恋姫†無双戯曲 −導きの刀と漆黒の弓−

 

第十八話 −友人達の再会−

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呂布が処罰されてしまう前になんとしてもと言う陳宮の必死の頼みを、とりあえずやれるだけやってみるという返事で納得させた白蓮。

聞けば陳宮は呂布一筋で仕えていた軍師らしく、虎牢関の戦いでも分断されてしまう直前まで一緒にいたほどらしい。

主である呂布はともかく一刀にまで会いたいというのは恐らく、呂布の処罰に対してなんらかの慈悲を願い出るか、最悪の場合は自分も運命を共にするつもりなのだろう。

そんな陳宮をひとまず瑠那、蘭華、泉の三人に任せ、一緒に負傷兵達と手当てと投降兵の受け入れに回ってもらい、白蓮は一弦と共に天幕に戻った。

なんだかんだで蘭華が来るまで陣頭指揮を取れる人間が白蓮しかいなかった為、今回は任せてほしいといわれて休まされたのだ。

一応名目上見張りとして瑠那と泉がついているが、まぁ誰も蘭華がおかしな行動を起こすとは思っていないし、陳宮にしてもここで余計な事をして白蓮の機嫌を損ねるのは本意ではないはずだ。

ならばと白蓮は、内心一弦と二人きりになれる事に心を躍らせつつ天幕に戻り、まずは無難なところからと、先程の陳宮の陳情について一弦と話していた。

 

「まぁ、北郷が捕らえた将を処刑とかするとは思えないけどな」

 

白蓮がそういって苦笑すると、正面でお茶を飲んでいた一弦も苦笑で答える。

 

「まぁまずしないでしょうね。聞けば呂布さんも女性らしいですし、それなら尚更です」

 

「お?あいつやっぱり女好きなのか?」

 

「……まぁ、否定はしませんけど……」

 

先程よりも明らかに楽しそうに身を乗り出してきた白蓮に一弦は苦笑の色を濃くする。

そして前置いた後に告げる。

 

「女好きというよりも一刀は御当主……一刀の御爺さんからの教えが身についているんだと思います」

 

「? じいさんからの教え?」

 

「女性は命をこの世に出す尊い存在だから、絶対にないがしろにしてはならん、と」

 

それを聞いた白蓮は初め、意味が分からないときょとんと首をかしげ、そして……

 

「ぷっ!……あはははははははははははははっっっ!!!!」

 

大爆笑し始めた。

 

「ぱ、白蓮さん?」

 

戸惑う一弦を完全に置き去りにしてそのまま笑い続ける白蓮。

次第に周りの目も気になりだしたところで白蓮はようやく、目尻についた笑い涙をぬぐいながら一弦にその堪えきれない笑い顔を向けた。

 

「っはぁ……あ〜笑った。いやぁたしかに北郷は女性をないがしろにしてないんだろうけどなぁ?」

 

「? はぁ」

 

「あれはないがしろに“しなさすぎ”て女がどんどん寄ってきちまってるじゃないか」

 

「あぁ…………確かに」

 

「雄として優れてるのに、よってくる雌をあしらう方法を知らないから皆に同じように接する。じいさんも余計な事教えたと思うけど、そんな男が万に一つも呂布を酷い目にあわせるとか、ましてもう処刑しちまってるとか考えられないだろ」

 

白蓮は笑いながらそう言って、一弦に微笑みかける。

その表情は完全に『お前も同じ考えなんだろ?』と語りかけていた。

その笑顔に一弦も苦笑で返して見せると、白蓮はよしと一言気合を入れるように言って立ち上がった。

 

「陳宮の頼みはとりあえず保留にしておくとして、次はいよいよ洛陽だ」

 

「蘭華さんと陳宮さんの情報が正しければ……敵兵の反抗はない、ですよね?」

 

「あぁ。ただ、二人が言っていた白装束の奴等ってのがどう動くか分からんし、それに……」

 

「どう動かれようと、僕達は誰よりも早く洛陽の城に入城して……董卓さん達の安全を確認、確保しないといけない、ですか?」

 

「そうだ。前の戦いで袁紹、曹操、孫権の三大勢力はかなりの痛手を被ってるが油断は出来ない。白装束の仕業なのか私達以外に洛陽の状況がはっきりわかってるところがないってのは強みだけど、それも本当にいつまでもその状態かは分からない。最悪、軍は誰かに任せて私達だけでも先行して確認しないと」

 

「それが蘭華さんの……僕達のところに来てくれる条件でしたからね」

 

「あぁ。約束は守らなきゃ、だろ?」

 

ニコッと笑ってそういう白蓮は、傍目から見ればその約束を重視しているがゆえの笑顔だと思っただろう。

しかし白蓮の笑顔の理由はそれよりも、一弦が公孫軍の一員として『僕達』という言葉を使った事にあった。

完全に自軍の将として扱ってはいたが、一弦の口から改めてそれを聞くとやはり、一弦自身も自分の居場所は今いる白蓮の傍なのだと思ってくれているように思えて頬が緩んでしまう。

 

「さ、いこうぜ一弦。そろそろ進軍の準備を済ませて、最後の最後で出遅れないようにしとかないとな」

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり……静かなもんっスねぇ」

 

「静かよねん。生きてる人の存在感がほとんど感じられないわん」

 

「そうだね……蘭華さん、これはやっぱり……」

 

「ええ。もう詠ちゃ…賈駆も軍を完全に乗っ取られてしまったとみるのが妥当なところですわね」

 

「ってか兵どころか人がいる感じもしないなぁ……さて、どう動こうか? 一弦」

 

「……この軍は、白蓮さんの軍でしたよね?」

 

洛陽に到着した反董卓連合軍。

しかし白蓮達同様、袁紹をはじめとした他の軍も皆洛陽のあまりの静けさに戸惑っているのか、軍議もなければ命令もない状態が続いている。

 

「このままいくとたぶん……先行するのは北郷達なんだろうな」

 

そんな状態の中唯一洛陽の情報を持っている白蓮達は、どのようにして董卓と賈駆の安全を確保するかという話し合いを続けていた。

 

「そうですわね。先の戦いで恋ちゃん…呂布を捕らえてしまった事で北郷軍は名声を得てしまいましたから。妬み半分、威力斥候的な意味合い半分でそうする可能性はかなり高いのでしょう」

 

「袁紹は馬鹿で有名ですからな。ねねもその可能性は高いと思うのです」

 

「っていうか陳宮さんはなんで話に参加してるっスか? そりゃあたいより頭いいのは分かってるっスけど」

 

「陳宮さんも、洛陽の状況を知ってる人だからね。情報は多いほうが……いいでしょ?」

 

「だな」

 

「そうねん」

 

そんな様子で六人がどうやって安全を確保するかという議論をしていた時だった。

 

「本営より伝令!」

 

袁紹の兵が飛び込んできて、命令を伝える。

 

「北郷軍が洛陽に先行突入する! 公孫賛軍は涼州連合と共に両翼から突入を援護せよ! 出発は一刻後! 至急、準備されたし! 以上!」

 

「ご苦労様です」

 

「ご苦労様っス〜」

 

一弦と瑠那が思いもよらず労われた事に驚いていた伝令兵を送り出すと、すでに白蓮達は対策を練り始めていた。

 

「どうしましょうか、白蓮様。北郷殿がよもやという事は……」

 

「それはないな。呂布ですら生かしてるくらいだ。あいつが董卓達を見つけたところで、危害を加えるなんて事はまず間違いなくない」

 

「それは確かなのですな?」

 

「確かだよ。北郷を幼少から知ってる男が太鼓判押したからな」

 

そう言って白蓮が一弦をみる。

自然と他の皆の視線も一弦に集まると、

 

「はい、断言出来ます。一刀が董卓さんを見つけて事情を聞いたならば……一刀が董卓さんに危害を加える事はありえません」

 

と自信を持って断言した。

そして瑠那も、

 

「それに皆さん御使いさま大好きっスからね。関羽さんとか納得してくれなさそうっスけど、強く反対する事も出来ないと思うっス」

 

と二人の見方の後押しをした。

 

「董卓って子も賈駆って子も女の子なんでしょん? ならあの女の子好きな一刀くんが危害を加えるなんてことある分けないわよん」

 

そして最後に泉が留めの一押し。

 

「むむ……四人でそこまで言うのなら恐らく、大丈夫なのでしょうな」

 

「問題ないようですわね」

 

陳宮と蘭華も納得したようで、とりあえず一安心と言ったところ。

しかし白蓮は、

 

「しかしそれはそれとしてウチからも、北郷に頼んで突入に参加させてもらおうと思ってる」

 

「「……え?」」

 

つい今し方白蓮達四人の言葉で胸を撫で下ろした二人が顔色を変えるような事を言い出した。

それは二人だけでなく一弦達三人も同じようで、それぞれに首を傾げて白蓮に疑問の視線を投げかける。

 

「え? あ、あぁ違う違う。別に北郷を信用してないわけじゃない」

 

そんな五つの視線を受けた白蓮はその意図を理解すると、慌てて両手を顔の前で手を振った。

 

「そうじゃなくてな……陳宮」

 

「? なんです?」

 

「お前を呂布に会わせる為の口実だ」

 

「…………………………へ?」

 

陳宮は一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。

 

「だから、お前を“董卓の顔を知ってる人間”って建前を連合側に立てておいて向こうに送る。で、ついでに呂布に会ってくればいい。一応この連合を組んでる間はウチの降将扱いになってるからすぐに二人一緒って訳にはいかないけど、一度あって互いに無事を確認するくらいいいだろ?」

 

そう言って人懐っこい笑みを浮かべる白蓮をみた時陳宮は、ようやく話を理解した。

 

「……呂布殿に……会ってきてよいのですか?」

 

「ああ」

 

こんなにすんなり実現するとは、思っていなかった。

白蓮が言ったとおり陳宮は降将扱いとなっていて、自分勝手に動き回るわけにはいかない。

この戦いの真相がどうであれ各軍はそれぞれ終わるまで忙しいだろうし、その話を持ちかけた時の白蓮の反応を見ても、やはりすべてが落ち着いてからになるのだろうと半ば諦めていた。

命を助けられた陳宮にはその当然の事情に口を挟むことなど出来なかったし、むしろ前向きな返答だけでもまずは上々と思っていたくらいだったのだ。

それが今、降って間もない今いきなり“呂布に会って来い”と言われた事に陳宮は本気で、思考がついていかなかった。

つまりそれほどに……

 

「ふぇぇぇ……あ……ありがとうなのですぅぅぅぅ!」

 

泣けてしまうほどに嬉しかったのだ。

長い袖で目元をぐしぐし拭いながら喜びに咽ぶ陳宮を暖かい瞳で見守る蘭華と泉。

瑠那は貰い泣きしてしまったのか、関係もないのにうるうると瞳を潤ませている。

 

「で、さすがに陳宮一人でいかせる訳にはいかないんだけど……」

 

「僕が、行きます」

 

「か、一弦?」

 

「僕ならば、多少の無理も通用しますから。一刀とは……長いですからね。白蓮さんの好意は絶対に、無駄にさせません」

 

「し、嶋都殿ぉ」

 

これは完全に誤算、というよりも考えていなかった。

白蓮としては一刀と顔見知りの瑠那を考えていたのだが、確かに一弦であれば話は通しやすい。

候補を無難な挙げられた事に安心しきって、最有力候補を完全に自分の隣にいるものとして候補者から除外してしまっていた白蓮が自らの首を絞めた格好になった。

しかし……

 

「瑠那ちゃんも、最初の戦いで名前を上げました。僕も……これくらいは白蓮さんのお役に立たせてください」

 

一弦に真剣にそう請われてしまっては白蓮は……

 

「う、うん……頼んだ」

 

そう応えるより他に、道などなかった。

がっくりと肩を一度落とした白蓮は、仕方なく考え方を改める。

 

(そう。これは一弦を信頼してる証なんだ。私は一弦にしか任せられない仕事を任せたんだ。一弦だって喜んでくれてる)

 

かなり無理やりに気を取り直した白蓮。

 

「じゃ、じゃあ私と瑠那、蘭華は命令どおり北郷軍を補佐しつつ突入。最終的には北郷か私達のどちらかが洛陽の城を制圧する事が目標だ。いいな?」

 

「御意っス!」

 

「了解いたしました」

 

「泉も私達と一緒に来てくれ。万が一民に被害が出ていたら、その救護に回ってもらいたい」

 

「分かったわん♪」

 

「それじゃあ……」

 

そこまで指示を出してから白蓮はもう一度、一弦に視線を向ける。

 

「一弦、お前は陳宮を連れて北郷軍へ。上手く話を纏めて陳宮を呂布と会わせた後は、私達と同じく董卓と賈駆の捜索、及び二人の無事の確認、確保だ。その…………任せたからな?」

 

そんな白蓮に一弦は、口元に笑みを浮かべて応えた。

 

「御意。必ず期待に……応えてみせます」

 

「……無事に戻ってこいよ?」

 

「もう……白蓮さん達の所以外に僕が“帰る”場所は、ないです」

 

「……よしっ! 各自準備にかかってくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む? 何奴……って、一弦殿っ!」

 

一刀達北郷軍が突入準備を丁度終えた頃、何の前触れもなく陣を訪れた一弦と陳宮を最初に見つけたのは愛紗だった。

すぐに駆け寄ってくる愛紗に会釈で応えた一弦は早速、

 

「愛紗さん、申し訳ないんだけど一刀に緊急の話があるんです。案内してもらえませんか?」

 

と頼んだ。

一刀と一弦の関係を知ってから一弦の事を実質“義兄”だと認識している愛紗は、一弦の頼みを当然の如く聞き入れてすぐに一弦達を一刀の天幕へと案内する。

 

「ご主人様、失礼致します」

 

「愛紗? 何か問題でもあった……って一弦っ!?」

 

「久しぶり、一刀。元気そうだね」

 

「あ、あぁ……で、急にどうした? 何か緊急の用……って、ん?」

 

久々の再会の挨拶を簡単に済ませた二人。

突然の一弦の来訪の意図を聞こうとした一刀はそこで、一弦の後ろに隠れるように立っている小さな人影に気が付いた。

 

「この娘は誰? 確か前会った時にはいなかったと思うんだけど……」

 

「この娘は……陳宮ちゃん、自己紹介を」

 

「は、はいなのです。天の御使い殿、お初にお目にかかるです。私は姓は陳、名は宮、字は公台と申すもの。この度は董卓殿の顔を知るものとして、こちらの軍にご協力すべく参りました」

 

それなりの地位についていた彼女らしく些か尊大に見られかねない挨拶だったが、一生懸命下手に出ようとしているあたりはやはり、彼女の本来の目的の為にここで一刀の機嫌を損ねるわけにはいかないというあたりを理解しているからなのだろう。

一刀は一刀で、そんな陳宮をなにか愛らしい小動物でもみるかのような穏やかな目で見ていたが、

 

「……一弦、悪いんだけど俺、董卓を探し出して連合軍に渡したりとかそういう事、考えてないから」

 

と、真剣な表情で親友と向き合った。

 

「一弦達は知らないかも知れないけど、なんか今回の連合結成と洛陽の噂には裏があるように思えて仕方がないんだ」

 

「ご、ご主人様っ!? よ、よろしいのですか? 一弦様はともかくこちらは……」

 

「いいんだ愛紗。一弦が連れてきたって事は、それなりに信用しているんだと思うから」

 

「そ、それならばよろしいのですが……」

 

手の内を簡単に明かしてしまう一刀に焦った様子で愛紗が止めに入ろうとしたが、一刀がそう言って笑いかけると途端に頬を染めて引き下がってしまう。

そんな様子を不思議なものでも見るように眺めていた陳宮。

そんな陳宮をみて小さく微笑みながらも一弦は、話を先に進めるべく口を開いた。

 

「結論から言うよ、一刀。さっきの陳宮ちゃんの言葉は、建前なんだ」

 

「……は?」

 

「本当の目的は……一刀に頼み事があって」

 

「あぁ、なに?」

 

「陳宮ちゃんを、呂布さんと……会わせてあげてもらえないかな?」

 

「あぁ、いいよ。愛紗、恋を呼んできてくれないか?」

 

「はっ! 一弦殿、少々お待ちください」

 

「ありがとうございます」

 

とんとん拍子に話が進んでいく。

 

「じゃあ一弦、待ってる間こっちでお茶でもどうだ?」

 

「一刀が、入れてくれるの?」

 

「俺としては久々にお前に入れてほしいけどな」

 

「ちょっ……ちょっと待つですっ!!!!」

 

しかしそんな穏やかな調子の話の進み具合に納得がまったくいかない、ある意味この場にて唯一常識的な小さい娘が雄叫びを上げた。

きょとんと首を傾げる一刀と、見えている口元が明らかに苦笑している一弦。

どうやら一弦には陳宮が混乱する事が予想出来ていたようだ。

 

「陳宮ちゃん、ちょっと落ち着いて……ね?」

 

「何を落ち着けというのですっ!? こんなあっさり話がまとまるなど聞いておりませんぞっ!?」

 

「……だって俺と一弦、幼馴染だし」

 

「それだけですとっ!? それだけで捕らえた敵将と友人についてきた得体の知れない者を簡単に会わせるというのですかっ!?」

 

「捕らえた敵将っていうか……」

 

陳宮の興奮振りに少々一刀が引き気味になっていたそんな時だった。

 

「ただいま戻りました」

 

「……ご主人様、呼んだ?」

 

まったく空気を読まない間で、場をさらに混乱させかねない要素が混乱せざるをえない台詞を口にしながら入ってきた。

 

「あ、恋。この娘が恋に会いたいって…「ちんきゅーきぃーっくぁっ!?」…な、なんだっ!?」

 

「陳宮ちゃん、それはものを頼んだ人間のする事じゃ……ないよ」

 

入ってきた呂布。

その“恋”という真名を何のためらいもなく呼んだ一刀に対しての怒りが跳び蹴りという形になって現れた陳宮だったが、空中で一弦に首根っこを掴まれて捕獲された猫の様相を呈している。

 

「で、ですが嶋都殿ぉっ! 今…今こやつ…じゃなくて北郷殿が呂布殿の真名を――!」

 

「…………ちんきゅ。ご主人様に乱暴は、だめ」

 

「し、しかし呂布殿ぉ〜…ってご主人様ですとっ!?」

 

「……今は、ご主人様の仲間」

 

「呂布殿ぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

 

恋できょとんと首を傾げるのみで、泣き出してしまった陳宮相手にどうしていいのか分からない様子。

しかし誰も、そんな恋と陳宮の間に口を挟もうとはしなかった。

一弦は二人の関係を聞いていたし、一刀は一刀で陳宮の恋に対する気持ちがなんとなく感じ取れていたから。

そして愛紗もまた、一刀が口を挟まないのならばと先程から陳宮の口をついて出てくる一刀に対する暴言とも取れる言動を懸命に聞き流していた。

 

「呂布殿はぁ……恋殿は何故に……ぐずっ」

 

「?? ……ご主人様、弱い人助けたい。友達助けたい。恋も、友達助けたい。月達、助けたい」

 

「……ひぐっ……だから、ですか?」

 

「……ご主人様、恋の友達助けてくれるって言った。恋がいれば、もっといっぱいの友達助けられるって。だから、仲間になった」

 

断片的な言葉の組み合わせ。

しかし恋のその気持ちは、簡単な言葉だけにそれだけ直接的に伝わってくる。

傍で聞いていた一刀達三人がそうなのだから、直接その言葉を投げかけていた相手である陳宮にはこれ以上ないほど恋の気持ちが伝わっただろう。

 

「……それが……北郷殿の言葉が、嘘だという事はありえないのですか?」

 

「……ご主人様は、恋を信じて縄、解いてくれた。武器も、返してくれた。命、かけてくれた。だから、信じる」

 

「っ!? ……そう、ですか。分かったのです」

 

「……??」

 

涙を拭って、それ以上何も言わないと引き下がった陳宮。

恋は相変わらずどこか戸惑ったような表情を浮かべているが、陳宮がどこかすっきりしたような表情を浮かべている事に安心したのか何も言わない。

そして……

 

「一刀、愛紗さん、それに呂布さん……頼み事、聞いてもらえるかな?」

 

一弦が改めて、三人の前に立つ。

そして、一度身を引くように一弦の後ろに戻った陳宮を再び前に押し出して頭を下げる。

 

「近々、陳宮ちゃんをそちらで……引き取ってもらえないかな」

 

「ん? あぁ、いいけど」

 

「「ってだからなんでそんなに簡単に決めるのですかーっ!?」」

 

「……??」

 

一弦の頼み事をまたも簡単に了承した一刀に、今度は陳宮に加えて愛紗も同時に突っ込んだ。

 

「だって……一弦がそう申し出たって事は、白蓮は承知済みだろ?」

 

「それは、もちろん」

 

「で、恋にとって陳宮は……」

 

「……ともだち」

 

一弦、恋共に一刀の問いによどみなく答える。

 

「なら、別に問題はないだろう? 白蓮も一弦も、陳宮と恋に一緒にいさせてやりたい。恋も、陳宮と一緒にいたいだろ?」

 

「……うん」

 

「陳宮は?」

 

「そっ、それは出来る事なら……」

 

「愛紗は……二人を引き裂きたい?」

 

「なっ!? わ、私はそんなつもりでは……」

 

「うん、わかってる。愛紗は優しい女の子だってわかってるよ。意地悪な聞きかたして、ごめんな?」

 

「ふぁぁ……ご主人様ぁ」

 

隣の愛紗の髪を優しく、梳かすように撫でて宥めすかした一刀。

そんな一刀を見て一弦は、

 

(白蓮さん、良く見てる。確かに……御当主、余計な事教えましたね)

 

と思い出し笑いを浮かべていたが、すぐに気を取り直す。

 

「では……連合解散後、お互いに一段落した頃で……いい? 一刀」

 

「あぁ……恋と陳宮も、それくらいまでは我慢してくれな?」

 

「……わかった」

 

「ぜ、是非もないのです。恋殿とまた一緒にいられるのならそれくらいなんでもないのです」

 

「うん。じゃあ感動の再会も終わった事だし、出発の準備にいこうか。一弦達も、一緒に来てくれるんだろ?」

 

「もちろん」

 

「よしっ! じゃあもう一頑張りいくぞっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの……嶋都殿」

 

「? どうしたの? 陳宮ちゃん」

 

「こ、この度は本当に……その……ありがとうございました」

 

「……良かったね。一刀も、きちんと約束してくれて」

 

「は、はいなのです……つきましては、嶋都殿に、というか公孫賛殿の軍の皆にぜひともその……真名を、お預けしたいと思いましてな」

 

「……いいのかな?」

 

「も、問題ないのです。降将の身分で呂布殿とお会い出来ただけでも感謝してもし足りないくらいでしたのに、北郷殿と掛け合っていただいて呂布殿の元に戻れる事になって……むろん、事情はわかっておりますので、時に関して贅沢を言う気はないので……ぜひ、お受けいただきたいのです」

 

「分かりました。では……僕は真名を持たないので、親に貰った一弦という名が真名代わりです。 今度はこちらで……呼んでください」

 

「お、お受けするのです! ねねの真名は音々音。音が三つで音々音、なのです。暫くの間、よろしくお願いするのですよ、一弦殿」

 

「よろしく、音々音ちゃん。さしあたっては董卓さんの捜索、あてに……させてもらうね」

 

「はいっ! きっとお役にたってみせますぞ、一弦殿っ!」

 

 

 

 


あとがき

 

て、展開が遅いorz

まぁそんなこんなで案外すんなり会えちゃいました、ねねと恋。

でも本格的に北郷軍にいくのはもうちょっと先、って事で。

一弦くんが北郷軍に出張したのは、白蓮さんの乙女チックパートをもうちょっと増やそうかなぁなんて軽い気持ちでw

今回は個人的に陳宮のお話だったんで、まぁこんな感じでもいいかなぁと。

拠点パートだとでもとっておいていただけると助かりますww

では、洛陽制圧まであとちょっと。

その後はとうとう一弦達の身に……って感じでお送りできると思いますので、よろしければ次回もお付き合いくださいませ。

それでは、今回はこの辺で失礼致します。




思ったよりも簡単に対面できたな。
美姫 「まあ、恋が一刀の元にいたからではあるけれどね」
一弦も一緒に行動するとなると……。
美姫 「次回辺り、相当ピンチになるかもね」
う〜ん、次回が早くも気になります。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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