『An Unexpected Excuse』
〜渡良瀬準編……?〜
「俺が好きなのは……」
恭也はそう言うと黙り込んでしまう。
恭也が誰の名前を言うのか気が気でない忍達は恭也の口から名前が呼ばれるのを今か今かと待ち受けている、のだが詰め寄ってくる彼女達の有無を言わさないプレッシャーに、百戦錬磨の恭也ですら気圧されてしまう。
(さて、本当にどうしたものか……)
目の前に詰め寄ってきている少女達を見回す恭也。その困ったような、憂いを帯びたような表情すら彼女達を相手取った今となっては余計に自分の立場を危うくするものだということには気付けない。
(本当に恋人や好きな人などいないのだが……いっそのこと正直にそう言うか?)
そう考えて改めて自分の周りを確認する。
その場を取り囲んでいるのは美由希や忍、那美、晶、レンといった親しい女性達の他に見える範囲に女子生徒が同輩後輩全部で二十人強。ファンクラブなるものが本当に実在していると仮定するならば、もう少しいると仮定してもおかしくないと恭也は踏んだ。
(なぜだか教師の方もいるようだが……騒がしいので様子を見に来たのか?)
まさかその女性教師達がファンクラブの顧問役を無理矢理買ってでた恭也のファンだとは思いもせずに、そう考えてまた考え始める恭也。
(いや、ダメだ。美由希達だけならともかく、この場でそれを言ってしまったら何かとんでもない事になる気がする。よく分からんが御神の剣士としての勘がそう告げている)
超鈍感で女の敵とすら言っても過言ではないほどの朴念仁である恭也も、なんとか剣士としての危機回避能力を働かせる。
「ねぇ恭也、はっきり言ってよ!」
「そうだよ恭ちゃん!ただ教えて欲しいだけなんだから!」
「そうです!いるならいるで諦めがつきます!」
「お、那美さん大胆ですなぁ」
「まぁ言ってる事はそのとおりだけどな」
(大体何故俺に恋人や好きな人がいるかいないかでここまで熱くなれるんだ?忍や美由希達なら、まぁいると分かったらからかってきたりしたいのだろうから説明がつかなくはないが……。まぁいい。ここは話をそらして離脱がベストだろう。では、)
「……知ってどうするつもりだ?大体そんな事を知ったところでどんなメリットがある?」
「え?!そ、それは……ねぇ、忍さん?」
「は?あ、あぁ、うん。え〜と……そ、それは、あ、あれよ!ねぇ、那美?」
「ふぇ?!あ、そ、そのぉ〜(な、なんで私に振るんですかぁ〜。うぅ〜、恭也さんもそんなに真剣に見つめないでくださいよぉ〜)」
「……大方知ってからかおうとでも思っていたんだろう、美由希や忍辺りが。そんな事で他のみんなを巻き込むんじゃない」
「そ、そんな事って……」
「別にそんなつもりじゃ……」
わざと強く言って見せた恭也が怒っているように見えて思わず気圧されてしまう美由希と忍。他の女子達も何となく雰囲気に飲まれて申し訳なさそうに項垂れる。
(よし。美由希と忍には後でフォローしておけばいいだろう)
「それじゃあ俺は授業まで寝るから……」
「高町君?誤魔化して逃げちゃいけないよぉ?」
その場を素早く離脱しようとした恭也の目の前に、先ほど親友が恋人として名前を挙げた少女が笑顔で立ち塞がっていた。
「忍も何誤魔化されてるのよ?貴方達が高町君に恋人がいるのか聞きたいのはそんな理由じゃないでしょ?」
藤代がそう言って忍達に近寄っていくのを恭也が苦々しくみていると、先ほどまで申し訳なさそうな表情をしながらもわってはいる事はしなかった赤星が恭也に近づいて耳打ちする。
「高町、ファンクラブって人達の想いがどれ程かは知らないけど、月村さんや美由希ちゃん達はお前のことが好きなんだよ」
「な?!そ、そんな事……」
「なかったらこんなに真剣に聞いてくるわけないだろ?……選べといってるわけじゃない。いないならいないで正直にそういってやれ」
「それは考えたが……」
そういって見回しながら言葉を濁す恭也をみて、赤星は恭也の言いたいことに気付いたらしい。すまなそうな表情を見せる赤星の肩を軽く叩く。
(仕方ない。この中に赤星の言うとおり真剣に俺を想ってくれている人が本当にいるのだとしたら、たしかにここで逃げるのは卑怯だな)
「……わかった。確かに逃げるのは卑怯だったな。すまない。俺の好きな人は……」
おそらく面白半分や不順な動機、赤星の時と同じく「彼女がいるならじゃあいいや」といったように真剣な気持ちでない人たちもいるだろう。しかし本当に真剣に想ってくれている人がいるなら、と恭也が覚悟を決めた時、
「あぁ!恭也さぁ〜ん♪お久しぶりですぅ〜♪」
そういいながら後ろから恭也の首筋に飛びついてくる小柄な少女が一人。
その姿を確認した時、恭也は一つの策にでることにした。
「すまん、準。今ちょっと大変な事になってるから話を合わせてくれ」
小声で耳打ちすると、恭也は少女を優しく抱き下ろして後ろから両肩に手を置いて、
「この人は渡良瀬準さん。俺がお付き合いさせていただいている人だ」
と小柄な美少女を皆に見せるように前に少しだけ押し出した。
訪れる長い沈黙。そして、
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』
その場の人間全員の絶叫によって沈黙は破られた。当人であるはずの準も含めた全員の悲鳴で。
「え?なんで渡良瀬さん?貴方まで驚いてるの?」
「え?!あ、え〜っと……」
忍のツッコミに準は慌てて恭也に視線を向ける。
そして、
「あ、え、だって恭也さんったらいきなり付き合ってるなんて皆の前で言っちゃうんだもぉ〜ん♪」
と言いながら恭也の首筋に抱きついた。
それを少しだけ居心地悪そうに受けながらも優しげな手つきで頭を撫でている恭也を見て、ファンクラブを称した女子生徒や教師達が一人、また一人と中庭を後にする。
「あ〜あ、やっぱり高町先輩も彼女いたんだぁ」
「でもあんな可愛らしい子なら納得じゃない?」
「えぇ、私はちょっと幻滅かなぁ。あんな媚びた子なんて」
勝手なことをいいながら去っていく女子生徒達に少々の憤りを感じながらも、恭也は同じく自分の事を言われてプンスカ怒っている準の頭を撫でて宥める。そして大方の予想通りファンを名乗った人たちが次々といなくなり、ついには忍や美由希達だけになった頃、赤星が呆れたように溜息をつきながら恭也に問いかける。
「で、その人は誰なんだ?さっきまでいないと言う事を躊躇ってたんだから、その人は恋人じゃないんだろ?」
赤星のそんな言葉に、事情を詳しく聞いて諦めをつけようと決心していた五人と藤代が驚いたように顔を上げる。
「……そうだな。準、もういい。助かった」
恭也がそういうと同時に、今まで恭也にべったりとくっついていた準はあっさりと体を離した。
「ちょ、恭也?!どういうことなの?」
「そうだよ。説明して」
「お願いします、恭也さん」
「師匠、何がどうなってるんですか?」
「おししょー、説明してください」
「あらら〜、恭也さんってやっぱりもてるんじゃないですかぁ」
五人が真剣な眼差しを向けてくるのを準が楽しそうに茶化す。おそらく準にはもう恭也のとった行動の意味が大体分かっているのだろう。それを悟った恭也は、準に軽く微笑みかけて礼をすると、
「皆、騙すようなことをしてすまなかった」
と頭を下げた。
その先の言葉を真剣な表情で促すように黙っている皆に恭也は驚愕の真実を告げた。
「この渡良瀬準と付き合っているというのは嘘だ。なにせコイツ、実は男なんだからな」
本日二度目の驚愕の沈黙。皆あんぐりと口を開けたまま準を見て固まっている。
「そんなに見つめないでよぉ♪確かにあたしは男だけどぉ、心はちゃんと女の子よっ♪」
そう言って可愛らしくウインクする準。
そして、
『うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!』
本日二度目の大絶叫が響き渡る。
「つ、つまり……」
「お、オカマ……さん……?」
「あ、あはははは……」
「そ、そんな馬鹿な……」
「……俺より女っぽい……」
信じられないといった表情で恭也と準を交互に見るが、どうやらからかったり嘘をついているようではない。
「本当は彼女や好きな人はまだとくにいないと言おうとしたんだが、その……」
そういって言葉を濁した恭也をみて、赤星はある程度事情を察したらしい。
「ああ、そういうことか。俺がお前のことを真剣に想っている人もいるはずと教えたからヘタな言い訳をして逃げるのは卑怯だと真面目に考えた」
「ああ、でもさっきみたいな遊び半分な人たちもいるからあたしにあんな事頼んだんだ?」
「あ、ああ、結果的に試すようなまねをしてしまって申し訳ないとはおもったが……。そういうわけで俺には特別な人はまだいないんだ。それと……」
そこまで言って恭也はテレたように少々赤くなった顔で頭を掻きながら、
「応えられるかどうか分からないが……、そこまで想ってくれて、ありがとう」
恭也はあえて準と付き合っているといった時にそれ以上の事は何も言わなかった。つまりそれでもここに残っていた彼女達は本当に恭也の事を心から想い、慕い、そして本当に恭也が幸せだと感じているならば祝福して想いを断ち切るために残ってくれたのだろう。そう恭也は解釈し、その事に対して素直に喜びを表した。
自分達の想いを相手が解ってくれていることを認識した残った忍達は、それまでの恭也の嘘よりもその気持ちが嬉しくて全員心から微笑んで恭也の言葉に答える。
「あのぉ、あたしを利用しておいてハイさようなら、なんてことしたりしませんよね?」
話が一段落したところでタイミング良く、可愛らしく小首を傾げながら微笑む準。
「あ、ああ。世話になったな、準。何か俺に出来ることがあれば言ってくれ」
「じゃああたしの唇を激しく……」
「却下だ」
「それじゃ軽くちゅっと……」
「論外だ」
「じゃあせめて一晩ホテルで……」
「要求が酷くなってないか?!」
「んもう!相変わらずいけずなんですから……」
「俺が悪いのか?!」
「解りました。翠屋のシュークリーム一月分で手をうちます」
ようやっとまともな要求が出てきたことで、恭也はほっとして首肯する。
しかし、
「……ねぇ恭也、シュークリーム一月分って……」
「……三十一個、だよね?……」
「…………な?!」
勢いで首肯してしまったことを思い切り後悔し始める恭也。しかし交渉の成功に飛び跳ねて喜ぶ準を見ていると、それくらいしても言いかと思う様になる。
「あ、それじゃあたしはもう行きますから。またお会いしましょうね♪」
「ああ、今度は雄真とハチも一緒にな」
「欲求不満で辛くなったら呼んでくれてもいいですよ♪あ、でも雄真には内緒で、ね♪」
「呼ばんから安心しろ」
「結構本気なんだけどなぁ。それじゃあねぇ♪」
颯爽と去っていく可愛らしい少女、のような後ろ姿を眺めながら、赤星が不思議そうに恭也にたずねる。
「なぁ高町、お前あの子とどうやって知り合ったんだ?」
「女性と間違えられて襲われかけていた所を助けた」
『あぁ』
あまりにも納得な出会いに皆ただ頷くしかなかった。
そしてその後暫く準の噂が流れ続け、そのおかげで恭也はファンクラブに追い回される事はなくなった。しかし翠屋店内では……
「ねぇねぇ恭也!あの可愛い子、毎日来てるけど誰?シュークリーム代貴方もちって事は……」
「あれは男だ、かあさん。世話になった礼でシュークリームを奢ることになっただけだ」
「またまたぁ。あんな可愛らしい子が男の子なわけないじゃない。恭也も言い訳するならもうちょっとマシなの考えないと……」
「だから本当に男、……ってかあさん?!」
「どうもこんにちは♪私ここの店長で恭也の母親の高町桃子っていいます」
いつの間にやら桃子は準の元へとたどり着いていた。
(神速でも使えるのか?高町母よ)
「どうも〜♪あたしは渡良瀬準っていいます。恭也さんとは少し前からお付き合いさせていただいて……」
「はぁぁぁ、……もう勘弁してくれ」
恭也ホモ疑惑が再浮上してきたとか。
<おわり……?>
あとがき
浩さんの大人気シリーズ、An Unexpected Excuseをやらせていただきました〜
ブリジット「なので浩さんのやり方にあわせて対談式あとがき復活です〜」
はぴねすアニメが放送スタートってことで準にゃんで一本やってみました〜
でも残念なことに準にゃん男なんで甘いのには出来なかった
ブリジット「準にゃん引っ掻き回し役です。ゲームと同じような役回りです」
こうでないと準にゃんではない!とアインはあえて力説させていただきます
ブリジット「嵐のようにやってきて風のように去っていく」
んでまた事態をややこしくしに再登場♪
ブリジット「たちの悪い仮面ラ○ダーです?」
いやいやいやいや!まあとにかく今回は言ってみれば「恭也、ファンクラブから上手く逃げる編」、もしくは「恭也、忍達の想いに気づく編」といった所って事で
ブリジット「そして引っ掻きまわすために準にゃんです?」
ほんとは準にゃんであの場を切り抜けて一段落って思ったんだけど……
ブリジット「だけど?」
それじゃ小悪魔な準にゃんの魅力が出せなくて……
ブリジット「そこまで準にゃんですか?」
もち!
ブリジット「……この作品、浩さんに認めてもらえなかったらどうするです?」
それは大丈夫だとおもう。浩さんなら笑って許してくれそうだし、美姫さんにはそれなりの賂を……今頃は楽しくお買い物などを楽しんでいただいているだろう
ブリジット「……あくどいです。でもそれくらいしないとアインのSSじゃ……ねぇですぅ」
久々にでたな。某高校生管理人ラブな万能ブラックおさげ……ひでぇよ……
ブリジット「……というわけでなんか落ち込んでるんでボクが締めのご挨拶を。
こんな奴ので申し訳ありませんが渡良瀬準にゃん編、読んで頂いてありがとでした〜♪」
はぴねすは未プレイだけれど、何か面白そうだな。
美姫 「サブキャラが美味しそうよね」
うんうん。って、あの〜。つかぬ事をお伺い致しますが、その手に持った荷物は……。
美姫 「ふふ、良いでしょう」
いや、あの……。あ、あははは。アインさんの言っていた事とは関係ないよね、うん。
気のし過ぎ、気のせい。あれは、アインさんの冗談だし。
美姫 「うーん、いっぱい買っちゃったわね〜。まあ、良いか♪」
聞こえない、聞こえな〜い。
さて、準は結構楽しいキャラみたいだけど。
美姫 「うんうん。読んでて、あの小悪魔的な所は良いわね」
いや、本当に。とりあえず、準というのが男だというのは、キャラ紹介で見てビックリだった。
で、何故、男!? と。
美姫 「読んでみて納得?」
ああ。流石って感じだね。
美姫 「うんうん。アインさん、投稿ありがとうね〜」
ありがとうございます!