「さて、何からお話しましょうか」
 炬燵の上に湯飲みを置き、たまもこと、白面金毛九尾の狐、玉藻前は思案する。その仕草は何処か愛らしく、とても歴史に名を残すような、大妖怪には見えなかった。
 実際、異国の血を持つものが、日本では化け物扱いされた時代もあったのだ。しかし、彼女はそういうのとは違う。
 対談の席に着くに当たって、わたしはたまもの霊核たる、殺生石の破片を呪符で封じた。正確には邪気の発生源に対して掛けられている、地形を利用した封印をごまかす、という意味もあったけれど、そうしなければ5分とまともに向き合ってはいられなかったからだ。
 近づくだけで生命を奪われたという、殺生石の伝承は伊達ではない。それは例え、少女の手に収まる程度の欠片であっても、れっきとした瘴気を放っていることからも明らかだ。
 わたしがそれを抑えていられるのは、こちらに来る際、薫から餞別代わりにもらった呪符に、力を上乗せしているからに過ぎない。
「大したものですね。さすがはわたしが見込んだだけのことはあります」
 だというのに、極寒の霊気の中にあって、額に滲んだ汗を拭うわたしに、たまもはそう言って嬉しそうに目を細める。自画自賛のようにも聞こえるその言葉は、大妖怪が人間に向けるものとしては間違いなく最大級の賛辞だ。
「そんな、道具が良いだけですよ。わたしなんて、まだまだ……」
「謙遜も度を過ぎれば、嫌味にしかなりませんよ。少なくとも、これの邪気を抑えられた術者をわたしは知りません」
 慌てて否定しようとするわたしの言葉を遮って、たまもはきっぱりとそう言った。まさか、彼女の生きた時代といえば、陰陽道の全盛期だったはずだ。
 魑魅魍魎が跋扈する平安の世は、人間の側にも化け物を生み出した。退魔一族源氏に、彼の有名な安部清明などがそうだ。
 陰陽五行の法を駆使することで、人の身でありながら魔を祓い、邪を退ける術を会得した彼らは、現代の退魔師など及びも着かない力を持っていたと伝えられている。
 その一方で、玉藻前の死後、殺生石が長きに渡って存在し続けたという事実は時の陰陽師たちの力不足を推察させる。
 殺生石を砕いたとされる高僧だが、そうやって力を分散させなければ、浄化することも叶わなかったのかもしれない。そして、今、わたしの目の前には完全に消滅したはずの玉藻前がいる。
 歴史が後世の人間の都合で捏造されるように、文献として残されている九尾の狐の伝承も案外、退魔関係者が面子を保つために、でっち上げた創作物なのかもしれなかった。
 ――閑話休題……。
 さて、凍えかけていた真琴をたまもの狐火で解凍してもらったわたしは、そのお礼として彼女の話を聞くことにした。
 伝説の大妖怪と話せる機会なんて、普通あるものじゃないし、そんな彼女がわたしにする話というのにも興味があったのだ。
「さて、何からお話しましょうか」
 炬燵の上に湯飲みを置き、現代に蘇った日本三大妖怪の一人はそう言って可愛らしく首を傾げる。その対面に座るわたしは、手の中で今にも暴れ出しそうな殺生石の欠片を抑えるのに必死だ。
「出来れば手短にお願い出来ませんか。これ、そんなに長くは抑えていられないから」
 そう言って呪符に包まれたたまも自身の霊核を示すわたしに、彼女は一つ頷くと用件を口にした。
「では、単刀直入に申しましょう。あなた、わたしと一つになりませんか?」
「はい?」
「もちろん、ただでとは言いません。そうですね、今のわたしの霊核となっている殺生石の欠片を浄化した上でそちらの娘に譲りましょう。さすれば、彼女はあなたの助けを借りることなく現世に留まっていられるようになるはず。悪い話ではないと思いますが」
「ちょ、ちょっと待て。いや、待ってください!」
 言われたことの衝撃の大きさに一瞬思考が止まり、復帰したわたしは思わず炬燵の上に身を乗り出す。その拍子に、膝の上に乗せていた殺生石の欠片が転がり落ち、それを見て隣にいたあゆが慌て出す。
 解凍されたばかりの真琴は、まだ状況が飲み込めていないのだろう。今も焚かれている狐火に当たりながら、ぼーっとしている。
「わたしはこの千年、再び己のすべてを捧げるに足る人物が現われるのを待っておりました。そして、その方はあなたのような強さと美しさを兼ね備えた女性であると確信していたのです」
 たまもは、帝の件で男はもう懲りたのだと言う。酷い裏切りを受けた彼女は、二度と、男性を恋愛の対象として見ることが出来なくなってしまったのだ。
「で、でも、だからって、同性愛に走ることはないんじゃないですか。たまもはまだ若いんだし、これから素敵な男性が現われて、新しい恋をするかもしれないですし」
「千年待ちました。それに、現代では恋に性別は関係ないと聞きますし」
「うっ、で、でも、わたしたちは今日出会ったばかりだし、いきなりそういうことを言われても……」
 わたしは必死だ。彼女の言う、一つになるというのが肉体関係に留まらないであろうことは、殺生石を譲渡するという発現から容易に想像することが出来る。
 おそらくはわたしの霊核と同化して守護霊となるか、今の真琴に近い形の関係になろうというのだろう。しかし、真琴とたまもでは存在の格が違い過ぎるのだ。
 自由になりたいという彼女の気持ちは分からなくもない。千年もの間、ずっと同じ場所に縛られ続けていたのだ。わたしがたまもと同じ立場だったら、この千載一遇の機会を逃したりはしないだろう。
 本当なら脅してでも言うことを聞かせたいところを、こちらの意志を尊重してくれている。その誠実な人柄には素直に好感が持てた。
 だから、わたしも出来ることなら彼女の願いを叶えてあげたいのだけれど、一般人の器で神格者を受け入れるのは、さすがに霊的に不可能だろう。天照大神の直系とされる帝一族の男性ですら衰弱を招いたのだ。
「大丈夫ですよ。わたしと一つになったからと言って、あなたがあの方のように衰弱することはありません。既に同胞と契約を結んでいるあなたなら、その対象が多少大きくなったところでさほど変わりはないでしょうから」
「でも……」
「それに、あなたの目的のためにはわたしの力は有用なのではありませんか?」
 渋るわたしに、たまもは揺さぶりを掛けてくる。しかし、その言葉は、わたしの中の何かをばっさりと切ってしまった。
「っ!?」
 気がつけばわたしは、炬燵を飛び越えて彼女を押し倒していた。綺麗な白銀の髪が雪の上に広がる。
「はぁ、はぁ、……有用とか、自分を道具か何かみたいに言うのは止めなさい。もし、そういう観点からだけでわたしを欲しているのなら、わたしはここであなたを減殺するから」
 エメラルド色の瞳を大きく見開いて見上げてくるたまもに、わたしは肩で息をしながらそう言った。軽く首を押さえ、力の篭った視線で射抜いてやると、彼女は何故かその顔に笑みを浮かべて頷いた。
「やはり、あなたはわたしのすべてを捧げるに相応しいお方です」
「え?」
「ずっと、あなたがこの町に来た時から見ておりました。だから、あなたがご自分を顧みず、他の誰かのために心を砕くことの出来る方だということも存じておりました」
「わたしは……」
 夢見るような口調で話すたまもに、わたしは反論しようとしてその唇を塞がれた。伝わってくる柔らかな感触に、一瞬頭の中が真っ白になる。
 わたしは、たまもに、キスされたのだ。
 そう理解した瞬間、かっと顔が熱くなるのを感じた。背後であゆと真琴の二人が息を呑む気配がしたけれど、今のわたしにそれに構っていられるだけの余裕があるはずもない。
「そんなあなたのことを、わたしは堪らなく愛しいと思ったのです」
 唇を離し、たまもはうっとりとした表情でそう語る。不意打ちでこの身体になってからの初めてを奪われたわたしは、そんな彼女の顔を呆然と見ていた。
   * * *
「はぁ、分かっていたのなら、どうしてわざわざ地雷を踏むような真似をしたんですか?」
 両手を首に回して抱きついてくるたまもに、わたしは嘆息しながらそう尋ねる。危うく絞め殺してしまうところだったのだ。理由を聞かないことには、収まりがつかない。
「嫉妬でしょうか。あなたのその心をわたしにも向けて欲しかった。冷静なようでその実、深く他人を思いやることの出来るその思いを、例え一瞬でも良いからこの身で受けたかったのです」
「……後悔しますよ。わたしなんかを好きになったりして、あまつさえ、一つになりたいだなんて」
「案ずることはありません。ご存知ですか? 長く時を経た狐は、並大抵のことでは動じないのです。それに、後悔ならあの方とお別れした後に一生分、それこそ死ぬほどしましたから」
 そう言ってふっ、と笑みを浮かべる少女のなんと美しいことか。そんな彼女の表情に、わたしは不覚にも見惚れてしまった。
 霊核に同化するというのは、魂の融合だ。これを成したもの同士は、死して尚離れず、未来永劫共に在り続けることになる。
 だが、既に二人の舞と一つになっているわたしは、それに対する禁忌を感じない。それに、見ていてくれたというのは正直、嬉しかった。
 ……それにしても、まさか、人前でキスされるのがあんなに恥ずかしいことだとは思わなかったわ。
 不覚にも、あゆや真琴にキスシーンを見られたわたしは、恥ずかしさのあまり、思わずその場から逃げ出してしまったのだ。
 年甲斐も無いとか言わないでほしい。
 祐一だった頃の分も含めて、ろくに経験したこともないわたしにとって、それは二度目のファーストキス。それも人前での不意打ちともなれば、女の子歴七年の身で耐えるには荷が重過ぎるというものだ。
 そんなわけで無我夢中で走ったわたしは、何処をどう通ったのか全く覚えていない。
 ただ、気がつけば、コンビにの前に立っていたので、とりあえず、名雪への言い訳用に牛乳を買ってから、水瀬家へと戻ってきたのだった。
 疲れた声で帰宅を告げてリビングに入ると、出迎えてくれた名雪に何か言われる前に、コンビにの袋を押し付けて自分の部屋へと向かう。普段は余裕のある態度を見せているわたしのそんな様子に、名雪は呆気にとられて、追求のタイミングを逸してしまったようだ。
「おかえりなさいませ」
 そして、自室のドアを開けたわたしは、ドアノブを握ったままの体勢で固まった。
「……ただいま」
 満面の笑顔で出迎えてくれたたまもに、わたしは思わずそう返してしまった。
「じゃなくて、どうしてたまもがわたしの部屋にいるんですか!?」
 慌ててドアを閉めると、わたしはベッドの上に正座している彼女へと詰め寄った。
「あなたが話の途中でいなくなるからです。それと、心配しなくても生霊の娘は解放しましたし、同胞ももう戻っていますよ」
 言われて気配を探ってみれば、確かに隣の部屋から真琴の存在を感じることが出来た。
「安心しましたか?」
「え、ええ……」
 悪戯っぽく笑ってそう聞くたまもに、わたしは頷いて彼女の肩を掴んでいた手を離す。余程力を込めていたのだろう。彼女の服はすっかり皺になってしまっていた。
「その、ごめんなさい。痛かったでしょ」
「平気です。それに、あなたのそういうところをわたしは愛しく思っているのですから」
 そう言ってにっこりと微笑むたまもに、わたしは思わず赤面した。何というか、そう面と向かって言われると照れてしまう。
「本当にわたしで良いんですか?」
「もう待てません。それに、この先あなた以上に素敵なご婦人が現われるとも思えませんし」
「わたしのは、ほとんど一目惚れみたいなものですよ。後で冷静になれば、冷めてしまう恋かもしれないのに、そんなわたしと本当に一つになっても良いんですか?」
「その時はもう一度燃え上がらせるだけですわ。いいえ、今度は永遠に冷めないよう、この玉藻前の九尾の炎で、身も心もとろけきるまで暖め続けて差し上げましょう」
 からかうように尋ねるわたしに、彼女は自信に満ちた表情でそう答える。覚悟してくださいね。そう言って、艶然と微笑むたまもに、今度はわたしのほうからキスをした。
「さあ、儀式を始めましょう。身も心も一つとなって、未来永劫共にあるための第一歩を踏み出すのです!」
 陶然とした口調で宣言するたまも。その表情は何処までも艶やかで、わたしは思わずごくりと唾を呑む。
 明りを消して、お互いを愛しむように触れ合いながら服を脱がせて、そっと肌を重ねる。
 彼女は美しい。月明かりの中に浮かび上がる、ほんのりと上気したたまもの素肌には、思わず行為の手を止めて見入ってしまったほどだ。
 明りの消えたベッドの上で、お互いを求めて絡み合うのは、伝説の大妖怪と異端の退魔師という、あり得ない組み合わせ。それも、女同士という極め付けである。
 女子ばかりの環境に七年もいたせいか、わたしにそういうことに対する偏見は皆無だ。しかし、自分がその立場になるとは、思いもよらなかった。
   * * *
 禍々しい邪気を放っていた殺生石の欠片は、呪符を媒体に強化された彼女の聖性によって、既に浄化されている。役目を終えて剥がれた呪符の下から現われたのは、非常識なまでに強力な、ただの霊媒だった。
「これを真琴の霊核に埋め込めば、彼女は完全にわたしから自立することが出来るんですね」
「はい。わたしには役不足でしたが、あの娘程度の存在ならこれで十分でしょう」
「でも、これ大した退魔霊装になっちゃってますよ。下手をすると、埋め込んだ途端に浄化消滅させられてしまいませんか?」
「ええ、ですから、そうならないように、新しい真名を刻むのです。これまでの概念を浄化されたこれにはまだ真名がありませんから」
 そう言って、先程まで自分自身の霊核だったものを手の中で転がすたまもに、わたしはなるほどと頷く。名とは、それの在り方を決めるものだ。
 特に真名は、それを持つもののすべてを現わしていると言っても過言ではない。
 それだけに、慎重に決めなければならないものでもある。
「これは後で本人も交えて決めるとしましょう。それよりも……」
 澄んだ青を湛える宝玉となったそれを脇に置き、たまもはそっとわたしの手を取る。わたしたちは二人ともまだ生まれたままの姿だった。
「今は続きをいたしましょう。夜はまだまだ長いのですから」
   * * * * *
  Maika Kanonical〜奇跡の翼〜
  第16章 魂の契り
   * * * * *
 ――夢を見ている……。
 それは、遠い、遠い昔の夢。
 魑魅魍魎が己の領分を越えて蔓延り、人間がそれを押し戻そうと鬩ぎ合っていた時代の幻想……。
 立派な日本庭園の縁側に腰掛け、灯篭の明りに寄る辺を求めて集まった虫たちを眺めている。
 帝は今日も起きてはくださらなかった。近頃は陰陽師なる下賎のものどもが屋敷内に入り込んで幅を利かせており、臣下のものたちも篭絡されかけていると聞きます。
 奴らは帝の憔悴をわたくしのせいと決め付けて、追い出そうとしておりますが、決してそのようなことはありますまい。
 何故なら、あなた様は、わたくしを迎え入れてくださる以前より、病魔に蝕まれていたのですから。
   * * *
 十六夜の月を見上げて思う。
 再びこの月が満ちるまで、わたしは生きていられるだろうか。
 帝、陰陽師たちがわたくしの正体に気づきました。力の衰える新月の夜を待って、奴らはわたくしを討つでしょう。
 それでもわたくしは時が許す限り、あなた様のお傍にいたいと思います。
   * * *
 ――帝を陥れた人外の悪女を討ち取らんとして、鉄の甲冑を身に着けた兵たちが押し寄せる。
 その数八万余り。
 そんな大軍を前にして、それでも帝の真意を本人に確かめるまではと、持てる知略のすべてを駆使して一度はこれを退けた。
 信じたかったのだろう。天狐として生を受け、長い間その使命だけを果たし続けてきた自分が初めて愛した男性のことを。
 そして、そんな彼女の想いは無残にも打ち砕かれることになる。
 ――戦場に響き渡る慟哭……。
 悲しかった。憎かった。
 この荒れ狂う想いをせめて目の前の兵士たちにぶつけなければ、どうして正気を保っていられようか。
 幸い相手は自分を殺そうとしている。殺意を以って向かってくる以上は、返り討ちに合う覚悟も既に出来ているはずだったから。
 たまもは暴れた。九尾の狐対策を整えて向かってくる大軍に、例え敵わなくとも、一矢報いねば気が済まぬとばかりに、涙枯れ果てるまで力を振るい続けた。
 そう、これは彼女の夢だ。そして、遠い昔に起きてしまった、悲劇の記憶でもある。
 権力者の寵愛を受けたがために、謀略の果てに殺されるというのはその時代ではよくある話ではあった。しかし、こうして本人と触れ合い、僅かながらもその人となりを知ったわたしには、それを昔話の一言で片付けることが出来ない。
 わたしは知っている。
 勅命によって大軍を率いる武将の傍らに、たまもを陥れた陰陽師の姿があったことを。そして、邪気を感じなくなった彼女は、まったく普通の少女だった。
 魔的なまでの美貌も、無邪気な振る舞いのおかげで、見るものに冷たさを感じさせない。誘拐されたはずのあゆまでもが、何処か毒気を抜かれた様子でたまものことを見ているのだ。
 その表情には戸惑いこそあれ、彼女を恐怖しているようには見えなかった。
 ――まったく、同居人を増やすなら、先にわたしたちに相談してからにしてよね。
 今はもう安らかなものになっている彼女の寝顔を眺めて微笑むわたしに、まいちゃんがそう文句を言ってくる。
 ――ごめんなさい。でも、急がないと、この子も消えちゃいそうだったから。
 たまもは今の自分が全盛期の力を震えるのは、ほんの僅かな間だけだと言った。それは彼女が自らの存在を保つために、その力の大半を割かねばならない状態にあったからだ。
 同情から助けたわけじゃない。同情とは、相手を自分より下位に見て哀れむ行為だ。
 これまでだって、わたしはそんな大それた感情で動いたことは、一度たりともなかった。誰かのためになんて、とんでもない。
 わたしはただ、誰かが消えることで痛みを感じるこの心を護るために、目の前の悲劇を取り除こうとするだけだ。
「……いけないことでしょうか?」
 不意に投げ掛けられたその問いに、わたしはハッと息を呑んだ。
「悲しみに心が鳴くのは、あなたが優しいからでしょう。それを自分で否定するなんて」
「止めてください」
 叱るように、真っ直ぐこちらの目を覗き込んでくるたまもに、わたしは弱々しく頭を振って否定する。優しいなんて、それこそとんでもない。
「心が弱いから、それが壊れてしまわないように必死になっているだけです。滑稽だと笑われることはあっても、それを優しさの現われだなんて言う人はいないでしょう」
「契りを交わしたばかりの相手の言葉は信じられませんか? 少なくとも、あなたに受け入れていただけたことで、わたしは救われたというのに」
 悲しげに瞳を潤ませながら、それでもたまもはわたしを見る。その視線が胸に痛い。
「所詮、人の行動など、究極的には自分以外の誰の為のものでもありません。でも、それで幸せに、笑っていられる誰かがいるのなら、それはきっと素敵なことだとわたしは思うのです」
 目尻に浮かんだ涙を拭ってそう言うたまものなんと美しいことか。その表情に吸い寄せられるように、逸らしていた視線を戻したわたしに、彼女はそっと口付けた。
 優しい、暖かなキスだった。
 ――舞。わたし、たまもと仲良くなれそうだよ。
 力が抜けたように、たまもの腕の中に倒れるわたしの脳裏で、まいちゃんのそんな声が聞こえた。
 ――わたしも、彼女になら舞歌を任せても良いと思う。
 舞が答える。
 二人の声がいつもより遠くに聞こえるのは、わたしが抱きしめられたことで感じる彼女の温もりに、酔ってしまっているからだろうか。
   * * * つづく * * *




何やら事態が大事に?
美姫 「かと思ったけれど、何とか収まったんじゃない」
かもな。しかし、あの大妖が味方になったと考えれば、これから先動き易くなるのかな。
美姫 「さてさて、どうなっていくのかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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