『決闘少女リリカルなのは』





 サイバー流。それは、サイバードラゴンとそのサポートカードを駆使して戦うデュエルタクティクスの総称、またはその使い手を差す。
 レベル5、光属性、機械族のサイバードラゴンは2100という高い攻撃力を持ちながら、相手の場のみにモンスターが存在する時手札から特殊召喚出来るという効果まで備えている。
 また、その融合、進化体にも強力なモンスターが多く、圧倒的なパワーで相手を殴り倒す戦術をメインとする。そして、そんなサイバー流の使い手がここにも一人。
「やっと出番ね。よーし、いっちょ暴れてやりますか」
 気合十分、そう言ってデュエルリングに上がるのは、すずかの姉である月村忍。機械工学に造詣が深く、機械弄りが趣味という彼女には機械族のサイバードラゴンがよく似合っていそうだ。
 対するは、今年度の中学全国大会に於ける個人部門優勝者の神埼刹那。有名な元プロデュエリストの息子であり、自身も高い実力を持つことからその手の雑誌で取り上げられたこともある。
 尤も、刹那自身は父の息子として見られることをあまり好ましく思ってはいないようだった。
「あなた、神崎刹那でしょ。今年度の中学生チャンプの」
「えっ、あ、ああ」
「やっぱり。てことは、デッキはブラックマジシャン軸の魔法使い族ってわけか」
 名前を呼ばれて反射的に頷く刹那。だが、それに対する忍の呟きには眉を顰めざるを得なかった。
 彼の脳裏を過ぎるのは、連日様々なメディアに追いかけられた苦い記憶。まだ学生ということでゴシップ的なものは大分避けられたが、逃げ切れずに応じたものの中には品性を疑うような記事も少なからずあったのだ。
 そのせいで、刹那は栄誉であるはずの全国優勝という結果を純粋に喜ぶことが出来ずにいた。
「そういうあんたは誰なんだ」
 嫌なことを思い出してしまったせいか、幾分棘のある声でそう尋ねる刹那。忍はそれに小さく苦笑すると答えた。
「そっか、一方的にこっちだけ名前を知ってるってのもフェアじゃないよね。うん、わたしは月村忍。私立・風ヶ丘の三年生で、後一応サイバー流かな」
「サイバー流……てか、先輩だったんすか!?」
「あはは、別に畏まらなくても良いって。今は学校外だし、それにわたしはデュエリストであなたもデュエリストなら、他に必要なこともないでしょ」
 デュエリストがデュエルをするのに特別な理由等必要ない。ただお互いがデュエリストであるというだけで十分なのだ。
「っ!?」
 だが、そんな何でもないこととばかりにさらりと放たれた一言に、刹那はまるで雷に撃たれたような衝撃を受けていた。
「どうかした? わたし、何か変なこと言ったかしら」
「い、いや、何でもないっす」
「そう。じゃあ、そろそろ始めましょうか」
 呆気に取られた様子の刹那に、忍は自分の発言を顧みつつ小首を傾げる。問われて我に返った刹那は慌てて首を横に振るが、信じてもらえたかは微妙なところだった。

  忍  LP:4000
  刹那 LP:4000

 デュエルが始まった。互いに初手となる手札を5枚取り、デュエルディスクの自動判定による先行は刹那に。サイバー流相手には不利だが、それでも決まったからにはやるしかなかった。
「オレの先行、ドロー!」
 覚悟を決めて引いた最初のドローカードは熟練の黒魔術師。手札と合わせて確認すると、刹那は引いたばかりのそのカードをデュエルディスクにセットした。
「熟練の黒魔術師を召喚。カードを2枚伏せて、手札から装備魔法《魔導師の力》を発動、熟練の黒魔術師に装備するっす」
 魔導師の力は自分の場の魔法・罠カードの数に応じて装備モンスターの攻撃力を強化することが出来る装備魔法だ。
「熟練の黒魔術師の効果、魔法が発動する度にこのカードに魔力カウンターを1個乗せることが出来るっす。そして、魔導師の力は自分の場の魔法・罠カードの数×500ポイント装備モンスターの攻撃力をアップさせる」
「神崎君の場の魔法・罠カードは3枚だから、熟練の黒魔術師の攻撃力は1500ポイント上がって3400になるってわけね」
「ええ、これなら例え攻撃力4000のサイバーエンドを出されたとしても一撃なら耐えられるっすよ。オレはこれでターンエンド」

  刹那 LP:4000
 手札:2枚
 場:熟練の黒魔術師
 魔法・罠:魔導師の力(熟練の黒魔術師に装備)・伏せ2

  熟練の黒魔術師 ATK:1900 → 3400
  魔力カウンター:0 → 1

「すごい、いきなり攻撃力3400のモンスターだなんて」
「でも、元が装備魔法ならサイクロン1枚であっさり失われちゃう程度のアドヴァンテージだよ」
「問題は2枚の伏せカードね。忍さんのデッキにはあのカードもあるから、いざとなればモンスターごと除去しちゃえば攻撃力のほうは問題になんないでしょうけど」
 フィールドを見て話し合うなのはたち三人に、保護者として同伴してきた恭也と美由希は思わず顔を見合わせる。
「美由希、分かるか?」
「うーんと、ちょっと待って」
 問われた美由希は鞄から一冊の本を取り出すと、パラパラとめくり出した。
「あった。えっと、サイクロン。即効魔法。フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する」
「なるほど。それであの魔導師の力とか言う装備魔法を破壊すれば、攻撃力が元に戻るというわけか」
「うん。でも、相手の男の子の場にはまだ2枚カードが伏せられてるよね。魔法や罠の中には攻撃を止めたり、攻撃してきたモンスターを破壊したりするものもあるみたいだから」
「うかつには仕掛けられんということだな。ところで、美由希。おまえが持っているそれは何だ」
「何って、カードのカタログだけど?」
 ページをめくりながら説明する美由希に、恭也がその手にしたものを指差して眉を顰める。それは彼女の言うように、最新版のカードカタログだった。
「いや、俺が聞きたいのは、何でそんなものを持ってるんだということなんだが。おまえ、カードゲームなんてやらないだろうが」
「えっと、あはは、実は前からちょっとだけ興味がありまして。その、なのはたちがやってるのみてるとね」
「ふむ、そういうことなら構わんが、あまり無駄遣いはするなよ」
 少しでも末妹との接点になればという美由希の考えを察し、恭也もそれを容認する。元より生活にはきちんとメリハリを利かせられている美由希だ。
 自分のことは棚に上げて、読書にガーデニングという年頃の娘らしからぬ趣味の妹を心配していた恭也だ。
 そんな彼女が新しく趣味を持とうというだけでも歓迎こそすれ、反対する理由等ありはしなかった。

「わたしのターン、ドロー!」
 外野が話している間にもデュエルは続く。忍はデッキからカードをドローすると、相手の場と手札を見比べながら考える。
 刹那の場には、魔導師の力によって攻撃力が3400にまで上昇した熟練の黒魔術師と伏せカードが2枚。
 熟練の黒魔術師には魔力カウンターが一つ乗っているが、発動に三つのカウンターを必要とするその効果を使用するつもりなら、自分のターンでもう二回魔法カードを発動させてさっさと使っているはずだ。
 ――だが、そうしなかったということは、熟練の黒魔術師はこちらに除去カードを使わせるための囮か。
 となれば、セットされているカードはその発動を無効にするカウンタートラップである可能性が高い。
 もっと単純に力で対抗しようとしているだけかもしれないが、何にしてもこの手札なら関係はなかった。
 相手の冥福を祈るかのように一度静かに瞑目すると、忍は手札の1枚へと手を掛ける。その姿に嫌な予感を覚えた刹那は、反射的に身構えてしまった。
「手札の《サイバードラゴン》を効果で特殊召喚。そして、魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動」
「やっぱりいきなり出て来るか。いや、それよりも……」
「このカードは自分の場にサイバードラゴンが存在する時に発動することが出来る。このターンのサイバードラゴンの攻撃を封じる代わりに相手の場のカード1枚を選択して破壊することが出来るわ。わたしが選択するのはもちろん、熟練の黒魔術師よ」
 サイバードラゴンの口から一条のビームが放たれ、熟練の黒魔術師を破壊する。だが、刹那の場の伏せカードが翻ることはなかった。
「くそ、熟練の黒魔術師が。けど、これでこのターン、先輩のサイバードラゴンは攻撃出来ないんすよね。こっからどうするつもりっすか」
「慌てなくてもわたしはまだこのターン通常召喚してないでしょ。手札のチューナーモンスター《A・ジェネシス・バードマン》を召喚」
「うな、チューナー!?」
 忍の宣言に、刹那は思わず驚きに目を見開いて固まった。
「何驚いてるの。わたしはサイバー流だとは言ったけど、シンクロ召喚しないとは一言も言ってないわよ」
「い、いや、確かにそうっすけど……」
「行くわよ、レベル5、サイバードラゴンに、レベル3、A・ジェネシス・バードマンをチューニング!」

  5 + 3 = 8

「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見せてあげるわ。シンクロ召喚。紅蓮の魂、《レッド・デーモンズ・ドラゴン》!」
 シンクロの光に導かれ、降り立つはアリサのエースモンスターでもある紅蓮の魔竜。だが、こちらは女王に従う僕の如く跪いているように見える。
「そ、そいつは、優希を倒したドラゴン……」
「あの子、優希ちゃんって言うんだ。アリサちゃんと仲良さそうに話してたけど、神崎君の妹さんかしら」
「い、いや、オレじゃなくて幼馴染の妹ですけど、まあ、オレにとっても妹分っすかね」
「そう。じゃあ、格好悪いところは見せられないわね。墓地のA・ジェネシス・バードマンを除外して、手札から即効魔法《イージー・チューニング》を発動!」
「なっ、レッド・デーモンズの攻撃力が……」
 愕然とする刹那の目の前で、紅蓮魔竜の存在感が大きく増していく。それはまるで優希とアリサのデュエルの焼き直しのようだった。
「イージー・チューニングの効果で発動時に除外したA・ジェネシス・バードマンの力がそのままレッド・デーモンズ・ドラゴンに加えられる。よって、レッド・デーモンズ・の攻撃力は4400に。レッド・デーモンズでプレイヤーにダイレクトアタック!」
「発動、通常罠《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にして、1枚ドローするっす」
「そう来なくちゃね。わたしは手札から《封印の黄金櫃》を発動して、デッキからカードを1枚除外、ターンエンド」

  忍  LP:4000
  手札:1枚
  場:レッド・デーモンズ・ドラゴン
  魔法・罠:なし

  刹那 LP:4000
  手札:3枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:伏せ1

  レッド・デーモンズ・ドラゴン ATK:3000 → 4400

 ――忍は言った。自分は一応、サイバー流だと。その濁された言葉の意味がここにあった。
 彼女のデッキは、シンクロサイバーとでも言うべきサイバードラゴンデッキの亜種なのだ。
 チューナーを含めて場に最低2体のモンスターをそろえなければならないシンクロ召喚に於いて、特殊召喚効果を持つモンスターの有用性の高さは言うまでもないだろう。
 特にサイバードラゴンはレベル5、レベル1から3のチューナーと合わせることで後攻1ターン目から高レベルのシンクロモンスターを出せるとなれば、使わない手はなかった。
 だが、純粋なサイバー流デュエリストの中にはそれをよしとしない者もいる。そう、例えば彼のように……。
「ふん、所詮はあの女もシンクロサイバーか」
 腕組みしながら吐き捨てるようにそう言ったのは、紺のジーンズに黒のトレーナーといったラフな格好の青年。忍とレッド・デーモンズ・ドラゴンに向けられるその鋭い視線は、まるで怨敵を見るかのようだ。
「しょうがないんじゃないかな。シンクロのシステム的にサイバードラゴンの効果は美味しすぎるわけだし、そのおかげで長く使われてるとも言えるんだから」
 青年の言葉に、苦笑気味に返すのは長く伸ばした銀髪を後ろで一本に纏めた女性(?)。170に届きそうな長身に、すらりと伸びた手足はまるでファッションモデルのようだ。
「リオンか。おまえ、今日は店のほうに出るんじゃなかったのか?」
「君っていう問題児を見張ってなきゃいけないからね。適当な理由をでっち上げて抜けてきたのさ」
 そう言って青年の隣に腰を下ろす彼女(?)は何処からどう見ても美しい女性なのだが、親しい間柄らしい彼は何故か嫌そうに眉を顰めた。
「別にサボるのは勝手だがな。その口実にわざわざ俺を使うのはどうなんだ」
「おや、君が問題児なのは本当のことじゃないか。特にさっきみたいな発言はいただけないな」
「はっ、こうもシンクロばかりじゃ、愚痴の一つも言いたくなるさ。どいつもこいつもサイバードラゴンを便利な素材程度にしか考えてないんじゃな」
「元祖サイバー流の次期後継者としては、邪道を見過ごすわけにはいかないってところかな。まったく、狭量なことだね」
「言ってろ」
 視線は忍を捉えたまま、小さく鼻を鳴らしてそっぽを向く青年。そんな彼に、女性(?)はやれやれと肩を竦めると、自分もデュエルの観戦に集中するのだった。

「オレのターン」
 危なかった。念のためにと伏せておいたガード・ブロックがなければ、今頃は圧倒的な紅蓮魔竜の攻撃に押し潰されて終わっていた。
 忍の言葉ではないが、優希にああ言った手前、同じモンスターに後攻ワンターンキルされたとあっては兄貴分として面目が立たない。
 幸い、ガード・ブロックの効果で引いたのは1枚で防御と破壊の両方をこなせる強力な罠カード。大丈夫だ、自分はまだまだ戦える。
「っ、よっしゃぁ!」
 ドローカードを確認した刹那は、思わずガッツポーズを取りながら叫んでいた。
「オレは手札から《ウィンド・マジシャン》を召喚。そして、ウィンド・マジシャンの効果を手札を1枚捨てて発動する。相手フィールド上に存在するモンスター1体を持ち主の手札に戻す。レッド・デーモンズ・ドラゴンを戻すっす」
「何ですって!?」
「更にこの効果の発動に成功した場合、ウィンド・マジシャンの攻撃力は400ポイントアップする」
 効果の発動の成功を受けてウィンド・マジシャンの攻撃力が1600から2000へと上昇する。
「まだだ。オレは手札から《死者蘇生》を発動。墓地の《ブラック・マジシャン・ガール》を攻撃表示で特殊召喚する」
 蘇生の光に導かれ、墓地から姿を現したのは、デュエルキングも使うことで有名な黒魔術師の弟子。少女の愛らしさに露出の激しい衣装も合わさって、男性陣から熱烈な人気を得ている。
「刹那、あんたまたそんな小娘を……」
 だが、ブラック・マジシャン・ガールが現れた瞬間、刹那は強烈な悪寒を感じて反射的に背筋を伸ばした。
「い、行くぜ、ウィンド・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールで先輩にダイレクトアタックだ!」
 嫌な感覚を振り払うようにプレイを進め、攻撃宣言をする刹那。この2体の直接攻撃が決まれば、忍のライフポイントは丁度0だ。
「手札の《バトル・フェーダー》を効果で特殊召喚してバトルフェイズを終了させる」
「ちくしょう、やっぱ、そう簡単に勝たせちゃくれねぇか」
「当然。せっかくのデュエルだもの。とことん楽しまなきゃ損ってもんでしょ」
 そう言って笑う忍はまだまだ余裕そうで、それを観た刹那は頬に冷たい汗が伝うのを感じた。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

  忍  LP:4000
  手札:0枚
  場:バトル・フェーダー
  魔法・罠:なし

  刹那 LP:4000
  手札:0枚
  場:ウィンド・マジシャン ・ ブラック・マジシャン・ガール
  魔法・罠:伏せ2

「ああもう、何やってんのよ!」
 刹那の攻撃が止められたのを見て、観月舞は苛立たしげに溜息を漏らした。
 相手がカードを伏せていない時点で他に防御手段があることは明白だろう。
 それをわざわざ攻撃して、相手の場にモンスターを残すなんて……。
「えっ、でも、サイバードラゴンを特殊召喚されないためにはこっちのほうが良いんじゃないの?」
「そうね。でも、刹那はわざわざ2体のモンスターで攻撃したでしょ。その時点で勝ったって思っちゃったのよ」
「ああ、マンガとかだと、結果が出る前にそう思うのは負けフラグだっけ」
 姉にそう言われて、隣で一緒に観戦していた優希は納得したように相槌を打つ。
「現実でも割とあることよ。もし、あの人の手札が《冥府の使者ゴーズ》だったりした場合、返しのターンでモンスターを全滅させられて直接攻撃されてたでしょうね」
 ゴー図はダメージを受けた時、自分の場にカードがなければ特殊召喚出来る効果を持っている。しかも、それが戦闘ダメージなら、それと同じ数値の攻守を持つトークンまで付いてくるのだ。
 デュエルには必ず警戒しなければならない状況というのがあり、相手が手札のみというのは正にそれだ。刹那とて、それくらいのことは理解しているはずだが、勝ちを前に焦ったのだろうか。

「わたしのターン。スタンバイフェイズに除外されている《異次元からの宝札》の効果を発動。このカードを手札に戻し、お互いにデッキからカードを2枚ドローする」
「封印の黄金櫃の効果で除外したカードっすか」
「そうだよ。手札から《サイバー・ヴァリー》を召喚。効果でこのカードとバトル・フェーダーをゲームから除外して、デッキからカードを2枚ドローする。更に手札から《強欲な壺》を発動して、2枚ドロー!」
「ちょ、ちょっと待て……いや、待ってくださいっす。ドローフェイズの1枚に、異次元からの宝札、サイバー・ヴァリーの効果と強欲な壺でそれぞれ2枚ずつってことは……」
「合計で7枚ドローしたことになるわね。いや〜、我ながらよく引いたわ」
 潤沢な手札を扇のように広げて持ちながら笑う忍。だが、刹那にとっては笑い事ではなかった。
 あれだけ引いたのだ。
 1枚は異次元からの宝札だとしても、他の5枚の中にサイバードラゴンが含まれている可能性は高い。もちろん、融合もだ。
「じゃあ、まずはそのセットカードを手札に戻してもらおうかな。手札から魔法カード《ハリケーン》を発動、フィールド上の魔法・罠カードをすべて持ち主の手札に戻す」
「げっ、《漆黒のパワーストーン》と《マジシャンズ・セレクト》が」
「続いて《融合》を発動。手札の2体のサイバードラゴンを融合して、エクストラデッキから《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚する」
「うなっ、残り2枚とも手札に来てたんすか!?」
「まあね。おかげでサイバー流らしくサイバードラゴンの融合体でフィニッシュと行けそうだよ」
 サイバー・ツイン・ドラゴンは一度のバトルフェイズ中に二回攻撃出来る効果があったはず。けど、オレの場のモンスターはどっちも攻撃力2000。例え全滅させられてもまだライフポイントは残る。そう、思っていた時が刹那にもあった。
「ホッとしてるところ悪いんだけど、締めはこれね。手札から即効魔法《リミッター解除》を発動。自分の場の機械族の攻撃力はエンドフェイズまで倍になる」
「…………」
「サイバー・ツイン・ドラゴンは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃することが出来る。バトル! サイバー・ツイン・ドラゴンでウィンド・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールに攻撃。エヴォリューション・ツイン・バースト!」

  サイバー・ツイン・ドラゴン ATK:2800 → 5600

  刹那 LP:4000 → 400 → 0
  ――win:忍

「あー、負けちまったか。もう少し粘れるかと思ったんすけどね」
 自分のライフカウンターが0になったのを見て、刹那が軽く肩を落としながらぼやく。異次元からの宝札で引いたカードがカードだけに、このターンさえ凌げればまだ分からないと思っていた。
「その様子だと、さっきのドローでよっぽど良いカードを引いてたんだね。ねぇ、ちょっと手札を見せてもらっても良いかな」
 そんな刹那の様子に興味を持った忍は、デュエルリングから降りると彼の側にまで寄っていってその手元を覗き込んだ。
「えっと、《サニー・ピクシー》に《マジック・リサイクル》……って、うわぁ、これじゃあこのターンで決めてなかったら本当に逆転されてたかもしれないわ」
「ちょ、顔、顔近いっすよ!?」
 身体を寄せて手元を覗き込んで来る忍に、刹那は顔を真っ赤にして離れようとする。鼻腔を擽る女の子特有の甘い匂いは、中卒のチェリーボーイには刺激が強すぎたようだ。そんな刹那の様子を気にしたふうもなく、忍は彼から離れると楽しそうな笑みを浮かべて口を開いた。
「うん。そんなに気にすることはないんじゃないかな。プレイング自体は悪くなかったし、今回はわたしも手札が良かったからね」
「は、はぁ」
 決められたのはリミッター解除でサイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃力を倍加できたからだし、そもそもハリケーンがなければマジシャンズ・セレクトで攻撃を止められた上にモンスターまで破壊されているところだった。
 縦しんばマジシャンズ・セレクトを除去し、モンスターを一掃出来たとしても、刹那の手札にはチューナーのサニー・ピクシーと、墓地の魔法カードを除外することでその効果をコピーするマジック・リサイクルがあった。
 彼の墓地には死者蘇生があったから、これをコピーして蘇生させたモンスターを素材にシンクロ召喚を行うことで反撃の一手とすることが出来ただろう。本当にこれだからデュエルは面白い。
 良いデュエルをありがとう。そう言って刹那と握手を交わし、友人たちの下へと戻る忍の心は今後の対戦への期待感に高鳴っていた。
 ――そう、大会はまだ始まったばかりなのだから……。

 


 * * * 登場オリカ設定 * * *
 ・ウィンド・マジシャン
 効果モンスター
 星4/風属性/魔法使い族/ATK:1600/DEF:1200
 手札を1枚捨てる。相手フィールド上に存在するモンスター1体を持ち主の手札に戻す。この効果は1ターンに1度だけ発動できる。
 この効果の発動に成功した場合、このカードの攻撃力は400ポイントアップする。
 yun様提供



忍が勝ちあがり、残す所は後一人か。
美姫 「そうね。でも、気になるのは……」
忍のデュエルを見ていた青年だよな。
美姫 「彼の出番は今後あるのかしら」
どうなのだろうか。次回も楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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