『朧月の眠り4』

















 恥かしかったことだけど、泣いてしまったことに関してはもう、諦めよう
 気が緩んだとかじゃなく、私には感情があるって事だ
 お人形としてではなく、悲しむほどの心を持っているという事で

「知らなかったな」
「ん?」
「私にもまだ、涙なんてあったんだなぁって
 あれだけ流して、まだこれだけの涙があるなんて、信じられなかったよ」
「蛍……」
「ごめんね、士郎くんに嫌な役目押し付けて」
「いや、俺は、勝手にしただけだから」

 士郎くんは本当に優しい……慰めてくれるし
 私を思ってくれてるのは分かる……親友としてだろう
 いまいちつかめないけど

「蛍ちゃんを泣かせたのは悪かったわね……あの2人がどうしても呼んで欲しいって言われてね
 お得意さんだし、いいかなって」
「そんな桃子さんの責任じゃないですし……」
「って、恭也どうしたの?」

 桃子さんが恭也を見て、聞いてる

「いや、何でも無い……士郎、そろそろ離れたら如何だ? 此処は店の中だし」
「ん、あ、ああ」

 士郎くんが離れる……珍しいね、恭也くんがそんな風に言うの

「ははぁ」
「如何したの桃子?」
「ティオレさん、ちょっと」

 2人して、なにやらこそこそと内緒話
 如何したんだろう?
 まぁ私が何を言っても仕方のないことだけど

「シューと紅茶をお願いできませんか?」
「はい……」

 バイトの子が不思議そうにしながらも、私のを持ってきてくれる
 まぁ、お菓子だし、これだけで十分

「え? と言う事は」

 2人が此方を見ている

「ええ、もしかしたら」
「ちょ、それこそ、驚きね」
「皆には可哀想だけど、確かめることも必要よね」
「はい」

 だから、何?
 2人とも声が聞えてることは分かってるのだろう
 注目を浴びてるし……ティオレさんが居る時点で

「恭也」
「なんだ?」
「あんたさ……ティオレさん、タッチ」
「あら、私……恭也、あなた、蛍に惚れてるでしょ」
「はっ?」
「へ?」

 周りから声がもれ、そして、消えた
 世界から声が音が消える一瞬……ティオレさんは今何と言った?

「さっきね、恭也をたまたま見て気づいたのだけど、蛍さんが泣きついてる時
 あなたの顔、すっごく怖かったわよ、睨んでたし」
「そ、そんなわけ」
「事実よ」

 ティオレさんがそう言って目を閉じて一言

「恭也が気づいてないかもしれないけど、恭也は蛍さんに恋心を抱いてる
 だから、士郎が近づいたことに苛立ちを感じていた……違う?」
「……」

 私は無視?
 一応届けられたシューを一口ずつかぶりつきながら食べる

「答えられない? それとも、答えたくないかしらね
 でもね、間違ってないと思うのよ……恭也、あなた、蛍に恋してるのよ」
「……それこそ、まさかだ
 俺は、ただ、相手が相手だから気にして」
「士郎なら、気にする必要が無いでしょう……」
「気づいてないの? それとも、気づきたくないの?」

 ティオレさんと桃子さんの言葉
 ちょっと、待って

「えっと、ちょっと待ってください……それって、私を好きだって事ですよね
 でも、恭也とは元敵ですよ、それに、恭也と私じゃあつりあい取れませんよ
 恭也は美男ですけど、私は小さいし、不細工だし」
「あら、そんな事無いわよ……蛍は可愛いわよ」
「そうね」

 それでも……

「それにね、恭也は気づけばまっすぐに貫くでしょうね」

 それは頷ける
 多分、気づけば、まっすぐに来ると
 でも、私じゃないと思っている……

「それに、私は恭也と敵ですよ、元でも何でも」
「でもね、恭也が頼れる人というのは、極端に少ない
 私、桃子、美沙斗……アルもかしらね
 他で大人となると、ほとんど居ないんじゃないかしら」

 ……それは…………

「多分ね、恭也は対等な関係を望んでいる
 蛍さん、あなたは気づいてるんじゃないの? 恭也が何で鈍感か
 違うわね……なんで誰の恋人にもならないか」
「そ、それは」

 知っているといえば知っている……それは、周りが好きだと言われても
 何時死ぬか分からない男を好きになられても困るから
 それは、生死を分けた戦いが多い、戦士の性
 悲しいかな、私だって、恋人の1人や2人欲しいけど
 それでも、何時死ぬか分からない私のために時間なんて使わないで欲しい

「言いなさいとは言わないわ……でも、恭也は答えが出たみたいね」
「!!」

 忘れていた……恭也も気づいてしまえば、誰かにその思いの丈を伝えるだろう
 それが、私でないことを祈りたい……でも

「恭也、それはフェアじゃない」
「士郎……分かった
 とりあえず、今日の夜中神社で如何だ?」
「そこがベストだな……誰か居てもすぐ分かるし」

 お互いに知り尽くしてるからこそ油断も何も無いという事
 決まりだ……恭也と士郎の2人は、今夜私に告白するつもりだ
 桃子さんとティオレさんは時間稼ぎをしたに過ぎない
 恭也の考える時間を稼ぐために

「気づいてたのね」
「……はい」
「何で、何もしなかったのかは聞かないわ……
 でも、恭也が貴女を好きだと気づかせたくなかったのは分からない訳じゃない
 それでも、言う方が心残りもないようになるわ」
「……分かりました」
「あなた自身の思いを答えたら言いの
 どんな結果であれ、私は何も言わないわ」
「はい」

 ティオレさんと桃子さんの2人は確りと私を見ていてくれる
 恭也を支える存在、癒せる存在は……確実に少ない
 待っているから生きて帰って来て……それは分かる
 でも、恭也も士郎くんも、何時か死んでしまうかもしれない
 護ってるとき、恭也は士郎さんのように、士郎くんも士郎さんのように
 だから……恭也は鈍感という壁で塗りつぶした
 士郎は、私への思いが最初から、あったといっても過言じゃない
 多分、最初からあったのではなく、出会い、そして、あっていく間に生まれた感情だ

「私たちはきっかけに過ぎないわ」
「恭也の事に気づいたらお手伝いしてあげたくなってね」
「士郎くんのお手伝いは?」
「こういう場合は気づいた時に言っておかないといけない気がしてね」
「そうですね」

 でも、実際の所どうなのか、分からない
 それに、相手が何を言うかも問題だから……私が告白されるなんて考えてなかったし

「蛍は逃げたら駄目だからね」
「……そうですね……」

 でも、逃げたくなる……それに、ありえない気がした
 恭也が私を好きだ何てありえない……そんな風にすら思っていた
 弟子だというのもあるが、それ以上に、あれが私と対等なのは認めてる
 お互いにそのあたりだけは認めてるのだ……実力を尊敬していることも

「蛍ちゃんは、本当にそうなのかどうかの確認をしたら良いじゃない」
「そ、そうですよね……恭也に限って、私みたいな小娘を相手にするとは思えませんし」
「蛍さん」

 桃子さんの悲しい呟き
 それでも……

「そうですよね、逃げて回っても駄目なんです
 私なんかを好きになったら、いけないんです……それこそ」

 そうだね……告白されて、私は応えようが無いなら、逃げ切れれば良い
 恭也は強いから、追いかけてくるかもしれないけど
 逃げたら良いんだ……うん、それが良い
 恭也と士郎くんは私たちの会話は聞えてないようで、そのまま2人とも見詰め合ってる
 いけない雰囲気とかは一切なく、逆に危うさが出ている

「蛍、考えるのはされてからで良いじゃない」
「そうですね……そうします」

 でも、心が読めてる時点で、私の考えはあながち間違いじゃない
 そう、私は心が読めるのだから
 コントロールさえ出来るようになるために……戦闘を繰り返していくうちに
 必要なことを頭に回し、他の事は回さないのだ
 そのためについた処世術
 ティオレさんのは、たまたまだった
 羽を出さずに、ただ、何処にいるか捜していた時に見つけてしまった、心の声
 そして、その綺麗さ……だからこそ、憧れを抱いた
 もう、遅く、回り始めた歯車……か

「家に戻ってます」
「そうね、私も帰るわ」

 ティオレさんは多分、美沙斗さんが送ってくれるだろう
 私は、そのままそそくさと扉を開けて、外に出る
 お金は桃子さんに2千円渡しておいた
 わからないから
 そのまま、商店街から歩いて逃げた
 俯きながらでも、人を避けるくらい出来る
 でも、その場に居たくなかった……士郎くんと戦った場所まで逃げてしまう
 隠れる場所が無い……神社へと顔を出す
 誰も居ない……此処なら

「何で、私なんか……」

 呟きはそれだけ……それでも、私はそのまま座り木に背を預ける
 下も木だけど……木に飛んで上にあがりって事だ
 テレポートしたとも言えるけど……

「龍に見つかるなら、手があったのに……迷いがあるなんて、言えないよね」

 空に向かって、呟く
 言わないと、心が全て駄々漏れになりそうで……壊れてしまいそうで

「逃げないと……足跡が残りそうだけど……逃げないと」

 そうしないと、私は……
 墓場の方に寄って、私は、1つのお墓の前に立つ

「ごめんなさい……私は、弱いから、逃げます」

 美沙斗さんが居たから来た……でも、私は災いだ
 士郎くんが来てしまったし、何か龍の方でも動きがあるのかもしれない
 龍に戻るつもりもないし、どこかで暗殺者として動くのもごめんだ
 墓前に立って、こんなこと言える柄じゃないけど

「恭也たちを見守っていてくださいね……私は、無理ですから」

 そのまま立ち去ろうとして、目の前には1人の女性が立っていた
 その女性が誰かという事も理解していた
 そして、何故此処に居るのかが分からない……でも、何となく分かった
 元々居たのだ……そして、気になったから呼んだのだ
 私の行動は、この人と似ているのだろう

「初めましてかな?」
「そうですね……初めまして」

 似ている顔で、同じ様に言う私とこの人

「仁村知佳です……姉の真雪が迷惑をおかけして申し訳在りません」
「いえ、そんなこと無いですよ……大丈夫ですから」

 それでも、この人を前にしていると、逃げたくなる
 いや、逃げたい……心の底から、そう思う
 コピーはオリジナルに遠く及ばない……でも、コピーが全て負けるというのも可笑しい話
 模造品だからこそ、勝とうと言う思いがあるのかもしれない

「滝川蛍です……私も迷惑をおかけしたので」
「そんなことないよ」

 私より、遙に強い女性……そして、私のオリジナル
 その人が今目の前に居る

「私に似てる人が居るって聞いてね……悪いけど、聞いちゃったよ」
「そうですか」
「どこかに行っちゃうんだ?」
「はい、此処に居ては迷惑になりますから」
「そう?」
「はい」
「似てるよ、あなたは」
「似てる? 私が、誰に?」
「昔の私に……」

 そんな事無いといおうと思ったけど、辞めた
 言った所で、何かが変わるという事でもない
 過去は変更をする事が出来ない事だから

「蛍さんは、何で逃げようと思ったの?」
「私なんかを好きになったら駄目なんですよ……それに、ある人に疑われてるから
 怖いから、私は、逃げたいんです……」
「そっか……反対はしないし、そういう選択肢があるというのも分かるけど」

 後ろ数十メートルだ……気配がある
 しかも、確りと消された気配……後ろを振り返っても誰も居ないだろう
 それがどう言う事かも理解してる

「貴女が思うほど、周りは納得してないみたいだね」
「仁村知佳を人質にとってでも逃げれるのですよ」
「そうだね……能力を使っていけば、お互い疲弊しながらも逃げ切れることは出来るでしょうね」

 ぴんっという音が鳴り、私はすぐさま、後ろに飛ぶ
 それは、合図というよりも、飛ばされたものを避けただけ
 鋼糸があった……目を細めて光りが糸状になる

「ちっ、外したか」

 左右両方から、恭也と士郎
 前方、知佳さんの方向には、美由希さんが油断なく武器を構えて立っている
 後ろには美沙斗さん……その周りには……
 仁村真雪、リスティ・槙原、槙原耕介、神咲薫が武装して居る
 といっても、普段どおりのリスティさんだろうけど

「これだけを相手に逃げられると思うか?」
「逃げ切るくらいはね……舐めないでよね、これでも、私はドールなんだから」

 自分の限界なんて知らない……そんなもの突破してみせる
 外気を自らに取り込み、羽を展開する
 白き翼……私の力の象徴
 真雪さんたちは驚いてる……そんなことも分かるから、HGSの翼は展開したくない
 軽くジャンプして、大丈夫と確認……まず狙うは……
 高町美由希……思考はシャープになり、戦いを想定したものへとなる
 美沙斗さんや士郎から正面から闘うのは危険だ
 だから……

「奥義之参 射抜」

 それを待っていた……突進系の奥義
 だからこそ、更にインサイドに入られた瞬間が相手へと攻撃を与えるチャンス
 幾度と見せてもらったから……

「かはっ」

 予想を越えた速度で来るなら、自らにダメージが還ったとき、どうなるか
 それが結果だ……美由希さん、ごめんね

「ごめんね、逃げるためには一対一で相手をして、倒さないといけないの」
「くふっ」
「空気は全て吐き出してね……そしたら、少しは気楽になるから」

 そのままお腹を抑えて倒れる美由希さん
 そして、更にその後ろから来る美沙斗さん
 同じ技……でも、技の切れは此方の方が遙に上
 どれだけ使ってるか、それだけでどれだけの敵を屠ってきたか分かる攻撃

「美沙斗さん、ごめんね……」

 神速という状態なら、動けないというのは動けない
 それでも、相手を攻撃することくらいなら、出来る
 それは、理論が確立するなら、その理論を超えた動きを出来たら相手を倒せるということ

「なっ」

 三方向からの奥義……薙旋と射抜
 その全てをバリアで弾き返した……そして、自らの力を使う
 バリアを解除して、地面に足をつけ、そして、美沙斗さんの泳いだ体へと一撃
 足を踏み、更に踏み込んだ状態での、インサイド攻撃
 足は砕かれてないだろう、靴を踏んだだけにすぎないから

「かはっ」

 小さく声がもれるが、これで二人目
 目を閉じて、気配を探る
 美沙斗さんは先ほどの一撃で気を失っているようだ……水月への肘は流石に意識を奪えたのだろう
 妙だ……士郎くんの攻撃が少ない?
 最初から突っ込み型の士郎くんなのに?
 いや、これこそが罠!?

「せぇぇぇぇぇぇぇぃ」

 恭也の裂帛の声……その構えは、前の時と同じ
 マジ!!!
 バリアすらも突破する、攻撃
 そして、感覚は着いていくものの、避けれないだろう攻撃

「閃・瞬」

 ……目を閉じて、私はバリアを展開
 前より弱いバリアを、二つ目で砕け散った……でも、そこからの攻撃は単調だ
 あれだけのスピードで動くのだから、まっすぐが限界
 他の事までしようものなら、限界を超えて、倒れる
 恭也の攻撃を全て、避けきった……足を動かしてどうにか恭也の頭へと攻撃を当てる
 一種の脳震盪を気で起こした
 頭に触れるだけで倒れたように感じただろう

「蛍が命は奪わないだろうということを使わせてもらうぜ」

 士郎くんの言葉は、洒落にならないほどの物があった
 鋼糸と飛針による全方位攻撃
 そして、自らも飛び込める位置に居る
 斬られる鋼糸
 そして、飛んでくる物……これが狙いじゃあ無いはず
 最小限の動きで避ける……だって、羽の力は少し後の方が良いに決っている

「せいっ」
「つっ!!」

 絶妙の飛び込みと攻撃……でも、一撃を避け切れれば
 士郎くんのお腹へと一撃、そして足払いをかけて、更に一撃

「ラスト」

 それで終わりだ……これで、大丈夫なはず

「蛍さん、ごめんね」

 サンダーとバリア解除能力……体に電撃が走って、私は自らの失態を悔やむ
 居たんだよな……リスティ・槙原と仁村知佳というHGSが

「くあっ」

 声があがる……でも、これでは……

「知佳、羽をしまっ!」

 お互いの逆流……同じ力だからこそ、あるかもしれない現実
 それが、今、なってしまっていた……私が龍で受けていた事が相手に
 そして、私が仁村知佳の過去を……頭にたたきつけられてる
 槙原耕介に振られた事やらも

「どうした?」

 そんな声がもれる中、私は、涙を流した
 さすが、同じ遺伝子の持ち主……成長過程も似てると来たものだ
 仁村知佳さんは涙を流し、私は……電撃のショックで目が暗転しそうなのを抑えていた
 羽根はしまった……でも、私は倒れていた
 負けたとかじゃなく、相手の方が上手だった
 御神の剣士は全て倒したのに詰めが甘かった
 もう逃げれない









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