『しんげつのかおり3』












「植物を育ててるというのは、手間隙かかると聞いてる」
「それがどうかしたのか?」
「こうやって、植物だけを見るとか、そういう機会無かったから
 ちょっと安心する」

 見てる松は、どれも頑張って成長し、生育してきたというのが分かる
 それは、恭也の人となりというのが分かるものだ

「楽しいか?」
「ん? そうだな……こうやって植物を見れてる自分がいるのが嬉しいよ
 周りは目新しい事が多いからな」

 どんな物が流行りでとか言われてもサッパリ分からない
 それさえも、今の俺には新しいことだから

「盆栽なんか見て楽しいのか?」
「こう、素朴なのが良い……派手さも華美さも無くて、ただ、悠然と構えてるその姿は良いと思う」
「そうか……ふむ、これは俺が一番最初に買ったもので、試行錯誤して此処までなったんだ」
「そっかぁ……大変なんだろうな
 植物も人も動物も殺すのは簡単だけど、作る、誕生となると大変だ」
「お前は、何でそう言うのを言う」
「人の心に触れるというのは、人の悲しみも辛さも楽しみも全て理解してしまうということだよ、恭也」

 美沙斗さんがそう言って、私の髪の毛をなでる

「だから、この子は龍を抜ける決意をした
 もう、人を殺めるようなことの無い、何か違う事へと移動したいと思ったんだ」

 美沙斗さんには、1度全てを話した事があった
 これ以上、人を殺したくないということ……そして、これからはもっとゆったりと送りたい
 どうせ、自分はコピーに近い存在

「美沙斗さんは、蛍さんを信じてるのですか?」
「ことさら、決意したことに関してはね……少しだけ近くに居る感じがしてたけど
 護る事に関しては恭也が強いと思って迎撃を任せた
 そして、予想通りの展開になったのは、蛍が一番知ってる」
「予想通り」
「何時か、自分が羽を使って逃げる時がきたら、自分は龍を抜けると」
「それが、昨日のことですか?」
「多分ね……蛍は恭也が思うほど強くもなんとも無い
 悲しみも理解してるし、人を殺すという重みも知っている……殺すということと殺されるということの違い
 それすらも理解してるからこそ、蛍は抜けると断言したんだ
 ただ、それを知ってる者は極わずかだったはずだがね」
「じゃあ」
「俺は殺した人も多いけど、殺さなかった人が此処数年で多かったはずだ
 キリングドールは殺すのをやめてたんだよ……といっても、半身麻痺やら植物人間にしたりはした
 でないと、仕事したということにならないから
 生きる術はそれしか知らなかった……でも、ある人が教えてくれた」
「何を?」

 美沙斗さんを見る……頷いて返す

「恭也、ティオレさんが狙われたのは、1度や2度じゃない……それでも、死んでないのは何でだと思う?」
「それは、護衛が護ってたんじゃあ」
「違う……それだったら、幾人も死人が出てることになるはずだ
 蛍は幾度かティオレさんの暗殺依頼を受けてたんだ……」
「なにっ!!」

 俺を見ている……驚きと殺意か
 それでも、俺は何も言わずに受け止める……目の前の男はもしも俺を殺すなら、殺しにかかるだろう

「ただ、蛍は羽を出してしまった……相手の心を読んだんだ
 それが、ティオレさんを生かす結果となった
 彼女の苦悩と苦しみ、辛さや楽しさ、悲しさも全て理解した上で、蛍は殺すのを止めたんだ
 しかも、自ら偽装してね……」
「それって」
「知られてない事実……蛍は、相手に手紙を送って殺すなんて快楽に溺れるほど落ちぶれちゃ居ない」

 美沙斗さんの言葉は全て真実だ
 俺は、喜んで殺すなんて事しない……もうしたくない
 血に濡れた手だけど、それでも、したくないということは変わらない

「もしも、彼女が本気であったなら、殺していた
 でも、蛍はしなかったんだ……ティオレさんを殺すのは自分には出来ないと」
「それって」
「私がティオレさんを殺そうとする前の話……そして、蛍はその少し前に私と会っていた
 ティオレさんを殺さなかったと聞いて、蛍は何処かに姿を消した
 というよりも、龍の暗部連中とちょっとやりあい、生き延びた……それだけだよ」
「もしも、俺がその頃闘っていたら、生きてませんでしたね」
「そのおかげで蛍の今がある……」
「人間らしいといえばいいのかな? その頃に俺は、感情がどれだけ綺麗で
 殺意がどれだけ良くないものかというのも理解した
 で、CSSを脅せとか殺せって依頼は全てキャンセルしたんだ……俺が今まで殺したのは良くないことだって
 どれだけ裏で汚いことしてても、殺人は良くないことだって分かったから」
「そうか」

 それがどれだけの結果を生むか分からない
 それでも、俺が殺した人たちは俺を恨み、妬むだろう
 俺も殺された時には、そう感じるのかもしれない
 生きる事というすばらしさを知った……そして、生きて何時か恩返しであれしないといけない
 だからこそ、生き続けることの意義もある
 生きなければ、死んでしまえば、人はたんぱく質とかの塊
 心は生きるとかあるが、そんなのは他人の心にその人が根付いた時のみ
 それでも、俺がしたことが心に残るとは思えない
 だから、何か出来る事があるならと思った
 人の命を奪うのでなく、人の生涯を終わらそうと
 その後から1度も殺してない……人生を狂わせたことはあっても

「蛍さんはどうするつもりなんだ」
「名前を少し変えて、どこかでバイトしながら生活をする
 お金には不自由しないだろうし、此処にずっと居続けても悪い」
「別にかあさんは何も言わないと思うが」
「休まらないだろう? 恭也や美由希は俺が居るだけで気を張る
 当たり前のことだけど、それで休めなくて仕事に差し支えが出てみろ
 責任の一端は俺になる」
「蛍」
「世間はそこまで優しくないぞ」
「そりゃあな……でもな、あんたらの優しさは本物だし、信じてもいいんだと思う」
「それは嬉しいが」
「私だって、もう16年も生きてるんだよ、大丈夫だよ
 たとえ辛い事があっても、むやみやたらと殺したりはしないし
 相手がナンパとかだったらきつくあたるかもしれないけど、私はもう人を殺したくない
 それを教えてくれたのは、何も言わなかったけど、ティオレさん
 気づいてなんて思ってない……ただ、ティオレさんという人の思いは私の胸の中にもある
 本当にそれだけ……だから、殺してはいけないんだと」

 自分の考えを変えたとき、世界は一変した
 俺がしてきたこと……それは世界悪であったこと
 良い人も悪い人も殺してきた
 誰が悪いで誰が良いとか分からないままに……だからこそ、キリングドールが如何いう人かも全く謎だった
 子供とは思わなかっただろう
 襲ってきた敵は全て殺してきた
 血の雨が降ろうが、純白の羽根に血がついても、やってこれた
 それが、一瞬にして変わった……今までしてきたことは悪いことだと
 でも、それでも、俺の罪を許すから、これ以上罪を重ねないで
 そのことがとても痛かった……胸が、心が
 だから……

「それでも、蛍はもう少し此処に居るべきだ」
「美沙斗さん」
「此処で家族というものに触れるのは悪いことじゃない
 もしも、それで何処かマンションでも取って暮らすなら、暮らしたら良い
 まだ、未成年だし、中々取れないだろう」
「うっ」

 痛いところをついてきた
 未成年が借りるなら、親の了承とか同意書というものが必要とか
 それだったら、成人になるまで此処に居たらいいのだけど……難しい所

「取る方法はあるだろうけど、それでも1人暮らしは危険だよ
 私も香港に戻るわけだし」
「ううっ」

 そう言われると辛い
 お金に物を言わせてってのもありだけど、それだと不信感募らせるだけだし
 は〜

「此処だったら、君だって多少は休めるはずだ
 もし、恭也たちを少しでも信じられるなら……」

 美沙斗さんの言葉に説得力がある
 確かに此処に居る人たちは信じられる……それでも、迷惑にならないとは限らない
 もしも、なのはちゃんに何かあって、自分を抑えられる自信が無い
 リミッターを無理やり解除してでも、相手を殲滅するだろう
 生きてる事を後悔するくらいの……

「確かに、不安になるのも分かるし、まだ君は」
「分かってます……言いたいことも、でも、私はこれ以上、誰かを傷つけることを恐れてます」
「……蛍」
「私の存在のせいで、誰かが傷つくのは怖いです、嫌なんです」
「蛍さん……すまない、俺は君を知らない間に不安がらせ、しかも、傷つけてたんだな」

 だから、これ以上私を困らせないで
 私を放っておいて……此処は居心地が良い
 でも、いいからこそ、危険に晒したくない……誰もが安全でのんびり過ごせるのが良い

「だから、此処に居たら迷惑に」
「迷惑なんかじゃない……君が此処に居て良いんだ
 かあさんも、俺も、君を嫌ってなんか居ない
 ただ、戸惑いがあるが、かあさんは受け入れてただろう」
「それでも、私は桃子さんにとっては敵(かたき)みたいなものです
 一時的にとは言え、龍に所属し、アルバート・クリステラの攻撃を私がしていたら
 不破士郎が死ぬことなかった……私が迷いさえしなければ
 不破士郎とマクガーレンという護衛の2人は死なずに済んだのに……」
「それは違う!! 何も知らない事を漬け込み、それをやらせた龍に問題があるんだ」
「美沙斗さん、それでも殺した事は変わらないし、戻せない」
「蛍」

 視界が歪み、周りが少しぼやける
 水の中に居るような不透明さ

「蛍!?」

 驚いた声を聞いて、自分の中にまだ涙という物があったことに気づいた
 自分の愚かさに嘆いた時ですら泣かなかったのに、たった一日一緒に居ただけで
 これだけの温かさは、今までになく、それが自分を追い詰めていたなんて知らなかった
 抱きしめられていた……手は何時の間にか美沙斗さんが握っていて
 俺は、その中で瞳から落ちる涙が服にしみこんでいくのを感じ

「濡れちゃいます」
「良いから……まさか、蛍が泣くほど怖がってるとは思わなかった
 大丈夫、此処の人たちは強いし、蛍だって使い方を誤らなければ護れるさ」
「したことないから」
「……そうだったね、私が知る限りでも、誰かの護衛なんてしたことなかったもんね」

 そう、今まで攻撃しかしてない
 護るということを知らない……それに、連携とかもあるだろう
 攻撃側だって、連携とかあるのだから
 最も、俺は1人でするって言ってたけど
 周りに足を引っ張られるのが嫌だから
 連絡係だけはいたけど……そいつも海底深くだ
 ふわりと頭を上げられて涙が拭かれる……無骨な指
 でも、優しさと温もりがあって、相手を見やる
 恭也だ……

「お前が1人でいたい理由は分かる
 でも、俺は、お前を守るために、1人で行かせない!
 まだ、お前は此処に居るべきだから」

 その力強い言葉には偽りも無く
 如何したら良いのか分からない
 首を横に振るのも縦に振るのも、楽なはずなのに出来ない

「それでも、踏み倒してでも行く」
「……そうか」

 出される小太刀
 何時も持ち歩いてるのだろう……それなら、羽根を出し、飛ぶ
 美沙斗さんも離れていた

「恭也」
「気絶でもさせて反省させますよ」
「蛍」
「恭也、覚悟してよね……もうすぐ夕方だけど、力が使い放題なのは、同じなんだから」

 イヤリングのレベルを上げて、羽根の出力を上げる
 勝負は一瞬……ごめんなさい
 やっぱり、私がここに居て、怖いから……なのはちゃんが傷つくのが
 晶さんやレンさんが傷つくのが怖いから
 桃子さんが泣くのが辛いから……怖いから

「恭也、ごめんね」

 飛ぼうと思ったとき、空気が動いた
 瞬時にテレポートの力をバリアに回す
 ガキィンって音がなって、自分が1メートル動いてることに気づいた
 いや、動かされた
 頭が澄み切る……こいつは桁違いだ
 昨日の夜中も強かったけど、羽根を出してて、これだけ引きずられるなんて!!
 すぐさまバリアの展開を強める
 二度目の音……

「閃・瞬」

 何か聞えた……せん・またたき?
 技の名前?

「なっ!!」

 バリアが崩される……これでも自信があったバリアなのに
 バリアを解除して、すぐさま、後ろに飛ぶ
 それでも、距離が開かないだろう
 相手が、それをさせてくれない

「はぁぁぁ」

 裂帛の気迫
 羽根の展開で上にあがる
 2階へと飛び上がる
 それでも、ついてきてる
 美沙斗さんも、ついてくる
 更に上空へと上る
 追い払えたけど、辛い……体が重い
 昨日のダメージも抜けてないし、何より先ほどの展開で飛ぶのが限界

「ちっ、逃がすか」

 鋼糸……武器の無い自分に避ける術など無い
 それでも、相手に絡ませられた瞬間に羽根を1度切る
 イヤリングに手をかける……足に鋼糸が絡まった瞬間に羽根の力を抜いて、屋根へと着地しないといけない
 それは、今の体では、無理と判断……イヤリングのスイッチを切り羽根を開く
 鋼糸は切った……でも、テレポートの時間は稼がないといけない
 何処に行くかも決めてないけど……それでも、飛べる

「またね」
「逃がすか」

 まさか、空を飛んでる相手に掴まれるなんて思っても無かった
 恭也の体が俺の体にあたり、捕まえられる
 なっ!!
 やばっ、意識が乱れた……アポートもテレポートも意識が確りして無いと危ない事になる
 目を閉じて、力を使って浮く
 そのままテレポートが発動
 どさっと落ちた……衝撃は少ない
 腕で起き上がろうとしたけど、両手を拘束された
 足を動かそうとしたけど、逃げ切れない……

「うっ」
「逃がすか、涙まで見せた奴を、わざわざ
 かあさんでも引き止めるぞ」
「恭也、離して」

 暴れるが、動きが封じられたものだと羽根の展開が精一杯

「みんなの前に居たら、俺が俺で確り出来なくなる」
「何をそこまで焦る……まだ、小さな子供のような精神だろうが
 それでも、お前は殺すのが駄目だと気づいて、俺らから去ろうというのなら
 俺がお前に鎖つけてでも連れて帰る」
「鎖なんかで」

 と、イヤリングのスイッチを入れられてしまい、羽根は収まった
 感情の高ぶりだけで、どうにかできるものでもない
 しかも、また縛られた……

「はぁはぁ」

 恭也は呼吸を乱しながらも、動けないのを確かめる
 怪しいおやじみたいだ……実際には運動の後だけど

「で、此処は?」
「……神社だな」

 よくよく見たら、確かに見たことある場所
 恭也が混じったからか……それはそれで仕方ない気がするが

「さ、帰るぞ、我侭娘」
「言葉減らずの人に言われたくない、朴念仁の鈍感男」
「お前な〜」

 恭也に少しだけはっきりといって、少しすっきり……少しだけだけど

「傷つけるつもりが無いのは分かってたからな……少しくらい無茶しても平気だったようだし」
「あの、閃・瞬だっけ? あれ、トラックより強い衝撃なんだな」
「はいっ?」
「俺のバリアはこれで、トラックが時速60キロで突っ込んできても耐えられるぞ」

 自慢気に言うと、立ち上がろうとする
 けど、見事に足がもつれてる……
 ああ、そっか……無理な羽根の展開と疲れがまた響いてきたんだ

「くそっ、うごけね〜」
「間抜だ」

 お互い一歩も動けない
 まさか、こんな様で動けないとは……鋼糸が外されたのは分かった
 動く事もしないのなら、仕方ない

「乙女の体をべたべた触りやがって、このエロ朴念仁鈍感男め」
「増えたな」
「ふん、これくらい言わないとすっきりしない」

 首を横に振って応える……

「お前こそ、我侭だぞ……家に居ろ
 しばらくは、勉強から何から教えてやる」
「いらないですよ〜だ……これでも、勉学は恭也よりもはるかに上だよ〜だ」
「なにを!?」
「なんだったら、今年海鳴大の入試受けて受かってやろうか?」
「こいつは」
「ふふん、なら、学力くらい年上らしく勝ってみなさいな」
「くぅ」

 こちらの方は俺の方が分があるな
 勝てる!!

「どうせ、心を読んで答えを合わせるつもりだろう」
「んなことするか!? 実力だよ、実力
 主要8ヶ国くらい言葉も話せるしな」

 当たり前のことだけど、海外経験が豊富という事は、それと同じくして言語も学んでるって事だ
 まぁ、俺の場合は羽の力と併用しながら、勉強もしてたし……
 物理や科学がメインだけど、色々と学んだものだ
 そのあたり生活力がついたというか、そのまま何処でも暮らせるって感じだ
 一応、容姿などの写真は出てないけど、指名手配犯だ

「もしも、テレポート失敗して変な所出たらどうするつもりだったんだよ」
「知るか」
「ばかやろ〜、お前が死んだら悲しむ奴がたくさんいるのくらい理解しやがれ」
「そんな程度で精神を乱す奴が悪い」
「鈍感、これでも、俺はまだ乙女なんだぞ
 男に抱き疲れたりしたら、毎回ちぎってた」
「……よくちぎられなかったな」
「お前との戦闘が連発したおかげで、体力が切れたんだよ
 元々、昨日の怪我も引きずってるのに、なんてことしやがる……左の肘は痛いし」
「まぁ、頑張れ」
「動けたら、俺を連れ帰れよ……今日はもう動かないからな
 世話係は恭也、以上……あ、風呂は自分で入るからな
 入れられて、変な目で見られたりしたら、今度こそ八つ裂きにしてやる」
「……本気っぽいな」
「たまには、お嬢様気分を味わいたいし……お金欲しいなら言えよ
 一応、これでもどこぞの小さな町の資産家より持ってるぞ」
「それはそれで怖いが、分かった」

 ま、小さな頃からずっと殺す事に関する事を勉強させられてたわけだから
 言葉も覚えておいて損はない……相手の声を聞き全てを理解するのだから

「まぁ、お前も家族の一員なんだからな」
「たった一日でそんな事言うな」
「ふっ、たった一日でも家族だと思えば家族だよ」
「理想論だ」
「世の中そんなものだ」

 理想の上で成り立つからこそ……それが美しいと感じ思いが連なっていくのだと
 確かに理想論で世の中そんなもので済まされることだ
 それに、恭也にとっては、確かにそんなもので済まされるだろう
 壊されるのは一瞬だから

「とりあえず、帰るぞ、馬鹿娘」

 ふわりと持ち上げられる……抱っこされていた

「ちょっとだけ楽にしてやるよ」

 腕を首に巻く

「お、おいっ」

 驚いて歩みが止まる

「止まるな、歩け」

 真っ赤になって面白い奴だ……これくらい、欧米ではするらしいのに
 それに、抱っこする時には、此処に手を回すと楽だと言ったのは美沙斗さんだし
 ま、こいつをからかうのは楽しいからな

「それとも、何か、俺がおんぶの方が良いか?」
「分かったよ……歩けばいいんだろう、歩けば」
「そうそう」

 全く……これくらいのこと出来なくて、本当に大丈夫なのかね〜、この男は

「とりあえず、あまりくっつけるな」
「何を?」
「うっ」

 言いよどんでる……実際には分かって当ててるのだけどな
 周りほど無いが、胸……自慢するほどもないし、ちょっとだけ役得だと思っておけば良いのに
 ま、そんな奴なら、他の人たちも好きにはならないだろう

「体力を上げる特訓と思えば良いだろう、重石だとか、錘だとか思えば」
「そんな簡単に思えるなら、どれだけ楽か」
「頑張れ、恭也」
「くそっ、やっぱり我侭娘だ」
「HGSの力で体重を倍加して欲しいのか? 体力がつくぞ」
「悪かった」

 凄く難しい顔してるなぁ……ま、人1人分の体重は重いって事だろう
 49キロ……だったはず
 昨日と今日はたくさん食べたから太ったかもしれないな
 動いてないし……でも、HGSの力使ったから如何だろうな?

「車に乗って帰りたい」
「大丈夫だ……どうせ近道とか人が通りそうに無い道を通れば」

 まぁ、そう言っても今が今だしな

「今下校時間なんだよ」
「下手に遅くなった方が、変な誤解を招くような気がする」

 ……どっちにしろ、誤解を招く行動は取るつもりだけどな
 うけけけけ、こいつの驚く顔が楽しみだぜ

「邪悪な気配を感じる」
「ま、頑張って帰るぞ……走っても良いけど、あまり揺らすなよ
 後、お前らが使ってる神速は禁止だ……あんなものほいほい使ってたら、俺の体が負けてしまう」
「分かった分かった」

 軽くジョギング風に走る
 うん、さすが恭也……動くのは早いな











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