『新・恋姫†無双 〜降臨し不破の刃〜』




第二話


























「おぉ、孫権よ。此度はご苦労であったな」

「……はっ」

「なにやら苦戦しておったとの報告を受けているが? 江東の虎の娘も大した事はないのかの?」

「……面目御座いません」

「挙句旅の者に救われたと聞いたぞよ? そやつは今どうしておる?」

「っ……い、今は怪我の療養中です。庇っていただいて大分やられてしまった様で……」

「ふむ……本当かや? 周瑜」

「…………はっ」

「そうか。では回復したら一度こちらへ連れてくるがいい。“家臣”を助けてもらった礼をせねばならんしの。では、下がってよいぞよ」

「……はっ」

「…………」


























「……ん……」

意識がまず浮上し、自分が何処かに横たわっている事を確認する。
薄く目を開くと、何かに遮られて一拍置かれたような、柔らかい光が差し込んできた。
ゆっくりと目を慣らすように開いてみると、

「……ベッド……か?」

俺は自分がベッドのようなものに寝かされている事を確認した。
光を遮っていたのは、その床を囲うように上から下がっているカーテンのような幕。身分の高い人間のものについている天蓋のようなものらしい。

「そういえば……中国にもあったか」

西洋風のものが何故、と思った俺だったが、すぐに以前美由希が晶やレン、かあさんになのはまで巻き込んで大騒ぎしながら見ていたキョンシーの映画を思い出した。
たしか、あの映画で中国のベッドにも天蓋がついていたはず……しかし……

「……何故、身分も知れない俺のような人間が……」

天蓋付きの床というのは、得てして身分の高い人間や権力、財力のある人間が持つものと相場が決まっている。
そんな疑問が頭を過ぎったとき、

「……ん?」

俺の寝かされている部屋の外に感じたその人の気配で、俺はようやくすべて思い出した。
ここが高町家でも、海鳴でも、ましてや日本でもなく……

「あ、あの……恭也……目は、覚めた?」

それどころか俺が今まで生きていた時間軸ですらないという事を。

「……そうだった」

俺は、孫権や甘寧が女性になっている三国志の世界にきてしまったんだった。


























現状を完全に思い出した俺は、とりあえず遠慮がちな先ほどの声に返答する事にする。

「ああ。起きている」

なるべく威圧しないように、出来るだけ柔らかく響くように心がけて声を出してみると、その声の主は恐る恐るといった感じで床の周りの幕をめくってこちらを覗きこんできた。

「どうやら、わざわざここまで運んでもらったようだな。ありがとう、蓮華」

少々警戒されているようなので、翠屋で接客する時のように、また柔らかい印象を与えるよう心がけてみる。
まぁ、床のある場所に男と二人きりという状況では無理もないのだろうが、とりあえず話くらいはさせてもらいたいしな。
というわけで頭上の貴方もそう殺気を飛ばさないでほしいんだが……まぁいいか。

「体はどう? ゆっくり休めたかしら?」

俺が少し頭上の気配に意識を向けている間に、蓮華は幕を完全に引いて柱に括りつけ、床の端のほうに腰掛けていた。
どうやら警戒心はある程度払えたようだが……だからなんで皆俺が表情を和らげるとそんなに顔を赤くするんだ?

「あぁ。分不相応な感じはするが、おかげでゆっくり休ませて貰ったよ」

とりあえずは普通に話してくれるようなので、まずは介抱してくれた事に礼を。

「そう。良かったわ。今は怪我人が多くて、仕方なく私の床を使ってもらったんだけど」

……ちょっと待て。という事はあれか? 俺は今、呉の王、いや女王か? いや、それはともかく、俺は今あの孫権の床に寝ているのか? しかも……

「……どうしたの?」

俺の目の前にいる孫権は、どう見ても褐色の肌の、世辞抜きで美少女といって差し支えない女性だ。
俺相手ではそんな対象になりえもしないだろうが、さすがに年頃の女性の床に寝ているというのはまずくないか?
道理で彼女が殺気立っているわけだ。

「それはすまなかった。俺のような男を自分の床に寝かせるなど、良い気分ではないだろうに……」

「そっ、そんな事ないわっ!」

「そ、そうか?」

「えっ? あ、その……命を助けられたのに床くらいでどうこういうのは……とっ、とにかく私がしたことなのだから、恭也は気にしないでいいのよ」

むぅ。どうやらかえって気を使わせてしまったようだ。

「そうか……ありがとう、蓮華。もう大丈夫だから、何処かに座って話を……」

「えっ!? ま、まだ駄目よ恭也! 貴方、血の流しすぎで倒れたんだから。傷の手当はきちんとしてもらったから、まだ動いちゃ駄目」

何処かで聞いたような台詞だな。
というか、俺が怪我をする度に家族やフィリス先生に言われている言葉か。
こんな見知らぬ土地でまで、俺の体を気遣ってくれる人間がいるというのは……なんというか、その……

「……嬉しい、な……」

「……え?」

!? しまった。声に出していたか。気が緩みすぎているな。
しかしまぁ、言ってしまった以上は最後まで言うしかあるまい。

「いや、見ず知らずの俺の体を本気で心配してもらえて、嬉しい」

「っ!?」

ん? 急に真っ赤になってしまった。
前々から思ってはいたが、もしかして俺は人の血液を顔に集める能力でも……あるわけないな。そんな馬鹿げた能力。

「とにかく、気を失ってしまって話が出来なかったが、色々と話しておかなければいけない事がある。突拍子もない話ばかりで信じてもらえないかも知れんが、聞いてもらえるか?」

まぁ、実際問題として、目の前の人間が何処か違う世界からきましたなどと言ったところで信じろというほうが無理な話だ。
俺の周りの海鳴の人間でもないかぎり、十中八九警察に連絡されて終わりだろうな。
しかし……

「恭也。私は恭也に命を救われたのよ。他の誰がなんと言おうと、私は貴方を信じるわ」

蓮華はそう言って、柔らかく微笑みながら俺の手を包み込んだ。
その……なんというか……信じてもらえるのは嬉しいんだが……

「だから、安心して。私は私のすべてをかけて、貴方に救われた恩に報いるから」

いや、蓮華さん? そう言いながら距離まで詰められてしまうと……

「そ、それは嬉しいんだが……これは少し恥ずかしくないか?……」

「…………………………え?…………………………っ!?」

よかった。ようやく気がついてくれたらしい。気がついてくれたのは嬉しいので、とりあえず早めに次の行動を取ってくれ。
せめてこの両手を離してくれないと……

「お・ね・え・ちゃん?」

…………遅かったか。

「しゃ、小蓮!?」

「小蓮!? じゃないでしょ!? 心配だから様子をみてくるなんて言って出て行ったと思ったら、何どさくさに紛れて良い感じになってるのっ!?」

い、良い感じ?

「そ、それは……」

「両手握って傍に擦り寄っちゃって! 後はちょっとよろけたフリして体投げ出して凭れかかっちゃえば完璧ねって作戦でしょっ!? ちょっとシャオよりおっぱい大きいからってそんな色仕掛け使って!」

……なにやら壮大な誤解をしていないか? このませた幼女は。

「後は勢いに任せて責任とって貰えば恭也は私のものって具合でしょ!? そうはいかないんだからっ!」

「小蓮!? いい加減にしなさい! そんな事するわけないでしょ!?」

「どうだかっ。だったらなんで椅子があるのにわざわざ床に座ってるの!?」

椅子……あるな、確かに。
って、それどころじゃないな。これでは一向に話が進められない。

「シャオ」

「うにゃ!?」

俺は手を伸ばしてシャオの頭を無造作に掴み、ぐりぐりと少し乱暴に撫でてみた。
これで俺のほうに注意が引ければ……って蓮華? 何故俺を睨む?

「ちょ、ちょっと恭也? 気持ちいいけどちょっと乱暴だよっ。女の子はもっと優しく扱ってくれないとっ」

「それはすまなかったな。こうでもしないとシャオが俺の話を聞いてくれそうになかったから」

よし。ひとまず予定通りだ。
後はなのはにするのと同じように……

「シャオ。蓮華の件は誤解だ。俺が見知らぬ所にいきなりやってきてしまって少々不安を感じていて、蓮華は励ましてくれていただけだ」

「……それじゃあ誤解じゃないじゃない」

む? 失敗したか?
それなら……

「いや、俺がここにいる事情を説明しようとしたんだが……信じてもらえるかどうか不安で、躊躇ってしまっていたんだ。だから蓮華は励ますようにして、俺に話すきっかけを与えてくれようとしたんだと思うぞ? そうだ。シャオにも聞いてもらいたいんだが、いいか?」

もう少し理屈を増やして説明してみたが、これならどうだ?
ここまで細かく言えば、頭のいい子ならばきちんと分かってくれるんだが。

「むぅ……まぁ今回は大目に見てあげる。恭也は全然気付いてないみたいだし」

「? そうか」

良かった。やはり頭の回転の速い子は助かるな。こういう時、我侭や屁理屈を言わずにきちんとこちらの話を理解してくれる。

「じゃあシャオ、思春呼んでくるね? ちょっと待ってて」

「あ、シャオ。それには及ばない」

駆け出していこうとしたシャオを俺は呼び止めた。

「? どうして、恭也? 思春にも聞く権利はあると思うんだけど……」

「いや、そうじゃない蓮華。思春なら……」

俺の言葉を「思春には話す必要がない」と取った蓮華は少し不審げに首を傾げていたので、俺はそう言って自分の頭上を指差した。

「初めからそこで全部見ている」

「「……え?」」

「そろそろ話を先に進めたいんだが、降りてきてくれるか?」

俺が頭上にそう声をかけてすぐ、蓮華とシャオの後ろに人影が降り立った。

「「思春!?」」

「……不破恭也、貴様初めから気付いていたな?」

「まぁ、あれだけ殺気をぶつけられればな」

降りてきて早々、不満そうに俺を睨む思春に、俺はそう言って苦笑して見せた。
まぁ、さすがに気付いていて黙っているのはやりすぎだったか。

「そう睨まないでくれ。そちらも、蓮華と殆ど同時に部屋に入ってきたのにずっと監視してたんだろ?」

「え? ほ、本当なの? 思春」

「あ、その……申し訳ございません蓮華様」

まぁ、最初からすべて盗み見されていたと知ればいい気はしないだろうな。
蓮華は……かなり困ったような顔をしているな。
思春も思春で後ろめたさが体から滲み出ているし……

「ねぇ思春!? 最初から見てたんでしょ!? お姉ちゃん恭也になんかしたっ!?」

「え? あ、小蓮さま…そ、その……」

シャオはまた誤解して思春に詰め寄っている。
というか思春も、そこで言いよどむと逆に何かあったように思えるからやめてくれ。
なによりこれでは話が進められん。

「蓮華」

「っ!? な、なに? 恭也」

「話、しないほうがいいか?」

「え? あ、いえ……ちょっと小蓮、思春! 恭也から大事な話を聞かないといけないんだから、ちょっと静かにしなさいっ!」

やはりな。一番押しが弱いように見えるが、さすが孫権。こういう時はやはり最高権力者だな。
シャオも思春も、蓮華の言葉に思わず息を呑んでしまう。

「恭也、ごめんなさい。話してもらえるかしら?」

さて、この三人は俺の話を、本当に何処まで信じてくれるのだろうな?



























「ふむ……つまり不破恭也。お前はここではない世界の住人だと」

「そこでの事故で、気がついたら私達の世界に来ていたっていうのね?」

「で、やられそうになってるお姉ちゃんを見て、訳も分からないのに助けに入ってくれたんだ?」

……ん?なんだ? なにやら全肯定されているような……

「ま、まて。三人共、俺が言うのもなんだが、疑わないのか?」

「……え? なんで?」

「言ったでしょう。私は貴方を信じるって」

……シャオ……蓮華……

「私はお二人のように純粋に信用は出来ん」

思春……俺がいうのもなんなんだが、まともな反応をしてくれる人間がいて助かる。

「しかし、お前の素性に関しては、ことさら嘘を言っているようには聞こえない。さらに言えば、先日穏…仲間が町でおかしな予言を聞いていてな。聞いたその時はおかしな話だと思ったが、今にして思えばお前の事を示していたのだとすると納得がいく」

ん? 予言だと?

「予言って言うと……あぁ。穏が本を買いに行った時に聞いたという、あれね」

「はい、蓮華さま。茶請け話かと思っていましたが、考えてみればこれほどまでに符合するというのもおかしな話です」

「ねぇねぇ思春。って事は、恭也があの予言の人って事なの?」

「はい。まだ推測の域を出ませんが、おそらくは…「ちょ、ちょっと待ってくれ」…なんだ、不破恭也」

いや、なんだは俺の台詞だろう?

「三人とも。予言、とはどういう事だ? 誰かが、俺がこの地にやってくる事を予め知っていたと?」

なんの冗談だ?
偶発的にここに来てしまった筈の俺の出現が、予言されていたなんて。

「ごめんなさい。詳しい話は知らないのだけれど、そんな話を聞いた人が、たしかに私達の仲間にいるのよ」

「うん。シャオも聞いたよ? はっきり恭也が来るって予言じゃなかったみたいだけど……えっと……なんて言ってたっけ?」

「それが……私もそれらしき話を聞いた覚えはあるのですが……何しろ、その時は茶請けの与太話程度の認識しかなかったもので……」

つまり早い話が、皆正確には覚えていないわけだ。
それは話を聞いてきた人物が、よほど普段からそういう“胡散臭い”類の噂話を仕入れてくる人なのだろう。俺の周りにも、まずは話を疑ってかからなければいけない奴がいたしな。そう、俺がここにくる原因になった奴とか。

「まぁ、覚えていないのならそれは仕方ない。俺を、その話を聞いてきた人物に合わせてもらえるか?」

まぁ、その“予言”とやらが本当に俺をさしているものかどうか確認してみないといけないしな。帰る手がかりになるかもしれんし。

「そ、そうね。じゃあ小蓮、思春。悪いけど穏を呼んできてもらえる?」

「……はい。畏まりま…「ちょっとまったぁ!」…小蓮さま?」

「なんで穏呼びに行くのに二人で行くの!? 誰かに頼めばいいじゃない!」

……たしかに。

「どうせシャオ達呼びにいかせてる間に恭也と二人っきりで……なぁんて考えてたんでしょ!?」

「なっ!? しゃ、小蓮! 貴方私をなんだと思って……」

「いろぐるいのしきまっ!」

…………………………はい?

「っ!? 小蓮!?」

「意味わかんないけど女の子には悪口だって穏が言ってたもんっ!」

…………いや、男にも悪口だが…………って、そうじゃないだろ。

「……思春」

「言いたい事は分からなくもないが、原因はお前だ。お前が何とかしろ。私は穏をここに呼んでくる」

…………………………逃げたな。

「戻るまでにお二人をどうにかしておけよ、不破恭也」

…………無茶を言ってくれる。
まぁ…………よく分からないが、話の中心が俺である事は確からしいな。
しかたがない。どうにか出来るか分からんが、努力はしてみるか。

「……場合によっては、少々長い付き合いになる可能性もある訳だしな……」


























「……穏」

「? はいは〜い? なんですかぁ〜?」

「蓮華様が連れて来た男……そろそろお前を訪ねるだろう。お前も、きちんと見定めてくれ」

「ん〜?……あぁ、例の“予言”の方ですね〜」

「あぁ……雪蓮亡き今、これ以上呉にとっての不安材料はよろしくない。私は私で暫く探りを入れる旨、蓮華様達にもお伝えしておいてくれ」

「了解しましたぁ〜…………でもぉ……」

「……なんだ? 穏」

「もう少し蓮華様を信じてもいいと思いますよぉ〜? だって、あんな生真面目な方でもあの方は雪蓮様の妹君なのですから〜♪」

「……ふっ……そうかもしれんな。しかし、それでも私は……せめて私だけは、なんの確証も無しに受け入れるわけにはいかんのだ」

「……難儀ですねぇ」

「雪蓮にも似たような事、言われたよ。もっと率直で遠慮のない言葉だったがな」

「……そですかぁ」

「……では、よろしく頼んだぞ」




あとがき

もう出来上がってるものの手直しだけなのになんでこんなに間隔があくんだろ?
それはね、私に文才がまったくないからだよ。
あぁ、そっかぁ!
……悲しくなりますね、これ。
まぁともかく、加筆版第2話完成で御座います。
ちょくちょく伏線を引いていかないと冥琳が敵役のままで話が進んでしまうので、結構苦労してます。
さすがに雪蓮を生き返らせてしまうとこのお話が根底から崩れ去ってしまいますのでそういったわけにもいかず……雪蓮ファンの皆様には申し訳御座いませんが、彼女は草葉の陰から見守ってますって事で。
ですので、大まかな流れは以前と一緒です。
今回も以前の物に修正を加える作業はあまりなく、最初と最後の冥琳パートで彼女を敵役から引き戻す線を張っていく作業がほとんどでした。
恐らく次回もそんな感じなのでしょうが……あぁ、今から冥琳登場パートが怖いw
どうやって辻褄あわせようかなぁ……

そ、それでは、この辺で逃げさせていただきます!



蓮華たちには信頼されたみたいだけれど。
美姫 「流石に王の側近たちはすぐにとはいかないわよね」
まあ、当然だろうけれどな。
ここからどうやって信頼を勝ち得ていくのか。
美姫 「それらも含めて、今後の恭也の行く末が楽しみね」
だよな。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」
ではでは。



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