『満月の微笑み4』















 翠屋での騒動は、フィアッセさんとティオレさんの効果だ
 世界の歌姫が2人、しかも、一般の店内に居るのは確かに不思議な光景だそうで
 外の人たちにはプライベートで、此処に昔、美味しいお菓子を作るパティシエが居るからって事で
 それで来たという事で話を通した……過去を知ってる人ならわかることだけど
 とりあえず、追い払う事が必要だから……
 それでも、護衛のエリスさんも居るし、美沙斗さんも居るし
 恭也と士郎の2人も居たら、大丈夫だろう……多少の事があっても

「さて、話も大まかに決ったし、営業を再開しますか」
「桃子はこの状態でも、開けるというのだから、肝据わってるわ」
「まぁね……それに、シューが余っちゃうでしょ」
「そうですね」

 そう言って、ワゴンセールにでもするのか、シューを取り出してくる
 毎日のことだからこそ体が動いて確りと取れてるのかもしれない
 海外で作られたシュークリームは日々進化し、いまや海鳴の名物になるだろう

「手伝いますね、桃子さん」
「あ〜!! 蛍ちゃん、その呼び方はいただけ無いわ」

 ?? 意味が分からない

「『お義母さん』もしくは『お母さん』って呼んでくれないと」

 無茶苦茶真剣な目をして言う桃子さん
 もしかして、それだけのために動くのとめた?

「でも、桃子さん、お若いし」
「ありがと、でも、これとそれとは話が別よ」

 駄目ですか……本当に困ったな
 気恥ずかしいし……

「その、えっと、お母さん、手伝ったら駄目?」

 指を絡ませて、俯いて言う……抱きしめられて、撫でられた

「きゃ〜〜〜、可愛い〜〜〜〜」

 壊れた?

「ちょ、桃子、遊んでないで、仕事」
「すみません、母が」
「まったく」

 恭也と士郎が手伝っていく……ううっ、私はこのまま
 顔が熱いし、真っ赤だろう

「恭也さん、フィアッセを連れ帰るから」
「うぃ、頼むわ……エリスが居たら大丈夫だろう」
「本当は恭也にも着いてきてもらいたいくらいだよ」
「悪いな」
「……むぅ」

 エリスさんが私をチラリと見て……

「奥さん大事にしないとな」
「蛍が言ってただろう、結婚してないって」
「でも、するつもりだろう」
「まぁ、俺はそのつもりで抱いたしな」

 そのつもりでも何でも、心構えなく、しかも初めてが2人だなんて、いや過ぎる
 というよりも、大切な想い出が2人により、形作られたことになるわけだし
 しかも、妊娠までさせられて……

「ほら、フィアッセ、帰るよ」
「ママも、連れて帰らないと……イリヤが探してたし、パパも心配してるし」
「あら、アルは良いぞって言ってくれてるわよ……ちゃんと一日一度はコールとメールはしてるもの
 それに、一日中、何もしてないのも悪いけど、病院行ったり、色々とね
 エリスが居るし、恭也たちも付き合ってくれてるから」

 恭也の場合は、地獄のマッサージだった気がする
 桃子さんに抱きしめられた私は痛いこと痛いこと

「エリス〜、私もしばらく残りたいよ〜」
「イリヤさんが切れるぞ」

 本人居るんだから、そういうのは言わない方が

「とりあえず、怒りたいことは多々ありますが、ティオレさんが此方に居たいなら、居させた方が良いでしょう
 それに、エリスさん自らが此方に居るので、いいのですけど
 校長が此処に残るのは賛成できません……本人として自覚をして頂きたいくらいです」
「え〜〜〜」
「それに、仕事の一貫として此処に居るわけじゃないので、流石に問題です
 周りから注目が大きいので、対応が取りにくいですし」
「お願いだよ〜」
「駄目です」
「お願い」
「駄目」

 フィアッセさんとイリヤさんのやり取りが続く

「確かに、恭也と一緒にいたいのは分からないでも無いですが
 こうなってしまってからは、すでに難しいことです……それに、CSSの生徒たちが待ってるのですよ」
「大丈夫、コレクトコールで、『校長は皆を置いて、愛に走るわ』って言ったから」
「んなことするな!!」

 あ、イリヤさんが怒った
 まぁ、普通怒るだろうけど

「は〜〜〜、とりあえず、私だけでも帰ります……仕事溜まっていたら送りますから」
「郵送だと大変だよ」
「大丈夫です、速達したり、ゆうひやアイリーンを使いますから」

 世界回ってる人を、使うっていうのも、CSS流なのかな?
 卒業生だったと思うけど……引き受けるあたり、皆手馴れてるということなのだろう

「分かったよ……こっちならママも居るし」
「あまり頼らないでよね」
「分かってるよ」
「イリヤお願いね」
「はい」

 そして、イリヤさんが外に出て歩いていく
 どうやって帰るつもりだろうか?

「とりあえず、俺たちも行こうか」
「そうですね、耕介さん」

 バカップルが居る……腕に腕を絡ませて、デートということなんだろうけど
 この人らは結婚して何年になるんだか?
 まぁ、詳しくはわからないし、放置しておこう
 外に出ていって、歩いていったし
 知佳さんと真雪さんが残っているし、まぁ、なんだかんだで楽しんでるのだろう

「それで、蛍はどうするの?」
「このままだと、暴走しぱなっしになりそうなので、帰ります」

 桃子さんの事だ……呼ぶたびに暴走されたら溜まったものじゃない
 士郎もそれに頷いて応えてくれて、松尾さんも同じ様に頷いてる

「恭也くんが連れて帰りなさい……士郎くんには悪いけど
 美由希さん、忍さん、ノエルさん、手伝ってください」

 そういって、それぞれに準備を始める……桃子さんから離れられてホッと一息
 いや、だって、恥かしいんだもん……それに、『お母さん』と呼んだ人は小さな頃以外なかったことだし
 だからこその気恥ずかしさというか、何と言うか……

「ほら、桃子」
「う〜」

 うめきながらも、仕事へと戻る桃子さん
 やっぱり、まだ『お母さん』と自然に出るようなことではないみたいだ

「蛍、帰ろう」

 手を差し出して言う、恭也

「そうだね」

 手をとる……立ち上がって、歩こうとすると

「私たちも行くぞ」
「うん」

 そう言って着いてくる人たち

「レンちゃん、晶ちゃんも手伝ってね」
「だってよ、亀」
「だってさ、サル」

 お互い喧嘩調子でも、確りとお手伝いはするだろう
 しかし、こうなってくると私も女の人だったんだなぁと実感……なのはちゃんは、今どう思うのだろう?
 叔母さんって事になるのかな?
 いや、まぁ、あまり嬉しくは無いだろうな

「そういえば、美由希」
「何?」

 恭也がにやりと笑い

「叔母さんおめでとう」

 ガクリと崩れ落ちた美由希さん
 ……そう言う事だという事に今気づいたのだ
 確かに、叔母さんだけど

「恭也、いくらなんでも可愛そうだよ」
「ふっ、俺をお爺ちゃんなどというからだ」

 そんな事よりも、ダメージ大きすぎて立ち直るの時間かかりそう
 いや、でもその笑顔は反則だと思うよ……近くまで来ていたお客さんたちが真っ赤になってるし

「恭ちゃんのロリコン!!」

 あ、反撃

「美由希がおばさんか……これはこれで感慨深いものがあるな」
「おばさんおばさん連呼しないでよ!!」
「美由希おばさん、頑張れよ」
「なのはだって同じじゃん」

 あ、頑張って考えて言ってる

「なのはちゃんには、なのはおばちゃんなんて呼ばせたら、私が子供を怒るよ」
「蛍さん、何で?」
「いや、だって、なのはちゃん若いのに、叔母さんなんて呼ばれたらショックで寝込むだろうし
 それだったら、なのはお姉ちゃんって呼ばれた方が良いでしょう」
「私は良いの?」

 縋りつくように言う美由希さん

「いや、その、美由希さんって、やっぱり年相応に見えないというか……
 落ち着いてるとかじゃなくて、雰囲気というか、見た目っていうか」
「何、この際だからはっきり言って」
「おばさんっぽい」

 崩れ落ちて、両手両膝ついて、それはもう落ち込んでいる
 多分、今は泣き顔であるだろう……私のせいじゃないけど

「蛍、それは言いすぎだよ、幾ら本当のことだからって」

 あ、フィアッセさん、それは……

「フィアッセまで」
「ち、違うのよ、美由希……い、今のは、そう、幻聴だよきっと」

 それの方が危ない気がする……それに、自分で言って幻聴って

「恭也も笑ってないで、自分の妹でしょう」
「だが、弟子でもあるし、師匠は弟子を叩き落すくらいでないとやれないしな」
「ううっ、私がおばさんって事に関しての否定が誰も言ってくれない」

 というか、お手伝いも居ないし……
 私はのんびりと、周りを見ると、此方を見ないようにしている人たち
 巻き込まれたくないんだろうなぁ……桃子さんも仕事に戻ってるし

「恭也」
「ん?」

 此方を振り返った恭也の手を確りと握り締めて

「帰ろう……」
「あ、ああ」

 恭也の頬が少し赤くなって、此方を見ないで、歩き始める

「照れたな」
「あれは、確実に惚れ直したね」

 後ろから、真雪さんと知佳さんの声が聞えた
 何のことやら……周りはどよめきと驚きか何かで声が出ないようだ
 何が起きたのやら?
 恭也は優しいから、私の歩きにあわせてくれる
 それは、たまに一緒に歩いてる時とかに良く分かる
 私の歩幅は小さい……それでも、闘う時には、一歩が数メートル伸びる
 それこそ、踏み込みの速さで私は決めていたのだ
 一撃こそ重くないからこそ、相手を屠るには関節しかないと

「蛍」
「はい?」
「あまり、笑顔振り撒いたら、恭也くんと士郎くんが苦労するからしたら駄目だよ」
「……? 意味が分かりませんけど、分かりました」

 そう言ってもやっぱり分からないものだ
 なんせ、いきなり言われてもなぁ……私って笑顔を浮かべたのか?

「さっきね、すっごい綺麗な笑顔だったよ……本当に」
「え、笑顔浮かべてたの?」
「うん」
「気づいてないのは本人だけか……もしも、蛍さんが翠屋手伝い始めたら
 男たちが群がるだろうな」

 美由希さんや忍さんたちだけでも、十分な気がするのだけど
 まぁ、それを言ったところで如何しようも無いのだろうけど

「美由希さんの事、やっぱり妹となるのかなぁ……私、年下なんだけど
 小姑さんが年上……でも、妹……う〜〜〜」

 考えさせられるな……私はまだ10代の乙女(じゃないな)のつもりなんだけど
 いやはや、世の中どうなるかわからない……表の世界に憧れて出てみれば
 裏と表を行き来する男たちとこんな仲になるなんて
 私には出来ない事が多々あるから如何しようもないけど

「蛍さん」
「はい?」
「さっき言い忘れてたけど」
「はい」
「知佳の姉としていえるよ……そして、蛍の姉としても
 おめでとう……恭也や士郎だったら、幾度か会ってるから保証してやるよ、任せられると思う」
「真雪さん……私、真雪さんの妹じゃあ」
「いや、妹だよ……知佳が妹って言ってるしな」
「てへっ……写真持って、会社でも有名なんだよ〜♪」

 楽しげに言う知佳さん……勝手に妹って事らしい
 まぁ、遺伝子的には年の離れた双子なんだから、そう言う事だろう
 似てない部分も多々あるけど……

「また、会社で話すことが出来てきたね……頑張ろうっと」
「頑張らないで下さいよ……それに、私」

 暗殺者だったから……命狙われますって
 でも、最近、龍の動きを色々と以前の知り合いから探ってもらってるけど……微妙だそうだ
 なんせ、即戦力が減ったから……看板じゃないけど、私と士郎くんが居なくなった穴が大きい
 そう言う事らしい……しかも、裏から操ろうにも、今では裏切りもあってか難しいらしい
 情報は確かだろうし、龍の情報は逐一美沙斗さんにも届いてるだろう

「大丈夫だよ……そう思って生きていくんだから」
「知佳さん」

 それは本当に前向きな意見……そして、明るい未来を信じてるということ
 もし崩れそうでも、それさえも支えて見せるという自信
 羨ましい限りだ……でも、知佳さんにも闇があり、そして、光があった
 思いがあったからこそ、此処に立っていられる……命を守りたい
 災害救助の仕事だったら、護れる命があって、自分の力を有効利用できるって……
 本当に羨ましいほどの明るさと前向きさだと思う

「それで、蛍さんは、自分が何に向いてるかとか仕事考えてるの?」
「それを考えてるときに襲われて、結果これですからね……しばらくは子育てに励もうかと」
「あらら」
「亭主元気で、妻はぐぅたらが良いって、何かで言ってましたから」
「なるほどね……恭也たちが働いてるならって事かい?」
「いえ、単に少し甘えさせてもらおうって……知佳さんや真雪さんなら、可愛がってくれそうだし
 その、非番とか暇があれば、来てほしいなってくらいですよ……本当に何も考えられませんし」
「そっか……1人で考えたいとか?」
「そんな所です」

 ……そんな所……でも、恭也と士郎から話を聞きたい
 出来るだけ心を読むのはしたくないから……2人にとっても嫌なことだろうから
 だからこそ、私は出来るだけ、遠慮願いたいのだ

「ま、相談事もあるわな……男2人には言っておくべきこともあるんじゃないのか?」

 恭也がピクリと動いて、私を見る
 その目は、話があるって何って目だ……見ていて分かる事もある

「そうですね、あるにはありますけど、今は言えません
 やっぱり、2人だけに話したいことでもあるので」
「そっか」

 そう言う事もあるって事で頷いてくれる
 分かってくれる人だからこそ、頷けること……知佳さんは少し納得いかないようだけど

「お姉ちゃん、妹に見捨てられたよ」
「いや、まぁ、ほら、愛とかもあったじゃないか……耕介が皆に優しいとかで
 その、嫉妬っていうか、ヤキモチっていうか」
「ああ」

 納得したようだ……まぁ、それはそれで良いのだし
 私自身も納得したいがために、2人と話したいのだ
 いや、今だからこそ確りと話したいという思いである

「恭也、今日の夜、士郎も誘うけど、ついてきて」
「ああ、それは構わないが、蛍から誘われるのは初めてだな」
「そうだっけ?」
「ああ……何時も葉っぱかけられて、俺や士郎が誘うくらいだからな……
 知佳さんやかあさん、ティオレさんにだが」

 ……なるほど〜、そう言う事があったんだ

「だから、デートがプログラムのように、確りしてたんだね」
「それって、俺や士郎だと確り出来ないみたいじゃないか」
「そのまんまの意味だよ」

 深くは考えないで、感じろってことじゃないけど
 だってね〜、クリスマスはロマンチックに決めたいっていう、士郎がホテル最上階のバーとか
 恭也がお正月にカウントダウンしながら、お参りも良いんじゃないかって、そのまま
 雪の中手を繋いであるいて、お賽銭投げたりとか……士郎や恭也じゃあ、絶対思いつかないことだもんね〜
 士郎は激情型だけど、考えが薄いし、恭也は冷静な方なのに、こう考えが深いけど、薄いみたいな感じだし

「確かに、恭也くんや士郎くんが、デート考えてリードするってのは、すっごく難しい気がする」
「そうだな……しかも、鬼門だと思ってる、寮にも来る位だし」
「そうそう、お土産もって」

 何ていうか、分かり易い構図だ……デートを誘う前の日とかに、何処かに消えたと思ったら
 どっちもどっちで、さざなみ寮や翠屋へと行っていたって事だろう
 分かり易いというか、何と言うか

「そんな事言わないで下さいよ」
「だってね〜」
「なぁ」

 2人とも、そんな落ち着いて言うから、恭也は半分頭を抱えてる
 相談する人が違うのだから悪いんじゃないかな……私の責任だけじゃないでしょうけど
 さてと、家に着いたし、私は部屋に戻ろうっと……お客さんの相手は任せて
 のんびりしたいし……久遠さんいるなら、一緒に遊ぼうっと








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