彼は魔人である。
神様でもない。
英雄でもない。
悪魔でもない。
人の範疇として魔の領域にある、魔人。
第四次聖杯戦争において彼と戦った者は口を揃えて言う。
―――反則だ
日本には、鬼種との混血が旧い先祖還りを起こすことが極稀にある。
―――紅赤朱
しかし、八岐徹はそれですらない。
しかし、彼は破格の英霊に匹敵する能力を有する。
膂力において比肩するもののないはずのヘラクレスと互角に打ち合う。
最速のサーヴァントであるクーフーリンの速度を遥かに凌ぐ。
耐久力は生身のため故に常人より高い程度でも、出鱈目に死に難い。
神秘に頼らない戦闘において、一撃当てれば殺せるはずなのに死なない。
逆に伝説の英雄を、神話の半神を、圧倒さえする。
象徴たる神秘―――宝具を持たないにも関わらず。
代わりというわけではないが、彼は彼自身の性質として宝具に匹敵する境地に至った。
一つは、あらゆる神話、伝説、神秘を殺す能力。
名前もつけられていない――――『幻想必滅』の能力。
ヘラクレスの『十二の試練』が齎す格の低い神秘の無効化を殺す。
アルトリアの渾身の『約束された勝利の剣』を真っ向から殺して無効化。
クーフーリンの『刺し穿つ死棘の槍』をただの投槍技へ貶める。
メドゥーサの『自己封印・暗黒神殿』を直視し、『騎英の手綱』の使用中に落馬させた。
彼と戦うということは己の持つ身体能力と技術を総動員した戦闘にならざるを得ない。
本来ならばそれでも単独で軍隊にも匹敵する英霊を、圧倒してみせる。
異常過ぎる身体能力と狂気も踏破した奇跡の技術を融合せしめる。
そして、彼にはもう一つ宝具に匹敵する能力がある。
「掃討戦か・・・つまらんな」
武器を持たず、腕組み。
徹は心底退屈そうに、眼下を眺める。
エミヤと凛が冬木大橋に陣取って残骸どもを駆逐しているが、手数が足りていない。
橋は通さないが、橋以外を抜けてくる残骸までは処理しきれていない。
ギルガメシュは久方ぶりに乖離剣を通常兵装として使用しているが、駆逐するのが楽し過ぎて通せんぼになっていない。役立たずとは言わないが、雑魚相手にはしゃいで何をやっているのか。
アルトリアはタワー前に陣取って門番となっているが、元々大量の敵を一度に駆逐するには向いていないため、漏れが出ている。
まぁ、無尽蔵に湧いてくる残骸どもを相手に一匹も通すなと言うのは酷かとも思う。
見上げる。
屑―――衛宮士郎は、カレン=オルテンシアを連れて中空の階段を登る。
存外楽しくはあった、マガイモノの世界はもうじき終わる。
元々、祖母が関わった第三次聖杯戦争の話を聞いてどんなものかと思って参戦しただけで、叶える望みなどなかったのだから、これも余禄だろう。
「まぁ、つまらんが・・・約束だ。仕方ないか」
新都の象徴であるタワー。
残骸達が外壁を伝い、一匹、二匹と上がってくる。
外から見上げればタワーの表面は残骸で埋め尽くされ、外壁一枚すら見えない。
上りきり、着地した残骸は―――――腹が爆ぜて上半身と下半身を分けられ、消える。
ある残骸は鈍器で殴られたように拉げて潰れた。
ある残骸は鋭利な刃で七つに分けられた。
ある残骸は矢を受けたように仰け反り壁に激突した。
ある残骸は何かに貫かれたように宙に浮いたままとなる。
ある残骸は――――――――――――――――
ある残骸――――――――――――――
ある残が―――――――――――――
ある残――――――――――――――
あるざ――――――――――――――
ある―――――――――――――――
あ――――――――――――――――
―――――――――――――――――
残骸には知性がないため、何をされたのか分析せずに続々と進むだけ。
そして、あらゆる不可視の攻撃手段を受けることで消滅していく。
徹は一歩も動かない。
足も立ち位置から動かない。
指は一本たりとも動かさない。
腕を組み、仁王立ちのまま。
天上へ上がるロックスターの階の前に立ちはだかる。
そして、見えぬ、動かぬ、存在せぬ、しかして効果のみを及ぼす攻撃を行う。
八岐徹の修めた武器・技術により放たれる幾千、幾万、幾億の攻撃。
―――至為は為す無く、至言は言を去り、至攻は攻めること無し
―――以ってそれを、『不攻之攻』とする
刀を取り、斬撃を放たずとも。
弓矢を取り、矢を放たずとも。
槍を取り、突きを放たずとも。
為さずに為す。
固有結界に―――見えるが、異なる。
何より、徹は心象世界を展開していない。魔術師でもない。
仕組みだけを見れば、それは多重次元屈折現象。
だが、それよりも的確に言えることがある。
―――空想具現化
回転が上がるように攻撃の数が増えていく。
因果を弄ることもできず、爆撃機じみた戦車を持っているわけでもない。
その彼が第五次聖杯戦争における最強の存在だったことの証左がここにある。
「一先ず、滅んでおけ」
屋上へ上がってくる残骸の数よりも、攻撃の手数の方が多くなる。
ビルの壁面を埋め尽くしていた残骸が一匹ずつ、剥がれされていく。
だが死ぬほど退屈。
この程度ならば、幾らいても同じだ。
これでは何の糧にもならない。
聖杯戦争中のエミヤ、アルトリア、ヘラクレスの三人と殺し合った時のような楽しさはない。
流石に、英霊三人を敵に回すのは不利だったが、まだこうして生きている。
「ああ、退屈だ」
徹は、腕組みする手に持っていたアルトリア曰く「雑な料理」の代表格であるハンバーガーを齧り、炭酸飲料を飲む。
この世界は、当事者にはとても優しい。
いくら同じことを繰り返し、あらゆるパターンを尽くしたとしても。
だから、徹は衛宮士郎が嫌いだ。
幸福だ。それまでの人生のマイナスにするほど幸福に浸っている。
けれども、欠陥品のポンコツである衛宮士郎を名乗る屑は実感することができない。
今回の件にしても、結局のところ楽しみ尽くしてから飽きたので終わりにしたいと言っているに過ぎない。
まぁ、仕方ないのだろう。
おそらくは英霊エミヤになれない衛宮士郎なのだから。
あとがき(多分)
短編って、自分書けるのかしらと思って試してみてる途中です。
原作の徹が有する「攻撃を自在に具現化する」能力を型月で再現したらどうなるのか。
ちなみに、『幻想必滅』は前回のあとがきで書いた「戦闘において強制的に世界のルールを改変できる」能力を再現したものです。
あ、うん、駄目だなこいつ。
最悪だ。ハンバーガーなんか食べてるし。
徹を殺したければ、通常の戦闘能力で上回らなければならないのに、その土俵だと徹が最強だそうで。
CLASS マスター
マスター |
――――― |
真名 |
八岐 徹 |
性別 |
男性 |
身長・体重 |
186cm 82kg |
属性 |
混沌・悪 |
筋力:A
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耐久:E
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敏捷:A++
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魔力:E
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幸運:A
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宝具:EX
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クラス別能力
―――:―― |
無 |
詳細
八岐 徹
鬼一法眼の創始した八京門八岐流の現当主人に限らずあらゆるものを“殺”ために練磨を続ける異端の一族の到達点。
人間であるため宝具を持たず、己のスキルのみで戦う。しかし、それだけで伝説の、神話の英雄を凌駕する魔人。
この世界においては唯一彼の歯止めになれる祖母が既に死亡しているため、一番危険な状態で戦闘をしている。
保有スキル
心眼(真):A+ |
経験則に基づく洞察力。
常に自身と周囲の状況を冷静に把握し、その場で残された活路を見出す経験蓄積による戦闘論理。
自分にとって有利な展開を手繰り寄せることができる。 |
直感:A+ |
戦闘時、常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知。 視覚・聴覚に干渉する妨害を無効化する。 |
戦闘続行:B+ |
瀕死の状態でも戦闘を続行できる。
一度や二度の瀕死では殺しきれない。 確実に息の根を止める方法をとること。 |
幻想必滅:EX |
幻想を無効化する能力。 魔力との等価交換により現実のルールを曲げる者達にとって天敵。
それがどれほど優れた神秘であっても、このスキルによって殺されて無効化されてしまう。徹が英霊と渡り合える理由の一つ。 |
明鏡止水:A+ |
精神面への干渉を無効化する精神防御。 武芸者としての無想の域としての気配遮断を行うことができる。
直感、第六感、心眼などのスキルを用いても行動予測は不可能。 |
宗和の心得:A+ |
同じ相手に、同じ技を何度使用しても命中精度が下げず、むしろ上昇させる。
相手に見切りを許さない。 |
練気練功:A++ |
後天的な擬似魔力放出。 ある条件を満たしたものだけの特殊スキル。
修練により体内で魔力に似た性質の内力を生成し、物質に作用させることができる。 徹は全ての活動にこのスキルを用いている。 |
不攻之攻:EX |
対軍神技。 最大捕捉:??? 構え不要、予備動作なしの状態で、全方位から同時に攻撃する。
固有結界にも、多重屈折現象にも見えるが異なる。 空想具現化により放たれる現実を侵蝕する幻想の攻撃。
放たれれば回避不能の必殺技。 |
今回も徹は大暴れ……という程でもないか。
今回はちょっと大人しいかも?
美姫 「やっている事は大暴れで良いと思うけれどね」
全く動いていないからな。イメージとしては、という事で。
にしても、この能力は本当に厄介みたいだな。
美姫 「そりゃあね。英霊たいは悉く、その神秘を向こうにされるのだからね」
だよな。今回は短編という事で、投稿ありがとうございます。
美姫 「ありがとうございました」