『An unexpected excuse』
〜ぼたん編〜
「俺が好きな人はな……」
そこで言葉を一度区切った恭也は、その眼に小さな悲しみを宿して苦しそうに笑ってみせる。
「この世の人ではないんだ」
「そ、そんな……」
「ご、ごめんなさい高町先輩。私達そんなつもりじゃ……」
「いや、いいんだ。しかしそういうわけなので……答えはこれでいいか?」
少し苦しそうに微笑む恭也の言葉に、ファンクラブの面々は皆ブンブンと首肯してその場を去っていく。そして残ったのは忍達恭也に普段から比較的近しい人たちだけになる。
「あ、あの…ごめんね恭也。まさかそんな話だとは……」
代表したのか、事の発端となった忍がそう言って申し訳なさそうに頭を下げた。美由希達もそんな忍に倣って口々に謝っている中、恭也はその中に違った、殺気のようなものを感じて忍達の頭を上げてもらうべく紡ごうとした言葉を飲み込んだ。
(なんだ?何故皆から危険な感じが……)
それもそのはず。申し訳無さそうに頭を下げている忍達の心の中では、
(恋人を亡くして傷ついてる恭也。それが誰なのか、先を越されたのは悔しいけど傷心の今なら……)
(恭ちゃんに恋人がいたなんて知らなかったけど、でも私が心も身体も慰めて……)
(ここで優しい女性として恭也さんを慰めてあげれば皆さんよりも一歩も二歩もリードできるかもしれません♪)
などといった微妙な乙女心と呼んでいただければ幸い的な打算が働いていたりしたのだ。恭也を見る目が何処か獣が獲物を見るような眼になっていたと感じてもそれは決して勘違いなどではない。
恭也がそんな視線に晒されるのに耐えられなくなり始めた時、
「高町恭也さん。貴方、今にとても不幸な目にあいますよ……」
忍達の後ろから突如、黒いマントに黒いフードの占い師風の女性が現れた。
「なっ?!まったく気付かなかった?!」
美由希は自分が気づけなかった事に驚きを隠せず、思わず恭也が気付いていたかどうかを確認する。
恭也はというと、初めから気づけない事など分かっていたかのように平然と、むしろその女性が現れた事が嬉しいといったように表情が柔らかくなっている。
「たとえば、どんな不幸にあうんですか?」
軽く微笑みながらそう尋ねる恭也に、その女性は何も答えずにただ歩み寄る。そして、
「死んでも一緒にいてくれるってのは嘘だったの!?」
といきなりフードとマントを脱ぎ捨てた。そしてそこに現れたのは淡いピンク色の着物を着た、ポニーテールの活発な感じの美少女。
いきなりの修羅場っぽい彼女の台詞に一同どう反応していいのかすら分からず、唖然と恭也と少女を見つめる。
「嘘ではありません。貴方がそう想っていてくれている限り、俺はいつまでも貴方の傍にいたいと思っていますよ」
「じゃあこの娘たちはなんなのさっ!?さっきまではもっといたし、恭也は囲まれて嬉しそうだったし……あたしゃどうすりゃいいのよ……」
恭也の胸を叩いて訴える彼女を恭也は困ったようにみると、その肩を優しく抱いて回れ右させる。
「顔も、見たくないっていうの……?」
そんな絶望感で泣きそうな彼女を、しかし恭也は小さく微笑みながら紹介する。
「皆、紹介しよう。彼女は俺が生涯、いや、永遠に一緒にいると誓った、ぼたんさんだ」
『………………………………………………………………は?』
「端的に言えば彼女が俺の好きな人、だ」
テレたようにそう言って頬を掻く恭也。忍達は何がなんだかもうさっぱりといった感じで一言も発さず、そして恋人と紹介されたぼたんは、
「……えっと……あらまっ!あたしってばもしかして何か勘違いしてたかい?」
とばつが悪そうに、しかし何処か嬉しそうにそう言って振り返る。
そんなぼたんを、恭也は何も言わずにただ後ろから抱きすくめてその場に座った。自然とぼたんも座る事になり、膝を崩して恭也の胸に身体を預ける格好になる。そんな状態でぼたんがごろにゃんと身を任せた時、皆が覚醒した。
「ちょ、ちょっとまって恭也!」
「?なんだ忍?」
「さ、さっき好きな人はこの世の人ではないって……」
忍が混乱してますといった感じでえっとうんととやっているのを聞いて、ぼたんは合点がいったとばかりに手をポムッとあわせた。
「あ、そゆこと。それなら恭也の言ってる事は間違いじゃないわさ。だってあたし、この世の人じゃないし」
『………………………………………………………………は?』
ニコニコとそう告げるぼたんの言葉に、忍や美由希達は本日二度目のフリーズ状態に陥った。
「へぇ……霊界ねぇ」
「恭ちゃんったら、何でもありだとは思ってたけどまさかそんなところにまで知り合いつくってるなんて」
フリーズから復活した皆にぼたんの事情を話した恭也。皆もう不思議な事に対する免疫が出来ているせいもあり、ぼたんのやその世界の事情はすんなり受け入れられた。得に那美は霊界や魔界の存在はもうすでに知っていたらしく、話を進めるうえでは事情にそれほど詳しくない恭也の代わりに那美が分かりやすく説明をした。
「でも……」
「せやなぁ……」
晶とレンが複雑そうな視線をぼたんに向ける。猫顔になって首をかしげるぼたん。
「「この人が死神ってのが一番信じられないです(られんです)」」
「たしかに。この人死んじゃった人にも笑ってヨロシクねぇ、とか残念だったねぇ、とか言いそう」
「そんな事されたら死んだって実感湧かないんじゃ……」
「あ、あははははは」
実際にやっただけあって笑うしかないぼたんは、ただ乾いた笑い声をあげ続ける。
「まぁいいわ。確かにこの世の人じゃないっていったのは間違いじゃないし。それじゃ皆、そろそろ授業に戻りましょ」
忍の一声で皆が恭也とぼたんに意味深な視線を送りながら校舎へと戻っていく。
『恭也(さん)(恭ちゃん)(お(師匠))は来ちゃダメ(です)』
声にこそ出していないが、その視線は確かに恭也にそう告げていた。というか命令していた。
「恭也は授業に行かなくていいのかい?」
「ぼたんさんは俺にいってほしいですか?」
もう一緒にいることは決めているがわざとそう聞いてみる恭也。思惑どおり、ぼたんはあたふたと慌てて、
「そ、そんなことは…で、でも授業は大切……でもでも一緒にいたいし……」
とどうしていいか分からないといった感じであっちをみたりこっちをみたりを繰り返している。そんな様子が可愛らしくて、恭也はついつい頭を撫でる。
「冗談です。俺はぼたんさんがなんと言おうと午後の授業には出ません。とりあえずやらなければいけない事も出来ましたし」
「ん?なんだいそりゃ?」
首を傾げて肩越しに恭也を見上げるぼたんに、恭也は頬を真っ赤に染めながら、
「かあさんに紹介させてください。これからすぐにでも」
「……へ?」
「あいつ等にばれた以上、かあさんの耳にも今日の放課後には確実に入ります。それならば先手を打ったほうがまだ被害が少なくてすむはずです。それに……」
「そ、それに?」
「死んでも一緒にいるという俺の気持ちが嘘でないこと、証明しますから」
その後、無事に桃子にぼたんを紹介した恭也。人間界でのぼたんの住居が高町家に半ば強引に決まり、それから休みの日になるとよく高町家では縁側でお茶を啜る恭也と、その横で美味しそうに団子や煎餅をほお張るぼたんが見られるようになった。そして平日は、
「ぼたんさん、そろそろ時間です。もう列が出来てますよ」
「あいよ♪それじゃ恭也、暫くお願いするよ」
翠屋の隅のボックス席に、翠屋の新たな売りとして占い席が設けられた。翠屋の手伝いをしながら時間限定で占いをし、店の売り上げへの貢献と自分の生計の足しとしての占い代を稼ぐ日々を過ごしている。たまに霊界の仕事でいなくなるが、その時の恭也が傍から見て少々気落ちしているのは決して気のせいではないだろう。
二人はこうして人間界での生活を謳歌していく。
死ですら分かつ事の出来ない二人の関係を。
あとがき
またとんでもない事をやらかしてます、アインです。
今回はまさかまさかの幽☆遊☆白書の元気娘、ぼたんちゃん!微妙にらしくないかもしれませんがい許しください。アニメじゃ結構女の子っぽいところもあったんで、そんな感じで。
ブリジット「それよりどうやって知り合ったかとかそういった話が一切ないです」
そこはあまりツッコまんでくれ。書いたらとんでもなく長くなってしまう。
ブリジット「まぁそうでしょうけど……せめて裏設定みたいなのでも出せないです?」
んじゃま。恭也がぼたんと知り合ったのは、美沙斗さんとの戦いで死の淵をさまよった時。霊界のほうが連れて行こうかいくまいか悩んだ結果、結局恭也の剣に眼をつけて幽助のサポートをするぼたんの補佐として生き残らせた、とか。
ブリジット「長編じゃない事を考えれば、まぁ一応それだけ設定が出来てればいいです。許すです」
なぜ許すとか許されるとかに発展するかは分からんが、まあいいや。あ、今回の賄賂はネタSSって事でお願いします美姫さん。正直ちょっと財政くるしいっす。
ブリジット「……早くボクとイチをいい感じにしてくれるならお慈悲をお願いしてきてやってもいいです」
ぜひっ!がんばりますんでぜひっ!
ブリジット「すいません。アインの賄賂のネタが尽きてしまったので今回はこの辺で〜、です。それでは、SEE YOU AGAIN♪」
う、うぅぅ。アインさんの境遇に思わず涙が。
美姫 「はいはい。しかし、予想してなかった作品からね」
だな。ぼたん編とは、流石は目の付け所がアインさんでしょう。
美姫 「女の子しているぼたんが可愛くて良いじゃない」
確かにな。拗ねるぼたんというのは、結構貴重かもしれない。
美姫 「ブリジットちゃん、投稿ありがとうね〜」
アインさん、ありがとうございます。