぇ、恵泉女学院生徒たる自覚を持って、慎ましい行動をしてください、ですって」

「はぅぅ、申し訳ありません……」

瑞穂の言葉に、麻美は頭を下げながら言う。

「でも、麻美さん貴子さんに何かしたのかしら?」

「何か、ですか?」

瑞穂の疑問の言葉に、麻美はたずね返す。

「えぇ、何故か貴子さんが少々怒り気味に言っていたものだから」

その時の光景を思い出し、少々不思議そうに言う瑞穂。

「私は別に、会長の機嫌を損ねるような事をした覚えはないんですけど……」

麻美は首を傾げながらそう言うが、本人は気付いていないだけで結構している。

貴子と君枝の怪しい関係とか、貴子とまりやの怪しい関係とかetc……

貴子が君枝といるのはただ生徒会の仕事の都合上であり(君枝は貴子に憧れているのだが)まりやとは単に幼稚園の頃から馬が合わないだけである。

「とりあえず、私達が言いたかった事はそれだけよ。 手間を取らせてしまったわね」

「いっ、いいえ、私の不注意が原因ですからなにもプリンスが謝らなくても……」

苦笑しながら謝る恭伽に、麻美は猛烈な勢いで首を横に振る。

「あっ、あの……」

「なにかしら?」

そして、唐突に何か思い立ったのか、麻美が控えめに瑞穂と恭伽に声をかける。

「お姉様とプリンスっていつも一緒にいますけど……その、どういった関係で?」

その言葉に、瑞穂と恭伽はお互い顔を見合わせて、苦笑しあう。

「麻美さんは、どういう関係に見えます?」

苦笑しながら、瑞穂が麻美に尋ねる。

「失礼でなければ、お似合いの恋人同士かと」

そして、麻美のその言葉に二人は口元を抑えながら笑った。

その様子に、麻美は呆気にとられる。

いつもは優雅な二人にも、こんな一面があるんだと……

「ふふふっ、私達は別にそんな関係じゃないんだけど……」

「昔から親同士が知り合い関係で、それで仲が良いだけよ」

ひとしきり笑って、瑞穂と恭伽は麻美にそう言った。

「そうなんですか」

そこまで言って、麻美は懐にいつも持ち歩いているメモ帳とペンを取り出し、書き込んでいく。

(お姉様とプリンスの意外な過去、これは絶対特ダネになるに違いないわっ)

記者魂に火がついたのか、猛烈に何かを書き込んでいく麻美。

「あの、麻美さん……何をしているんですか?」

「あっ、えぇ…次の校内新聞の記事に使わせてもらおうかと思いまして……」

瑞穂の問いに、麻美は書きながら答える。

「別に構わないけれど、あまり嘘は書かないでね」

瑞穂も麻美の各新聞を見たことがあるため、苦笑しながらそう言う。

「私は常に真実だけを追い求めていますから、それはお任せください」

そう言って、麻美はメモ帳に次々に書き込んでいき、メモ帳を閉じる。

「ではお姉様、プリンス、私は今から記事を作りますので」

「えぇ、頑張ってね」

そして二人にそう言って、麻美は後者の中へと戻って行った。

後に、大事件になるとは露知らずに……

 

 

 

あれから二日後……

恭伽と瑞穂はいつもどおりに二人で学園へと向かっていた。

小鳥は奏と由佳里といつも一緒に行っているので朝は別々に登校しているのだ。

そして、玄関に入って……

「お姉様方っ!!」

突然、大勢の生徒に囲まれる。

「あっ、あの……皆さんどうかしたんですか?」

少々引き気味に、瑞穂は生徒達に向かって尋ねる。

「お姉様とプリンスが実は相思相愛で親も公認の恋人って本当ですかっ!!?」

その言葉に、瑞穂と恭伽の二人は固まる。

「ねっ、ねぇ……もう一度、言ってもらえるかしら?」

「ですから、お姉様とプリンスが相思相愛で親も公認の恋人同士って本当ですか!?」

どうやら聞き間違いではなく、瑞穂も恭伽も内心盛大な溜息をついた。

「あのね、どこからそんな話が出てきたのかしら?」

こめかみを押さえつつ、恭伽が尋ねる。

「これですよっ」

そう言って、尋ねられた生徒がポケットから折りたたまれた紙を取り出し恭伽に渡す。

それを瑞穂は隣から見つつ、恭伽が広げると……

 

【熱愛発覚っ! エルダーシスターとエルダープリンスの燃え上がる恋っ!!】

 

かなり大きい、その見出しがまず目に飛び込んできた。

そしてそのまま記事のほうを見ると自分達の親が知り合い同士で自分達の関係を応援している事。

女同士でも結婚できる国へ将来移住するような事。

更に極めつけは二人がいつもずっと一緒にいるのはお互い離れられないほど愛し合っているから……

一通り記事を読んで、瑞穂も恭伽も眩暈を感じた。

「麻美さん……あれほど嘘は書かないでって言ったのに……」

心底疲れた表情をして、瑞穂は呟く。

「で、どうなんですかっ!?」

生徒達が、どこか期待に満ちた眼をして尋ねてくる。

「あのね、私達は別に相思相愛でも、親の公認した恋人同士でもないわよ」

その恭伽の言葉に、生徒達は何故かがっかりとした様子を見せる。

「私達の親が昔から知り合いで、よく一緒にいるだけよ」

そして瑞穂の言葉を聞いて、この場に集まった生徒達は解散していく。

まぁ、麻美の記事なだけに皆疑心暗鬼だったようだ。

だけど、憧れの瑞穂と恭伽の記事なだけに確認したくなってしまったのだろう。

「はぁぁ、つっ、疲れたよぉぉぉ……」

一気に脱力し、恭伽にもたれる瑞穂。

「麻美さん、あれほど言っておいたのにね……」

恭伽も、どこか疲れた顔をしつつ言う。

そして、二人が教室へと行くと同様の質問をされたとか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

久しぶりのオトボクSSです。

フィーア「オリキャラね、今回は」

まぁやっぱりこういう娘はどこの学校にでも一人はいるかなと言うことで。

フィーア「でも、瑞穂と恭伽の熱愛ねぇ……」

今の状態なら可能だろ、恭伽は女なんだから。

フィーア「でも周りから見れば女同士だしねぇ」

まぁ、こういう女ばっかりの学校だと憧れの人同士のカップリングならかなり話題になるかと。

フィーア「で、結局どうやって誤解を解いたの?」

貴子に言って、生徒会から言ってもらったんだよ。

フィーア「麻美は?」

勿論貴子からお説教と、先生から注意を受けてる。

フィーア「ふ〜ん、次回は?」

あぁ、次回は……って、まだなにも考えてないって。

フィーア「役立たずねぇ」

うぐぅ……

フィーア「可愛くないから止めなさい」

ぐっ、まぁ案としては幾つかあるから……

フィーア「じゃあさっさと書こうねぇ」

ひぃぃぃぃぃん。

フィーア「ではでは〜〜〜」





いやいや、元気な女の子の登場だね〜。
美姫 「本当ね。でも、嘘が七割ってそれって情報を伝える新聞とは言えないような」
何を言う! ほら、どこぞにも大統領と宇宙人が握手しているという記事の載っている新聞があるじゃないか!
美姫 「いやいや、それと一緒って事にしても良いの?」
ど、どうなんだろう。
ま、まあ、今回はそこまで悪質なものじゃなかったから良いじゃないか。
美姫 「当事者の二人は質問攻めに合ったでしょうけれどね」
さてさて、次回はどんなお話かな〜。
美姫 「次回も楽しみね」
おう! 次回も待ってます!
美姫 「それじゃ〜ね〜]



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