『決闘少女リリカルなのは』





「ねぇ、なのはちゃん。そろそろ公式大会に出てみたらどうかな」
 始まりは、そんな一言からだった。
 ともすればハイティーンの少女にも見える童顔に、人好きのする笑顔を浮かべてそう言ったのは神代咲耶。
 なのはの兄恭也の婚約者。つまり、彼女にとっては未来の義姉に当たる女性だ。
 海鳴大学に通う傍ら、インダストリアルイリュージョン社でカードデザイナーとして働き、オフの日には高町家の営む喫茶・翠屋にヘルプに入ったりもする。
 そんな多忙な日々を過ごす中で、今日のように偶にぽっかりと空いた時間には、何をするでもなく自分の傍らにいてくれることも少なくない咲耶。
 翠屋が軌道に乗り始めたばかりの頃には忙しい家族に代わってよく面倒を見てくれていたこともあり、なのはは彼女のことを本当の姉のように慕っていた。
 なのはがデュエルモンスターズを始めたのも、彼女が試作したカードのテストプレイヤーを務めたのが切欠だったりする。
「公式大会ですか?」
「そ。なのはちゃんもオンラインじゃAAAに達してるわけだし、リアルでも十分通用すると思うんだ」
 どうかな。そう言って小首を傾げる咲耶に、しかし、なのははすぐには頷けなかった。
 大勢の前でデュエルするのが恥ずかしいとか、そういうこともあるが、彼女が一番気にしているのはその大会に於ける決まりごとである。
 今や世界で最も売れているカードゲームとしてギネスブックにも記載されているデュエルモンスターズだが、そこには当然様々な問題も存在している。
 中でも深刻なのが希少価値の高い所謂レアカードを巡ってのトラブルで、酷いものになると集団で囲んで強引に奪われる等という話も少なくなかった。
 さすがに日常的にそのような事件が起きる程、日本の治安は悪くもないのだが、イベント事の際にはバカをやるものが出るのも確かだ。
 それらのトラブルを避けるための対策として、日本では十五歳以下の単独での公式大会への参加を認めてはいなかった。
 つまり、現在七歳であるなのはが公式大会に参加するには、誰かに保護者として同伴してもらわなければならないのだ。
「出てみたいのは山々なんですけど、わたしの年じゃ誰かに一緒に来てもらわないとダメですよね」
 そう言って俯くなのはの脳裏に浮かぶのは、優しい母の笑顔。しかし、喫茶店経営で忙しい彼女には頼めるはずもなかった。
「大丈夫、当日はわたしも一緒に行くから」
「えっ、でも、咲耶さんも忙しいのに……」
「こっちから誘ってるんだから、それくらいはさせてもらわないとね。それに、なのはちゃんがわたしの作ったカードで活躍してくれれば、製作者であるわたしの株も上がるんだよね」
 慌てるなのはに、咲耶は悪戯っぽく笑って自分の思惑を暴露する。
 尤も彼女の場合、そちらを建前にしてなのはに頷きやすくさせているのかもしれないが。
 育った環境故か、年に似合わず周囲への気配りが出来る高町家の末っ子は、その分だけ子供らしいわがままを言うことがほとんどなかった。
 保護者として手間が掛からないと喜んだのは最初のうちだけで、幼子に遠慮させているのだと分かると家族は逆に情けなくなったものだ。
 だから、なのはが少しでも感心を示したのなら、咲耶は義姉として、家族としてそれを我慢させるようなことはしたくなかった。
「というわけだから、はいこれ」
 そう言って手渡されたのは一冊の小冊子。表紙には、全日本アマチュアデュエリスト選手権・東海地区予選とあった。
「って、えぇぇぇっ!?」
「エントリーはこっちでやっておくから、なのはちゃんは当日までにしっかりデッキ調整しておいてね」
 驚きに声を上げるなのはに、咲耶はそう言って席を立つと出ていってしまった。
 引き止める暇なんてなかった。後で断ろうにも連絡が着いた時には既に手続きが終わっており、更には母である桃子の許可も得ていると言われて取り合ってもらえず。
 こうして、なのはの初の公式戦参加が決定したのだった。

「まさか、初めての公式参加がこんな大きな大会になるなんて思わなかったよ……」
 観客席に犇めく群衆にチラリと視線を走らせ、なのはは今日何度目になるか分からない溜息を漏らす。
 大勢の人の前で何かをする等、学校の文化祭での出し物くらいのものだった。
 それとて昨年小学校に上がったばかりの彼女には一度きりの経験である。
 そんなものだから、物理的な圧力すら感じるこの場の雰囲気に、なのははすっかり参ってしまっていた。
 とはいえ、一度決闘場(デュエルリング)に立ったなら、そんなことは言っていられない。デッキを手に戦いに臨むものに、一切の区別はないのだから。
 それに、今回の対戦相手は彼女の親友の一人、月村すずかだ。
 すずかも公式戦は初めてで、場慣れしてもいない。条件が一緒なら、後はいつも通りにやれば良いだけだった。
「なのは、頑張って!」
「すずかも、しっかりやりなさい!」
 デュエルリングを囲むように設置された観客席から二人の姉である美由希と忍の声援がそれぞれに向けて送られる。
 二人が声のした方に目を向ければ、そこには他にもなのはの兄の恭也や月村家の使用人であるノエルの姿もある。
 仕事の都合で来られなかった他の家族や知り合いもその多くが地元テレビ局の生中継を通じて試合を観ることを約束してくれていた。
『それでは、これより東海地区予選一回戦第一試合を行います』
 アナウンスが流れ、二人の少女が所定の位置で対峙する。
 緊張のためか互いに言葉を掛け合う余裕もなく、しかし、デュエルディスクがデッキをオートシャッフルし、初手となる5枚のカードを手にした時には二人ともしっかりと前を見据えて立っていた。
 そこにあるのは、紛れもない決闘者(デュエリスト)の姿だった。

  なのは LP:4000
 すずか LP:4000

 先行はなのはから。左腕に装着したデュエルディスクのランプが点いているのを見てそれを確かめると、彼女は今日のために組み上げた自身のデッキへと手を伸ばす。
「わたしの先行、ドロー!」
 デッキから引いたカードを加えて手札は初手と合わせて6枚。端から順に見渡してみたが、悪くない内容だった。
「わたしは《S‐セイクリッド‐・双子座のポルクス》を召喚して、効果を発動します」
 なのはの場に双子座のシンボルマークが描かれた二本の短剣を手にした少女が姿を現す。種族は魔法使い族。魔法の発動媒体らしき双剣には、柄の部分にそれぞれ赤と青の宝玉が一つずつ填め込まれている。
「ポルクスが召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけJ‐ジュエリィ‐またはS‐セイクリッド‐と名の付いたモンスター1体を召喚することが出来る。《S・山羊座のグレディ》を召喚!」
 ポルクスの効果を受けて、今度は山羊座のシンボルマークが描かれた長柄の杖を携えた少女が召喚された。こちらも種族は魔法使いだ。
「更にグレディの効果。このカードが召喚に成功した時、手札のレベル4モンスター1体を特殊召喚することが出来る。《J―ジュエリィ‐・ランス・アメジスト》を攻撃表示で特殊召喚して、効果で手札の《J シールド・ダイヤモンド》を墓地に送ります」
 三体目、アメジスト色に輝く槍を構えた少女騎士がフィールドに降り立つと、会場はどよめきに包まれた。
「相変わらずすごい展開力だね」
「すずかちゃんの植物族の再生能力ほどじゃないよ。わたしは手札から永続魔法《一族の結束》を発動。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 なのは LP:4000
 手札:0枚
 場:S・双子座のポルクス ・ S・山羊座のグレディ ・ J・ランス・アメジスト
 魔法・罠:一族の結束 ・ 伏せ1

 S・双子座のポルシス ATK:1400 → 2200
 S・山羊座のグレディ ATK:1300 → 2100
 J・ランス・アメジスト ATK:1400 → 2200

「わたしのターンだね。ドロー」
 なのはの場を見据え、すずかはゆっくりと自分のデッキに手を伸ばす。相手の場には3体のモンスターとセットカードが1枚。
 発動された永続魔法の効果により、モンスターの攻撃力はいずれも下級アタッカーの標準ラインである1800を超えている。
 しかし、たった1枚のカードが状況を覆すこともある。なのはとのデュエルもこれが最初ではなく、すずかに焦りはなかった。
「わたしは手札を1枚捨てて、魔法カード《ライトニングボルテックス》を発動。なのはちゃんの場に表側表示で存在するモンスターをすべて破壊する」
 すずかが手札から1枚のカードを掲げてそう宣言すると、なのはのフィールドに三条の雷が降り注ぎ、彼女のモンスターたちをすべて破壊した。
「やってくれるね。でも、まだ……」
「手札から《ローン・ファイア・ブロッサム》を召喚。効果でローン・ファイア・ブロッサム自身をリリースして、デッキから《椿姫ティタニアル》を攻撃表示で召喚、バトル!」
「させない。墓地の《J・シールド・ダイヤモンド》の効果を発動。相手からの直接攻撃を受ける時、手札か墓地のこのカードを特殊召喚することが出来る。わたしは、守備表示で特殊召喚するよ」
 なのはの墓地が光るとそこから巨大なダイヤモンドの盾を構えた少女が現れ、椿姫ティタニアルの前に立ち塞がる。
「防がれちゃったか。わたしはカードを2枚伏せて、ターンエンドだよ」

 すずか LP:4000
 手札:1枚
 場:椿姫ティタニアル
 魔法・罠:伏せ2

 互いに多くの手札を消費しての攻防。なのはに至っては、先行1ターン目で既に手札を使い切ってしまっている。
 手札の数だけ選択肢、可能性が広がるこのゲームに於いてそれは危険なことだ。
 仮に、なのはが次のドローで召喚出来るモンスターか何らかの防御カードを引けなければ、攻撃力2800の最上級モンスターに対して無防備となってしまうのだ。
 墓地にシールド・ダイヤモンドがあるとはいえ、すずかもモンスターを召喚してくれば一撃を受けるのは避けられない。そして、そうなる可能性は決して低くはなかった。
 一方のすずかは1枚だけとはいえ、まだ手札を残している。更に彼女の場には高攻撃力のティタニアルに加え、2枚の伏せカード。
 これらを攻略してダメージを与えるには、これから迎えるなのはの1ターンではどうしても手が足りないように思えた。
「わたしのターン、ドロー!」
 だが、なのはに臆した様子は見られない。寧ろ堂々とした態度でデッキへと手を伸ばし、勢いよくカードをドローする。
「手札から《天使の施し》を発動。デッキから3枚引いて、その後手札を2枚墓地に捨てる」
「っ、ここでそれを引くんだ」
 引いたカードは強力な手札増強と交換の効果を兼ね備えた魔法カード《天使の施し》。それによって引いたカードを確かめたなのはの口元が綻ぶのを見て、すずかは思わず息を呑んだ。
「わたしは更に墓地に捨てた2枚の効果を発動するよ。まず、チューナーモンスター《ピジョンブラッドの精霊》。このカードは手札から墓地に送られた時、自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚することが出来る」
「チューナーってことは、シンクロ召喚。でも、なのはちゃんの場に他のモンスターはいない。残りの手札はモンスター。それとも、蘇生効果のあるカードかな」
「惜しいけど、どっちも外れかな。わたしは天使の施しで捨てたもう1枚、《幻影のクリスタニア》の効果を発動。このカードが他のカードの効果で墓地に捨てられた時、手札のモンスターカード1枚を墓地に送ることで、自分の墓地のレベル4以下の魔法使い族モンスター1体を特殊召喚することが出来るんだ」
 まず、なのはの場に大きなルビーを抱えた真紅の羽根を持つ妖精が姿を現す。手の平に乗りそうなサイズとは裏腹に、その攻撃力は1500と準アタッカー並みだ。
 そして、墓地。そこに銀糸で装飾された楕円形の鏡を手にした少女が現れ、手札から送られたモンスターの魂を鏡に取り込む。
 魂を吸収した鏡は一瞬きらめくと、なのはが指定したモンスターの骸(むくろ)へと一条の光を照射した。
「わたしはこの効果で墓地の《J・シールド・ダイヤモンド》を守備表示で特殊召喚。そして、レベル4、J・シールド・ダイヤモンドにレベル4、ピジョンブラッドの精霊をチューニング!」
 なのはの宣言を受けて二体のモンスターがそれぞれ四つの星と輪に変わり、一列になって星が輪の中を通り抜ける。シンクロ召喚特有の演出だ。
「天空(そら)と大地が交わりし時、地上の星が煌き出す。その煌きを以って幻惑せよ。シンクロ召喚、《魅惑の妖精ローズクォーツ》!」
 フィールドを赤紫の閃光が包み、それが晴れた時、そこにはローズクォーツと呼ばれる宝石を思わせる瞳を持つ白銀の髪の女性魔導師が立っていた。
 シンクロ召喚。それはデュエルモンスターズの新たな可能性。
 チューナーを中心にモンスターが結束することで、新たな可能性、モンスターを生み出す力と成すのだ。
「ローズクォーツの効果。このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。エンドフェイズまで選択したモンスターの効果を無効にしてコントロールを得る」
「そんな、コントロール奪取の効果!?」
「わたしはすずかちゃんの場の椿姫ティタニアルを選択。更に墓地の《ミラージュ・クリスタル》を自身の効果で除外して、バトル!」
 驚愕に目を見開くすずかの目の前で、妖しく光るローズクォーツの瞳に誘われるようにティタニアルがふらふらと彼女の場を離れていく。
 先に伏せたカードはミラージュ・クリスタルの効果でエンドフェイズまで発動することが出来ない。
 唯一の手札にもこれを防ぐ手立てはないようで、すずかはむざむざエースモンスターを奪われてしまった。
「魅惑の妖精ローズクォーツですずかちゃんにダイレクトアタック。この時リバースカードオープン、《マジシャンズ・サークル》!」
「っ、わたしは《バイオレット・ウィッチ》を攻撃表示で特殊召喚するよ」
「わたしは《S・乙女座のスピカ》を攻撃表示で特殊召喚。すずかちゃんの場にモンスターが増えたことでバトルが巻き戻るから、改めてローズクォーツでバイオレット・ウィッチに攻撃するね」
 ローズクォーツの手から放たれた拳大の炎弾がバイオレット・ウィッチを貫き爆発炎上する。
「バイオレット・ウィッチの効果。このカードが戦闘で破壊された時、デッキから攻撃力1500以下の植物族1体を手札に加えることが出来る。わたしは2体目のローン・ファイア・ブロッサムを手札に加えるよ」
「続けてティタニアルと乙女座のスピカでダイレクトアタック!」
「残念だけど、それは通さないよ。手札から《バトル・フェーダー》を効果で特殊召喚して、バトルフェイズを終了させる」
 すずかはそう言うと手札に残していた1枚をデュエルディスクにセットする。それは不気味に鳴り響く鐘の音と共にフィールドに降り立つと、なのはのバトルフェイズを強制的に終わらせてしまった。
「やっぱり。前もそれで一回止められたから持ってるんじゃないかって思ってたんだ。でも、先制は取らせてもらったよ。わたしはこれでターンエンド」

 なのは LP:4000
 手札:0枚
 場:魅惑の妖精ローズクォーツ ・ S・乙女座のスピカ
 魔法・罠:一族の結束

 すずか LP:4000 → 2000
 手札:1枚(ローン・ファイア・ブロッサム)
 場:椿姫ティタニアル ・ バトル・フェーダー
 魔法・罠:伏せ2

 ピジョンブラッドの精霊 ATK:1500 → 2300
 魅惑の要請ローズクォーツ ATK:2300 → 3100
 S・乙女座のスピカ ATK:2000 → 2800

 なのはのエンドフェイズに椿姫ティタニアルはすずかの場に戻り、これで互いの場にはモンスターが2体ずつとなった。
 状況的には手札にローン・ファイア・ブロッサムを呼び込み、2枚のセットカードもあるすずかのほうが圧倒的に有利。
 先程はミラージュ・クリスタルの効果で妨害されていたためセットカードを発動させられなかったが、今はそれもない。
 そう、有利なのは自分のはずなのだ。だというのに、一切ぶれないなのはのあの態度は何なのだろう。
 このターン、すずかは手札のローン・ファイア・ブロッサムを召喚してその効果で2体目の椿姫ティタニアルを呼ぶことが出来る。
 更にブラフとして伏せていた《薔薇の刻印》を使ってなのはの場のモンスターのコントロールを奪えば、今度は自分が攻撃力2000オーバーのモンスター3体で攻撃することが出来るのだ。
 しかし、そこまでやってもなのはのライフポイントを0にすることは出来ないことが、すずかを不安にさせていた。
 次のドロー次第ではあるが、もしも彼女がダメージソースとなるカードを引けず、相手を生き長らえさせてしまったなら、返しのターンでこちらがやられる可能性は決して低くはなかったから。
 ――そこまで考えて、すずかは小さく頭を振った。カードを引くことに怯えていては、勝てるデュエルも勝てなくなってしまう。今はただ、自分のデッキを信じてドローするだけで良いはずだ。
「わたしのターン、ドロー」
 引いたカードは、強力なドロー加速効果を持つ《壺の中の魔術書》だった。その効果は、互いに手札が3枚になるまでデッキからカードをドローするという《天よりの宝札》の下位互換。
 なのはにもカードを引かせるのは怖いが、ドロー力に恵まれた目の前の親友はきっと次のドローでキーカードを引き当ててしまうのだろう。なら、せめてこの追加ドローに望みを託す。
 ――それがきっと、こんな自分にいつも全力で向かってきてくれる親友の気持ちに応えることになるはずだから……。
「手札から魔法カード《壺の中の魔術書》を発動。お互いに手札が3枚になるまでデッキからカードをドローする」
 さあ、これがわたしのラストターンだ。
「わたしはデッキトップを墓地に送って、墓地のチューナーモンスター《グロー・アップ・バルブ》を特殊召喚。更に伏せていた装備魔法《薔薇の刻印》を発動して、なのはちゃんのS・乙女座のスピカに装備。コントロールをもらうよ」
「グロー・アップ・バルブって、そっか。最初のライトニングボルテックスのコストで墓地に送ってたんだね」
「正解。わたしはレベル5、S・乙女座のスピカとレベル1、バトル・フェーダーに、レベル1、グロー・アップ・バルブをチューニング!」
 六つの星が列を成し、一つの輪の中を通り抜ける。
「冷たい炎が世界のすべてを包み込む。漆黒の花よ、開け。シンクロ召喚、ブラック・ローズ・ドラゴン!」
 フィールドに暗紅の薔薇を思わせる一体のドラゴンが舞い降りる。あまりに有名な黒薔薇竜、その召喚に、なのはは思わず身構えた。
「ブラック・ローズ・ドラゴンのシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のすべてのカードを破壊する。わたしはこの効果にチェーンしてリバースカードオープン、通常罠《火霊術‐紅》を発動。炎属性モンスターのブラック・ローズをリリースして、その元々の攻撃力2400ポイント分のダメージをなのはちゃんに与えるよ」
「きゃぁぁっ!?」
 炎の弾丸と化した黒薔薇竜がなのはの身体へと突き刺さり、大爆発を引き起こす。
「まだまだ。わたしは手札のローン・ファイア・ブロッサムを召喚して効果を発動。ローン・ファイア・ブロッサム自身をリリースして、デッキから2体目の椿姫ティタニアルを攻撃表示で特殊召喚!」
「で、でも、わたしの墓地にはまだシールド・ダイヤモンドがあるの。攻撃してきたって、これ以上ダメージは受けないよ」
「そうだね。でも、これならどうかな。手札から装備魔法《憎悪の棘》を発動して、ティタニアルに装備する。これでティタニアルの攻撃力は600ポイントアップして、貫通効果も得たよ」
 装備魔法の効果で外見にも刺々しさを増した椿姫ティタニアルに、なのはは更なうダメージを覚悟して身を硬くする。
「行くよ、椿姫ティタニアルでなのはちゃんにダイレクトアタック!」
「墓地のシールド・ダイヤモンドの効果。相手から直接攻撃を受ける時、このカードを特殊召喚することが出来る。守備表示で特殊召喚するよ」
「構わないよ。ティタニアル、なのはちゃんを護る盾を貫いて!」
 なのはの場にモンスターが増えたことでバトルが巻き戻されるが、すずかは構わず再度ティタニアルに攻撃を命じる。それを受けて、椿姫の憎悪の棘が堅剛なダイヤモンドの盾を貫いた。
「憎悪の棘を装備したモンスターの攻撃で相手を破壊することは出来ない。だけど、あの方法で特殊召喚したなのはちゃんのそのモンスターはエンドフェイズに除外されるはずだよね」
「うん」
「わたしはカードを1枚伏せて、ターンエンドだよ」

 なのは LP:4000 → 1600 → 800
 手札:3枚
 場:なし
 魔法・罠:なし

 すずか LP:2000
 場:椿姫ティタニアル(憎悪の棘)
 魔法・罠:伏せ1

 椿姫ティタニアル ATK:2800 → 3400

「わたしのターン」
 場にカードはなく、ライフポイントも既に1000を切った。壺の中の魔術書の効果で手札に舞い込んだカードはいずれも強力だったが、すずかから勝利をもぎ取るには後一手足りない。
 シールド・ダイヤモンドの護りを失った以上、このターンで決められなければ今度こそ自分は負けてしまうだろう。
 だが、この期に及んでなのはに動揺は見られなかった。まだわたしはカードを引ける。なら、このドローで最後の一手を引き当てるのみだ。
「ドロー!」
 ただ、デッキを信じて、なのははカードをドローする。引いたカードはドロー効果を持つガーネットの魔術師だった。
「わたしは手札から魔法カード《死者蘇生》を発動。墓地のS・乙女座のスピカを攻撃表示で特殊召喚するよ」
 蘇生の光を受けて、なのはの場に一人の少女魔導師が蘇る。夜を思わせる紺碧の肩当ての右側には乙女座のシンボルマークが描かれ、青いマントと白を基調とした衣服に身を包んでいる。
 その衣装も随所に赤と銀の糸で刺繍が施され、丈の短いスカートから伸びるすらりとした足を包むニーソックスも同様。
 足元こそは軽さと丈夫さを兼ね備えたブーツだが、その有様は魔術師と言うよりも現代の魔法少女と言ったほうがしっくり来るだろうか。
「ここでその子を呼ぶってことは、出すんだね。なのはちゃんのフェイバリットカードを」
「うん。まずはスピカの効果。このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、自分フィールド上にこのカード以外のモンスターが存在しない場合に発動することが出来る。自分は手札からレベル5以下の魔法使い族モンスター1体を守備表示で特殊召喚することが出来る。わたしは手札から《J・スタック・ガーネット》を守備表示で特殊召喚」
 乙女座の加護を受けた少女の祈りが、孤独な戦場に共に戦う仲間を呼び寄せる。祈りに応じて降り立ったのは、ガーネットの首飾りをしたローブ姿の女性だった。
「更に手札から即効魔法《ディメンション・マジック》を発動。スタック・ガーネットをリリースして、手札のチューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を特殊召喚。その後、椿姫ティタニアルを破壊する」
「ディメンション・マジックのモンスター破壊効果は対象を取らないから、ティタニアルの効果じゃ止められないよね」
「スタック・ガーネットが場を離れた時、1枚ドロー出来る。行くよ。レベル5、S・乙女座のスピカにレベル1、エフェクト・ヴェーラーをチューニング!」
 五つの星と一つの輪が交差し、なのはの場に新たなモンスターを呼び出す光となる。その光が指し示す先こそ、勝利の栄光であると信じて、なのはは高らかに口上を謳い上げる。
「乙女の祈り、今光と成りて暗夜を照らす。導きの下、降臨せよ。シンクロ召喚、目覚めよ、セイクリッド・メイデン・スピカ!」
 光が晴れた時、そこには服の上から蒼銀の胸当てを着け、両手首に同色のブレスレッドを填めた乙女座のスピカの姿があった。
「セイクリッド・メイデンスピカのシンクロ召喚に成功した時、手札の魔法使い1体を特殊召喚出来るけど、今の手札にはいないからこのままバトルフェイズに入るよ。セイクリッド・メイデン・スピカですずかちゃんにダイレクトアタック。セイクリッド・スター・イリュージョン!」
 シンクロによって新たな力を得た乙女座の少女魔導師が右手を天へと掲げ、その手に星の輝きを思わせる魔力を集束させていく。その威力、攻撃力は現デュエルキングが従える黒魔術師と同じ2500。
 ソリッドビジョンの演出によってフィールドに夜の帳が降りる中、やがて解き放たれた星光は一条の流星となってすずかに降り注ぐのだった。

 すずか LP:2000 → 0
 win:なのは



リメイク版、決闘少女リリカルなのはが遂に始まる。
美姫 「投稿ありがとうございます」
で、大会にエントリーしての初っ端の相手がすずかと。
美姫 「互いに良い勝負よね」
だな。結果はどうなるかと思ったけれど、最後の最後まで諦めないなのはが逆転か。
美姫 「すずかも惜しかったわね」
だな。でも、本当に良い勝負だった。
美姫 「そうよね。さて、次回はどんなお話になるのかしらね」
次回も待っています。



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