涼宮ハルヒの終焉

 

本章第6話

 

世界の真実

 

 

人間ならばギリギリ頭が潰れたトマトにならない程度。

壁にねじ込むように押し当てた頭の持ち主とその壁の間が俺の腕に勢いづかせるだけの

距離ではなかったため、本来は最終的にはそれくらいの威力に収まっていた。

それでも頭蓋骨は裕に陥没させることはできるはずだが、今俺の右手の中にあるそれはケチャップを

ぶっかけたようには赤くなってはおらず、その主も痛みなど感じていないかのように冷淡な眼差しを

俺の指の間から垣間見せていた。

下層でもヒューマノイドということか。物理的な衝撃には生身の人間よりかは頑丈らしい。

まあ、そう簡単にくたばってもらっちゃつまらん。

少なくとも彼女の義父とやり合った時の定番の大技の一つも

仕掛けてみたいもんだ。

しかし、なんて目をしてるんだ。無傷とはいえ、いきなり顔面を鷲掴みにされた揚句、

その小柄な体が地から離れるくらいに激しく壁に後頭部を叩きつけられ、今なお足が

地についてない状態だというに、それでも怯まず俺に視線を合わせてくるとは。

恐怖を感じていないのか? それともただの放心状態か?

 

(いや……違うっ!?)

 

その寡黙な瞳の奥に潜む凛とした輝きがまだ闘争心を表している。

そう直感した刹那、

 

「捕まえた」

 

俺の腕に捕まったままの彼女の小さな口が僅かに動いた。

 

「なに?」

 

それと同時に彼女の顔のすぐ右脇の壁の一部分がグニャリと歪む。

 

(無駄なことを)

 

芸のないことだ。この至近距離なら避けられないと踏んだのだろうが、

俺はその予想の上にいる。

いくら至近距離だろうが、こっちがそれを凌駕する速度で避ければどうってこと……っえ? 

 

「げっ!? 体が動かねえ!」

 

なんだこれは?

見下ろした自分の足がまるでコンクリートで固められたように、

ぴくりとも動こうとしないどころか、右手さえまだ彼女の頭を押さえつけたまま

力を抜くことさえできなかった。まさに機能不全だ。押すも引くもできない。

 

「まさかっ!」

 

ハっとなって再び有希ちゃんと視線をぶつける。

さては自分をデコイに俺の動きを止めたすきに硬化炭素粒子で俺の周りを固めやがったな!?

おかげでコンクリどころかダイヤモンドに体を固められてんのと一緒の状況だ。

いくら俺でもこんなん今の状態で力任せにひっぺがせるかっ!

出し惜しみせずにクラウディオ第三号も外しとくんだった。

どうせなら一樹みたいに本物のダイヤでやってくれてもよかっただろうに。

なんてアホなこと考えてる場合じゃない! もう先端が放たれそうだ。

ってもう俺の間抜け面目掛けて放たれたっ!

ええいっ、こうなりゃままよ!“

 

「チィッ!」

 

全く以て余計な舌打ちを挟んで石像状態の体に気合いを籠めた。

それに反応し、体内のオーラが金色の輝きを放ちながら体外へとあふれ出す。

そして……

パリンッ

実際はそんな音はしなかったかもしれない。だが、あふれ出したオーラに内側から

硬化粒子が崩壊し、自由の身となった俺にはそんな幻聴が脳に伝わった。

まあともかく――

〈間にあった〉

己が眼に杭の切っ先が突き刺さる寸前でマ○リックスよろしく体をくの字に

仰け反らせながら後ろに跳ね、ギリギリのところでそれを避ける。

目の前を獲物を捕らえそこなった杭が流れていくのを見送りながら、

背中越しに床に手をつかせ、そのままバク転。

有希ちゃんと数メートル距離を取った位置に片ひざをついた状態で

足を地に着いた。

 

ふう、危なかったぜ。

 

少々……度が過ぎたか。

昂ぶる感情に任せて必要もない戦法を弄し、若干の不覚をとってしまったことに

思わず自嘲する。

我ながら滑稽だ。

普通にやれば秒殺できる相手に。

 

(何にしても仕切り直しだ)

 

再び有希ちゃんの方へ視線を向ける。

 

「なっ」

 

同時に声を無意識に挙げてしまった。

そこに映ったはドアップの彼女の顔面。

距離を詰められた?

予想外の彼女の反応にひるむ俺に右拳が振り下ろされる。

(金縛り状態を抜け出された直後にこの対応。今までと何か違う!?)

人間の目には映らない速さで迫りくる拳を、寸前のところで体を横に傾けて回避。

彼女の右腕がこめかみを通り過ぎる。

と思ったのもつかの間、間髪いれずにそれが折れ曲がり、

引き戻される形で今度はやや斜め方向から肘鉄が顔面に向かってきた。

〈一時停止もせずに切り返した!? 普通の人体なら急激な方向転換で骨と関節がバラけてるぞ〉

焦りを感じつつもそれを左手(右手は懐すぎて逆に使えない)で受け止めた。

グンッ!

手越しに顔面直撃こそしなかったが、受け止めたところでその余力を消すことは

できず、屈んだまま力んだ石像のような体は浮き上がった。

なんつう力だ。ターミネイトモード全開ってか。

(なんで急にこんな原始的な攻めに?)

彼女の攻め手はまだ続く。今度は右足を軸に体全体を捻らせて

浮遊状態となった俺の無防備な左半身に回し踵蹴りを繰り出した。

それを左手と交差させる形で差し向けた右手で受け止め、同時に地に足をついて

体勢を安定させるも、

 

(一体何を考えてんだ?)

 

正拳突き

 

踵落とし

 

足払い、

 

打ち上げ、

 

絶えることのない追撃が俺に降り続いた。

 

(らしくないことをする)

 

拘束を抜け出されて、情報操作技術云々は通用しないと踏んだのだろうか。

それとも別の狙いがあるのか?

何にしても彼女がこんな肉弾戦に持ち込むとは意外だ。

しかし相手が悪い。

 

お互い正面を向きあっての有希ちゃんの幾度めかのストレート

 

(俺を相手にするに君の拳は――)

 

顔面を狙っていることが例によって思念で丸わかりのそれを眺めながら、

低く構えた拳に気を注ぎ込んでいく。

 

「貧弱すぎんだよ!」

 

あと1ミリと言ったところで彼女の拳を体全体を低めてやりすごし、

 

「次手はねえ!!」

 

さらに一歩踏み込んで無防備な腹部に拳をねじ込んだ。

一拍の間。彼女の体が俺の拳から離れる。

前方に折れ曲がった体が弾かれたパチンコ玉のように水平に吹っ飛んだ。その顔は

激しく揺らぐ前髪で覆われてうかがい知ることが出来ない。

だが垂直に部室を滑空し突き刺さったままの杭の横に大の字で激しく激突した衝撃で

前髪が浮き上がり、前のめに崩れ落ちる最中の彼女の死んだ魚のような眼が垣間見れた。

それは“向こう”と“ここ”をひっくるめても初めて目にした有希ちゃんの感情表現。

自分には到底敵わない存在を前にしての恐怖。

その恐怖にも耐えかねて無意識に自我を消し去ろうとしている。

そんな顔だ。

“ここ”からして違うのか。

 

彼女はどんな状態に陥ってもそんなことはしなかった。

どんな存在と対峙しようと、どんなに自分が傷つこうと、

どれほど敵わなくても、どれほど死を前にしても、

俺の知っている串刺し公の孫娘(でいいんだろうか?)は

決して自我を放棄することはなかった。

当たり前だ。感情が元から存在しなかったのだから。

恐怖どころか喜怒哀楽全ての感情が生まれたときは持ち合わせちゃいない。

完全なヒトデナシだったのだから。

今、壁から前のめりに倒れ込んだ彼女とは違い、感情が表わしにくいのではない。

表す感情がなかったのだ。

だから、初めて串刺し公の分身たる“彼”にその身を切り裂かれかけても、

長門有希というTFEIは何も感じずに冷淡な顔を浮かべているだけだった。

それに比べて彼女はどうだ?

TFEIとしての性能がダントツに低い上、その感情を表しにくい性質で

目一杯恐怖を滲み出してるじゃねえか。

しかも聞いちゃいたが、魔力への対抗手段は完全皆無。

あまつさえ、俺が殴る瞬間に体を気でコーティングしてやらねえと、

あの程度の力で肉体が崩壊する体たらくぶり。

串刺し公の血族どころかTFEIだったころの彼女とは似ても似つかん。

(なんかやる気失せた)

こんな彼女を壊して後々有希ちゃんの気を悪くさせることもあるまい。

もっとも有希ちゃんの場合、自分の異次元同位体が俺に壊されたことよりも

それで俺と自分との戦績に黒星が付いたようになることが嫌だろうが。

 

倒れてしばらく動かなかった彼女がゆっくりと手を床について起き上がった。

だが未だその顔はうつぶせの状態でこちらと視線が合わない。

 

「もう、やめとけ。君と俺とではレベルが違いすぎる。君がどんな攻めを仕掛けてきたところで、

魔力への対策を盛り込んでいないそれは俺にとっていくらでも避ける手段はある」

 

既に一服モードに入り胸ポケットから出したタバコに火を付けながら、俺は彼女に制止の言葉を投げかけた。

 

「魔力など、存在しない」

 

俯いたままで負け惜しみをほざくか。

思わずタバコを咥えたままため息が漏れた。

まあ無知とはいえ、ここまで俺に立ち向かったんだ。

少しくらい自分のいる世界のことを教えてやろう。

 

「ああ、この世界には魔力は存在しない。この次元はこの世界――人間界しか

 存在しない単一次元。 魔界自体存在しないからな。魔力の存在もあったもんじゃない」

 

なにせ、とタバコを摘み、蹲ったままの彼女を見下ろす眼を細めた。

 

「この次元に存在する全ての同層世界はその直系の上層世界の――」

 

次の自分の言葉に対する彼女の反応を考えると不意に口元が緩んだ。

 

 

 

涼宮春日(・・・・)が無意識に創りだした仮想世界に過ぎないのだから」

 

 

 

 


あとがき

 

ゴソゴソッ

タカ「おいそこの不審者。何に荷造りしてやがる?」

ギクッ!

いやちょっと夜逃げの準備を……

タカ「アホかっ!」

ゲシッ!

あうっ! だっていくつか美姫さんにお怒りを食らうことやらかしたもんでつい……

タカ「この前、大々的に宣戦布告しといて敵前逃亡かよ。ちなみにそのやらかしたことって何だよ?」

それはね

1.              今回完成寸前で『真剣で私に恋しなさい!』を買い、それにはまって執筆をほったらかしたこと。

2.              今まで誤字に気付かず放置してたこと。『TFEI』→『TFFI』等

3.              前回、予告した串刺し公の分身を出せなかったこと。

とかですはい。

タカ「おい……もう一つあるだろうが」

へ?

タカ「とうとう原作を自分のSSに完全に取りこんじまったことを公開したことだよ!!

   なんなんだよ涼宮春日って!? クレーム来ても知らねえぞ!」

なんだそんなことか。 それこそ私のSSの醍醐味だよ。

それにあと5話くらい先ではホントにシャレにならんキャラを登場する予定だよ。

タカ「今度は一体誰を……。もう誰が出てきても驚かねえよ」

それは……(逃げる構え

 

 

先代第六天魔王。ではさいなら〜(逃亡開始)

 

タカ「ちょっ!!?? ちょっと待てええぇぇっっ!!! マジでシャレになってねえぞそれええっ!!!」




春日が作った世界という驚きに事実が。
美姫 「作られた世界に、上位に位置する世界」
いやー、本当に次々と色んな事が。
美姫 「有希の上の存在もそれを認識していないみたいだし」
驚きの事実ばかりだな。
美姫 「それにしても、この台詞を聞いて有希はどうするのかしらね」
次回も待っています。



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