『乃木坂春香と高町恭也の秘密』











第二話 その2
















 春香とそのメイドさんに連れられてやってきたのは、大きなお屋敷
 夜中なので、範囲はきっちりと把握できないが、とても大きい
 過去、何度か訪れた場所……何度かと言っても、本当に数度程度
 本人たちが覚えてないだろうこと、もう、10年くらい、少し前のこと

「おかけください」

 椅子を引かれて、そのまま座る
 諦めよう
 多分、此処が応接間……だと思われる
 此処に行くまでにいくつも部屋があったから、応接間の1つって所だろう

「ありがとうございます」
「いえ、これも、勤めですから」

 そういって、葉月さんと呼ばれた人は頭を下げて、歩いていく

「長居する気が無いので、お茶はいいです……お礼といわれても、俺は本当に大したことしてませんから」
「いえ、お茶を出すのはこちらにおいでくださったという表れみたいなものです」

 準備を進め、紅茶を出す

「ニルギリのセカンドフラッシュです」
「どうも」

 紅茶の地方名だな……

「ちゃんと紹介しておきますね……こちら、桜坂葉月さんです
 私たちの身の回りのお世話などをしてくださってる方で、メイド長さんです」
「桜坂葉月と申します……以後御見知りおきを」

 律儀にぴしっとお礼をされる

「始めまして、高町恭也です」
「恭也さまですね」

 さまはつけなくても良いのだけど……言っても無駄かな

「お礼ですけど、大したもてなしも出来ず悪いのですけど、怪我とかしてませんよね?」
「ええ、大丈夫です」
「お嬢様、先にお着換えをされたほうが、こけた表しでお召し物が汚れてます」
「え、ですが」
「帰らないから、とりあえず言う事聞いた方が良いと思う」
「分かりました……では、少し待っていてくださいね」

 そういって、パタパタと走っていった
 廊下は走ったらいけないと言っても、多分走る
 葉月さんも歩いていった……追いつけるだろう
 武道家としての目か……ばれたかもしれない
 動きは剣道や空手を真似て動いたけど、実際、それだけの理屈じゃないものもあるから
 紅茶を貰い、一息つく
 足は大丈夫だ……フィリス先生の整体のおかげだろう
 しかし、あの音で何でよくなるのかわからないな
 しばらくすると気配が近づいてくる
 誰かは分かっている

「恭也さん、お待たせしてすみません」

 呼吸を乱さず、言い切った
 まぁ、それはいいのだけど、スカートで結構速かったと思うのだが
 気にしたらいけないかもしれない

「あの、お礼ですけど……きゃっ」

 絨毯のたるみ(絨毯の隙間というか二枚絨毯の二枚目)に足を引っ掛け転ぶ
 その先にあるのは、椅子とテーブル
 俺はとっさに飛び込んでいた
 椅子とテーブルの間に……目の端に葉月さんが移る
 見られたか?

「うっ、て、あれ? 痛くない」

 そりゃあ、俺が椅子とテーブルを避けてこけたからだ

「大丈夫か?」
「え? なんで、恭也さんが?」
「倒れそうだと思って、受け止めた……つもりだったが、受け止めきれないと思って、横に倒れた」

 それが何処まで言い訳として通用するか
 春香と離れながら考える

「そうでしたっけ?」

 不思議そうな顔をして聞いてくる
 しかし、柔らかな体と良い匂いが来る……これが女性特有のにおいなのかもしれない
 美由希からは全然無いけど……
 そういえば、美由希は大丈夫だろうか、あんな風に気を失っていたけど

「いえ、お嬢様の考えは正しいです
 恭也さまは確かに反対のところに居ました……テーブルを飛び越えて、お嬢様の前に体をだし
 そして、そのまま抱えて横に倒れたのです
 柔らかな絨毯を利用した完全な受身で」

 ……葉月さんの目は厳しい
 何より、間違いなく、こちらが何者かも探っている

「失礼かと思いますが、学年とか名前とか調べさせてもらいました
 高町恭也、18歳、一年留年という形を取ってますね」
「ええ」
「連れ後として、高町姓へと変わってます
 その前の姓は分かりませんでした……そして、1つ気になる点が」
「なんですか?」
「私や春香さまが目で追いきれない動きは、そう簡単に出来るものではありません」

 その言葉は断言
 間違いなく、この人は分かってるのかもしれない

「見切れない動きでした」
「確かに、葉月さんの言うとおりですね
 私も幾度か助けてもらっておいてなんですけど、不思議に感じてました
 何故、私より後ろに居る恭也さんが、私がこけたとき、前に居るのだろうと」

 神速には目がついていけてないって事か……確かに、あれは、特殊な練習などが居る
 何より、瞬きしていては追いつけない速度だ

「それじゃあ、聞いておきましょう」

 葉月さんがこちらを見てはっきりと聞いた

「あなたは何者ですか? どこかの産業スパイなどというものでは無さそうですが」
「俺は、何てこと無い普通の高校生です」
「嘘ですね」

 どきっぱり……流石にそれは無理があるか

「まぁ、武術をたしなんでるって所です……まだまだ修行中ですけど」

 これでダメなら、どうするか

「武術ですか」

 少し考え込んでいるようだ

「あの、俺が武術してることは誰にも言わないで欲しいんです
 知ってる奴も居ますが、数名だけですし」
「分かりました……私は言いません」
「私もです」

 頷いてもらえた……良かった
 これ以上学校で目立ちたくないから

「それで、恭也さんがしている武術の名前教えてもらっても良いですか?」
「……悪いが、言えない」
「そうですか……あえて聞かないことにします
 えっと、今日は助けていただいてありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ……」

 そう言って、俺は紅茶を全て飲む
 もう話はオシマイかな

「じゃあ、俺はこれで」
「もう帰られるのですか? あの、それじゃあ、悪いですし、何かお礼を」
「いや、だが、俺は別にそう言うのを目的で助けたわけじゃないんだ
 本当にたまたまだし、なにより、久々の実践になったくらいしか」
「実践ですか?」
「ええ、まぁ……」

 いらない事を言ったかもしれない
 葉月さんもこちらを値踏みするかのように見ている
 何かあるのかもしれない

「それじゃあ、今回のもちょっとした腕試しみたいな要素もあったわけですね」
「腕試しというわけじゃないですけど、まぁ、声が聞えていってみればってところです」
「分かりました……お嬢様を助けていただきありがとうございます
 私自身メイド長としてのお礼を申し上げるのを忘れてました」
「いえ、俺に警戒心を抱くのは普通だと思います……何より、目撃されてる方ですから」

 小太刀と飛針を……見ているのだ
 春香も見ていたが、それについて聞くのを忘れてるって事だ

「そういえば、気になりましたけど、その木刀の小さいサイズは?」
「俺が使うものです……小太刀といって、小さいんです
 片手で扱えるのですけど、リーチが短い分、相手の懐に飛ばなくてはならないものです」
「そうなんですか……」

 気になるのか、見ている

「ところで、私が知ってる限りで小太刀をお使いになる流派はほんの一握りです
 その中で言えないとなると、ただ1つ……その使い手が何故此処に居るのですか?」

 葉月さんは厳しい視線のままこちらを見ている
 最初から気づいてるわけじゃなく、何となくの予測もあるのだろう
 しかし、これまた痛いところを突かれた

「二刀ですよね? と言う事は、小太刀二刀……私が知ってる限りでそれをしていたのは……」
「葉月さん、何故あなたがそれについて知っているかは知りませんが、俺のは独学に……」
「いえ、あの動きは独学で学べるものじゃありません……目標があり、ちゃんとした学を取ったものでない限り」

 確り見られているということだろう
 敵の中に居るような感じ近い

「恭也さん……あの、何か隠してませんか?」
「……俺のしている武術は非常識なんです
 だから、知らない方がいいこともあります……命を狙われる率が高くなることもあるでしょう」
「それは、あなたの流派を答えたと同じですが、私はお嬢様にお話しますよ」
「出来るなら言わないで欲しいのですけど」
「いえ……言っておくべきだと思います
 お嬢様が凄く気にしてるので」

 そういって、目が優しくなる
 ああ、彼女は本当に、春香たちを大切に思ってるのだろう

「なら、俺から言う……多分、あなたが思ってるのと間違いないだろうけど」
「……教えてください、絶対に言いませんから」

 そういって、こちらを見て、小さく微笑む

「俺がしてるのは、御神流……永全不動八門一派 御神真刀流 小太刀二刀術
 その中の、御神不破流を一部納めてます」
「一部なんですか? あの動きで」
「はい……一部です」
「私が知ってる人とほぼ同じだと思いましたけど」
「それに、俺は膝を砕いていて、歩いたり走ったりは出来ますけど、剣士としてはもうダメなんです」

 そう、もう、ダメなのだ……自分で言っておいて、少しショックを受ける
 不肖の弟子を持ってから、頑張っているけど、やはり何処かヘンなところも出てるだろう
 ノート片手にがんばりすぎたあの頃
 それがあって、今の俺が居るのだから怨めないといえば怨めない

「膝を砕いて……ですが、あの動きは」
「御神流……どこかで聞いた気がします」
「御神流は、もうどこにも無いですから」
「え!?」
「うちの一家、親戚が全員殺されたんです」
「殺された!!?」
「そうだったのですか……」

 春香は驚き、葉月さんは納得してる顔だった
 何かが起きて、居なくなったとくらいにしか聞かされてないのだろう

「ちょっと待ってください……やはり、あれは御神や不破を快く思ってない人たちが起こした事件なんですね?」
「葉月さんは詳しく知ってるようですね……そのとおりです
 だから、他言無用でお願いします……俺のせいで、春香たちに迷惑を掛けたいとは思いません」
「そうですか……分かりました
 私は言いません……これでも口は堅い方なので」
「葉月さん……勿論、私も言いませんからご安心を」
「そうしてもらえると助かる……友達でも本当に親友とかにしか話してないからな」

 言い切ってしまえば簡単なものだけど、実際命が狙われるなんて事は無い方がいい
 だが、もしも誰かの口からばれ、そして、その人の命が散れば
 それはしゃべってしまった者の責任ではないだろうか
 だから、俺は話すときは凄く慎重になる
 美由希もそれが分かっていて言わないのだろう

「小さな新聞紙面を飾った事件ですけど、それでも……俺は守るために振るってます
 今回助けたのも、その一貫みたいなものです
 だから、気にしないで下さい」
「分かりました……では、今日は本当にありがとうございました
 お礼は後日、何か御土産でも持っていきます」
「あの、恭也さん」
「ん?」

 春香がこちらを見て呼びかけた

「恭也さんの好きな御菓子か料理って何かありますか?」
「料理なら、和食が結構好きだな、煮物とか……御菓子はせんべいなんかが結構
 緑茶と合うから……後、紅茶は結構好きだぞ
 葉月さん、紅茶入れるときにお湯の温度設定してるでしょうけど、湿度考えた方がいいかと」
「え?」
「茶葉は湿度の影響も受けるから、その都度で蒸す時間なんかも変えないと
 毎回違う味になったり、味にほんの少しだけど差が出るんですよ」
「そうでしたね……」

 動転してたのだろう……確かに自分の家族みたいに大切な人が傷つけば、誰しもが動転する
 それは、メイドだろうが一緒なのだろう
 俺は良く知らないけど……
 もう、全てを話した……後は話さないように言っておけば大丈夫だろう
 春香は少し心配だが、いや、かなり心配だが
 出来るだけ見ておくようにしよう……

「それじゃあ、俺はこれで……また、後日、春香から、何かお礼は頂きますね」
「はい……」
「恭也さんの好きな食べ物が、日本料理とせんべい……う〜ん」

 何か考えてるようだ

「それじゃあ、俺はこれで」
「はい……お送りします」

 そういって廊下に出ると、葉月さんがこちらの半歩後ろを歩く

「恭也さま」
「さま付けしないで欲しいのだけど」
「いえ、これはメイドとして当然です……それよりも、春香さまをよろしくお願いします」
「…………よろしくといわれても学年も違うし」
「それでもです……恭也さまなら、大丈夫だと思ってるのです
 かつて私が会った事がある恭也さまだから」

 葉月さんは懐かしそうに目を細めこちらを見ている

「過去、数度、いえ、本当に二度か三度ほどですね
 お嬢様と私を守っていただいた事が一度……お嬢様は忘れてますけどね
 幼い頃なので仕方ありませんが、あの時、貴方が居なければ私たちは死んでいたかもしれません」
「あれはSPのミスみたいなものですから……まぁ、俺は単なる尻拭い
 それに、あの程度ならなんとか」
「生きていたのは嬉しいです、純粋に……また会えてよかった、奥様も旦那様も大旦那様も喜びます」
「言わないで下さい……俺だと知れたら、やっぱり恐いです
 迷惑をかけたくないですから」
「分かりました……襲われたけど、善良な市民の呼びかけにより敵が逃亡寸前に追いついて
 警察に引き渡したと報告しておきます……」
「すみません」

 考え考えの末だろう
 大変だ……本当に

「恭也くん、またね」

 その笑顔は、過去一度だけ見た、満面というには思えないほどの笑み
 でも、彼女の本当の笑顔……桜坂葉月という人の笑顔だ

「はい、またです」
「お嬢様のことよろしくお願いします」
「努力しますとだけ答えます」
「はい」

 そして、別れ、ある程度分かる場所まで案内してもらい、車で家まで送ってもらった
 しかし、ばれたって事は、俺もっと大変かもしれない
 なにせ春香だし……ばれたくない一心で頑張るしかないだろう
 近づくことになっても
 それはそれで考え物だな……はぁ〜

「ただいま」

 家に帰ると、殆どの人が寝ている
 なのはも寝てるだろう……美由希とかあさんが興味深げに見てきたけど
 適当に答えた……リスティさんから連絡あったようだ










 おわり










 あとがき
 というわけで、第二話です……恭也の秘密がばれちゃいました!
 シオン「意外とその2で終らせたわね」
 此処はさらっと流したいというか、ばれたねってくらいが丁度良い
 ゆうひ「でも、葉月と恭也が知り合いなの?」
 恭也は不破だよ、士郎の後ついて行ってたら、遭ってるよ
 シオン「ああ、じゃあ、有名どころで、佐伯とかとも」
 そう言う事
 ゆうひ「なるほど、大変だわね」
 全くだ
 シオン「それで恭也は言いたくないって思いもあったのね」
 おう
 ゆうひ「でわでわ、次回で……」
 またね〜(^^)ノシ




いやー、ばれちゃったね〜。
美姫 「ばれたわね。でも、過去の出来事に付いては忘れてるのね」
みたいだな。一体、過去にどんな事があったのか。
美姫 「それが詳しく語られる日は来るのかしら」
ともあれ、今回はここまで〜。
美姫 「次はどんなお話かな〜♪」



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