『決闘少女リリカルなのは』





 ――時は少々遡って、全日本アマチュアデュエリスト選手権予選当日の朝……。
 フェイトたちを見送ったプレシアは、愛娘の活躍をその目で見届けるべく、虎視眈々と病院を抜け出す機会を伺っていた。
 連日の残業で疲労が溜まっていたところに自己、いや、事件に巻き込まれ、入院を余儀なくされた彼女だったが、迸る娘への愛を原動力とする親バカ魔導師はその程度では留まらないようだ。
 何せ、フェイトにとって初めての大きな舞台だ。
 娘たちの手前、大人しくしているようにとの親友でもある主治医の言葉に渋々頷いて見せたものの、プレシアに本当にそのようにしているつもりはなかった。
 最低限身形を整え、堂々とロビーを通って外へ出る。こうすれば、誰も彼女が脱走を企てているなどとは思わないだろう。
 魔法による転移が使えれば楽なのだが、ここは病院だ。魔力の波動が医療機器に干渉した場合のトラブルを考えると、恐ろしくて滅多なことは出来なかった。
 そんなわけで、一般人的な手段で抜け出そうとしたプレシアだったが、事はそう簡単にはいかないようだった。
「待ちなさい」
 不意に背後から掛けられたその声に、プレシアはびくりと肩を震わせた。恐る恐る振り返ると、そこには白衣の般若……もとい、彼女の親友兼主治医であるところのフィリス=矢沢が腰に手を当てて立っていた。
「あら、奇遇ね。こんなところでどうしたのかしら」
 内心の動揺を押し隠しつつ、無駄だと承知していながらもとりあえずすっとぼけて見せるプレシア。お約束は大事である。
「大したことじゃありませんよ。ただ、娘と約束したにも関わらず病院を抜け出そうとしている不良患者が見えたので、医師としてちょっとお灸を饐えてあげようと思っただけです」
 問われたフィリスは腰に手を当てたまま、あくまで笑顔でそう答える。だが、その目がまったく笑っていないのは言うまでもないだろう。
 ともすれば中学生以下にすら見える小柄な体躯の女医先生ではあるのだが、今はその背から立ち昇るオーラのせいで何倍も巨大になっているようにプレシアには感じられた。
 しかし、彼女とて意地がある。出身世界に於いては大魔導師とまで呼ばれた実力者は、腹の下に力を入れると目の前の小さな親友から放たれる絶大なプレッシャーに真っ向から立ち向かって見せた。
「大人しく戻るなら、フェイトちゃんたちには黙っていてあげます」
「そう。でも、わたしも退くわけにはいかないの。だから、これで勝負しましょう」
「デュエルモンスターズですか。けど、ここは病院です。デュエルディスクの使用は控えてもらわないと」
「あら、ディスクがなくてもデュエルは出来るでしょう。少々迫力に欠ける上に面倒ではあるけれど、問題にはならないわ」
「分かりました」
 プレシアの提案に頷くフィリス。丁度休憩時間中だったらしく、彼女は踵を返すとプレシアを喫茶スペースへと誘った。

  プレシア LP:4000
  フィリス LP:4000

「それじゃあ、まずは先攻後攻を決めましょうか」
 喫茶スペースの一角を陣取って向かい合うと、フィリスはそう言って白衣の胸ポケットから一枚のコインを取り出した。
 表面にハネクリボーの姿が刻印されたそれは、カード効果で行うコイントスにもよく用いられているものだ。
 フィリスはそれを軽く指で弾くと、落ちてきたコインを掴むべく手を伸ばす。ところが、タイミングが悪かったのかコインは彼女の手に当たってテーブルの下へと落ちてしまった。
「あ」
「もう、何をやっているのよ」
「済みません。今拾いますね」
 呆れたように見てくるプレシアにフィリスは気まずげに苦笑すると、席を立って床に落ちたコインを取ろうとした。
 この時プレシアには何となくこの後の展開が想像出来てしまっていた。
 現場では頼もしいこの小さな女医も、日常生活に於いては割かし抜けているところがある。そう、例えばこんなふうに床に落ちた物を拾おうとすれば、結構な確立で失敗するのだ。
「あ、ありました。……きゃっ!?」
 案の定、コインを拾って立ち上がったフィリスは、隣のテーブルに頭をぶつけて悶えることになっていた。
「相変わらずお約束を裏切らない娘ね。まあ、見てて飽きないから良いけれど」
「うう、こういうのは那美ちゃんの役回りのはずなんですけど……」
 涙目でぶつけた頭を押さえながら、そう言って席に着くフィリス。ちなみに、拾ったコインは表を上にしていた。
「とりあえず、先行はわたしですね。ドロー」
 拾ったコインをプレシアにも見えるように置き、フィリスはテーブルの上に置かれたデッキからカードをドローする。
 テーブルの上には他にもお互いの名前やライフポイントが書かれた紙とペン、トークンを示す無地のカードにカウンター用のチップ、サイコロ等必要なものが一通り揃っている。
 フィリスはドローしたカードを加えて6枚になった手札を眺めると、その中の1枚へと手を掛けた。
「《魔導戦士 ブレイカー》を召喚。このカードの召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを1つ乗せる。そして、このカードの攻撃力は乗っているカウンター1つにつき300ポイントアップします」
 フィリスが場に出したのは、優秀な魔法・罠カード除去効果を持つ魔法使い族の下級モンスターだった。
 召喚成功と同時に効果でカウンターが乗り、その攻撃力は1600から1900へと上昇する。
 フィリスはテーブルの上からカウンター用のチップを1つ取ってブレイカーのカードの上に乗せ、攻撃力変動の結果を紙に書き記した。
「わたしは更にカードを2枚伏せて、ターンエンドです」

  プレシア LP:4000
  手札:5枚

  フィリス LP:4000
  手札:3枚
  場:魔導戦士 ブレイカー
  魔法・罠:伏せ2

 ・魔導戦士 ブレイカー
 魔力カウンター:0個 → 1個
 ATK:1600 → 1900

「わたしのターン」
 テーブルの上のデッキへと手を伸ばしながら、プレシアは少々面倒そうに溜息を漏らす。やはり、普段から便利なものを使い慣れていると、それが使えないだけで煩わしく感じるもののようだ。
「自分で言ったけれど、やっぱり面倒くさいわね。こうなったら、早々に決めてしまいましょうか」
「そう上手くいきますか」
「わたしは手札から《天使の施し》を発動。3枚引いて、2枚捨てる」
「捨てたのはスピード・ウォリアーに、ネクロ・ガードナーですか」
「更に手札からフィールド魔法《ダークゾーン》を発動。これにより、場の闇属性モンスターの攻撃力は500ポイントアップし、守備力は400ポイントダウンするわ」
 そう言ってプレシアが発動させたフィールド魔法カードに、フィリスは思わず眉を顰めた。
「わたしのブレイカーも闇属性ですよ。わざわざ相手の攻撃力を上げるなんて、何を考えているんですか」
「すぐに分かるわ。わたしは手札からチューナーモンスター《ジャンク・シンクロン》を召喚。効果で墓地のスピード・ウォリアーを守備表示で特殊召喚する」
 プレシアの場に出される2枚のモンスターカード。ジャンク・シンクロンには召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を守備表示で特殊召喚することが出来る効果がある。
 この効果で特殊召喚されたモンスターの効果は無効になるものの、ジャンク・シンクロンはチューナーのためこれだけでレベル4か5のシンクロモンスターを呼び出せるのは大きな利点と言えた。
「更に自分の墓地からモンスターの特殊召喚に成功した時、このカードは手札から特殊召喚できる。《ドッペル・ウォリアー》を攻撃表示で特殊召喚」
「まさか、あなたのデッキは……」
「《一族の結束》を発動。さて、これで準備は整ったわ。レベル2、ドッペル・ウォリアーに、レベル3、ジャンク・シンクロンをチューニング。シンクロ召喚、ジャンク・ウォリアー」
 2枚のモンスターカードを墓地に置き、代わりにエクストラデッキから1枚のカードを取り出すプレシア。彼女は更にトークン用のカードを2枚取ると、攻撃表示を示す盾向きで自分のモンスターゾーンに並べた。
「ドッペル・ウォリアーはシンクロ素材になった時、レベルと攻守が半分のドッペルトークンを2体場に残すわ。そして、このトークンも闇属性戦士族だから、ダークゾーンと一族の結束の効果を受ける」
「ドッペルトークンの攻撃力は400で、一族の結束による上昇地は800。ダークゾーンが500だから、合計攻撃力は1700ですか」
「正解。ジャンク・ウォリアーの効果。このカードのシンクロ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は自分の場のレベル2以下のモンスターの攻撃力の合計分アップする」
「ええと、プレシアの場にはレベル1で攻撃力1700のドッペルトークンが2体に、一族の結束の効果で攻撃力が1700になったレベル2のスピード・ウォリアーが1体」
「更にジャンク・ウォリアー自身も闇属性・戦士族だから、ダークゾーンと一族の結束の効果を受けるわよ。さて、合計攻撃力は幾つになるかしら」
 指折り数えながら冷や汗を流すフィリスを、楽しそうに眺めるプレシア。ちなみに、正解は2300+800+500+1700×3で、8700である。
「さて、攻撃といきたいところだけど、念のために先にその伏せカードを除去させてもらおうかしら。手札から《ハリケーン》を発動。場の魔法・罠カードをすべて持ち主の手札に戻す」
「なっ、このタイミングで!?」
「だって、普通に最初に使ったら妨害されるじゃないの。心理的駆け引きもこの手のゲームじゃ重要なのよ」
「うっ、確かに」
「それじゃあ、改めて一族の結束を発動して、バトルフェイズに移るわ。ジャンク・ウォリアーで魔導戦士 ブレイカーに攻撃」

  フィリス LP:4000 → 0
  ――プレシア:win

「なんてオーバーキル。というか、3枚引いたからって、一度の手札交換でそれだけ揃うなんて、どんなインチキですか」
 成す術なくワンターンキルされたフィリスは、年の離れた親友の見せたチートドローに思わず呻いてしまった。
「そういうあなただって、伏せていたのは《マジシャンズ・サークル》に《緊急同調》じゃないの」
 やってられないとばかりに曝されたフィリスの手札。だが、その内容には、プレシアも眉を顰めざるを得なかった。
 彼女が口にした2枚だが、もしも邪魔されることなく発動していたなら、まずはマジシャンズ・サークルで魔法使い族チューナーを呼び出していたのは明らかだ。
 そして、続く緊急同調でシンクロ召喚を行い、高レベルシンクロモンスターでの迎撃。ブラック・ローズ・ドラゴンでも出されていれば、その効果で諸共フィールドをリセットされていたことだろう。
 残った他の手札にしても、手札シンクロの可能なエキセントリック・ボーイがある時点でピンポイントに緊急同調を除去出来なければ迎撃シンクロをされるのは必至。
 更に言えば、近年除去をモンスター効果に頼る傾向が強いのも把握しているようで、対策にエフェクト・ヴェーラーまで忍ばせている徹底ぶりだった。
「まあ良いわ。わたしの勝ちに違いはないのだし、約束通り見逃してもらうわよ」
「ええ、脱走しようとしたことはフェイトちゃんたちには黙っておきます。だから、大人しく病室に戻って下さいね」
「は?」
 悔しそうな表情から一変、良い笑顔でそう言うフィリスに、プレシアは始め何を言われたのか分からずに間抜けな声を漏らしてしまった。
 だが、聡明な彼女はすぐに気づく。フィリスは確かにプレシアが抜け出そうとしたことを黙っているとは言った。
 しかし、それはあくまで抜け出そうとしたことを黙っているだけで、脱走そのものを見逃すとは一言も言っていなかったのだ。
 しかも、この分では娘たち以外には話してしまうかもしれないし、そうでなくても他にも見ていた人はいるのだから何処から知れるとも限らなかった。
 図られた。一瞬そんな思いが脳裏を過ぎるが、それ以上にこの程度の言葉の綾にも気づけなかった事実に愕然とする。
 ――どうやら自分で思っていた以上に疲れが溜まっているらしい。
 そう判断せざるを得なかったプレシアは、力なく肩を落とすと、手を掛けていたデッキをケースに仕舞って立ち上がった。
「病室に戻るわ。手間を掛けさせて悪かったわね」
「いえ、わかってもらえれば良いんです。後、これを」
 そう言うと、フィリスは一つの携帯端末をプレシアに差し出してきた。前面の大半を液晶ディスプレイが占める薄い長方形。巷で流行の《メタボ・フォン》というやつだ。
「リスティがイベント会場から中継してくれてます。ほら、丁度これからフェイトちゃんの出番みたいですよ」
 にっこり笑顔でそう言うフィリスに、プレシアは思わずそれを引っ手繰ると食い入るように画面を見つめた。
 そして、硬直……。
 そんなものがあるのなら、どうして先に言ってくれないのか。そんな文句も、ディスプレイに映し出された光景を前に何処かに飛んで行ってしまった。
 緊張した面持ちで佇む愛娘と対峙する、帽子に猫耳を載せた女性。
 彼女こそ、四年前の事件でもう一人の娘アリシアを庇って行方不明となったプレシアの使い魔に他ならなかった。

   * * *

 一方、アルフと別れたリニスはイベント会場に程近い臨海公園内の高台へと足を運んでいた。
 デュエルリングが設置されている中央付近ならまだしも、こうして外れまで来れば人影も疎らに普段とそう変わらない静寂を楽しむことが出来る。
 元来、喧騒を好まない性質であるところのリニスもまた、落ち着いて昼食を食べられる場所を求めてここを訪れたというわけである。
 設置されたベンチの一つに腰を下ろし、抱えていた紙袋を開く。中身はここに来る途中の屋台で買ったたい焼きが五匹ほど。
 散々迷った挙句に全種類一匹ずつ買ってしまったそれらはまだ暖かく、甘く芳ばしい香りと共にほんのりと湯気を立ち昇らせている。
「いただきます」
 誰にともなくそう言うと、リニスは小さく口を開けて袋から取り出したたい焼きに齧り付く。サクッとした皮の食感に続いて、カスタードクリームの滑らかな甘みが口一杯に広がった。
 開会直前になって現在世話になっているところの家主から、君の分もエントリーしておいたから、などと言われた時には一瞬、よく聞こえるはずの我がネコ耳を疑ったものだが、あの娘とデュエル出来たのは行幸だった。
 おぼろげな過去の記憶にも鮮明に残っているフェイトという名前。同じ事件に巻き込まれたという幼い少女のことを、リニスは密かに気に掛けていたのだ。
 デュエル自体も満足のいく内容だった。まだ若干詰めが甘い部分も見られるものの、このまま経験を積んでいけば間違いなくトップクラスの決闘者(デュエリスト)へと成長するだろう。
 そんな彼女のデュエルをもっと見てみたいところだが、そのためにはまず別件を先に処理してしまわなければならないか。
 いつの間にか最後の一匹になっていたたい焼きの尻尾を咀嚼し、自販機で買っておいたペットボトルの小龍茶(シャオロンティー)で喉を潤すと、リニスは小さく嘆息してベンチから腰を上げた。
 快晴の空は青く、降り注ぐ陽射しも穏やかに暖かい。海からの潮風はまだ少し肌寒く感じられるものの、日が高いうちは爽やかさを演出するに留めてくれているようだった。
 だが、そんな概ね平和な空気とは対照的に、細められたリニスの目に宿る光は何処か剣呑だ。
 ――祭りの熱気に充てられてよくないものまで出てきてしまいましたか……。
 内心で舌打ちしながらそう漏らす彼女の視線の先、木々の間から這い出るようにして現れたのは、全身黒尽くめの何かだった。
 魔術師のような黒ローブに覆われた背格好は中肉中背の人型だが、目深に被ったフードの隙間から覗く漆黒に生物的な躍動感は見られない。
 人の形に練り固めた闇そのものをローブの中に押し込んでいるような。そのくせ、袖から覗く手首から先だけは異様に白い。まるで死神だ。
 首狩り鎌にドクロの仮面でも合わせれば完璧。心臓の弱い人間が暗夜に出会ったなら、そのまま心肺停止しかねないくらいの見事なホラー。
 そんな、晴天の下にはまったく似つかわしくない存在が平然と、揺らぐことなく彼女の前にその姿を曝していた。
 不意に死神モドキがすっと右手を天に掲げた。すると、途端に辺りに黒い霧が立ち込め、同時に二人の周囲を囲むように円形の炎の壁が立ち昇る。
 フィールド魔法をソリッドビジョンで再現した時のようだが、自身もミッドチルダ式魔導師であるリニスはその現象に超常の力の発現を見ていた。
 結界。内外を隔絶する技術の総称として知られるそれが、今現在の状況を作り出しているものの正体だった。
 リニスはとっさに転移魔法による脱出を試みるが、相手のほうが上手らしく魔法自体が発動しない。
 ならばと術者を直接倒すべく射撃魔法を放ったが、速射性能に優れる単発の直射型魔力弾は、死神モドキの身体をすり抜けるようにして結界の壁に当たると、呆気なく四散してしまった。
 ――無駄ダ。ココカラ出タクバ、イニシエヨリノ約束ニ従イ決闘ニテ我ヲ倒スヨリ他ニ手立テハナイ。
 その時、罅割れた合成音声のような、男とも女とも付かない声がリニスの脳裏に響いた。
 十中八九、状況的に考えてその声の主は目の前の死神モドキだろう。
 念話のようなものか。そう思ってリニスが視線に確認の意味を込めると、相手は頷くように小さく頭を上下させた。
「決闘。デュエルですか?」
 ――フム、現代ノ言葉デハ、ソノヨウニ言ウノダッタカ。イカニモ、ソノでゅえるデ貴様ガ我ニ勝テレバ、ココカラ解放シヨウ。タダシ、貴様ガ我に敗北シタ時、貴様ハ我ガ復活ノタメノ生贄トシテ魂ヲ捧ゲルコトニナルガ。
「つまり、これは闇のゲームということですか」
 目を閉じ、気を落ち着かせるために一つ深呼吸をする。過去の事件を調べる中で、リニスはこれに似た状況の事象の記録を見たことがあった。
 魔法とは異なるオカルト。プレイヤーが自身の魂を賭けて行うデスゲーム的なものであり、一度始まってしまえば如何なる干渉をも受け付けないと言われていたはずだ。
 そんなものを仕掛けてくるということは、やはり目の前のこれは真っ当な存在ではないのだろう。だが、デュエルというのならリニスにも勝機は十分にあった。
「約束と言いましたが、それは当然、そちらにも適用されるのでしょうね」
 ――無論ダ。イニシエヨリノ約束カラハ、例エ我デアロウト、逃レル事ハ叶ワヌ故。
「ならばいいでしょう。あなたを倒し、今日のイベントの続きを楽しませてもらうとします」
 そう言うと、リニスは左腕に填めたブレスレッド状のデバイスへと指示を送る。所謂魔法使いの杖としては一般的なストレージタイプに見えるが、その実体はデバイスコアの技術転用実験の一環として開発された技術試験機だ。
 搭載された変形機構を用いてデバイスモードからデュエルディスクモードへと切り替えたそれを左腕に装着すると、上着の内ポケットから取り出したデッキをセットして構える。
 相手のそれはローブの袖に隠れて見えないが、微動だにしないところを見ると既に準備は整っているのだろう。上等とばかりに一つ頷くと、リニスは自身の信じるデッキへと手を伸ばした。

   * * *

 ――そして、現在。
 共にサバイバルイレブンを生き残ったなのはとフェイトは準決勝へと駒を進め、その第1試合にて雌雄を決する運びとなっていた。
 地区予選とはいえ、大人も混ざるような大会の中でここまで勝ち進んだ四人のうちの二人までもが年端も行かぬ少女であることに、会場は少なからず動揺の空気に包まれているようだ。
 一方、一回戦のなのはやフェイトの試合を観ているものの中には、寧ろ当然だと納得した表情を見せているものも多かった。
 勝負を左右するのは才能と経験、そして、時の運。
 数値上のランクを同じくするこの二人がそれらの要素をどう使い、どのようなデュエルを織り成すのか。
 今、ここに本日最も注目される決闘の火蓋が切って落とされようとしていた……。



いやいや、プレシア何をしてますか。
美姫 「しかも、抜け出そうとしたのがばれて、フィリスとデュエルって」
でも、今回はフィリスの方が上手だったかな。
美姫 「みたいね。プレシアもフェイトの試合が見れるようだし、本当に大人しくしているだろうしね」
だな。次回はいよいよフェイトのバトルかな。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



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