『月は笑顔を浮かべる2』











 私は今日、病院に居る……海鳴大学病院
 婦人科というよりは、HGS対策みたいな部屋で出産って事になる
 何かしらあったときの手段だそうだ……HGSの子はHGSの可能性があるって事の対応だ
 絶対でもないし、元々HGS事態が症例が少ないので手はあるだろう

「生まれた子が元気で育ちますようにって所かな」
「意外と謙虚ね」
「お母さんになるとか、全く考えてなかったし……生まれてくるとか考えてませんでしたから」
「……何かあるのかしら?」

 助産婦さんと少しだけ話す機会……ほとんど私の事は話されてない

「私がお母さんになれるのがちょっと不思議な気がして……これから母親として頑張って生きていかないとって」
「そうね……私もいくつか居たけど、自分が母親っていう自覚がない人も居るわ
 その点でいえば、あなたは確りと現状を見据えてる……若いけどね」
「そうですね……ありがとうございます
 ちょっと挫けそうでしたけど、頑張れる気がしてきました」
「こういうのも、私たちの役目なのよ」

 誕生の一瞬に、私は多分、力を使わないといけないかもしれない
 赤ん坊がHGSなら、間違いなく私の力が要る……相手の力の矛先を全て、私に向けるためだ
 呼吸を吸うかのように、子供はその力を周りへと使う
 どうなるかは分からないかのように……

「さ、頑張っていきましょうか」
「ええ」

 産気づいたのは、大分前から
 それでも、出たいという苦しみは私1人になる
 そのときに、誰か傍に居て欲しいものだ
 でも、平日の今日は、恭也も士郎も忙しい
 他の皆も学校があり、仕事がある
 一人で頑張らないとね……

「お待たせしました」
「ま、此処からは私たちの仕事……頑張らないとね」
「はい」

 お手伝いで数名……かといって、本当に数名だ
 全員で3人しか居ない……全て女性
 それを踏まえてのことだ

「大分、出てきそうなところまで来てるのよね
 逆子でもないし、切開の心配は無いわ……」
「どうも」

 切開とか言われるとちょっと驚いてしまう
 流石に、それはそれで嫌だなって思うのだ……
 歩いて乗ろうとするが、体が思うように動いてくれない

「よいしょっ」

 手伝ってもらって、乗る……

「もしかして、体重重いですか?」
「いいえ」
「全然……単なる掛け声よ……ある方が負担無く上げられるの」
「そ、そうですか……無茶苦茶重たいのかと思った」
「いえ、多分、普通の人より軽いかと
 身長とかもあわせてね」
「良かった……あまり迷惑になりそうだったら、ダイエットしないと」
「大変ね」
「いえ……太りすぎって言われたら、やっぱりショックですし
 私の場合は横太りするので」
「分かるわ……」
「そうね……女性としては特に」
「うんうん」

 女性としてのことだから……分娩台へと座るというか、落ちるというか、居るというか

「あの」

 ドアが小さく開いて声をかけられる

「どうしたの? もうすぐ生まれるところなのよ」
「いえ、それが、そこの方の旦那さんが入れて欲しいと」
「あら? 珍しいわね……普通来ないわよ」
「ただ、その人が……その、学生さんで」
「あらら〜、来て貰って良いけど、服とか殺菌の類全てしてね
 それに、彼女を励ましてもらわないとね」
「折角いらしたのですからね」
「恥かしいのですけど」
「まぁまぁ」
「じゃあ、私が連れてきます」
「ええ、お願い」

 そして、私は、汗が出てきた……というよりも、痛みだ
 つぅ……あの時より痛くは無いけど

「大丈夫?」
「あ、はい」
「呼吸覚えてるわね?」
「はい」
「じゃあ、ひぃひぃふぅ〜よ」
「はい」

 まぁ、産婦人科独特のお勉強である、赤ん坊を生むときの呼吸方法だ
 いや、まぁ、旦那にさせようとか色々な催しがされていて
 大学でも、避妊とか妊娠とかのメカニズムやら何やら色々とするのだ
 勉強でするって事は無いけど、さすが大学では進んでるのか、子供を抱いて講義に出てる人も居た
 知り合いの子らしく、とても周りが可愛がっていたが……
 呼吸を繰り返してると、恭也が来ていた
 手を握ってくれた……汗ばんでる手の汗が引いた

「きょうや」
「ん、すまんな……約束だったからな
 ノートだけは取って来い……もし、取らなくてここまで来たら怒るって」
「うん」

 恭也は私に微笑んでくれる

「お前のこと話したら、教授がな、行かないと単位やらんって言われてな
 ノートがって言ったら、景さんがな……」
「そう……皆に感謝だね」
「ああ」

 言葉を発しながらも呼吸を幾度かする

「力んで!」
「んっ」

 痛いです……恭也の手を痛いほど握り締めてるだろう
 私は、目から涙が流れてる
 海がめの産卵……あの時もこんな感じで痛いのかもしれない
 痛みとかが伴う

「つあっ」

 痛いというか、裂けるというか
 私のお腹に本当に子供がいるかどうか不安になる

「不安にならないで……あなたなら大丈夫よ」

 1つ1つの言葉が私を助けてくれる

「あなたも、お父さんになるなら、一言かけてやりなさい!」

 激が飛ぶ……恭也はおののきながらも、私に優しく微笑みかける

「蛍、頑張ってくれ……お前は綺麗な未来を望んだんだろう
 俺だって望んでるし、お前とこれからを歩むんだ
 この子も連れて……だから、頑張ろうって言ったんだろう?」

 呼吸をし、目から涙が流れ落ちた
 恭也がさっと手で拭いてくれる

「大丈夫だ、俺も傍に居る……な」

 私がぐっと手を握ると、恭也は優しく私の頭を撫でる

「頼りないかもしれないけど、蛍の近くには居るから」

 それだけで、心が楽になる
 子供を生むなんて事分からない事だらけで、混乱する
 それでも、何とかなるものもある

「うっあっ」

 恭也の腕にしがみつく
 多分恭也の腕には新たな傷がついてるだろう
 私がつけてしまった爪の跡

「もう少し」
「残り1度で良いわ」
「頑張って」

 んっ……力を込める
 恭也は片腕を私に抱かせて頭を撫でる
 涙がこぼれたら、拭いてくれる
 周りの人は、私の身の回りをしてくれてる

「ふぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」

 泣き声が響き渡る

「元気な男の子出産ね」

 HGSじゃない……ほっと一安心する
 HGSの能力は、正直押さえ込めるというのは、骨が折れる
 それに、今の体力では、私も羽の力を使うしかないのだから

「おめでとう」
「お疲れ様」

 そう言って、タオルがかけられて、しわくちゃの泣いてる赤ん坊を見る
 私自身も汗だくで、恭也にしがみついてて
 恭也が驚いて私を見ている

「ずっと不安そうにしてたわ」
「貴方に心配かけまいと、凄く頑張ってたのね……
 駄目よ、気づいてあげないと」
「はい、そうですね……本当に痛感してます
 蛍、ごめんな」
「良いの、来てくれたの嬉しかったから」
「あらあら」
「赤ん坊抱きますか?」
「はい」
「ええ」

 見せられる赤ん坊……まさか、自分がお母さんになるなんて考えなかった
 でも、これが現実だし、事実……あの時から約10ヶ月

「ふぇぇぇ〜〜〜ん」
「元気ね」
「そのうち泣きやむわ」

 タオルで包まれた子は元気で、私はほっと一息
 カメラで一枚撮ってもらい、恭也も一緒に写る

「これから、2人はお父さんとお母さんになるの
 頑張ってね」
「そうね、これからだよ……頑張りなさいね」
「頑張って……私たちからはそれくらいしか言えないけどね」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございました……その、急に来たのに入れていただいて」
「いいのよ」

 恭也は最初入れてもらえないのだろうかって思ったんだろう
 出産に立ち会えないかもしれない……それでも、中に入りたいし、見たかったのだろう
 赤ん坊は泣きやみ、眠りに落ちた
 そして、私とその子をベットに寝かせ、私はそのまま運び出される
 恭也も一緒にだ

「元気な男の子ですよ」
「良かった」
「おめでとう、蛍さん」
「蛍、おめでとう」
「おめでとう」

 そこには、知っている人たちが全員居てくれた
 ティオレさんも桃子さんも美沙斗さんも、皆が来てくれたのだ
 驚いたのは、フィアッセさんたちCSSの人たちが幾人か居ることだ

「ありがと」

 お礼しか言えそうにない
 流石に学生で中学高校生は無理だったみたいだけど、それでもこれだけ着てくれたのが嬉しい

「でも、恭也が居ないって聞いた時には流石に驚いたわ」
「全くだぜ……しかも、本人が取らないと怒るって言われて律儀に護ってるし」
「いや、あれは、その、怒られたくないし、蛍がノート無いと危ないよって」
「試験の話だろうが……誰かに見せてもらえば良いだろうが」
「それが中々居ないから悩んでたんだ
 ほとんど、蛍のノートを借りてたし」

 私を頼ってるあたり、駄目な気がするよ、恭也

「あの、部屋に移しますし、そこで」
「はい、ごめんね」
「いえ……」

 看護師さんに謝って、そのまま移動し、部屋へと移動する
 HGS対策の部屋……特別病棟内まで運ばれる
 動くのはしばらく無理だな……疲れてるというより、体力をごっそり持っていかれてる

「元気な産声だったわよ」
「どうも」
「で、お疲れね」
「まぁ」
「ティオレさん、赤ん坊が生まれる時って結構疲れますよ
 私も美由希の時、すっごく疲れましたし」
「あ、私もなのはの時同じだったわ」

 お母さん方の会話は、あの時は辛かったとか色々だが、要約するとやっぱり頑張ってって事になる
 そして、皆が恭也と私との間の子を見る
 それは、嬉しいような寂しいようなという所だろう

「そういえば、かあさん俺まで良いのか? その、翠屋に就職で」
「良いわよ……それに、美由希たちの進路相談もほとんど聞いてるし
 蛍さんのほうが問題でしょう」
「ええ、まぁ」

 情報提供しながら、お金は稼いでるけど、それだけじゃあ駄目だろう
 翠屋で働くのは、少し引けるし

「ま、蛍さんには、頑張って翠屋に居てって事は無いわ
 家で子育て頑張らないといけないもの」
「そうなんですか?」
「そうよ……」
「そ、そうですか」

 あまり、記憶にないし、誰か手助け欲しいのですけど
 恭也は知ってるのか、軽く私を見て

「かあさん、俺、しばらくは、蛍と一緒に居るから」
「まぁ、バイトの方は士郎くんが頑張るわよね」
「ああ、そのつもりだけど……それにしても、蛍大丈夫か?」
「うん、ありがと、士郎」
「いやいや」

 そう言って、士郎は応える
 多分、長い間の入院は無いだろう……

「失礼するよ……蛍さんの事だけど、1週後には退院できるから」
「はい」

 ま、丁度、そのときまで子供を見てますよって事だ
 色々とあって、検査もあるだろうからだ

「それと、寝泊りは自由だけど、その、襲ったりしたら駄目だよ
 蛍さんはお疲れだろうし、それに、子供生まれたばかりで不安定だろうからね」
「矢沢先生、流石にそんな事しませんって」
「そうだと良いけど……前いたからね
 ま、そんなバカップルにはならないようにって事だ」

 そういって、軽く笑いながら出て行く
 周りもそれを見て、苦笑い

「さてと、合計10時間ね」
「どうも、すみません」
「朝起きたら、苦しそうな声が聞えて見たら、蛍ちゃん、お腹抑えてるから」
「まさか、あんな時間に陣痛が始るとは思いませんでしたし」

 10月入る前、9月28日……大学の後期が始ったばかりに、私は陣痛で休講
 しかも、しばらく休むという事態……教科書とか如何しようかな
 恭也から借りてもいいけど、それはそれで駄目な気が……

「それでも、良いじゃない……4時だし、無理してでも来れたわ」
「大丈夫なんですか? お店?」
「そうね……そろそろ戻るわ、士郎くん、美由希、忍さん、皆手伝って」

 多分、これからが大変なんだろう

「じゃあ、私たちも行くわ……私も部屋に戻らないと」

 体の悪化……ティオレさんは子供を抱きしめて言う
 力が入らないから持ち上がらないと小さく呟いてた
 恭也と私が残される

「形は悪いけど、恭也、私は貴方の傍に居る……」
「ん、ああ……俺も傍に居るぞ……士郎のことを気にしてるのか?」
「まぁね」
「気にしないでとは言えないが……2人で蛍を受け止める
 俺たち片方だけで受け止めきれるような器じゃない気がしたからな……
 蛍は、俺と士郎とで愛せばって」
「前、私を襲ったときに?」
「ああ、その前にな……話し合っていて、そうだよなって、2人で納得していた」

 そっか……それは、また

「それに、そうでなかったら、2人で襲うってのも考えなかったよ」
「だよね……あのね、あまり早々言う事じゃないけど
 ありがとう」
「ん」

 恭也はそっと私の頭を撫でる
 私はそのままされるがままだ

「恭也さん、蛍さん、すっごく雰囲気がいいところお邪魔します」
「えっと、フィリス先生どうしました?」
「最初から居ました……あまりにもいい雰囲気なので、声をかけ忘れて、言葉を失っていただけです
 此処で寝泊りする時は、そこのベットを使ってくださいね
 一緒のベットで寝てたら、他の独身女性の敵ですから」

 私?

「では、それと恭也くんも寝るようにね」
「ええ、まぁ」

 赤ん坊と私と恭也で今日は居て良いって事だろう
 ま、嬉しいことだけど……

「それじゃあ……それと、本当に襲ったら声がもれるので駄目ですよ」
「しないですから」

 そう言って、恭也はため息をついてる
 突っ込み役は大変だな

「蛍、大丈夫か?」
「うん……ごめんね、たくさん迷惑かけて
 士郎にも謝らないと……レンさんや晶さんにも」

 つわりの際、かなり迷惑かけた
 実際、ごはんが駄目だったりと、毎日食えないものがあったりなかったり
 昨日食べれたものが今日だめって具合で、それこそ毎日苦労のし通しだっただろう

「あれくらい、皆なんとも無いだろう……それに、分かっていた事だ
 かあさんの時もあってな……父さんと俺は結構苦労したもんさ
 美由希との兼ね合いもあってな」
「そうなんだ……」
「なのはやリンディさん、クロノくんもそろそろ来るだろ」
「だね」

 気配がして、ドアがノックされて入ってくる
 なのはちゃんとクロノくん、そして、リンディさんだ
 よく時間があったものだ
 忙しいと聞いてたのだけど

「蛍お姉ちゃん、えっと、おめでとう〜
 赤ちゃんは」
「此処よ」
「はわ〜、凄い小さいんだね」
「ま、後ほど保育器に移動よ」
「何で?」
「ほら、最初の一日だけでも一緒に居たらって奴ね」

 自覚云々のどうこうだったはずだ

「ほぇ〜」
「ま、そのためにってちょっと隔離されてるでしょ」
「うん」
「なのはちゃんたちが来てくれて嬉しいわ
 来れないかと思ってたし」
「そんな事ないよ……」
「そうですよ、それに、色々教えてもらいましたし」
「そんな事ないよ」
「でも、お兄ちゃんも大変だね」
「なのはの時の経験が役立てば良いがな」
「期待してるよ」
「そうだな」

 そういって、話を聞かせてくれる恭也
 なのはちゃんにとっては恥かしい限りだろう
 なのはちゃんとの格闘の日々
 なんせ、桃子さんは仕事の兼ね合いがあるし、美由希さんもいるからね

「なのは、そろそろ帰ろう……桃子さんたちも心配するかもしれないし」
「そうだな……今日は俺は帰らないから」
「一緒にいるの?」
「ま、今日くらいはな……それに、その俺が居たいから
 士郎も後で来るだろうし」
「士郎お兄ちゃん、凄く心配してたもんね、朝」
「ああ」

 それでも、行かないと言っていたのは、仕事があるからだ
 士郎も恭也も、そう言う意味では確りしているから安心できる
 言ったことはしようと努力するから

「クロノくん、なのはをちゃんと送り届けるように
 送り狼になったら、俺が許さん」
「勿論ですよ……なのはは大切な人ですから、早々手を出しませんって」

 此方の勉強をして、色々と学んでるクロノくん
 色々あるだろうけど、大丈夫そうだ……
 そして、2人に笑顔を見せる……私に今出来ているのだろうか、綺麗な笑顔が
 その夜、恭也と私が寝たのは夜遅くだった
 語り尽くせぬ思いと話……過去のことや未来の夢
 色々と話し続け、眠りに落ちた
 というか、私の体力が持たなくて、眠りに落ちてしまっていたのだ
 2人して同じ布団じゃなく、ベットで離れながら話していた
 赤ん坊が泣けば、ちゃんとご飯をだし、そして、また眠る
 この子は、どちらの道を選ぶだろうか? 御神を使える剣士になるか、普通の生活を望むか
 恭也はどちらでも歩める子に育てようって言ってた
 私も賛成だ……強い子に育って欲しい









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