――ユニゾンデバイス……。
 その名の通り、術者と融合、ユニゾンすることでその魔法運用を助ける人格搭載型デバイスの総称。
 総魔力量の底上げの他、インテリジェンス型以上にデバイス自身の判断で適切な魔法行使を適時行ってくれたりもする。発祥は古代ベルカ。
 公式に現在も稼動している実機は存在せず、貴雄教会等で見られる資料によれば、その性能は総じて非常に高いものであったとされている。
 反面、使いこなすには高い適性が要求され、新技術故の事故等、問題を解決出来なかったことから、普及することなく廃れた技術でもある。
 相手はプログラム体とはいえ、実体を持ち、一個の人格として確立している。融合するにして、自己を強く保てなければこちらが呑まれる。
 実際に起きた融合自己の中には、AIと人格が混ざって全くの別人になってしまったというものもあったようだ。相性の問題もあるだろう。
 そんなものだから、自分が眠っている間、ずっとエルシアとユニゾンしていたと聞かされた時には正直、肝が冷える思いだった。
 片方の、それもマスター側の意識がない状態でのユニゾン等、正気の沙汰とは思えない。何しろ下手をすれば、そのまま両方とも永遠に目覚めないということもあり得るのだ。
 ――まったく、正規のマスターならまだしも、未登録状態の他人を本人の許可もなく無理矢理取り込むだなんて、本当に何を考えているのかしら……。
 虚数空間でそのまま放置すればすぐにでも死んでしまうところだったとはいえ、無茶が過ぎるどころの話ではなかった。
 まあ、おかげで助かったわけだし、最愛の娘にももう一度会えるかもしれないのだ。エルシアにはああ言ったけれど、実際に過去に渡る段になるとやはり嬉しさを抑えることが出来なくなっている。
 我ながら現金なものだ。

 ――虚数空間……。
 その空間は魔力の結合を阻害することで、魔法の発動を無効化する。
 故に、その場に魔導師が身一つで存在するには、全身を覆う強固なフィールドバリアを常に貼り続けていなければならない。
 加えて、これからわたしたちが行おうとしているのは時空跳躍。
 時間と空間の壁を幾つも越えて過去に降り立つことを考えると、どれだけのエネルギーが必要になるか見当も着かなかった。
 ――術式展開。ジュエルシード、……から……までの魔力充填完了しました。
 脳裏に響くエルシアの声。今もわたしたちはユニゾンしたまま、失った時間を取り戻すための準備を進めている。
 手元に残っていた魔石の力でもう一度次元回廊を開くのだ。
 肉体は全盛期のもので、エルシアという極めて優秀なデバイスによる補助もある。
 彼女自身が時空間跳躍専用の機体であることも合わせて考えれば、これ以上の好条件もないだろう。
 ――良いですか、姉さん。異なる時間軸に所属するわたしたちが過去に干渉出来るのは限られた間だけです。
「ユニゾン状態で約二週間、わたし単独だと数時間から数日だったかしら」
 ――はい。ですから、なるべく事故のあった日に近づくために、姉さんには当時のことをなるべく鮮明に思い出していただかなければなりません。
 お辛いでしょうけれど、お願いします。そう申し訳なさそうに言ってくるエルシアにはあえて何も答えず、わたしはそっと目を閉じて意識を集中させた。
 脳裏に思い浮かべるのは、最愛の娘の笑顔。この二十六年余り、ずっとそれを取り戻すためだけに生きてきた、わたしの宝物……。
 そして、もう一人。
 寂しげな微笑を浮かべて見つめてくる同じ顔。不安に揺れるその瞳の赤に、わたしは思わず息を呑んだ。
 ――っ……。
 思考に走るノイズ。意識が遠退く感覚に、まともに抗う暇もなく呑み込まれる。
 ――跳躍……。
 最後に聞こえたのは、術式解放を告げるエルシアの声だった。

   * * * * *

  魔法少女リリカル☆プレシア
  狭間の夢(後編)

   * * * * *

 ――ミッドチルダ南部・アルトセイム地方……。
 この日、この地に居を構えるテスタロッサ家の一人娘アリシアは、朝から忙しなく動き回っていた。
 それというのも、今日はいつも残業ばかりの彼女の母親が珍しく定時で切り上げて帰って来るからだ。
 何日かぶりに大好きな母親と一緒に晩ご飯を食べられるとあって、アリシアは大いにはしゃいでいた。
 そんな娘の姿を微笑ましく思う一方、改めてろくに構ってやれなかったことを悔いたわたしは、彼女に一つの提案をしたのだった。

 転移直前に意識を失ったわたしは、何処とも知れない草原で一匹の山猫によって発見された。そう、山猫だ。
 かつては我が家でも飼っていた。そして、あの事故で娘と共に死んだ後は、その亡骸を素体に使い魔とした。
 その、名前は……。
「リニスぅ〜」
 明るく弾んだ少女の声。忘れるはずもないその声に、わたしは思わず息を呑んだ。
「もう、どうしたの。急に走り出したりして……って、え」
 息を弾ませながら駆け寄ってきたその娘は、わたしのことを見つけると、驚いたように目を丸くして固まってしまった。
 流れるようなサラサラの金髪に縁取られた幼い面差し。ぽかんと見開かれた瞳の赤に、子供らしい豊かな感情の揺らめきを湛えて見下ろしてくる。
 その目と目が合って、わたしはようやく確信を得ることが出来た。即ち、戻ってきたのだと……。
 驚き立ち尽くす幼い娘と、それを庇うように立ち塞がる山猫。
 そんな微笑ましい光景の背後に広がる青空に、遅ればせながら今の自分の状況を把握して納得する。
 なるほど、こんな草原の真ん中に人が倒れていれば誰でも驚く。しかも、その人物の顔が自分の母親とそっくりともなれば一入だろう。
 一先ずこれ以上は驚かせないようにゆっくりと状態を起こして、さて、何と声を掛けたものかしら。
 いきなりの遭遇も想定していなかったわけじゃないけれど、いざその段になってみると自分でも驚く程に何も出てこない。見事に真っ白だ。
「あ、あの、こんにちは」
 内心で混乱するわたしに何を思ったのか、少女、アリシアは驚いていた顔から一転して笑顔になると、そう言ってぺこりと頭を下げた。
「え、と、……こんにちは」
「うん。お外で誰かに会ったら、まずはご挨拶だよね。お母さんもそう言ってたもん」
 得意げにそう言ってから、ハッとしたような顔になる。
「そうだ、お母さん!」
 急に大声を上げたアリシアに、わたしは思わずびくりと身体を震わせた。まさか、いきなり正体がばれたのかと焦ったのだけど、続く娘の言葉にそれが杞憂だったと胸を撫で下ろすことになる。
「リニス、どうしよう。せっかくの一緒のお出掛けなのに、わたし、お母さん置いてきちゃった……」
 自分に寄り添う山猫を見下ろしておろおろするアリシア。別にわたしはそれくらいで怒ったりしないのに、もう、可愛いんだから。
「アリシア〜」
「あ、お母さんだ」
 そうこうしているうちに、娘を呼ぶ母親の声がここまで聞こえてくる。録音した時のものそのもののその自分の声に、わたしは何とも言えない気持ちになった。
「行っておあげなさい。わたしは大丈夫だから」
「あ、うん。でも……」
「ほら、早くしないとお母さんが探しに来ちゃうわ。先に行っちゃっただけじゃなく、他の人とお話してるとこまで見られたら、お母さん拗ねちゃうかもね」
 こちらと声のしたほうとを交互に見比べるアリシアにそう言って、その背中を押してやる。
 拗ねる云々は冗談にしても、幼い娘が見知らぬ誰かと話していれば、親は心配するものだ。
 とはいえ、昔の自分から不審者を見るような目を向けられるのも何だか納得がいかないわ。
 時期的に例のプロジェクト関連でピリピリしているだろうし、ここは一度立ち去るべきか。
 アリシアを助けるだけならあの日に現場にいれば事足りるのだし、過度の干渉は寧ろ危険。
 そう頭では理解していても、わたしはどうしてもその場から動くことが出来なかった。
 結局、母親を連れて戻ってきたアリシアに、わたしは幾つも嘘を重ねた。エルシアの名前と姿を借り、次元漂流者と偽って……。
 ――そうして今、わたしはプレシアが不在の間のアリシアの世話をすることを条件に、彼女たちの家に滞在させてもらっている。
 当然、プレシアは最初は渋っていたけれど、何故かアリシアが味方してくれたこともあって、最終的には今の状況に落ち着けた。

「エルシアお姉ちゃん、ドレッシングこんな感じで良いかな」
 スープの味見をしていたわたしに、アリシアがそう言って小さなボールを見せてくる。中身はごま油に柑橘系の果汁を混ぜた特製ドレッシングだ。
「ええ、しっかり混ざってるわね。ちょっと酸味が足りないような気もするけど」
「だって、すっぱいの苦手なんだもん」
「しょうがないわね。その代わり、サラダもちゃんと食べなさいね」
 唇を尖らせるアリシアに、苦笑しながらもついつい甘くしてしまう。今まで沢山我慢させてしまっていたのだし、これくらいのわがままなんて可愛いものだ。
「それじゃあ、お皿並べてもらえるかしら。お母さんもそろそろ帰って来るはずだし、皆でお夕飯にしましょ」
「うん。お母さん、喜んでくれるかな」
「大丈夫よ。今日のアリシア、頑張って沢山お手伝いしてくれたもの。きっと、お母さんも喜んでくれるわ」
 何せもう一人の自分のことだ。不安げに見上げてくるアリシアに確信を持ってそう答えると、わたしはコンロの火を止めた。
 ヒュードラの初起動実験までもう何日もないとあって、開発責任者であるプレシアは日々多忙を極めている。
 この頃はろくに眠ってもいないのだろう。化粧でごまかしてはいるものの、その立ち振る舞いには隠し切れない疲労の色が滲み出ていた。
 そんな中でも、娘のためにと必ず日に一回は家に戻ってくる母親のことを、アリシアは子供ながらに心配せずにはいられないようだった。
 ――頑張ってくれているお母さんのために、自分も何かしてあげたい……。
 必死にそう訴えてくるアリシアに、わたしはそれなら今日の夕飯を一緒に作ろうと提案した。
 仕事で疲れて帰ってきた彼女にとって、娘の手料理は何よりもご馳走だろう。少なくとも、わたしなら狂喜乱舞してアリシアを抱きしめる。
 それに、わたし自身も娘と一緒に料理するというのはあまりしたことがなかったから、出来ればこの提案を受け入れてもらいたかったのだ。
 美味しいご飯は人を笑顔にするし、アリシアが一生懸命作ったものなら尚更だ。柄にも無くそう言って、力説した結果が今夜の食卓である。
 ミンチと卵のぬめりに苦労しながら小さな手で一生懸命捏ねたハンバーグのタネは、形を整えきれずに少し大きめのミートボールになった。
 強請られるままに任せたドレッシングの調合も、混ぜ方が悪いのか最初のうちは跳ねた中身を頬に散らしていたっけ。他にも沢山失敗した。
 それでも、決して泣き言なんて言わず、最後までやり通したあたり、さすがだと思う。もちろん、これでもかってくらいに褒めてあげたわ。
 くたくたになりながらも達成感に満ちた笑顔を見せるアリシア。よく頑張ったと頭を撫でてあげれば、彼女は気持ち良さそうに目を細める。
 だけど、彼女が本当に欲しいのはわたしじゃなく、プレシアからのご褒美なのよね。彼女がこんなにも頑張ったのだって、プレシアのため。
「エルシアお姉ちゃん、どうしたの?」
 食卓に並べた料理を見渡してそっと溜息を漏らすわたしを、アリシアが不思議そうに見上げてくる。そう、今のわたしはエルシアなのだ。
 これが嘘の報いか。いえ、承知の上でのことだったわね。分かっていて、わたしは束の間の安息を望んだ。この痛みは、その正当な代価。
 心配してくれるアリシアに、軽く頭を振って大丈夫だと伝えると、わたしは努めて明るく笑って見せた。プレシア、早く帰って来なさい。
 自慢の娘が精一杯頑張って作ったご飯と一緒にあなたの帰りを待っているわよ。だから、早く帰って。でないと、わたしが、……を……。

 ――焦燥……。そんな感情ばかりに心を乱されながら半刻が過ぎ、一刻が経ち、更に半刻が流れようとしている。
 定時で退社すると言ったプレシアはまだ帰らず、アリシアはソファの上で膝を抱えながらじっと玄関へと続く扉を見つめている。
 ここ十日程ですっかり見慣れてしまった光景ではあるけれど、今日ばかりは先に食べていようと言うわけにもいかなかった。
「わたし、プレシアを迎えに行ってくるわ。きっと、もうすぐそこまで帰ってきているはずだから」
 堪えかねたわたしはコートを手に立ち上がると、早口にそう言ってリビングを出た。
 料理が冷めるのは良い。スープは食べる直前に一煮炊きするつもりで火を止めてあるし、ミートボールだって一度くらいなら暖め直しても美味しいだろう。
 しかし、ただ無言で堪えるアリシアの横顔をこれ以上見ていることは出来なかった。
 ――姉さん……。
 わたしの意図に気づいたエルシアが気遣わしげな念話を送ってくる。彼女の言わんとするところは分かる。
 これからやろうとしていることは、下手をすればわたしたちがこの時代に来た目的を果たせなくなる恐れすらあるのだ。
 ――だけど、わたしはそれでもこれ以上、アリシアに、娘にあんな顔をさせていたくはなかったから……。

 がちゃりと音を立ててドアノブを回せば、その音に反応して船を漕いでいたアリシアがハッと顔を上げた。
「お母さん!」
 ソファから飛び降りて駆け寄ってきた娘を抱き上げ、まずは遅くなったことを謝る。
「ううん、良いの。お母さん、いつもわたしのために頑張ってくれてるんだもん。それより見て、今日の晩ご飯わたしとエルシアお姉ちゃんの二人で作ったんだよ」
 そう言って、わたしの腕から抜け出すと、アリシアはキッチンのほうを指差した。
「まあ、本当なの?」
「ええ、アリシアちゃ……アリシアったら、あなたに喜んでもらうんだって、それはもう一生懸命に作っていたんだから」
 驚いたようにそう言って、後ろに付き従うように立っていたエルシアを振り返れば、彼女は満面の笑顔でそれを肯定してくれた。
 それからエルシアの暖め直した料理を三人で食べ、眠たげに目を擦るアリシアをわたしがお風呂に入れて、今日は就寝となった。
 ――月明かりの照らす寝室に、穏やかな寝息を立てる娘の姿……。
 お風呂から上がった辺りで寝こけてしまって、わたしがベッドまで運ぶことになったのだけど、それも今日一日を思えば無理もなかった。
 本当、よく頑張ったわね。
 流れる金髪を手櫛で梳かすように撫でながら、わたしはこの時代に来てからのことを振り返る。
 何に変えても取り戻したかった娘との日々。
 過去ではなく、傍らにいたわたしは母親ですらなかったけれど、それでも時折見せてくれた彼女の満面の笑顔に、わたしは確かに救われたのだ。
 だから、もう二度とこの笑顔を失わせたりはしない。死という永遠の停滞の中に閉ざさせたりするものですか。
 決意も新たにそう心の中で誓うと、わたしはそっと寝室を後にした。

 ――そして、運命の日……。
 わたしはアリシアとリニスを連れてプレシアの研究室を訪れていた。
 発端は、昨夜遅くにプレシアから送られてきた念話。
 いわく、今日の実験はおそらく失敗する。わたしたちには万が一に備えて、すぐに安全圏に避難出来る場所にいてほしいとのことだった。
 ――さて、事故発生当時、最も安全だったのは何処だったか。もっと言えば、あの時あの場にいたわたしを含む数人が生き残れた理由だ。
 そんなのは考えるまでもない。
 あの時、わたしが張った結界の中にいたものだけがヒュードラの暴走によって発生した悪性魔力素の魔の手から逃れられたのだ。
 となれば、わたしたちがいるべきはプレシアの傍ら以外にあり得なかった。
 今回はわたしがいるのだから、わたしがアリシアと一緒にいれば何処でも良いと思うかもしれないけれど、それではダメなのだ。
 元より最大で二週間程度しかいられなかったところを、わたしは一度ユニゾンを解除してしまっている。
 最悪、暴走直前に消えてしまうこともあり得る以上、楽観なんて出来るはずもなかった。
 プレシアにお弁当を届ける名目でアリシアを連れて彼女の研究室へ。リニスも置いていくわけにはいかないので、適当に理由をでっち上げてペット用のキャリングケースに押し込んだ。
「アリシア!?」
 研究所を訪ねたわたしたちを見て、プレシアは驚愕に目を見開いた。
 ――どうして来たの。
 強い怒りの篭った念話でわたしを糾弾するプレシア。だが、その程度じゃ揺るがない。
 ――娘にとって、一番安全なのは母親の傍らでしょう。それとも何、大魔導師様ともあろうものが、娘一人守れないのかしら。
 痛烈な皮肉。わたし自身を知るものが聞けば、守れなかったおまえが何を言うかと罵られそうだ。
 ――ヒュードラがどういうものか、あなたには話したはずよ。
 ――ええ、だからこそ、連れてきたのよ。大丈夫、手の届くところにさえいれば、あなたなら守れるわ。
 ――…………。
 確信を込めてそう断言するわたしに、プレシアは戸惑いつつもそれ以上は何も言ってはこなかった。
 実験開始まで間もない以上、今から追い返したところで却って危険になる。そう判断したのだろう。
 でなければ、強制転移させてでも帰らせたに違いない。だからこそ、あえてこのタイミングで来た。

 ――実験が始まった……。
 新技術をふんだんに盛り込んだ大型の魔力炉。社運を賭けたというには出鱈目に過ぎる代物が、不吉な駆動音を響かせながら動き出す。
 固唾を呑んで見守る顔触れの中に見覚えのある人間は数える程もおらず、故に守るべきはわたし自身と家族のみ。たった三人と一匹だ。
 大丈夫、わたしには一度防ぎきった実績があるのだし、エルシアとユニゾンした上に若返っている今のこの肉体で行使可能な魔力量は当時よりもずっと多いはずだ。
 元より、プレシア一人でも何とか抑えきれた暴走だ。仮に先にわたしのタイムリミットが来てしまったとしても、何とかなるはずだった。そう、正史通りなら……。
「……っ、エルシア、手伝いなさい!」
 圧倒的なんて言葉が生温い程の暴力を伴って荒れ狂う金色の本流に、プレシアが全力展開した結界を支えながら悲鳴を上げる。
 ――大気中の酸素を食らいながら際限なく膨張し続けるヒュードラの魔力……。
 その勢いは明らかにわたしが過去に体験したそれよりも凄まじく、プレシア一人では到底止められそうになかった。
「もうやってるわ!」
 プレシアの張った結界にこちらも全力で魔力を注ぎながらそう叫び返す。しかし、リミットが近いのか、わたしからの干渉が急激に衰えていっている。
 ――歴史の修正力が働いているとでも言うの。だけど、ここまで来て……。
 奥歯を噛み締めながら、最後の一滴まで搾り出す勢いでデバイスに魔力を注ぎ込む。
 ――負ける、ものですか!
 全次元世界でも屈指の大魔力をその身に宿し、天才と謳われながらもただ一つの願いのためにすべてを賭けた。
 これ以上はないという絶望を幾つも重ねて、奇跡のような幸運の下にそれすらも越えて今、ここに立っている。
 なら、ここで成さずしてどうするのか。
『わたしは大魔導師、プレシア=テスタロッサだ!』
 渾身の叫びと共に放たれた魔力が滅びの光を押し返す。
 空間すら歪めながら、破壊と守護の金色が鬩ぎ合う。
 ――そして、両者が臨界へと達した瞬間、世界が金色の光に包まれた……。

   * * * fin * * *



細かく歴史が変わっていたはずなのに。
美姫 「むしろ事故の規模だけで言えば大きくなっているわね」
これが修正力なのか。
美姫 「簡単に歴史は変わらないのかしらね」
この後、一体どうなったんだろうか。
美姫 「気になる形で終わっているものね」
逆に色々と想像がかき立てられるけれどな。
美姫 「確かにね」
安藤さん、投稿ありがとうございます。



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