『An unexpected excuse』
〜遠山翠編〜
「俺が好きな人のは…………まあ、いるとだけ答えておくことで勘弁してくれないか?」
恭也はものすごく言い難そうにそう、少しだけ困ったような表情を浮かべて告げる。
「それってこの中の誰か?」
「いや、外部の人だ」
自分達の中の誰でもないと聞いて初めは落胆した忍達。しかしファンクラブの生徒達が次々にいなくなっていくにつれ、今度は恭也が見せた表情のほうが気になってくる。
「ねぇ恭ちゃん、その人とはもう付き合ってるの?」
付き合いの長い美由希はもう何となく解っているのか、核心を突いた質問をぶつける。
「いや、それが…………ってなんでお前たちにそんな事教えないといけないんだ?」
「つまり付き合ってないのね?」
「それってつまり……」
「「(お)師匠の片思い?!」」
晶とレンが完璧にシンクロして驚いてみせる。忍や那美、美由希も、ある程度予想はしていたもののショックは隠せないようだ。
そんな五人の表情を向けられた恭也はというと、少々憤慨したように、
「俺が誰かを好きになるのがそんなに驚くような事か?」
と憮然とする。
「ううん、恭ちゃんも男の人なんだし、その辺はむしろちょっと安心したんだけど……」
「そうよ恭也、問題はそこじゃなくて……」
「「「なんで告白しないんですか?」」」
恭也に片思いしている彼女達としては当然のような疑問。
恭也はそんな質問に答えづらそうに眉を顰める。
そんな恭也を見て皆聞きだすのを渋々ながら諦めようとしたとき、恭也が重々しく口を開いた。
「……それがな……、その人と出会ったとき、その人は丁度失恋したばかりだったらしいんだ。……やはり……、なにかそんな心の隙に付け入るような事をするのは卑怯な気がして……」
そう言って自嘲気味に笑う恭也。
そんな笑みが辛そうで、忍達は何とかしてあげたいという衝動に駆られる。
本来ならばそんな恋敵を助けるような真似をするのは本意ではないが、それでも自分達が心を寄せる男があまりにも辛そうで。
何とか相談に乗ろうと皆が口を開きかけた時、恭也の携帯が無機質な音を立てた。
「もしもし翠さん、どうしたんですか?…………はい、……解りました。お待ちしてます」
少しだけ相好を崩して話す恭也を見て電話越しの相手に軽い嫉妬を覚えつつ、忍達は恭也が電話を切るまで待つと、
「ねぇ恭也、今のってその遠山翠さんでしょ?」
「ねぇねぇ、なんだって?」
と忍と美由希が興味津々といった感じで聞いてくる。
那美や晶、レンも身を乗り出すようにして話を促している。
そんな皆の様子から恭也は自分の事を心配してくれていると気付き、話す事にする。
「今翠さんから今日の放課後、翠屋に来て欲しいと言われた」
「あら、向こうからお誘いがあるなんて……」
「その翠さんって方も満更じゃないんとちゃいますか?」
「だよな?しかも待ち合わせが翠屋だし」
シュークリームの美味しい喫茶店としてデートスポットとしても人気の翠屋をチョイスしていることから那美、レン、晶の三人はそう予想する。
「何を馬鹿な。俺みたいなのが相手にしてもらえている訳がないだろう。それはいいが、後をつけたりするなよ?」
恭也はそう念を押すと、一人で足早に教室へと戻っていった。
慌てて恭也を追いかける同じ教室の忍を見送りながら、美由希達は、
「へへへ。なんだかんだ言って恭ちゃん、放課後が待ち遠しいってのがバレバレだよ?」
「そうですねぇ。まだ午後の授業があるのにあんなに足早に……」
「それにお師匠、なにか忘れてますよ?」
「そうそう。師匠ともあろう人が……」
「「「「全員、今日は翠屋でバイトだってことを忘れてるなんて♪」」」」
恋破れた後ですら転んでもただでは起き上がらない四人、
「へっへっへ♪忍ちゃんてば今日は翠屋でバイトなんだよねぇ」
いや、五人だった。
そして放課後。
恭也は店の一番奥にある二人掛けの席に予約席の札を立てて翠を待ちながら接客する。
放課後になってすぐに翠屋に到着した時、忍達もバイトだと思い出して少々焦ったが、なんとか全員が来る前に諦めをつけたらしく、淡々と仕事をこなしている。
恭也が忘れているものだと思っていた五人は恭也の驚く姿が見れずに少々不服そうだったが、それでもしきりに店の入り口を気にしながら仕事をしているのがわかる美由希とレンは、二人で顔を見合わせては何やら楽しそうに接客していた。
そうして暫く経ち、一人の女性客が店に入ってきた時、恭也が少し驚いたような表情で固まった。
「いらっしゃいませ。一名様ですか?」
そんな恭也に気付かずにその客の案内に向かった忍。
「い、いえ!あ、あの、ま、待ち合わせを……」
「翠、さん?」
半信半疑のような曖昧さで名前を呼んだ恭也のほうにその女性は勢いよく顔を向ける。
「え?た、高町君?は?な、なんで?」
「え?ああ、言ってませんでしたか?ここは俺の実家なんです。席はこっちに用意してますので、どうぞ。……忍、俺は暫く抜けるからとかあさんに言っておいてくれ」
恭也は唖然としている忍にそう言って翠を予約席まで案内すると、コーヒーを二杯取ってきてテーブルに置く。
「すいませんでした。てっきりもう言ったと思い込んでいて……」
「い、いえいえ!」
なぜか緊張気味の翠に少しだけ違和感を覚えつつ、恭也は先ほどからずっと気になっていた事を聞く。
「ところで翠さん、今日は髪をリボンで束ねてるんですね?一瞬見間違えたかと思いましたよ」
「あ、うん、ちょっとね。……へ、変じゃないかな?」
恥ずかしそうに俯きながら上目遣いにそう聞いてくる翠に恭也は顔を赤くしながら、
「い、いえ、そんな事は……。とてもよくお似合いですよ」
と頬を掻く。
そんな恭也をみて本当に嬉しそうに微笑んだ翠。
しかしすぐに頬を引き締めると、真面目な表情を恭也に向ける。
「そ、それでね、高町君。今日はとっても大事な話があるんだけど……」
翠のそんな態度に、恭也も照れ隠しに飲んでいたコーヒーのカップを置くと真面目な表情で話を促した。
「あ、あのね?事情を知ってる高町君からしたら節操がないとかはしたないって思われるかもしれないけど……わ、私、高町君の事が好きなんです!付き合ってください!」
「………………」
「………………」
「………………………………」
「………………………………やっぱり、駄目、だよね?」
長い沈黙の後、翠は困ったような表情を浮かべて自嘲気味にそういいながら笑って見せた。
「あの時、高町君に出会って、励ましてもらって、本当に嬉しかったんだ。高町君と何気ないお話したり、真面目なお話もしたり、クラリネット聴いてもらったり、……高町君は優しいから付き合ってくれてたんだよね?でも私には……」
「違う!」
「……え?」
突然声を荒げた恭也に驚いて思わずきょとんとした表情を浮かべる翠。
先ほどまでの辛そうな笑みが消えた翠の唇に、恭也は身を乗り出して軽く、自分の唇を触れさせた。
「……………」
一瞬だけだった口付けに唖然として声も出ない翠に恭也は真面目な表情を向ける。そして、
「翠さん、すみません」
第一声で謝罪の言葉を口にした。
状況的にみればそれは否定であるべき言葉なのだが、それだと恭也の先ほどの行動に説明がつかない。
どうしたらいいのかすらわからずに混乱して恭也をみる翠に、恭也は語りだした。
「俺は、今までずっと逃げていました。でも貴方はそんな俺を想ってくれていた。だから正直に言います。俺はずっと前から貴方に惹かれていました」
「……え?」
信じられないといった表情を浮かべる翠。
恭也は自分の不甲斐無さを悔やむ思いに告白を止められないようにと、一気に話す。
「貴方のその強さ、優しさ、前向きに頑張るいじらしさ、すべてにずっと惹かれていたんです。でも、その……あんな状況でそれを言ってしまってもし、そんな貴方の心の隙に付け込もうとした卑怯な男だと思われるのが怖かったんです」
そこまで話して恭也は一つ大きく息を吐く。
自分の弱い部分をすべて曝け出した恭也は、そして最後の一言を口にするべく軽く息を吸った。
それにあわせて少し居住いを正した翠をみて少しだけ余裕を取り戻し、恭也はその言葉を口にする。
「俺は遠山翠さん、貴方が好きです。こんな情けない俺でよければ……、付き合っていただけないでしょうか?」
緊張した面持ちで翠の返事を待つ恭也。先ほど翠のほうから告白しているのだが、それでも自分の弱さを知った上でも同じ気持ちでいてくれるか不安でしょうがない。
「……高町君は、情けなくなんかないよ」
暫く恭也の言葉をかみ締めるように黙っていた翠は、そういいながら柔らかく微笑む。その瞳には涙が浮かび、頬は染まっている。
「そんなに私の事想ってくれてたなんて……高町君、不束者ですがよろしくお願いします」
「ありがとうございます。此方こそ、よろしくお願いします」
そうお互いに軽く頭を下げると、どちらともなく可笑しくなって笑い出す。
そして、
「お二人さぁ〜ん?ここが何処だかわかってるのかなぁ?」
二人はすっかり忘れていた。ここが翠屋で、忍達が全員バイト中で、そしてなによりもここは高町恭也の母親の店だと言うことを。
自分の迂闊さに言葉もない恭也と何がなんだかわからないといった表情の翠。
そんな二人に翠屋店長高町桃子さんはにやりと笑みを向け、
「今晩は恭也に彼女が出来たお祝いあ〜んど色んな人たちの失恋パーティーよぉぉぉぉぉ!」
『はぁ〜い!!!!』
いつの間にか周りですべてを聞いていた忍や美由希達、さざなみメンバーを交えたパーティーが唐突に始まった。
「はぁ、すいません翠さん。こんなことになってしまって」
ある程度真雪達から解放された所で、恭也は店の外に翠を連れ出した。
「いやぁ、皆楽しい人達だね。それに皆美人だし……ねぇ高町君、本当に私でよかったの?」
それはおそらく一度失恋している翠の不安。
しかし恭也はそんな翠に軽く微笑んで、
「俺は翠さんでなければいやなんです。ご迷惑ですか?」
と、おそらく此方もまだ引きずっているのだろう自分の情けなさから来る不安を口にする。
そうして暫く見詰め合った二人は、また笑い出した。
「こ、恋人になれたんだから……き、恭也君って呼んじゃだめかな?」
「もちろんです。そちらのほうが俺としても嬉しいですし」
「私も翠って呼んで、くれる?あと喋り方も……私だけ他人行儀なのはいやだよ。こ、恋人なのに」
「は、いや、わかった。これでいいか?翠」
「うん♪」
嬉しくなって抱きついた翠を恭也は優しく受け止め、暫くそうして互いのぬくもりを確かめ合う。
「いろいろあったけど、あの時恭也君に逢えて本当に良かった」
「俺も、あの時翠に逢えて本当に良かった」
そう言って見詰め合う二人。互いの顔が思ったより近く、お互いに意識する。
照れくさいのと誰かに見られたらと思う焦りから顔を引きそうになる恭也。
しかし、
「ねぇ恭也君、……もう一回、してほしいな」
頬の上気した翠のそんな艶っぽい言葉に、恭也はそんなくだらない事を考えるのをやめて自分の唇を翠のそれに合わせた。今度は長く、深く。
遠回りしてやっと気持ちが通じ合った二人は、店内の人たちに見られるのをはばかることなくそうして恋人としての時間を過した。
あとがき
ブリジット「調子にのってまたやったです?」
はい、やりました。アニメ化記念第二段は「夜明け前より瑠璃色な」より遠山翠嬢です
ブリジット「前の準にゃんといい、なんで非攻略対象キャラばっかりです?」
失礼な。りらっくすでは準にゃんルートあるらしいし、翠だって12月発売のPS2版ではちゃんとヒロインに昇格してるぞ?
ブリジット「でもサブキャラスタートに違いはないよです」
アインはメインヒロインよりサブキャラのほうに魅力を感じるという事だ。
ブリジット「うわ、言い切ったです」
たとえばEVAならマヤさん、Fateでは氷室女史、月姫ではさつきちゃん、はにはにでは委員長などなど……
ブリジット「もしかして図々しくそのキャラ達でこれからもこのシリーズやる気です?」
可能性はあります。An unexpected excuseサブキャラ及び陽の当たり難いキャラシリーズ?
ブリジット「……まぁ楽しんでいただけるならいいですけど……今回のこれは本当に翠です?」
うっ、痛いところを……実はこういったキャラ達は出番が多くないので結構想像に頼ってる面が……
ブリジット「で?今回は美姫さんには……」
もち!今回は季節柄松茸を……
ブリジット「……相変わらずやる事があくどいですぅ」
まぁいいじゃん。浩さんとお二人でって一応言うだけは言っておいたし
ブリジット「ってことは必ずしもそうはならない事、分かってるですね?」
ぐっ!す、すいません師匠……
ブリジット「なにやら膝から崩れ落ちた所で、今回も最後までありがとうございましたです〜♪」
え、えへへへへ〜。
これが松茸か〜。なんか、シメジみたいだな〜。
美姫 「まあ、香り椎茸、味しめじっていうしね」
うーん、松茸ってこんなに小さいんだな〜。
鍋とかに入れたら美味そう。…って、これはしめじじゃー!
美姫 「もう、煩いわね」
俺にも食わせろよ〜。
美姫 「あー、はいはい」
おお! これが松茸大明神さまでございますか。
しかし、最近の松茸は、妙に薄いな〜。ほら、こうすると向こうが透けて見える……。
って、何故、こんなに薄くするかな、もう!
美姫 「もう、どうしろっていうのよ!」
いや、どうもこうも、お前が一人で今、そこで味わっているのを分けろよ!
美姫 「いや!」
うわっ! な、何て奴だ。そんなにはっきりと……。う、うぅぅぅ。
美姫 「あー、はいはい。もう鬱陶しいわね。後で分けてあげるから、泣き止みなさい。
さて、今回は翠ちゃんだったみたいだけれど」
彼女はサブヒロインだったんだ。攻略キャラかと思ってた。
美姫 「でも、PS2版では昇格したってアインさんが言っているわよ」
ほうほう。なら、プレイするならPS2版か。
美姫 「するの?」
うっ。時間が〜〜。
美姫 「はいはい」
コホン。ともあれ、今回の翠編だけど、うちではやってないパターンだね。
美姫 「そうね。失恋後のヒロイン」
傷付いた心を癒せるのは、貴方だけ…。
おお、こういうパターンもいいかも。
美姫 「何か、いきなりやりそうで怖いわね」
あ、あははは。ソンナコトハナイデスヨ。
美姫 「何故、片言」
って、ああ! ま、松茸がもう殆どない!
美姫 「うん♪ 美味しかった♪ ううん、美味しいわよ♪」
って、残り少ない松茸を遠慮も躊躇も欠片もなく食べるな!
美姫 「う〜ん、デリシャス」
う、うぅぅぅ。あんまりだ。
美姫 「はぁ〜。分かった、分かった。ちゃんとあげるから」
う、薄くない?
美姫 「大丈夫よ。ほら、分厚いでしょう」
本当だ。でも、長さが一センチもないや〜。って、何でやねん!
美姫 「冗談よ、冗談。はい」
おお、今度こそちゃんとした……、って食べさしじゃないか!
美姫 「あ、いらないの? これで最後なのに。じゃあ、私がた〜べよ」
うがっ! 食うわ! う、うぅぅ。
本当に最後じゃないか……。ひ、酷いよ美姫。
美姫 「何よ、最後にちゃんとあげたでしょう。ほら、これで一応は二人で食べたって事になるわよね」
う、うぅぅ。事実と真実は違うんだよ(涙)
美姫 「それじゃあ、次も楽しみに待ってますね〜」
ではでは(涙)