つよきす×とらいあんぐるハート3
『キスとハートの協奏曲』









 佐藤良美の役得









「も〜エリー? そんなにからかっちゃだめだよぅ」

男子生徒をからかう霧夜エリカの横でそう言って困ったような表情で彼女を窘める大人しそうな少女。
誰が見ても一発で苦労人と分かる彼女の名前は佐藤良美。
2年C組のクラス委員長で、生徒会の書記もしている、いわゆる典型的な良い人。
生徒会の会長であるエリカをあらゆる意味で止められる唯一の人間である彼女は、それはもう苦労が耐えない。
1年の時エリカ一人でさえかなりの苦労を背負ってきた彼女だったが、2年になってから生徒会に高町恭也が出入りするようになってからその苦労はバーグラフを突き抜ける勢いで増えていった。
その理由は主に二つ。
彼女がこれまでずっとフォローし続けてきたエリカが恭也をからかいたがるから。
恭也がエリカの小さい頃を知っているためか、エリカは恭也を付け狙っているかのように見つけてはからかおうとするのだ。

「ふっふーん、恭也さん。この間乙女さんに追い掛け回されてたらしいけど。何? 痴情のもつれ?」
「くだらんな。好きに言ってろ」

恭也もまたエリカを苦手に思っているのか、そういう時のエリカをなるべく相手にしないよう務める為、結果としてこの二人は上手くかみ合わないことがあり、そんな時良美はいつもフォローに奔走する。
そしてもう一つの理由。
それは第二の霧夜エリカが現れてしまった事。

「やっほー恭也! あ! まぁたエリカちゃんといちゃついて!」

月村忍という名のエリカ2号は、ある意味1号よりも性質が悪い。
おかしな物を作っては恭也やレオを実験台にしたり、からかうにしてもエリカと違って周りの人間を最大限に利用する。

「……忍……何を持ち込んだ?」
「え? あーいやー……いつぞや流れた恭也と赤星君のホモ疑惑の小説を手に入れたから」
「……どうしたんだ?」
「クラスの皆とか美由希ちゃんとかにコピーして渡しちゃった。てへっ」

といった具合に、なんでも自分の力のみでやろうとしていたエリカのいたずらが可愛く見えてしまうほどに、忍のいたずらはある意味度が過ぎているものが多かった。
そしてこの学校にエリカを止められる人間がいないのにそれ以上の忍を止められる人間など出てくるわけもなく、結果忍のお世話も良美に回ってくる事が多くなった。
しかし、佐藤良美がその事を100%苦労と思い、泣きそうな日々を過ごしているのかというと、それがそうでもない。
エリカや忍のストッパーを担っていると言うことは、二人の被害者には感謝されているという事。
時として学園すべてを巻き込む二人の被害者は、それこそ生徒達から館長以外の教職員までと幅広く、数も半端ではない。
特に恭也とレオは良美に助けられることが多く、二人とも何かにつけて助けられてはお礼として良美の買い物に付き合ったり何かを奢ったりしている、いわば恩返しの常連さんなのだ。
それに二人の親友であるトップ3の残りの二人である勇吾とスバルもまた、恭也とレオをダシにエリカ達にからかわれる事があり、二人もまた良美に助けられた回数の多さは五指に入るほどである。
これは、そんな四人がそれぞれ良美に助けられ、とあるおかしな恩返しを考えたある日のお話。











とある日、恭也とレオ、勇吾とスバルはまたエリカと忍のコンビにちょっかいを出されていた。
元々それぞれの親友である恭也と勇吾、レオとスバルと言った感じにセットでからかわれる事があったのだが、とある事件を境にエリカや忍からそういったネタを振られることがやたら多くなった。
そしてこの時も止めたのは当然良美。
となれば当然、義理堅さでは学園トップ2と言っても過言ではない恭也と勇吾の二人は何か礼をと申し出る。
するとレオとスバルも何もしないのは気がひけるし、元々感謝はしているので礼をするのは当然吝かではない。
しかしそれぞれもうかなりの回数良美には助けられているし、買い物のお付き合いや奢りはお礼の定番となってしまっている。
そうなればどうなるかと言うと、

「では全員で何かするか?」
「え? 全員でって……俺達全員ですか?」
「……まぁ俺達全員で一日ずつとってもらうのは逆に迷惑かもしれないからなぁ」
「面白そうですね。オレはノリました」
「佐藤はどうだ? 都合が悪ければ……」
「いや、折角だ。俺達四人で一日よっぴーに尽くしまくるってのはどうです?」
「お、おいスバル?」
「俺は……佐藤さんがそれでいいって言うならそれでもいいけど?」
「わ、私は……さすがにちょっと……」
「尽くす、というのは要するにその日一日俺達は何よりも佐藤を優先して行動すればいいのか?」
「は、はい。まぁそうですけど。さすがに佐藤さんも、ねぇ?」
「あ、ううん。折角だし、それにさすがに皆に一日ずつじゃこっちが恐縮しちゃうから……」
「あ、あれ? いきなりノリ気だね? まぁいいか。じゃあ、佐藤さんはそれでいいの?」
「はい。宜しくお願いします」

意外と面白い事好きなスバルのふざけた案が通ってしまったりするのである。
このスバルの悪ふざけが実行されたその日一日、良美は学園中の女子の大半(女性教員含む)が羨むような時間を過ごした。

「「おはようございます、お嬢様」」
「……へ? お、お嬢様?」
「今日一日、私達は貴方の事をお嬢様と呼ばせていただきますので」

朝は恭也とレオが家の前まで迎えに行き、通学途中で勇吾とスバルに合流。四人に囲まれて登校する。
羨望の視線を体一杯に浴びながらお姫様登校し、学校に到着する。

「おみ足を、失礼致します」
「ふぇ!? た、高町先輩!?」

もちろん上履きへの履き替えは恭也が片足ずつ丁寧に。
レオと勇吾はその間良美に肩を貸し、スバルが荷物を持って厳かに控える。
そして教室に到着すると、ここでいったん恭也と勇吾とはお別れ。

「「それではお嬢様。失礼致します」」

騎士のように一礼し、その場を去っていく。
そしてお別れの後、引き戸をスバルが開け、レオは良美の椅子を引く。
その後も、良美が席を立つ度にレオが椅子を引いて手をとりエスコートを、スバルが荷物をもって素早く戸を開ける係りを担当し、体育の時間の着替え以外はいつも二人が傍に控えていた。
そして昼休み。
教室まで恭也と勇吾が迎えに来ると、また四人に護られるように中庭へ移動。
スバルの作った重箱の弁当を、

「た、高町先輩。から揚げがた、食べたいですぅ」
「は、はい、お嬢様。それでは失礼して……」
「あ、あーん」

といった具合に良美は一切箸を持つことなく食べる。
さすがにこればかりは羞恥心がかなりのもので勇吾とスバルは早々にギブアップした。
恭也は義理堅く、受けた恩は何が何でも返す性格なので見事耐え抜き、そしてレオは、

「あ、あの、お嬢さ…」
「つ、対馬君。かまぼこを……」
「あ……はい、お嬢様」

と言う具合でヘタレな性分ゆえに最後まで言い出せなかった。
そして午後の授業も午前と同じ具合に過ぎてゆき、放課後。

『今日も一日、お疲れ様でした』

授業終了と共に現れた恭也と勇吾もあわせて四人で一礼。
その後スバルが荷物を持ち、勇吾が戸を開け、恭也とレオがエスコート。
下駄箱では朝と同じようにして靴を履き替え、四人に護られるようにして帰路に着く。
途中翠屋により、恭也の入れる紅茶をレオ達三人を従えたまま楽しんだ良美は、そこで、

「高町先輩、赤星先輩、対馬君、伊達君、もうこれでいいです」

と店内で終了宣言。
こうして良美の一日お嬢様体験は終った……はずだったのだが。

「ちょ、ちょっと恭也!? いったいどうなってるの!? おかーさんにも分かるように説明プリーズ!」
「レオ! スバルも! 説明しろよ! なんでよっぴーがいきなりお嬢様なんだ!?」
「きょ、恭ちゃん? その……それって頼めば私でもやってくれるの? あ、もちろん恭ちゃんだけでも私は十分……」
「れ、レオ!? お前達まさか四人で佐藤を取り合い!? そ、そんな……お姉ちゃんはどうしたら……」
「わ、私は恭也さんが誰を好きだったとしても……」
「……先輩方、煩いです」

と翠屋店長を筆頭に大混乱に陥った。
翠屋の営業時間中にお客さんそっちのけで繰り広げられる右へ左への大騒ぎ。
そんな中良美は一人、自分の普段の行いを褒めつつ余韻に浸るのだった。










といった具合に良美は二人の面倒をすべて背負い込んで降りかかる苦労を相殺してお釣りで家が買えそうな位の役得を得ていた。
ちなみにあの日のお嬢様待遇は今でも学園内で伝説となっており、四人に何か大きな貸しを作ることが出来た人間はその貸しをチャラにする事を条件に出来る特別待遇として語り継がれている。
伝説になってしまっているのは、その条件を満たした人間が良美以外に存在しない為だったりする。
こうして良美は事実上、苦労と引き換えに恭也とレオ、そして勇吾やスバルといつでも話せ、いつでも貸しを作れる立場になった。
しかし、誰も知らない事実が一つ、この裏に隠されていた。
それは、

「エリーってば。高町先輩や対馬君からかうの控えようよぅ。二人が本当に怒っちゃったら生徒会続かないよ?」
「そう言われるともっとやりたくなっちゃうわ。だって私、よっぴーの困った顔も大好きだし」
「そ、そんなぁ……(…これでまた、高町先輩や対馬君と一緒に……ふふふっ)」

すべて良美の計算どおり、ということである。
役得と思われることすら計算してたたき出す良美。
佐藤良美がいる限り、彼女以上の役得生徒が現れることは……ない!











あとがき

ちょっと最後ぐだったなぁ。
まぁでもよっぴーの役得でした。
普段の行動すべてが実は計算された動きというよっぴーは、こういったことすら出来てしまうんです。
出来るったらできるんですw
まぁ、多分恭也が生徒会の人間に関わりだしてからは苦労倍増だけどその分美味しさも比べ物にならない日々をおくるよっぴーは、実はヒロインの中で一番の勝ち組w
レオが気になっているのに恭也に惹かれたりしてるのは、実は依存したがりなよっぴーの本性がそうさせてるってことで。
頼れる男ですからね、恭也君。優しいしw
ってな感じで、魔性の女よっぴーの回でしたっ!www





今回はよっぴーメイン。
美姫 「しかも、かなり良い目見てるわね」
だな。でも、それなりに苦労もしてるからな。
美姫 「その苦労さえも計算されているのよね」
何て凄い娘さんなんだろうか。
美姫 「今回も楽しかったです」
うんうん。次は誰がメインとなるんだろう。
美姫 「その次回はすぐ!」



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