『決闘少女リリカルなのは』





 結論から言えば、アリサがPKの女性に勝つことは出来なかった。
 魔法カード《シールド・クラッシュ》で相手の守備モンスターを破壊したところに、通常罠《破壊神の系譜》の効果を受けて二回攻撃可能になったレッド・デーモンズ・ドラゴンで一気に畳み掛けようとしたのだが、その目論見はたった1枚の伏せカードによって脆くも崩れ去る。
 ――通常罠《サンダーブレイク》……。
 手札1枚をコストに場のカード1枚を破壊するこのカードによって、レッド・デーモンズは破壊されてしまったのだ。
 更に返しのターン、フィールド魔法《ハーピィの狩場》と通常罠《ゴッドバードアタック》によって3枚の伏せカードをすべて破壊され、がら空きになったところを永続罠《ヒステリック・パーティー》で展開されたハーピィ5体による総攻撃を受けて敗北となった。
 ちなみに、ハーピィの狩場と展開された3体のハーピィレディ1の効果で攻撃力を強化されたハーピィクィーンの攻撃力は3000。
 仮にサンダーブレイクを阻止出来ていたとしても、レッド・デーモンズと相打ちにした後残りのモンスター2体で攻撃されればアリサのライフは0になっていた。
「くっ、まさか、自分の得意な戦術で倒されるなんて思わなかったわ」
 手札に残った真炎の爆発を見ながら、アリサは悔しそうに唇を噛む。文字通り爆発的な展開力を炎属性に与える《真炎の爆発》ではあるが、そもそも蘇生対象となるモンスターが墓地にいなければ使うことは出来ないのだ。
「まあ、その手のカードは短期決戦型のデッキじゃ使い難いからね。わたしの《ヒステリック・パーティー》なんて罠カードだから、伏せてから1ターン待たないと発動できないし」
 それを活かせる状況を作り出すのもデュエリストとしての腕の見せ所ではあるんだけど。そう続けた女性は不意に表情を和らげると、アリサに目線の高さを合わせてから更に言葉を続けた。
「慰めるわけじゃないけど、あんたのプレイングも中々だったよ。少なくとも、わたしがあんたくらいの頃はミスばっかしてたからね」
「そうなんですか?」
「うん。出るのだって、地元のショップでの公認大会がやっとだった。だからさ、これにめげずにがんばんな。あんたならきっと、今のわたしよりも強くなれるから」
 目を丸くするアリサに、女性は優しい調子でそう言うと、彼女に1枚のカードを握らせて去っていった。
 PKという立場とはいえ、小さな子供を負かしてしまったことに罪悪感でも覚えたのだろうか。
 アリサとしては情けを掛けられるのはプライドが許さないが、女性の態度がさっぱりとしていたからなのか今回は然程気にもならなかった。
 渡されたカードに目をやると、それは炎属性を強くするフィールド魔法《バーニング・ブラッド》だった。
 フィールド魔法故に相手にも効果が及ぶものの、上手く使えばアリサのモンスターを大きく強化することが出来るだろう。
 悔しかったら使いこなしてみせろ。そんなメッセージのような気がして、アリサは一度強く握り締めるとそのカードをデッキに加えた。
 ――次遭ったら絶対勝ってやる。そんな決意を胸に、少女は今日の敗北を噛み締めるのだった……。

   * * *

 アリサが敗北の味を苦く噛み締めていた頃、Cブロックでは忍が一人のデュエリストと対峙していた。
 黒岩竜司と名乗ったその男は、同じサイバードラゴン使いとして彼女にデュエルを挑みたいのだと言う。
 子供たちとは逆に、ある意味正当な評価として避けられていた忍は、ようやく戦えるとあって快くこれを承諾した。

  忍  LP:4000
  竜司 LP:4000

「わたしの先行きか。ドロー」
 デュエルディスクの自動判定によって先行となった忍は、一つ頷くとデッキへと手を伸ばす。
 サイバードラゴンの効果の性質上、後攻のほうが有利になりやすいのだが、そこは戦術を工夫すれば良いだけのことだ。
 引いたカードを加えて6枚となった手札を端から順に見渡し、徐にその中の1枚を抜き取る。
「手札の《マシンナーズ・フォートレス》の効果を発動。このカードは手札の機械族をレベルの合計が8以上になるように捨てることで、手札か墓地から特殊召喚することが出来る」
「何だと!?」
「わたしはレベル2の機械族《ボルトヘッジホック》とレベル7のマシンナーズ・フォートレスを捨てて、墓地からマシンナーズ・フォートレスを攻撃表示で特殊召喚。カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

  忍  LP:4000
  手札:3枚
  場:マシンナーズ・フォートレス
  魔法・罠:伏せ1

 弱点とまでは言えないかもしれないが、サイバードラゴンを主軸に戦うデッキは後攻でこそ真価を発揮するタイプのものがほとんどだ。
 それだけに、先行を取ってしまった場合に如何に相手の初手を往なすかが勝負の鍵を握ることになる。
 では、忍の場合はどうか。
 彼女の召喚したマシンナーズ・フォートレスは、墓地にモンスターを送りつつ召喚権を消費することなく場に出せる優秀なモンスターだ。
 しかも、その攻撃力は2500とサイバードラゴンを上回っている。
 レベルも7と高く、手札にレベル1のチューナーがあれば即座に召喚して強力なレベル8シンクロモンスターに繋げられる点も見逃せないだろう。
 尤もそうしなかったところを見るに、今の彼女の手札にレベル1チューナーはないようだが。
 ――さて、どうしたものか。
 手札に加えたカードを見つつ、黒岩竜司は考える。彼の手札には既にサイバードラゴンとエヴォリューション・バーストがあった。
 だが、相手も同じカードを使う以上、このまま何も考えずに出しても発動を許してはもらえないだろうことは容易に想像が着いた。
 忍の伏せカード。最も可能性が高いのがフリーチェーンの罠で、次いで召喚反応型のトラップだろう。
 サイバードラゴンを破壊しても手札に後続がある可能性を考えれば、あえて召喚させてエヴォリューション・バーストのほうを無駄打ちにさせようとするはずだ。
 事実、彼の手札には2枚のサイバードラゴンがあり、一体目を破壊されても続けて特殊召喚することが出来た。
「俺のターン、手札のサイバードラゴンを効果で特殊召喚。更に手札から魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動。貴様のセットカードを破壊する」
 まずはセオリー通りとばかりに手札を切る竜司。無論、すんなり通るとは思わないが、仕掛けないことには何も始まらないだろう。
「その発動にチェーンして、リバースカードオープン。通常罠《サンダーブレイク》。手札を1枚捨てて、あなたのサイバードラゴンを破壊する」
「ちっ、やっぱりフリーチェーンだったか。なら、俺は手札からサイバードラゴンツヴァイを召喚して効果を発動。手札の魔法カード《融合》を見せて、こいつをエンドフェイズまでサイバードラゴンとして扱う。更に手札の融合を発動だ」
「ツヴァイ。そして、ここで融合ってことは、手札にあるんだ」
 自分も使うだけに、さすがに忍にも読めるようだ。だが、竜司は気にすることなくプレイングを進める。
「俺は場のサイバードラゴン扱いになっているツヴァイと手札の二体目のサイバードラゴンを融合して、サイバーツイン・ドラゴンを融合召喚する」
 竜司の場に二頭を持つ機械竜が姿を現す。
「バトルだ。サイバーツイン・ドラゴンでマシンナーズ・フォートレスに攻撃!」
「っ、けど、うかつだよ。戦闘破壊されたマシンナーズ・フォートレスの効果発動。相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する」
「何っ!?」
 サイバーツイン・ドラゴンには一度のバトルフェイズ中に二回攻撃することが出来る効果がある。だが、竜司のサイバーツイン・ドラゴンに二度目が許されることはなかった。
「マシンナーズ・フォートレスが戦闘で破壊されて墓地に送られた時、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。わたしが選ぶのは、当然サイバーツイン・ドラゴン」
「俺のサイバーツインが。おのれ、自己再生だけでは飽き足らず、そんな能力まであるとはな。俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

  忍  LP:4000 → 3700
  手札:2枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:なし

  竜司 LP:4000
  手札:0枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:伏せ1

「わたしのターン、ドロー!」
 まずは小手調べといったところだろうか。
 サイバードラゴンとサイバードラゴンツヴァイ。そして、その融合体のうちの一つであるサイバーツイン・ドラゴンをそれぞれ1体ずつ破壊することには成功した。
 だが、それだけだ。上記の三体はいずれも無制限カードのため相手も普通に3枚積みしているだろうし、寧ろ墓地に機械族モンスターが溜まったことで別の脅威も鎌首を擡げてくる。
 それら全てに対応するのは困難なため、サイバードラゴン系のデッキを相手に勝ちを拾いにいくのなら、なるべく短期決着を目指さなければならなかった。
「《強欲な壺》を発動して2枚ドロー。更に《天使の施し》を発動、3枚ドローして2枚捨てる」
「む、ここで一気に使うか」
「ミラーマッチで出し惜しみは命取りだからね。わたしは手札の《チューニング・サポーター》を召喚。更に魔法カード《機械複製術》を発動して、デッキからチューニング・サポーターを2体特殊召喚する」
 忍の場に並ぶ3体の同じモンスター。
 機械複製術は自分の場の攻撃力500以下の機械族1体を対象に発動することが出来る。対象モンスターと同名モンスターを2体まで自分のデッキから特殊召喚することが出来る魔法カードだ。
 チューニング・サポーターの攻撃力は100であるため、この条件を満たしている。
「どんどん行くわよ。わたしはチューニング・サポーターを1体手札に戻して、手札のチューナーモンスター《A・ジェネシス・バードマン》を自身の効果で特殊召喚する。更に自分の場にチューナーがいる時、墓地のボルトヘッジホックは特殊召喚することが出来る」
「シンクロ召喚か。だが、レベルの合計は7、貴様のレッド・デーモンズ・ドラゴンには足りていない」
「いいえ、チューニング・サポーターにはシンクロ素材とする時レベル2として扱える効果があるわ。レベル1、チューニング・サポーターと効果でレベル2としたチューニング・サポーター、レベル2、ボルトヘッジホックにレベル3、A・ジェネシス・バードマンをチューニング!」
「ちぃっ!」
「王者の鼓動、今ここに列を成す。天地鳴動の力を見せてあげるわ。シンクロ召喚! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン!》」

  1 + 2 + 2 + 2 + 3 = 8

「チューニング・サポーターの効果。このカードがシンクロ素材として墓地に送られた時、デッキからカードを1枚ドローする。2体分の効果で2枚ドローするわ。そして、自身の効果で特殊召喚されたボルトヘッジホックとA・ジェネシス・バードマンはフィールドを離れた時ゲームから除外される」
「ぬうっ、消費した手札まで回復させるとは……」
「まだよ。わたしは手札のサイバードラゴンツヴァイ2体を捨てて、墓地のマシンナーズ・フォートレスを攻撃表示で特殊召喚。バトル!」
 2体の最上級モンスターによる直接攻撃。これが通れば忍の勝ちだが、さすがにそう簡単にはいかないだろう。
「マシンナーズ・フォートレスの攻撃は受ける。だが、レッド・デーモンズはやらせん。発動、通常罠《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にして、デッキから1枚ドローする」
「ああ、やっぱそう簡単にはいかないか。《封印の黄金櫃》を発動。デッキからカードを1枚除外して、ターンエンド」

  忍  LP:3700
  手札:1枚(チューニング・サポーター)
  場:レッド・デーモンズ・ドラゴン マシンナーズ・フォートレス
  魔法・罠:なし

  竜司 LP:4000 → 1500
  手札:1枚
  場:モンスターなし
  魔法・罠:なし

「おい、貴様。何故サイバードラゴンを出さない。俺は同じサイバー流としての貴様にデュエルを挑むと言ったはずだぞ」
 鋭い視線を忍へと向けながら、竜司は苛立ちも露に低い声でそう尋ねる。
「まだその時じゃないってだけよ。それに、わたしはこれまで何度も墓地にカードを送ってる。あなたもサイバードラゴン使いなら、この意味わかるでしょ」
「ちっ、俺のターン、ドロー!」
 軽く返された竜司は舌打ちして自分のデッキへと手を伸ばす。彼女の言うように、サイバードラゴンには墓地を肥やすことに意味のあるカードが幾つかある。それを使われる前に攻めきらなければ勝ちの目はほぼなくなるだろう。
「俺も引いたぞ。手札から《強欲な壺》を発動。デッキから2枚ドローする」
 これで竜司の手札は先のガード・ブロックの効果で引いたものと合わせて3枚。場にモンスターはないが、その中の1枚に状況をひっくり返す手があった。
「手札から魔法カード《スクラップ・フュージョン》を発動。貴様の墓地のサイバードラゴンツヴァイ2体をゲームから除外し、貴様のエクストラデッキから俺の場にサイバーツイン・ドラゴンを攻撃表示で融合召喚する」
「なっ!?」
「驚くのはまだ早い。俺は更に手札から装備魔法《流星の弓‐シール》を発動し、サイバーツイン・ドラゴンに装備する」
 流星の弓‐シールは装備モンスターの攻撃力を1000ポイント下げる代わりに、相手への直接攻撃を可能にする装備魔法だ。
「いくぞ。サイバーツイン・ドラゴンでプレイヤーにダイレクトアタック!」
「くぅっ!」
「俺はこれでターンエンドだ」

  忍  LP:3700 → 1900 → 100
  手札:1枚(チューニング・サポーター)
  場:レッド・デーモンズ・ドラゴン マシンナーズ・フォートレス
  魔法・罠:なし

  竜司 LP:1500
  手札:1枚
  場:サイバーツイン・ドラゴン(流星の弓‐シール)
  魔法・罠:なし

  サイバーツイン・ドラゴン
  ATK:2800 → 1800

 サイバーツイン・ドラゴンの直接攻撃が決まった瞬間、忍の身体を衝撃が突き抜けた。それは、デュエルディスクに搭載されたダメージ体感システムによるものだ。
 デュエルの臨場感を高める目的で実装されているこのシステムだが、過去には悪用されて幼子に危険が及ぶような場面も見られた。
 そのため、現在では対戦する両者共に設定された対象年齢である十五歳以上の場合にのみシステムが適用されるようになっている。無論、その場合でも使用者の任意で《on / off》が可能だ。
「わたしのターン、ドロー」
 連続した強い衝撃に少々よろけながらも、忍は自分のデッキへと手を伸ばす。残りライフポイントは僅か100ではあるが、逆に言えばまだそれだけ残っているのだ。
「ゲームから除外されている《異次元からの宝札》の効果を発動。スタンバイフェイズにこのカードを手札に戻す。そして、互いのプレイヤーはデッキからカードを2枚ドローする」
「先のターンに封印の黄金櫃で除外していたのはそれだったか。だが、これで俺の手札も整った。次のターン、貴様に我がサイバー流の真髄を以って引導を渡してくれる」
「残念だけど、次のターンはないよ」
「何!?」
「わたしは手札の《サイバーエルタニン》の効果を発動。自分フィールド上及び墓地の機械族・光属性モンスターをすべて除外し、手札からこのカードを特殊召喚する」
 忍の宣言に合わせて墓地から3枚のカードが飛び出す。彼女はそれらを素早く掴み取ると、スカートのポケットに仕舞った。
「サイバー・エルタニンの攻撃力と守備力はこのカードの特殊召喚時に除外したモンスターの数×500ポイントになる」
「何だと!?」
「わたしが除外したのは3体。よって、サイバー・エルタニンの攻守は1500となる。そして、このカードが特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在するこのカード以外のモンスターすべてを墓地に送る」
 効果によって攻守の確定したサイバー・エルタニン。その数値は、奇しくも竜司の残りライフポイントと同じだった。
「これで終わりよ。サイバー・エルタニンでプレイヤーにダイレクトアタック。ドラコニスアセンション!」

  竜司 LP:1500 → 0
  ――忍:win

   * * * * *



アリサは負けてしまったようだな。
美姫 「みたいね。でも、これを励みに更に強くなって欲しいわね」
なると思うな。で、後半は忍か。
美姫 「いっきにLPを削られて逆転負けかと思ったけれど」
そこから更に逆転して見事に勝利を手に入れたな。
美姫 「お見事よね」
だな。次は誰の対決が見られるのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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