次の作戦を話し終えてからガルムさんの様子を窺う。

腕組みをして椅子に座るガルムさんは、思案するような素振りを見せながら私から視線を外さない。

 

提案するのは自分の役目。作戦を吟味して不明な点を指摘するのがガルムさん。

それが二人の間の暗黙の了解。

本当ならガルムさん一人で回収作業を行ったほうが断然早い。けれども、それだと私にとって意味がなくなるから二人で回収する。

 

私が今回提案したのは海中に落下したジュエルシードをまとめて回収する方法。

一定の魔力を得ることで起動するジュエルシードの性質を利用して、私とアルフの二人で魔力流を発生させてぶつける。ジュエルシードが起動すれば海中を探す手間が省け、後は封印するだけ。

 

でも、この作戦は言葉にするのは簡単だがリスクが大きすぎるデメリットがある。

第一に広範囲に魔力流を発生させれば私とアルフの魔力をかなり消耗することになる。それから複数のジュエルシードを封印できるかは不明。もし、残った魔力で封印しきれなければジュエルシードの暴走を引き起こす可能性もある。

 

だから本当はこの手は使いたくない。

けれども、私たちに手段を選んでいる余裕はないから。

ガルムさんのおかげで管理局の目は欺けているけれど、それも何時までも保たない。お母さんの容態だって・・・・急変してしまうかもしれない。

 

私たちには、どうしようもないほどに時間が足りない。

 

 

「・・・・リスクは承知しているな?」

 

ガルムさんはおもむろに口を開いた。

 

「はい」

 

「・・・なら、俺はバインドでサポートしよう」

 

「ジュエルシードにですか?」

 

意外な発言に私は尋ねる。

ジュエルシードの出力は並大抵のものではない。

封印はできても、バインドは限りなく難しい。

 

「フェイトはできるだけ魔力の消耗を避けること。そうだな・・・7つまでならばバインドで拘束できる自信がある」

 

「・・・解かりました」

 

もう、驚くことはやめました。ガルムさんの魔導士としての実力の高さは。

 

私はまだ未熟だけど、お母さんやガルムさん、そしてカーマインさんの魔導士としての実力が桁違いなのは解かってしまう。理論的に凄い魔法や、魔法に関する深い知識だけじゃない。お母さんたちは、地力が違うんだ。同じ魔法を使ったとしてもお母さんたちの出力が圧倒的に上回る。

それは魔法の基本が物凄く高いレベルで調和していることの証明。

 

ガルムさんのバインドを作戦に採り入れてから、幾つか詳細を詰める。

ある程度形になったところで、準備するために立ち上がると後ろから声を掛けられました。

 

「フェイト」

 

「?――まだ、何かありましたか?」

 

口にして、そういう雰囲気ではないとわかりました。

 

「もし、管理局の女の子がもう一度話しかけてきたらどうするつもりだ?」

 

「それは――――」

 

一瞬迷ってから、迷いを振り切り答えようとして遮られます。

 

「フェイトが望むとおりにしたらいい・・・俺はそれを手伝うだけだ。だが、後悔だけはしない選択をするんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高町なのはという少女は比較的恵まれた家庭で育った。

生まれて間もない頃に父親が昏睡状態に陥るという不幸はあったし、血縁関係が複雑という面もあるが、そんなことを感じさせない家庭。子供にとって金銭や物質よりも大事な環境が整っていた。

 

反面、暖かい家庭であればあるほどその落差が際立つ。

士郎の看病や家計のために家族みんなが忙しく、まだまだ幼いなのはが寂しい思いをしたことに変わりはない。昨日はみんな居たのに、今日はずっと一人ぼっち。

 

一人がずっと続けば鈍感していくのに。中途半端な癒しだから辛い。癒しがあるからこれ以上を望んではいけないと心がストップを掛ける。利発な子供であるが故の苦悩。

我侭は言っても変わらない。みんなが悲しそうな顔をするだけ・・・でも、我侭を言わずに“良い子”と誉められるたびに、逆に傷ついた。そんな誉め言葉は要らないから一緒に居て欲しい。

 

同情は要らない。優しくしてくれなくてもいい。

―――せめて、自分の寂しさを解かって欲しい。

 

もしもこの時に悪人に誘われれば道を踏み外していた。

けれども、幸いに寂しさを解かってくれたのは兄の恭也だった。全ての寂しさを埋めてくれたわけではなかったが、それでもどれだけ嬉しかった。

 

幼稚園で絵を描いた。何故そのモチーフを選んだのか、描いたときにどんなことを考えたのか、描いている途中に友達と話をしたこと。

そんな他愛ない話でも誰かが聞いてくれるだけで嬉しい、楽しい。

その話を聞いてくれるのは恭也だった。学校から急いで帰ってきた恭也が夕食の支度をしながら、聞いてくれる。

 

友達と喧嘩して悲しいときに慰めてくれる。

悪いことをしたときにきちんと叱ってくれる。

嬉しいときに一緒になって喜び誉めてくれる。

頑張っているときにその頑張りを見ていてくれる。

 

当たり前のこと。

当たり前ということはそれが必要だからだ。

欠けてはいけない大切なものだからだ。

 

一人ぼっちのときにして欲しかったことをしてもらう。

それがどれだけ必要なことなのか、恭也に教えてもらった。

きっと、それは心に降る雨に差し出された傘。ただ渡された傘ではない。一緒に入って、傘からはみ出して濡れないように、互いの温もりが解かるように雨を避ける傘。

 

 

今度は自分が誰かに―――

 

 

 

ユーノがアルフを抑え、クロノがガルムに抑え込まれている間になのははフェイトへ向けて飛翔する。

 

 

近づくにつれてフェイトが肩で息をして辛そうなのが見える。

魔力流の発生で想像以上に消耗している。それでも、なのはの接近に気付くと[バルディッシュ]をしっかりと構える。

 

どんよりと嵐を呼びそうな黒雲が覆う空に黒と白の少女が向かい合う。

何も語らず、何の感慨もなく撃ち合わなくなっただけでも進歩しているのかもしれない。

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

それだけ。

他にはなく、ただ見つめ合う。

 

どれだけ時間が経っただろう。フェイトの後ろにはアルフが、なのはの後ろにはユーノが着く。

 

「フェイト・・・やるの?」

 

「待って・・・」

 

「うん」

 

アルフはガルムとのやり取りを見ていたから、フェイトの決断を待つ。

どんな決断であってもそれに従う。プレシアに束縛されるフェイトが、自分で下す決断を。

 

「なのは・・・」

 

「解かってる・・・もう、何を言うか決めてるから」

 

同じようにユーノからの囁きに答える。

恭也のようにできないかもしれないけど、自分なりに精一杯やると決めた想いを言ノ葉に乗せて。

 

 

「一緒にやろう?」

 

「ぇ?」

 

何を、と聞く前になのはは満面の笑顔で続ける。

混じり気のない純粋さで、無表情のガルムが時折見せてくれる笑みにフェイトは一瞬心を奪われる。

 

その間に桃色の魔力光がゆっくりとフェイトを包む。

 

「!?」

 

体が反射的に硬直するが、すぐにそれが魔力供給と分かる。

魔力、魔力光は魔導士を映す鏡。フェイトは自分を包む桃色の優しさと柔らかな暖かさに戸惑う。

 

戸惑いどう反応していいのか分からないフェイトに、なのはまた笑顔を向ける。

 

 

「私も手伝うから、一緒に封印しよう?

 

「なっ!?」

 

「!?」

 

フェイトとアルフは面食らうしかなかった。

敵である自分たちに「話がしたい」というのはまだ理解できる範疇だったが、今回はそれもできない。管理局側でありながら、一緒に封印するなど考えも及ばなかった。

 

どこまでも自分たちの想像と理解を超えていくなのはに、返す言葉が思いつかない。

 

それを不信と取ったのか、なのはは言葉を継ぐ。

 

 

「二人できっちり半分こだから!」

 

魔力流でジュエルシードを見つけたのはフェイトだから少し虫が良いかもしれないが、数の調整なんて野暮なことはしたくなかった。

 

「え・・・あ・・・」

 

「それじゃ、“せーの”の掛け声で封印だからね!」

 

一方的に捲くし立てるなのはは、困惑して意味のない言葉を出すフェイトを置いて上空へ上がってしまった。あまりの成り行きに慌ててユーノもついていく。

 

「何なの・・・あの子・・・」

 

「さ、さぁ・・・・」

 

思いきり脱力しているアルフに、フェイトも力なく答えるしかなかった。

 

「でも、どうする?」

 

「・・・・・・・・」

 

すぐに返事はできなかった。

なのはの笑顔に心を奪われ、共同戦線もいいかと思いはした。

けれども、そうするわけにはいかない理由もある。

 

フェイトのジュエルシードは6個。プレシアの欲する数にはまだ達していない。

共同戦線で封印に成功したとして9個。最低限の数は確保できるが、プレシアは喜ばないだろう。

それに陸上で見つからなくなっているということは、なのはの持っている数が9個ということ。これ以上の回収は望めない。だからこそ、フェイトも先手を打たれる前に危険な手段でも残り6個を回収できる手を選んだ。

 

今回の6個さえ全て確保できれば、12個になる。おそらくこれだけあれば足りるはず。

 

確実を期するなら共同戦線で封印に成功した後に不意打ちで倒し、独り占めする。

でも、その選択は心奪われるあの笑顔を裏切ることに他ならない。

 

(裏切りたくない・・・けれど・・・・)

 

[バルディッシュ]を握る手が震える。

歯痒い自分の立場に、前髪で隠れた瞳が揺れる。

 

流れる風、ざぁざぁという波の音も、纏わりつく湿った空気も、全てが煩わしいとさえ感じる。

 

 

―――〔sealing form set up

 

 

「―――バルディッシュ?」

 

突然、[バルディッシュ]が音声を発してシーリングモードに変形する。

インテリジェントデバイスである[バルディッシュ]は意思疎通もできるし、自律判断で変形もできる。だが、これまで一度も勝手に判断して変形したことなどなかった。

 

 

―――〔Not to be sorry; of you please keep on expecting it

 

 

「バル・・・ディッシュ・・・・?」

 

フェイトの真紅の瞳が大きく見開かれ、半身(バルディッシュ)を見る。

初めてのことだった。寡黙な[バルディッシュ]がここまで言葉を発したのは―――否、主を気に掛け、言葉を掛けたのは。今まで従うだけだった[バルディッシュ]が、対等な相棒として発した。

 

――フェイトの望むとおりにしたらいい

――後悔だけはしないように

 

奇しくも、それはガルムの言葉と重なる。

 

すっ、とバルディッシュを持つ右手が掲げられ、天を衝く。

 

 

「やるんだね、フェイト」

 

背後からの声に、フェイトは謝る。

 

「ごめんね、アルフ」

 

「いいよ、フェイトの決めたことなんだ」

 

あたしだけはどんなことがあってもフェイトの味方だから。

プレシアに背くとしても、フェイトが選んだことなら。

そう語りかけるアルフの若草色の瞳に後押しを受けて、フェイトは[バルディッシュ]のコアを見つめる。

 

「バルディッシュ」

 

Yes sir.

 

頭上に金色の魔法陣が展開される。

フェイトの魔力変換にただのエネルギーであるはずの魔力が電気の性質を帯び、周囲でパチパチと爆ぜる。大気の電位をも取り込み、自然界の電気が収束を始めた。エネルギーによる気圧差が生じ、ツインテールの髪が吹き上げられる。

 

[バルディッシュ]に黄金の羽が複数伸びる。

 

発動寸前で、上空を見上げる。

自分と同じく魔法の発動態勢に入ったなのはがいる。

 

頷いたように見えたなのはは、大きく息を吸い込んでからあらん限りの大声を張り上げる。

 

 

「せーの!」

 

 

フェイトの体は掛け声に素直に従った。

右手が振り下ろされ、凝縮されたていた電気が一気に放出される。

 

 

 

 

「【サンダーレイジ】」

 

「【ディバインバスター・フルパワー】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェイトの【サンダーレイジ】と、なのはの【ディバインバスター・フルパワー】に海上は閃光に包まれる。離れたところで戦闘をしていたクロノとガルムも容赦なく光を浴びる。

 

「くっ!?」

 

閃光に視界を奪われたクロノは、即座に目を閉じて探知魔法を発動。

一定以上に近づいた物質を感知できるように備える。

ガルムにはあのヘルムがある。おそらく閃光など物ともせずにくる。

 

同時に、封印に成功してしまった後のことを弾き出して『アースラ』と念話のチャンネルを繋ぐ。

 

(エイミィ、誰でもいいから寄越してくれ!)

 

悔しいが自分ではガルムを振り切ることもできない。

デバイスらしき剣を持ったガルムは、まるで反撃の隙を与えない。

なのはと金髪の女の子がどんな経緯で協力し合ったかは知らないが、ガルムを振り切れない以上は自分以外の誰かがあの二人の間に割って入り、ジュエルシードを確保するしかなくなる。

 

この際、戦力として期待できなくていい。とにかく確保できる人材なら誰だっていいのだ。

 

 

(解かってる!――今の艦長達がそっち向かうところだからもう少し持ち堪えて!)

 

(かあs・・・艦長が!?)

 

心強くもあるが、それ以上に驚きが勝る。

S+の魔導士であるリンディが出てくることは、まずあり得ない。提督職の人間が実戦に出てくることはあまりに非常識なものだから。

 

それだけリンディがこの事態を重要視して、一気にカタをつけるつもりなのかもしれない。

 

(解かった)

 

(頑張っ――ザザッ――ザザァッ―――――――)

 

(っ!?)

 

念話にノイズが混じると、後は意味を成さない音が流れるだけとなった。

魔法の一種である念話に自然界の影響でノイズが走り途絶することなどありえない。

 

 

「通信妨害魔法・・・・」

 

「正解だ。少し気付くのが遅かったようだが」

 

閃光が徐々に収まり、クロノの視覚が再び黒尽くめのガルムの姿を捉える。抜刀していた[CARIBURN]も納刀されていた。

緊張感は残しているが、明確な戦意は霧散してしまっている。

 

「何のつもりだ?」

 

「なに・・・決着がついただけだ。これ以上、こちらで余興を続ける意味もない」

 

「まだ終わっていない。余裕のつもりだろうが、僕はお前を見逃すほど甘くないぞ」

 

莫迦にするにもほどがある。

言うに事欠いて、決着。

こちらは管理局なのだ。犯罪者を捕まえるまでが戦いで、ジュエルシードの封印に左右されなどしない。

 

「ふっ・・・・」

 

そんなクロノの内心を見透かしてから、ガルムは小さく笑うような声を発する。

 

「念話の仕組みは知っているか?」

 

「―――何が言いたい?」

 

「なに・・・物足りないのでな。知っているならば構わんが、通常の電波通信のように念話でもチャンネルを設けて特定の相手と会話ができる」

 

「ああ、知ってるさ」

 

常識だ。魔導士の初歩の初歩と言っていい知識。

 

 

「ならば、この話は知っているか?―――かつてのベルカ騎士の中には念話のチャンネルから相手を探知して座標を割り出し、遠隔操作の砲撃魔法で殲滅していたという話を」

 

 

クロノは、背に悪寒が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「座標が来たな」

 

時の庭園の一室。プレシアの寝室で、カーマインは言った。

隣のクイーンサイズのベッドにはプレシアが上体を起こして、杖――自らのデバイスを握っていた。

 

「そう・・・なら、始めるわ」

 

――〔Yes mam

 

閉じていた目が開かれ、デバイスが答える。

魔力が引き出され、魔法陣が展開されようとした矢先にカーマインの手が伸びて柄を握る。

 

「―――やはり、俺がやったほうがいい」

 

生命力の減退。その状態での魔法の使用がどれほど過酷なものか経験しなければ解からない。

8000m級の高峰に居るような苦しさの中にいるプレシアにとって、地獄の責め苦にも匹敵する。

フェイトにも語ったようにグッドパスチャー症候群であることは確かだが、それ以上にプレシアは生命力が衰えている。簡単に病気に罹り、体を動かすことさえままならない。

 

病気そのものは治せる。しかし―――生命力の衰えだけは一時凌ぎしかしてやれない。

 

「いいの」

 

プレシアは首を横にする。

覗く顔は白を通り越して蒼褪めてさえいる。

 

「私は、いつまでも貴方や恭也に甘えているばかりではいられないから・・・・」

 

「甘えっ・・・・って、はぁっ・・・」

 

溜息を吐いて、カーマインは頭痛を抑えるように眉間に手を当てる。

そして、その手をプレシアの頭に乗せるとグリグリと強めに撫でて髪の毛をかき乱す。

 

「ちょっと―――もう、カーマイン!」

 

撫でる手を払いのけると、今度は顔を両手で挟まれた。とても優しく。

 

「変な意地を張る上に――――俺や恭也を真似て髪の毛も染める。俺たちにとって、お前はまだ子供のままだ。だから、甘えていい」

 

真摯に話しかけるカーマインの手を、プレシアは握る。その感触を確かめるように。

さらさらと精彩に欠ける中で艶を保つ髪の毛は紺色に染められていた。最近は染めていないせいで、大部分が地毛の金色を覗かせている。

 

「だったら・・・甘えさせて。ここで私がやる我侭を許して・・・・」

 

「・・・・・・・・無理は、するな・・・」

 

何も、それしか言えなかった。

これからすること自体が無茶と解かっていても。

何を考え、どんな思惑があるのか知っていても。

その結末が決してプレシアに幸福を齎さないと知っていても。

 

「ありがとう、カーマイン。私の我侭を許してくれて」

 

本当に嬉しそうに笑みを浮かべて、プレシアはデバイスをさっきのように突き出す。

 

カーマインは見ていられないという気持ちを抑えて、その姿をじっと見据える。

これが、自分達が犯した過ちなのだ。

 

 

 

「デイオス・パテール――――」

 

紫色の魔力光で構成された魔法陣が展開される。

それだけでプレシアを苦痛が苛む。

 

「誰にも邪魔をさせない。だから、消えてもらうわ―――管理局」

 

 

 

 

 

―――【サンダーレイジO.D.J.】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦長、準備完了しました」

 

「時間が惜しいので、すぐに出撃します」

 

リンディは転送ポートを作動させながら、嫌な予感を抑えられなかった。

事前に要請していた武装隊を用意でき、いざ出撃の段になって。

 

(エイミィ、母さん、逃げるんだっ!!!)

 

「クロノ!?」

 

余裕の欠片もない切羽詰った息子の声にリンディは驚いて名前を口に出す。

普段から艦長と徹底して公私の区別をつけるクロノが、“母さん”と呼んでいる。それだけ余裕のなさが伝わる。

 

何事なのかと聞こうとした直後――――

 

 

 

ドオォォン!!!

 

 

 

轟音と共にリンディ達は光の奔流に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん!?エイミィ!?―――くそっ!!」

 

通信妨害魔法が消えてすぐに警告を飛ばしたが、間に合ったか解からない。

いや、間に合わなかった公算が大きい。その証拠に念話には無機質なノイズが流れ続ける。

 

 

 

「ちっ!無茶をするなとあれほど言ったものを!!」

 

向かい合ったガルムは何故か空を見上げて大きく舌打ちする。

まるで、空から何かが落ちてくることを察知したかのように。

高速で足元に魔法陣が展開されると、文字通りガルムの姿は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の魔法で封印され、元の宝石に戻った6個のジュエルシードがゆっくりと浮上してくる。

なのはもそれに合わせるようにしてフェイトと同じ高さまで降りてくる。

 

伝えたいことは決まっている。

それをどんな風に伝えよう。

それをどんな言葉で伝えよう。

それをどんな想いで伝えよう。

 

―――諦めないこと。

脳裏に甦るのは美沙斗おねーさんの言葉。

 

言葉が拙くても、

頭が悪くても、

力が弱くても、

何よりもまず大事なのは意思だから。

 

独善的と解かっていても助ける意思を曲げない。そして、その人を大切に思うこと。

 

伝えたいことは、伝えなくちゃいけないことは何かさえ決まればいい。

恭也がしてくれたことはそこに兄妹という絆があったから―――いや、恭也ならきっと兄妹でなくとも手を差し伸べてくれた。そんなところが、大好きな兄だから。

 

雨が降っていて濡れるなら一緒に濡れよう。

傘があるなら一緒に入って雨を避けよう。

――それが恭也の教えてくれた、寂しかったときに一番嬉しいこと。

 

誰かと何かを分かち合うこと。

優しくされることは一過性だから。

同情されてもより惨めになって解決されない。

 

喜ばしい思い出も、怒った思い出も、哀しい思い出も、嬉しい思い出も。

半分こにすれば、お互いに持っていられる。自分の思い出は一人じゃない、自分は一人じゃないと思える。

そうすれば寂しさはきっと消えていく。

 

一つの思い出で足りないなら、二つの思い出を。

二つの思い出で足りないなら、四つの思い出を。

たくさんの思い出を集めて、記憶に留めて分かち合う―――分かち合える。

 

フェイトとそんな“分かち合える”関係になりたい。

 

 

同じ高さにまで降りて、また見詰め合う。

フェイトの瞳は不安に揺れているが、なのはの瞳は一切の迷いが払拭されていた。

 

なのはは[レイジングハート]を持っていない、空いた方の手をフェイトに差し出す。

そして、一言。以前に臨海公園で伝えられなかった言葉を、思いの丈を込めて明朗な声と共に出す。

 

 

 

「わたしは、貴女と友達になりたいの」

「トモ・・・ダチ・・・?」

 

 

鸚鵡返しにしたフェイト。

 

 

刹那、まるで大鴉が地上の獲物を捕獲するかのように黒い人影がフェイトとアルフへ覆い被さった。

 

「なのは下がってっ!」

「ユーノ君!?」

 

「ガルム!?」

「ガルムさん!?」

「動くんじゃない!!」

 

 

五人が交錯し、混沌が巻き起こる。

誰もが、誰の思惑も分からない混沌が。

 

その中で、なのははユーノに引っ張られながらデジャ・ヴュを覚える。

あれは臨海公園でのこと。そうだ、と高速で思い当たる記憶が巡る。

 

(ガルムっていう人の声に聞き覚えがあったんだ・・・・)

 

何故だろうと考える前に、

 

 

 

ドォォオン!!!

 

 

 

膨大な魔力を電気変換して生起された雷が落ちた。

 

 

「があぁっ―――!!」

 

 

間一髪でフェイトとアルフを庇ったガルムへ直撃する形で。

 

落雷の空気を犇めかせる轟音と、閃光、そして余波で、直撃を免れたはずのなのはとユーノは吹き飛ばされてしまう。

 

 

けれども、刹那よりも短い六徳の時間。

転移魔法で消えようとする直前。

なのはには見えてしまった。

 

(え・・・・?)

 

落雷の直撃を受けたガルム。

フェイトとアルフへの防御魔法に全力を注ぐ代わりに苦悶の声を噛み殺す姿。

バリアジャケットが裂け、シンボルとも言えるクローズドヘルムが弾けて垣間見えた素顔が。

 

 

―――自分の兄である高町恭也と瓜二つのその顔が

 

 

「おにい・・・・ちゃん・・・・?」

 

 

 

 


あとがき?

 

 

金髪!

というわけで、今回のあとがきは金髪祭りです。

 

『金髪親子』

フェイトとプレシアは遺伝的に親子なのに、何故髪の色が違うんだろうということです。

そういうわけでプレシアの地毛はフェイトと同じ金髪にしました。

しかも、染めている理由が××××な恭也とカーマインの真似をするため。何だ、この微妙な設定。

逆にフェイトを黒髪にすることも考えましたが、金髪ではないフェイトはフェイトではないので。

意味はあるんですよ、一応。なのはは桃子と同じ髪の色なので、それと対比して母親と同じにしようと思ってという意味が。

 

『クロノ君』

クロノ君は弱いのか?

いえ、そんなことはありません。今のガルムはAAA+でクロノと差はそんなにありません。

単純に相性が悪いことと、経験の差です。クロノがスポーツマンで、ガルムはリアリストとも言えます。

オールラウンダーであるクロノは「ヨーイドン!」の掛け声のあるような場の設定がなされた状況で最も力を発揮します。それ意外では多少手強いだけに過ぎません。一方のガルムは自分の能力を上げるのではなく、相手の長所を全て潰すことで能力を自分に合わせるように仕組みます。

だからクロノのようにバランスが良い魔導士は、魔法の発動前に畳み掛けるような高速戦闘を仕掛けると手も足も出なくなります。別に倒せなくても発動さえさせなければいいわけですから。これがなのはなら防御魔法で凌げますし、フェイトなら高速戦闘に追従できますからそんなに苦にはなりませんね。

ガルムはその点を衝いて「格下うんぬん」を言っているわけです。AAA+になったクロノにとって辛酸を舐めさせられたリーゼ姉妹ぐらいしか格上はいないから、ガルムのような搦め手を使って格上を倒すような器用な戦い方ができないのでした。

 

『管理局』

悪の枢軸(ぇ

StrikerSで黎明期の功労者三人が出てきたのですが・・・・そんなに歴史古くないのね。

はい、そんな話は無視します。何せリバースでは悪の枢軸ですから。

恭也やカーマインが怨んでも仕方ないことを山ほどしでかしてMASU。

冷静に考えて機動六課だけではなく、管理局という組織そのものが異常な戦力を抱えてるんですよね。

 

 

今回はこんな具合で。

掲示板で感想を下さった方々、ここで改めてありがとうございました。

 

それでは次回、お会いしましょう。





おお、益々盛り上がる。
美姫 「管理局の艦へと攻撃が」
でも、何故かフェイトたちにも攻撃が。
美姫 「庇ったガルムはどうなったのかしら」
なのはが見たガルムの素顔。
ああ、もう、とっても続きが気になる!
美姫 「次回も楽しみにしてます」
待っています。



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