『新・恋姫†無双 〜降臨し不破の刃〜』




第三話





「……不破恭也……たしかに何とかしろとは言った。言ったがな……」

“予言”を聞いたという人を呼びにいった思春が戻ってきた。
もう一つ、こちらに向かっている気配があるので、おそらく見つかったのだろう。
だが……何故、思春は怒っている?
姦しかった姉妹、蓮華とシャオは要望どおり“何とか”したんだが……

「……ふぁぁぁぁ……」

「……にゃぁぁぁ……」

うむ。大人しい。

「誰がそんな不埒な真似をしろと言った!」

「……まて。どの辺りが不埒なのか説明を願いたい」

俺はただ、二人の頭を撫でているだけだろうが。
そしてそんな所にもう一人乱入……って、なんだあの人は?

「し、思春ちゃぁ〜ん……速いよぉ〜……って、あれ? 蓮華さまと小蓮さまが男の人に頭撫でられてうっとりしてる」

「遅いぞっ穏っ! お前が遅いから蓮華さまと小蓮さまは……お二人は……」

「ま、まってくれ。俺は頭を撫でているなのだが?」

「くそぉ……穏の奴が胸に忌々しい錘さえ抱えてなければこんな事には……」

「思春ちゃんひどぉ〜い。あ、こんにちは〜。私、姓は陸、名は遜で、字は伯言です〜」

……なんと言うか、マイペースな人だな。というか陸遜……か、考えるのは止めよう。

「不破恭也です。貴方が“予言”を聞いたという方ですか?」

「はい〜。あの時は誰にも信じてもらえなかったんですけど〜……」

……ん? 何故近寄ってくるんだ? ……って、ち、近い。

「貴方が来てくれてよかったです〜。おかげで私、嘘吐きにならなくてすみました〜」

あ、いや、それはいい。とても良い事だ。しかし……

「……穏……貴女……」

「恭也の手ぇ取っちゃ駄目ぇ〜!」

折角大人しくなったのに……


























「……で、陸遜さん。貴方の聞いた予言というのを、覚えている範囲内で結構ですので聞かせていただけますか?」

とりあえず、少し強引に陸遜さんの手を解いた俺は急いで四人から少し距離を取る。
これまでの経験上、俺は女性の傍にいると碌な事がないからな。
で、なんとか落ち着いて話を出来る状態になったのを幸いに、半ば強引に話を切り出した。

「えっとぉ……じゃあ聞いたままお話しますね」

そう言った陸遜さんの表情から、心なしか先ほどまでのマイペースさが消えた。……なるほど。やはり陸遜、という事か。
そして、少し変わった空気を感じとったのか大人しくなった孫姉妹。さすがに人の上に立つ人間だけあって、肝心な時と場合は心得ている、か。





(予言……実は覚えてなかったのよね。ちゃんと聞いておかないと……)

(予言ってことは、恭也のここでの事を言ってるんだよね? ちゃんと聞いておけば……えへへっ♪)





……表情が……緩んでないか? 特にシャオ。

「“異なる地より降臨し漆黒を纏う男。
王の危機を救いし双剣の男。
かの者、守護の信念を持つ男也。
その身の傷とその信念を、決して忌む事なかれ。
傷は全て男が身を呈して護り続けた者達への想い、信念はそれらを護り通した男の誇り。
その傷を忌む事無く、その男の信念を真に信ずる者あらば、男は必ずその者を護る盾となるだろう。
その盾はいつ如何なる時もその者を護り、如何なる強者にも決して屈する事はない。
その男の身が滅ぶその日まで、護られし者は決して死することはない”」

…………はい?

「ふぅ……以上が私が聞いてきた予言です。一字一句、間違っていないはずですが……それで、貴方は今の予言の人なんですかぁ?」

「い、いや……なんと言うか……かなり誇張されている感はありますが…「「間違いないわ(よ)っ」」…蓮華、シャオ?」

「“異なる地より降臨し漆黒を纏う男”って、ここじゃない所から来た真っ黒い服の男って事でしょ? 恭也、見たまんまじゃん」

「それに、“王の危機を救いし双剣の男”って件。確かに恭也は私を危機から救ってくれたわ」

「それに信念云々は知らんが、お前の傷の事は先ほど聞いた話に符合している。お前が前もってこの話を知っていたのでない限り、この予言はほぼ間違いなくお前自身の事だろう」

思春まで……
まぁ、誇張されていると言っただけで、概ねはそのとおりだな。
後ろのほうは……まだ分からんが。

「陸遜さん、本当にそれで全てですか? 俺の来た場所や、そこに戻る方法などは聞いていませんか?」

「えっとぉ……」

俺の問いかけに首を捻る陸遜さん。

「きょ、恭也帰っちゃうのっ!? 駄目だよ恭也っ! まだ会ったばっかりなのに!」

「小蓮、止しなさい。恭也にだって家族も、帰る場所も……あるのよ」

いや、だからそもそもその帰り方が分からないんだが。
それに……頼むからそんな顔しないでくれ。
別れを惜しんでくれるのは嬉しいが、蓮華……涙目は反則だ。俺が泣かせている様でやり切れん。
それにシャオ。シャオは……なんと言うか、なのはに頼まれているようで断りきれん。

「帰る場所があるのなら帰れ。お前の家族や友も、お前の身を案じているやも知れんぞ?」

いや、思春。
そう言ってくれるのは有難いのだが……何故所々に棘を感じるんだ?
それに俺の身を案じている人がいる事に関して何故疑問系なんだ? それは、俺は交友範囲はあまり広くないが、それでも身を案じてくれる人はいるぞ。

「いや、だからな? 帰り方が分からないから陸遜さんに聞いているんだが…「あっ!」…陸遜さん?」

「い、いえ〜。……特に何も……」

……そうか。何も手がかりはない、か。
なら仕方がない。とりあえずは現状に身を置くしかなさそうだな。
まったく。あの馬鹿親父との放浪の旅の所為で俺自身、突発的な事故に強くなってしまっている。
これは感謝すべきなのか……

「あ、あのぉ〜」

「あ、はい。すみません。少々考え事を……で、なんでしょう?」

「いえ、ちょっと個人的な見解を言わせて頂いてもいいですかぁ?」

ふむ。陸遜さんの見解、か。

「……お願いします」

「えっと、不破恭也さんが今、この呉に来たのにはそれなりの理由があるんだと思うんです」

……完全に事故ではない、と言うのか?

「お聞きになったかどうか分かりませんが、今この呉は先代の孫策様が亡くなったばかりで国は袁術さんにのっとられてしまっていると言っても過言ではない状態です。あ、いえ、蓮華さまの所為と言っている訳ではなく……」

「……解っている」

……なるほど。
今は孫呉が袁術の客将扱いの時なのか。
……ん? 待てよ? あの時はたしかまだ孫策は存命だったはず……
つまりここは、完全に三国志ではない、という事か。
まぁ、登場人物が尽く女性という次点でそんな事は分かりきっていたが、時代背景にまでズレが生じているとなると……忍の漫画の知識は役に立たない可能性もあるわけか。
しかしまぁ、何はともあれ今は陸遜さんの話だ。

「……自分達を統治する人間の交代で、人心が不安定という事ですか?」

「あ、はい。ご理解早くて助かります〜。で、ですね。今蓮華さまは、まずは国の奪還。そしてその為になるべく目立たずに戦力の増強と人心の掌握をしなければなりません。やっぱり孫家が治めていたほうがって民の人達が思ってくれないと、国を取り戻したところで民は付いてきてくれませんからねぇ。早い話、時代が戦乱なんでやる事山積みなんです〜」

「……はぁ」

「ですからねぇ、そんな時に不破恭也さんが蓮華さま達と戦場で出会ったのは、きっと意味があるんですよ〜」

……意味……意味、か。

「そうだよ恭也っ! きっとシャオに出逢ったのは運命なんだよっ!」

「ちょっと小蓮!? 何で貴方一人なのよっ! 大体命を救われたのは私なんだから、運命というなら私……」

いや、シャオに蓮華? 何故そこまで盛り上がる?

「じゃなくて、恭也。穏の言うとおり、貴方が私の命を救ってくれたのにはきっと意味があるのだと、私も思う。貴方さえ嫌じゃなければ、帰る方法が分かるまで、私達と暮らしてほしい」

「……蓮華」

どうしてこう、嬉しい事を言ってくれるのだろう。
確かに、現状での俺は完全に手詰まり。
行くあても無ければ、帰る道も閉ざされてしまっている。
頼れる人など誰もいない現状で俺に手を差し伸べてくれる蓮華は、土地は無くとも確かに偉大な王で、とても優しい娘だ。

「そうだよ恭也っ! まだお礼もしてないし、ゆっくりしていってよ♪」

「シャオ……ありがとな」

この娘も、俺の現状をきちんと理解している。
わざと明るく振舞って、子供らしく俺を励まそうとしてくれているのだろう。
とても、賢い子だ。

「あ、えと、つまりですね。私は、もしかしたら不破恭也さんは蓮華さま達に、果ては呉に平穏をもたらす為にこの地に現れたんじゃないかって思うんです。予言で、貴方は守護者だって言ってるのも、それなら得心がいきますし〜」

「なるほど。伯言の見解は……すべてに納得がいったわけではないが、たしかに可能性は否定できん。なにより、王を救われたのに礼もせずに放り出してしまっては国の尊厳に関わる」

「ですからね、不破恭也さん。私達としても、貴方がここに留まってくれれば色々助かるんです〜」

「主に小蓮さまの家出癖がなくなりそうだな」

陸遜さん。思春も……って、シャオの家出癖? 何の話だ?
まぁ、そうだな。他に手はない、か。

「蓮華、シャオ、思春、陸遜さん。ありがとう。迷惑でなければ、暫くの間ここにおいて貰ってもいいだろうか?」

「ええ、もちろんよ」

「やったぁ! よろしくね、恭也♪」

「……ふんっ。まぁ、腕は認める」

「よろしくお願いしますぅ」

……ふぅ。
子供の頃から何度となく居候や一夜の宿を頼んだ経験はあったが、さすがに一国の主とその妹、それにその臣下が相手というのは緊張するな。
特に相手は、俺にとってすれば歴史上の英雄だしな。するな、といわれるほうが無理な話だ。
では次は……

「蓮華。シャオ」

「何? 恭也」

「ん? なぁに?」

二人はこれから戦乱の世を生きる身だ。
英雄とはいえ少女は少女。
何よりあの予言、明らかに俺を意味している以上何かの意図がある……はずだ。
ならば……俺は予言のとおり、“盾”になってやろう。
俺は寝台から降り、二人の前に片膝を付いて、八景を掲げた。

「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術師範代、た…不破恭也。これより、この刀に誓い、何時如何なる時も二人を、この身に代えても護る事を誓おう」

あぶないあぶない。つい高町を名乗りかけた。

「……恭也?」

「……ふぇ?」

「かなり略式ですまんが、俺は予言のとおり、護る為に戦う者。この国の世話になる以上、俺がここにいる間は絶対に二人を死なさない。今のは俺の誓いであり、二人への制約だ」

「……つまり……恭也は命懸けで私達を護ってくれるの?」

「ああ。思春がいるのなら必要はないのかも知れんが、これが今の俺に出来る唯一の礼だ」

「別にいいよーお礼なんてっ。シャオは恭也がいてくれるだけで嬉しいもんっ」

そう言ってくれるのは嬉しいな、シャオ。
それに蓮華も、礼などいらんと顔に書いてある。
でもな……

「礼、というのはあくまで名目上だ。この国には思春や陸遜さんの他にも人はいる。その人達への言い分としては、救われた礼というのは妥当だろう。もちろん、路頭に迷わずにすんで感謝もしているがな」

「では……お前が進んで戦う本当の理由とはなんだ?」

やはり思春。お前が一番深く追求してくるな。
正直、この理由で納得してもらえる気はしていないんだが……

「俺はただ、二人に死んで欲しくないだけだ。本当の理由は……俺が戦う理由は、いつもそれ一つだけ。死なせたくないから、その人を護る為に、俺は俺の刀を振るう」

馬鹿げていると思うならそれもいいだろう。
確かに俺の我侭だし、理由としては弱いと感じるかも知れんが……これは俺の偽らざる本心。

「……ありがとう」

「カッコいいね、恭也っ。こうなったら絶対シャオのお婿さんになってもらうんだもんっ♪」

「お前の戦う理由は……今まで聞いた中でもっとも自分に正直で、もっとも崇高だ。これから、よろしく頼む」

「やっぱり、予言のとおりですねぇ」

……そうだったな。
皆、俺の素性を信じてくれる人達だ。
俺の戦う理由も、その信念も、頭ごなしに否定して笑う者などここにはいない。

「改めて……よろしく頼む」










「じゃあ、恭也はこれからシャオの副官ねっ♪」

「ちょ、ちょっと小蓮っ! 貴方王である私を差し置いて……!」

「だってお姉ちゃんには思春がいるじゃないっ!」

「じゃあ今日から思春はシャオのお目付け役にするわっ! 恭也は私付きっ!」

「お姉ちゃんこそ、王様の自覚ないんじゃない!? 入ったばっかりの人をいきなり自分付きにするなんてっ!」

「私は恭也を信頼してるわ。何も問題ないでしょう」

「問題大有りだよっ! 他の将の人達に示しが付かないでしょ!?」

……姦しい。
…………俺は……もしかして、早まったか?

「……思春」

「……だから知らんっ! 自分で蒔いた種だっ! 自分で何とかしろっ!」

「思春ちゃんったら、蓮華さまが不破恭也さんを選んじゃったからって拗ねてますねぇ♪」

「……勘弁してくれ」

「「恭也っ! 貴方(恭也)は私(シャオ)と小蓮(お姉ちゃん)、どっちがいいのっ!?」」

「…………………………本当に」


























「……雪蓮……蓮華様のお傍に、巷で話題になっていた予言にあった“守護者”らしき男がついたよ。穏も中々の好人物で、間違いないだろうと評価していた。流石、人に重きを置かれる蓮華様には人材が集まるな。……だがな、雪蓮。私はあの男が本当に信頼出来る人間なのかどうかを自分の目で見極めさせてもらうよ。お前も知っているだろう? そういう性分なんだ。蓮華様には苦労させてしまうが……あの方は必ずや立派な当主になってくださる。お前よりも立派な当主に、な。だから見ていてほしい。お前と果たせなかった想いは……蓮華様がきちんと継いで下さっているから」




あとがき

もう出来上がってるものの手直しだけなのになんでこんなに間隔があくんだろ?
それはね、私に文才がまったくないからだよ。
あぁ、そっかぁ!
……2度目ですが、やっぱ悲しくなる。
さて、加筆修正版第3話ですが、じわじわと前回書いていたものから外れていく〜。
この外していく作業は、結構楽しい一方悩みどころでもあるんですよね。
今回は最後にちょっと足したくらいなんですが、先に進めば進むほど削って足してが多くなって……
まぁこれもすべて彼女一人のためなんですけどね。
真ルートにするにはこれは必要不可欠な作業って事で、ゆっくりながら頑張らせていただきます。
これにて恋姫連載が三つ目な私ですが、なんとか混同せずにやっていきますのでどうか今後ともよろしくお願いいたします。

それでは、今回はこの辺で〜♪



恭也の境遇及び、今後の滞在も無事に決まったみたいだな。
美姫 「誰の下に付くのかは決まってないみたいだけれどね」
まだまだお話は序盤って所だし、今の所はまだ平穏とも言えるかな。
美姫 「冥琳が恭也を試しそうな感じではあるけれどね」
一体どうなるのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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