『乃木坂春香と高町恭也の秘密』











第三話 その4













 夕方になり大分涼しくなって来た時間……春香のメインイベントである買い物が行なわれる
 一応しおりにはそう書いてあるのだし、そう言う事なのだろう

「時刻は現在午後四時四十八分……いよいよメインイベントです」

 此処まで順調に来て、春香の機嫌は良さそうである
 何より、俺の両手にある物がそれを物語ってると取れるだろう
 両手にぶら下がるのは俺が持っている物と春香が途中で無料配布されてる物やいくつかの本だ
 紙系の物が多いので少し重く感じる部分もあるが、これは精神的に疲れたととって良いだろう

「恭也さん……だいじょうぶですか? あの、やっぱり、私半分持ちます」
「大丈夫だ」

 気遣いはありがたいが、女性に荷物を持たしたら
 後々フィアッセやかあさんに何を言われるか……ばれなかったら良いと思う事なかれ
 あの人たちは何かとこういう部分では努力を怠らない人たちなのだから

「でも……」
「本当に大丈夫だ、これくらいの荷物を持って登山だって出来るさ」

 というか、この程度で根を上げてたら、父さんとの強行軍なんて……地獄かそれ以上のものだ
 煉獄とか? 廃墟のゾンビとか? なんていうか、生物的にありえない場所とか?
 まぁ、そういう感じだ
 父さんとの旅の方が辛かったし……

「恭也さん?」
「いや、何でもない……次はどっちだ?」
「あ、こっちです」

 案内は春香に頼まないと、迷子になる
 というか、地理は覚えていても、春香が行きたい場所に行くのだから当たり前だ






「すみませんが……」

 電気屋さんと呼ばれる場所の玩具売り場で言われた言葉は、売り切れって事だった
 シルバーという特殊なのかどうか分からないが、特殊なんだろう、そのおかげで予約だけで7割が売れ
 残りも、昨日からの並び組みにより午前中には完売したそうなのだ
 俺はそれを聞きながら少し考え込んでしまった

「……売り切れ」
「はい」

 その言葉は端的だが、如実に語っていた

「他店にいかれても、このお時間ですともうないかと
 うちの系列店の方も連絡しましたが、午後に入った時点ですでに無い状態でして……真に申し訳ございませんが」

 春香の方を見ると、呆然としている
 これをメインとしていた春香には辛いことなのだろう……春香を確認すると、どこか呆然としている
 茫然自失という状態かもしれないな……

「春香?」

 声をかけるが帰ってこない
 愕然とした顔で売り切れの文字を見ているのか見ていないのか怪しい所
 やはりこうなったか……これは意外な結果ではないというのは理解できる
 忍が勝手に喋っていたおかげで助かったな……うん、本当に

「とりあえず、春香」
「え、あ、はい」

 驚いたようにこちらを見る

「店員さんの話だと無いみたいだし、此処に居ても仕方ないだろうから
 外に出よう」
「……はい、そうですね」

 携帯ゲーム機の方をちらちら見ながらも、渋々というかダメージがあるのか、
 エスカレーターの方へと一歩進むつもりだったのだろうが、足がでず、そのまま倒れかける春香
 俺はそっと彼女を抱き寄せて、軽く引きずる感じで歩いてエスカレーターで1階まで降りる

「え?」

 不思議そうにしてる春香をそっと抱き上げて、近くの公園まで歩いていく
 周りから何か色々な声や口笛などが聞えるが、気にしない事にした

「荷物持っててくれ……春香は、少し疲れてるんだな」
「え?」
「顔を見てたら分かる……いつもより白いからな」
「あ」

 なにやら困った感じではいるが、そのまま春香は俺が持たせた荷物を持っていた




 春香は抱かれながら眠ってしまった
 到着まで直ぐってのに眠るとは……疲れてたんだな
 以前もこれに近いことあったのだが、彼女は覚えてるのだろうか?
 それが、どんな事だったか?
 ベンチに寝かせて、頭が痛くないように自分の膝上に乗せる
 こうしてると過去を思い出すな……美由希やなのはにもしてやった記憶がある
 春香にもした事があるんだけどな
 絶対本人は覚えてないと思いたいくらい小さな頃だが

「ゲーム機楽しみにしてたんだな」

 本当に……買いたい物だったのだろう
 家族には秘密にしてるのかもしれないし……ま、どうとも言えないことだしな

「……す〜」

 暫くして起せば良いだろう……荷物は彼女が大事そうに持っている
 今回は忍やノエルさんのおかげで助かったな……本当に

「……あっ」

 少し上を向いて、下を向いた瞬間、春香は目を覚まし、こちらを見た
 俺も同じようなタイミングで見てしまったから、同タイミングだったのかもしれない

「大丈夫か?」
「あ、はい」

 春香はそういって、荷物を胸から降ろし、ゆったりとしながらも素早く丁寧に起き上がり座った

「おかげさまでだいぶ落ち着きました。あの、昨晩は眠れなかったもので、おそらくは
 そのせいだと思うのですが」
「眠れなかった?」
「え、その、はい……今日のお買い物が楽しみでわくわくしてしまって、
 遠足の前日みたいに目が冴えてしまって……」

 なるほど……

「そうか」

 それなら仕方ない気がする
 なのはも寝ない時あったし、美由希も同じくだ
 と、暫くお互いを見ていたのだが携帯がなり、俺はそれを見て、ため息をついた
 なのはからのメールだった

「どうかされましたか?」
「妹のなのはからのメールだ」
「妹さんですか……確か、大事にされてるんですよね?」
「ああ、年が離れてて……今日の買い物ちゃんと出来たかって……俺は子供か?」

 春香はどこか困った顔で笑顔を浮かべた
 微妙って事なのだろう

「すまんが、喉が渇いたので荷物見ていてくれないか?」
「え!? あ、はい」
「缶ジュースでも買うつもりだが、何か買ってくるから」
「はい」

 メールに返信を送り(以前まで出来なかったが、なのはに徹底的に教わった)
 自販機まで歩く……膝などの心配は無いが、春香の分は紅茶で良いか?
 俺は緑茶だが

「あまり味には期待しない方が良いが、紅茶で良かったよな?」
「え? あ、はい」

 不思議そうな顔をしながらも紅茶の缶を受け取る
 紅い色のした紅茶の缶ジュースだし……

「何か……新鮮な味。こういうのも……美味しいかも」
「新鮮?」

 春香の言葉が少し可笑しいのだが、これは言語障害!?

「私、缶に入ってる紅茶を飲むのって、初めてなんです」

 その言葉のとおりなのだろうが、初めてか……確かにそう言う風には見えないもんな
 缶ジュースの開け方教えてくださいとか言われると思ったが……そこまでじゃ無かったので良かった良かった

「あの……さっきはすみませんでした」

 うん?

「あんなに大勢の人の前で倒れてしまって……恭也さんに、とっても迷惑をかけてしまいました」
「いや」

 そんなことは気にしなくても良いんだが、想定内というか、分かってたことだし

「……ほんとにすみませんでした。今日は無理を言って、せっかく
 恭也さんにこんなところまで付き合ってもらったのに」

 落ち込む春香はそのまま言葉を続けた

「……私、ほんとにダメですね。おまけに私がぽやぽやしていたせいで『ぽーたぶる・といず・あどばんす』も
 売り切れちゃうし……目的も果たせない上に恭也さんに迷惑までかけて……もうダメダメです。
 『ダメっ娘メグちゃん』くらいにダメダメです。こんなことなら来ない方が良かったって
 恭也さんも思ってますよね」

 ふむ、相当落ち込んでるな……自分を卑下してるしな

「春香、それ少し違うぞ」
「え?」
「俺は、別にそんな風に思ってないから……春香が買えなかったのは残念だが
 俺は俺の目的もあったわけだしな
 それに、違う場所を見れて良かったと考えてるし、楽しかった」
「恭也さん」

 くしゃっと顔を歪める春香

「う、ぐすっ……あ、ありがとうございます。わ、私も今日は楽しかったのです。だ、誰かと買い物に行くのは
 初めてで……本当に楽しかったんです。でも、でも楽しかったからこそ肝心の
 『ぽーたぶる・といず・アドバンス』が買えなかったのが、最後の最後こんな風になっちゃったのが
 悔しくて、申し訳なくて、それでそれで……」
「はい」

 春香は涙を流していた……泣いてしまうというときもあるだろう
 皆、それぞれにあっただろうし……俺はポケットからハンカチを取り出して春香に渡す
 ふむ、春香が持つと、無粋な男物のハンカチでも綺麗に見えるものなんだな
 これは持つ人に寄っては変わるものなのか?
 春香が泣きやむまで十分ほどかかった

「春香」
「はい?」

 泣き止んだ春香に俺は自分の袋を漁る

「はい」
「え? これ」

 最初に購入した春香が欲しがってるゲーム機だ

「最初の店でな、見た時になんとなく買いたくなったんだが……
 よく考えたら、俺はあまりゲームとかしないし、妹たちが持ってるなら借りてしたら良いだろ?」
「でも……」
「あまり上手く言えないが、春香が買えないのは何となく危惧してたんだ
 だから先に手に入れて置いたんだ
 あまり悔しそうじゃなかったら、本気で俺がやってみようかとも思ったんだが」
「え?」

 驚いてるのかこちらを見ている

「春香は悲しかったんだろ? 手に入らなかったことが」
「でも」
「それと今日のお礼だ……楽しかったから
 1人だったら用事すましてさっさと帰ってるさ」
「恭也さん」
「だから、受取ってくれないか?」
「……はい」

 嬉しそうに春香は受け取る

「これ、大事にしますね」
「ああ、大事に使ってくれたらいい……そうした方が物も喜ぶだろうしな」
「はい」

 春香はそういって俺を見てゲーム機を大事そうに抱える

「帰るか?」
「はい♪」

 春香は立ち上がり、そのまま歩こうとするが

「あうっ」

 前の外灯の柱にぶつかっていた
 器用な!!
 美由希と同じだな……ドジではどっこいどっこいだ

「大丈夫か?」

 春香は春香のままだな

「むっ、小銭が中途半端だ……そうだ、ガチャポンだったかしていってみるか
 俺も初挑戦になるし、春香も二度ほどするか?」

 ちょうど三枚のコイン……春香は笑顔で頷き、そのまま2人で挑戦
 当たった景品は春香がそれぞれの紙バックに入れる

「あ、これ」

 春香は中を空けて、どこか嬉しそうな顔をしている

「『はにトラ』ポーズです」

 なんだそれは? どこかの言葉?

「『はにかみトライアングル』のヒロインの『ドジっ娘アキちゃん』の決めポーズなんです」

 人形はスカートの裾をちょっと持ってお辞儀をしている感じだ
 小さいからわかりにくい気がするが……明るいところで見たらもっと精工で出来てるのが分かるだろう

「私、これ宝物にしますね」

 春香はそういって嬉しそうにその小さな人形を抱きしめる

「これを?」
「はい」

 笑顔で春香は頷く

「このポーズ、とってもかわいくてお気に入りなんです……それに
 それに……恭也さんが買ってくれたものです。それだけで私にとっては大事な大事な宝物です」

 そこまで言われると嬉しいものがこみ上げてくる

「……大事にしてやってください」

 俺はそういうと、春香は笑顔で頷いた
 本当に大事にしてくれるだろう、彼女なら……そして、俺と春香の初めてのお買い物は終了した






 後ほど聞いた話によると、藤代さんのお子さんがそれを知っていて、それは全国でも殆ど出てない稀なものだとか
 何故に俺に話したか謎だが……藤代さん曰く『てっきり高町くんがそういうの好きなのかと』だそうだ
 俺はそういうつもりは無いのだがな……











 つづく









 あとがき
 というわけで、こんな感じです
 シオン「恭也が最初に買っていたのはこのためだったのね」
 まぁ、恭也が試したってのもあるけどね
 ゆうひ「でも、恭也はプレゼントでしょ? これ」
 理由はいろいろあるけどな
 シオン「理由?」
 春香は覚えてないかもしれないことを思い出して欲しいとか色々
 ゆうひ「恭也は春香のことをどう思ってるの?」
 それはまだ秘密……で、これで本編の二話まで終了しました〜
 シオン「ながっ!!」
 自分も思ったよ
 ゆうひ「でわ、次回へ〜」
 またね〜、次回はお勉強会です……恭也ちゃん、ふぁいとっ




無事にお買い物は終了〜。
美姫 「何とか無事だったわね」
まあ、目当てのものは恭也のフォローあってこそだったけれどな。
美姫 「恭也と春香の過去とは」
それを思い出す時が来るのかどうか。
美姫 「次回も待って…」
いや、次回も一緒に来てる。
美姫 「……」
という訳で、読むか。
美姫 「それを先に言えーー!!」
バハムーッ!



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る