TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜

第一話

 

MOVIN' TOWARDS REUNION

 

縁側で座り、お茶を片手に語り合う二人の少年。

(これは...夢か。あれは...おれと......もう一人は誰だった?)

「きみはいいな。俺も普通に生きてみたかった。」

そんな恭也の言葉に少しだけ寂しそうな笑みをうかべながら、

「ぼくは普通ではないよ。まあ今の恭也から見れば普通に見えるかもしれないけどね。」

そういってお茶をすすると少し考えるようにしながら空を見上げる。

「でもね、普通なんてものには何の意味もないんだよ?」

それの言葉に対し恭也は戸惑いの表情をうかべながら彼の次の言葉を促すように目を向ける。その仕草に少し笑みをうかべながら言葉を続ける。

「普通なんてものはないんだよ。みんな他人とは違う何かを抱えて生きてるし、違う何かを持ってる。それが大きかれ小さかれ、ね。でもそうだね...たぶん恭也は僕の中に平凡な平和をみてるのかな?」

「...よくわからないな。今まで家族以外とまともに話したことがないから、不破の外の人間ってのは君だけだ。その君を俺は今まで普通の人なんだと思ってたからな。でも......そうだな。たとえ普通でなかったとしても俺は君のようになってみたい。」

そういうと恭也は彼がしたようにお茶をすする。まねといってもいいようなその仕草に彼は苦笑をうかべながら恭也の言葉を待つ。

(そうだ。たしか彼は...そして俺は確か......)

「雲、というか月、という感じか?......つかみどころのない感じだな。俺やとおさんみたいに陽のあたる場所を歩けない人間にも優しい光をあててくれる。」

少し驚いたような素振りを見せた彼は、やがて小さく笑みをうかべて、

「お褒めに預かって光栄だけど、それは恭也自身の言葉じゃないでしょ?」

「ああ。とおさんがそういってた。あいつは月だなって。俺にとってはやはり雲なんだがな。それか霧だ。そこにあるのに掴めない。本当につかみどころがない。名前だってきちんと知らないしな。」

「そうだね。僕はうそつきだからつかみどころがあったらやっていけないよ。でもそれでも人を傷つけるような嘘はついてないよ?」

のほほんとした調子でいう彼に少しいらだつ感じを覚えながら、

そうはいうけどな。友人なのに名前も教えてもらえないというのはそれなりに酷いことだとおもわないか?」

そう言って少しふてくされたようにまたお茶をすすると照れたように顔をそらす。それを少し寂しそうに見ながら彼は口を開く。

「そうだね。いい機会だし、とりあえず知っておかないとこれから不便かな?あまり好きじゃないから名前いいたくなかったんだけど......まあいいか。餞別代りにきいといて。」

「...え?......餞別?」

「ああ。明日からしばらく会えないからね。」

「...いや、そんな重大な事実をちょっと買い物行きますみたいに軽くいわれても...どこにいくんだ?」

「オーストラリア。」

「...どれくらい?」

「たぶん3年くらいかな?短くなることはないと思う。」

「なぜ!?」

「そんなに興奮しないでくれよ。両親の言うことだし君と別れるのは寂しいけど、頼み込まれてしまったからね。本当はかあさんと圭の二人だけだったんだけど、僕のほうにまでとおさんが気を使ってくれてね。まあ本当は圭が一人はいやだって駄々こねたらしいんだけど。」

そういって苦笑する彼の顔にほんの少しの陰りを見た気がした恭也は気持ちを静めて、

「そうか。でもそれならもう少し早く言ってくれても良かったんではないか?」

と、友人としては当然な質問をする。攻めるつもりはなかったが、やはり自分の唯一といってもいい友人が何も言ってくれなかったことに関して多少拗ねた感情がこもってしまう。しかしその感情も次の彼の一言で一掃されることになる。

「うん。それがね、聞かされたの昨日の朝なんだ。」

「.........え゛?」

柄にもなく唖然としてひらがなの表にものっていない音を発した恭也を面白そうに見ながら、

「いつの間にか留学の準備されてた。それこそビザってのまで完璧に。それでさすがに急すぎるって抗議したら圭まで行かないって喚きだして...恭也には言ってなかったんだけど、僕は捨て子同然のところを今の家の養子にしてもらってるんだ。本当の子供のように接してくれてるけどそれでもこっちにしてみれば一生ものの恩人なんだし、困ってるなら力にならないと。」

「...いや、そんなまたしても猫拾ってきたみたいに言われても...それにしてもそれを言わなかったのは明らかに計画的なものじゃないか?」

「およ?養子の件はスルー?結構内心ひやひやものだったんだけど。」

「美由希のことを知ってていまさらだってことくらいわかってるだろ?それよりもどうなんだ?」

「本当なんだけどなぁ...はいはい。そうだと思うよ。まあ、いたずらとか好きな夫婦だし、なにより圭にあまいから。万が一でも俺が断る可能性を考えたんだろうね。さすがに将来に関わる問題だってとおさんは知らせようって言ってくれたらしいんだけど、かあさんと圭が俺が断るかもって本気で思ってくれてたらしくて。」

思ってくれてた、といった彼の言葉に少しひっかかりを感じながらもその本当にうれしそうな顔に疑問をぶつけないことにする。

「さて、そろそろ帰って荷物の確認とかしないと。士郎さんと桃子さんは今日はいるんだったよね?」

「ああ。さっきお茶を入れたときはリビングでいちゃいちゃしていたが。」

「やっぱりお世話になったし、きちんと挨拶しておかないとね。」

そういって立ち上がると湯のみをもって勝手知ったる家のリビングへ向かう。それを恭也も後から追うかたちでついていく。いろいろとほかにも聞いておきたいことがあったがそれでも所詮向かう先はリビング。まさに目と鼻の先で話をしている暇すらなかった。

 

リビングではちょうど士郎が桃子が作った洋菓子の新作の味見をしているところだった。桃子のフォークから「あ〜ん」とかいいながら食べているところももうおなじみになってしまっている。ふたりは微笑みながらみている彼とあきれ果てた表情をうかべる恭也に気づくと一瞬固まる。

「恭也、ここは若い者に任せて、とか言っておいたほうがいいと思う?」

「いや、この空間はぶち壊してくれるととてもありがたい。美由希にも教育上悪いし、なにより俺がたえられない。」

などと好き勝手言っている子供二人にいち早く解凍した士郎がくってかかる。

「いいじゃねえか。その歳で仲良く縁側でお茶すすってるよりよっぽどましだろ?それこそ美由希にまねなんかさせられねえ。」

そこに一拍遅れて解凍した桃子がつづく。

「そうね。だいたいその歳の男の子なら浮ついた話の一つや二つあったりして女の子とあそんだりしててもいいんじゃないの?まったく二人ともかなりのもんなのに。とくにイチ、君なんて士郎さんがいなかったら私が好みに育てたいわ。どう?逆光源氏計画なんて。」

「申し出はうれしいのですが士郎さんがいなかったらという過程自体に無理がありますよ。からかって楽しむのはいいですが士郎さんショックで固まっちゃってますし、恭也も僕が父親の図を想像して固まってるようですからそのへんで。」

「なによぉ〜、面白くないわね。恭也はこの手の冗談にもきちんと照れてくれるのに。ひょっとして以外に女性経験アリ?」

「なにいってんですか。その手の冗談に関してはかあさんでなれてるだけですよ。それより士郎さん、いいかげん戻ってきてくださいよ。恭也もそんなに固まるほどの想像図だったのか?」

「はっ!?なんだ、冗談か。どうやって桃子の前から消そうか本気で考えちまった。」

「冗談になってませんよ、それ...恭也はどうした?戻ってきたと思ったら頭抱えて。」

一度戻ったそぶりを見せたものの、すぐさま頭を抱えて悩み始めてしまった恭也を不思議そうに首をかしげながら覗き込む。それをみた桃子がものほしそうな表情をしていたのには幸いにもだれも気づかなかった。

「いや...結構今よりまともな生活が出来そうでどうしたものかと思ってしまった...」

本当に深刻そうにつぶやく恭也に苦笑いを浮かべる。

「なんかいったか?恭也。」

「いや、何か言われるような自覚があるのか?」

「くっ...」

「......」

桃子と二人で苦笑いを浮かべる彼は思い出したように士郎に話しかける。

「そんなことよりですね。すこし大事なお話がある...といっても知ってるんでしょうけどきちんと挨拶をしておきたくてこちらに顔を見せたんです。」

それを聞いて恭也も思い出したように彼をみる。

ふざけるのをやめて居住まいをただし、促すように黙る士郎と桃子を見ながら一呼吸おいて、

「士郎さん、桃子さん、改めて恭也。今までお世話になりました。本当は美由希ちゃんが戻ってからにしたかったんですが...明日から3年間ほど弟の留学に付き添い、オーストラリアへ行ってきます。もしかしたらそれ以上になるかもしれませんが、とりあえず短くなることはないと思いますし、その間こちらへは戻らないでしょうから。お別れにするつもりはありませんが、これまでのことの区切りのようなものとして...」

そこで一度区切ると彼はまるで顔を記憶に焼き付けようとするかのように3人の顔をみる。

そして真剣だった顔を崩すと、

「いままで本当にありがとうございました。」

そういって微笑む彼の笑顔は男の恭也が見ほれてしまうほどのものだった。

 

そしてシーンがとぶと高町家の玄関の前だった。リビングではいなかった美由希が必死に涙をこらえるような表情で恭也の隣に立っており、桃子の腕の中にはいままで寝ていたなのはが桃子に促されて「ばいばい」をくりかえしている。

それをうれしそうに見ながら彼は恭也へと顔を向ける。

「約束だから教えるけど笑わないでよ?」

それを不思議そうに見つめるほかの3(4?)人に縁側での話をかいつまんで説明する。

するとみんな唖然としたような表情になったとおもったら、

「そういえば俺も苗字とイチってあだ名しかしらねぇな。」

と士郎。それにつづくように桃子が

「桃子さんも聞いてなかったわ。まさかこんなに頻繁に出入りしてるのに名前知らなかったとは...」

と少しショックを受けた様子。

そんな中美由希だけが涙を堪えていたことすら忘れてしまったように不思議そうな顔で、

「みんな知らなかったの?お兄ちゃんの名前。」

それを聞いた士郎、桃子、恭也の三人が美由希に詰め寄る。

「「「美由希はしってたの(か)!?」」」

「う、うん。」

「「「なんで!?」」」

「たまになのはと一緒にお兄ちゃん家に預けられてたときお兄ちゃんのお父さんがたまに名前で呼んでたから。」

「...そういえばそうだね。最近はないけど昔はそんなこともあったなぁ。でも士郎さんはとおさんか一臣さんに聞いててもおかしくないとおもうんですけど?だいたい僕のあだ名をつけたのは士郎さんなんですから。」

「......ん?」

そういわれて考え込む士郎。おそらくうろ覚えに記憶があるのだろうことを察して呆れ顔でみる桃子と二人の子供の視線を浴びながらしばらくうなっていたかと思うと当然、

「あっ!!!そうだった!たしかに一臣にお前さんが連れてこられたときに名前聞いて少し時代がかってたから...」

「きいてたんだな?とおさん。」

「つけたのね?あだ名。」

「あ、あはははは...」

三者三様な反応を見せる高町家の面々をすこし羨ましそうにみると軽くお辞儀をしてそっとその場を去ろうとする。

しかしそれをみていたなのはのばいばいで気づかれてしまう。

気配でそれに気づいた彼は観念したように振り替えると微笑みながら恭也に駆け寄り、

「じゃあ覚えておいてくれよ、恭也。僕の名前は.........だから。そうだね次に会うときはそっちから声かけてくれるまでは気づかない振りでもしておくよ。ちゃんと僕を覚えているかどうか試すためにも、ね?」

そうささやいて走り去っていく。

 

恭也が目を覚ますと、目に飛び込んできたのはいつも見ている部屋の天井ではなく青空と自分の家の庭だった。

「そうか。いつの間にか寝てしまったのか。それにしてもあの夢...とおさんのこととか膝のことで今まですっかり忘れていたけど...どうしてるだろう。そういえばとおさんがあのあと妙なことを言っていた気がする。」

と、つぶやくと今度は考え込む。傍から見ている人間がいればさぞかし怪しい行動だっただろう。だがまったく気にせずにぶつぶつとつぶやきながら暫く考え事をしていると頭の中に士郎の声が蘇る。

(名前聞いただろ?その名前、ちゃんと覚えとけ。御神の剣をつづけていくならそのうちまた会わないといけないだろうからな。)

「そうだ、たしかにそういってた。だがどういう意味だ?彼、イチはあの不思議な雰囲気以外は普通の人間のはずだ。それなのになぜ御神の剣とかかわりがあるような言い方をしたんだ?......ん?そもそも俺は......しまった。名前を忘れている。」

先ほど夢で見たときも名前だけが聞き取れていなかったせいもあり、今恭也にわかるのは呼びなれていたはずの『イチ』というあだ名だけ。士郎の言葉の意味を知ろうにも手がかりの少なさに途方にくれそうになる恭也だったが、ふと、頭に一冊の書物が浮かぶ。

「そうだ!とおさんの残した不破のノート!あれになにか残してあるかも知れん!」

そう叫ぶと神速でも使いそうな勢いで部屋に駆け込み、暫く空けていなかった押入れの中の古びた箱をあけるとまだ見ていないページに目を通し始める。御神の、そして不破の技について書かれていた部分には念入りに目を通していた恭也だったが、それとは別にノートには士郎の書き記した一言日記のようなものもあり、士郎の死後、力を得ることに躍起になっていた恭也はそこにはまったくといっていいほど目を通していなかった。そこに記された士郎との旅の思い出などに涙腺が緩みそうになるが、目的を思い出すと恭也はページをめくる手を早めていく。そして手がふと止まる。そこには御神がほぼ全壊してしまったあの忌まわしい日の3日後の日付が記されていて、一言、

『一臣の忘れ形見になってしまった不破でないあの月の子供を一臣から引き継ぐ。』

と記されていた。

(月の子供とは間違いなくイチのことだ。それにしても一臣さんの忘れ形見?引き継ぐ?なんのことだ?)

考えながらもページをめくる手は止まらない。しかしその後暫くは恭也と美由希のこと、そして桃子との出会いあたりから桃子と後に生まれるなのはの事ばかりになり始めており、あれ以降まったくヒントがつかめなかった。あきらめかけていた恭也の手がまたしても止まる。それは恭也が中学校の入学を間近に控えた、ちょうど夢で見たあの日の一言。

『恭也が不破を、そしてもし美由希が御神の剣を極めんとした日、それまでにあの月がまた我々を照らしてくれることを勝手ながら願わずに入られない。』

それまでのおのろけ日記とは明らかに違う真剣さを感じ取った恭也は自分が忘れてしまった名前を引き出そうと先ほどの夢に思考をまわす。

(俺は...思い出せない。夢でもそこだけぼかされたようになっていた。あの時ささやかれたのは俺だけだ...ん?そういえば美由希はしっていたんだったか?いや...でもあの当時のことの中にはとおさんの事もある。小さかった美由希にはショックが大きかっただろうから一刻を争う自体でもない限り記憶を引っ掻き回したくない。あくまで最終手段だ。と、すればあの時成人していたもの...とおさんは、いない.........!かあさん!)

思い立つとすぐに電話を取ろうとして思いとどまる。

「この時間だと翠屋はかなりの混雑だろう。電話では応対できない可能性がある。となればあとはこれしかないか。」

そうつぶやくと軽く身支度と最低限の装備を急いで身につけ翠屋に向かってひた走った。

 

翠屋へ飛び込むようにして入ってきた恭也を出迎えの声もかけられずに唖然と見つめたフィアッセだったがすぐに思考をもどすと、

「もう!恭也、びっくりするじゃない!!それにここは喫茶店なんだからお客さんのことも考えてくれないと。」

「すまん、急いでるんだ。話はあとで聞く。かあさんは?」

「ち、厨房にいると思うよ。」

恭也の様子にただ事でないことを察したフィアッセは素直に答える。それに微笑とともに謝辞を述べて恭也は厨房に飛び込む。あとに残されたのはいつになく真剣な顔にカウンターをくらい、そしてその直後の微笑で完全に撃沈された女性客とウェイトレス、そして多少の免疫は出来ているもののやはり顔を真っ赤にしながら

(かえったらおしおきなんだから...?)

などと多少不穏当なことを考えているフィアッセだった。

 

厨房にはいった恭也の目に飛び込んできたのはフル回転している松尾さんと母・桃子だった。それに申し訳なさを覚えつつ二人に声をかける。

「かあさん、すこし聞きたいことがある。大事なことだから時間をくれないか?松尾さん、すみませんが数分でいいのでかあさんを貸してください。」

真剣な表情で声をかける恭也に少し顔を赤くして立ち尽くした二人だったが、先に正気に戻った松尾さんが

「いいですよ。5分ですませられますか?」

「十分です。ありがとうございます、松尾さん。」

そういって微笑みながら礼をいう恭也にまた顔を赤くしつつも作業に戻る松尾を見送り、桃子に切り出す。

「かあさん。イチを覚えてるか?」

突然の話で一瞬唖然とするが、すぐに思い出したようで

「イチ、ってイチ君!?彼が帰ってきてるの!?」

「いや、それはわからないんだがすこしとおさんの言葉を思い出して行方を追ってみようとおもってな。」

そういって夢をみてからのいきさつを簡単に説明する恭也に途中からあきれたような視線を向けながら

「つまり恭也は親友の名前を忘れてしまったから手がかりはないかと桃子さんのところにきたってこと?」

「...まあ...そういうことになる。」

「まったくこの子は...でも私も実は名前を聞いてないのよ...士郎さんに聞きそびれちゃって。苗字なら当時のままならわかるけど、それでいい?」

あまり茶化していられる状態でもない桃子はすぐに答えを出す。そんな気遣いと店の状況判断に感謝と感心を同時にしつつ、

「ああ、本当に助かる。とりあえずそれで調べられると思うから、そうしたら俺も店を手伝う。」

「ありがと〜、恭也!フィアッセも喜ぶわ!」

「ああ、でイチの苗字はなんていうんだった?」

照れてあわてて話をもとにもどす恭也にすこし微笑をうかべるとすぐまじめにもどり

「たしかオオムラよ。ちょっと特殊な書き方でね、そう、『狼』の村って書いて狼村だった。」

「感謝する、かあさん。それでは少し電話を入れて店に入る。フロアの方でいいか?」

「ええ、とりあえずそっちでお願い。厨房のほうで何かあれば呼ぶから。それじゃお願いねぇ〜。」

「了解した。」

そういって恭也は裏口を出て行くと携帯電話を手にとって意中の番号をメモリから選び出す。

なんどかの呼び出し音のあと、明るい調子でさざなみの銀髪の小悪魔ことリスティ・槙原が電話にでる。

Hi、恭也。どうしたんだい?デートにでも誘ってくれるのかい?」

「そうですね、すこし頼みごとがあるのでそれのお礼という形でよろしければ俺でよければ誘わせていただきますよ。」

「本当かい!?もう取り消しなんていっても聞かないよ?」

「そんなこといいませんよ。お礼だって言ったじゃないですか。こっちが頼んでるんですからそれくらいはさせていただきますよ。俺なんか一緒じゃ楽しくないかもしれませんが。」

「そんなことあるわけないじゃないか...ほんとに鈍感だな...まあいいや。それで頼みごとってのはなんだい?」

「ええ、人を探してほしいんです。名前がはっきりしないんですが、苗字と別れるまでの経歴はある程度わかってます。」

「別れるって...昔の女...かい?」

さっきまでの明るさと打って変わって少し声におびえが混じっているリスティの声に戸惑いながら、

「男ですよ。俺が中学校はいる直前まで一緒に遊んでた親友なんですがちょっとした事情で名前をはっきり聞いていなかったんです。」

そういって探すことになった経緯をはなすとリスティはほっとしたような声で、

「よかった、昔惚れてた女とか言ったらどうしようかと思ったよ。」

「そんなわけないですよ。大体俺なんかに好かれちゃいい迷惑かもしれませんし。」

そのいつもの調子に苦笑をうかべながら完全にもとのペースにもどるリスティ。

「じゃあその件は任された。今香港にいるから美沙斗と弓華にも手伝ってもらうけどいいかい?」

「え、香港にいるんですか?それじゃあお二人にも何かお礼しますのでよろしくお願いしますとお伝えください。」

OKOK。じゃあたぶん数時間でほとんどわかると思うけど連絡はどうする?」

「これから店を手伝うので、こちらの晩御飯が終わったあたり9時とかだとありがたいんですが。」

「了解♪その時間ならたぶん二人も戻ってると思うからその辺の時間で3人そろったら家にかければいいかい?」

「ええ、それでおねがいします。それでは店が大変そうなので、そちらの方、よろしくお願いします。」

「任せてくれよ。その代わりデート、期待してるよ。」

「ええ。それじゃあまたあとで。」

「ああ、お店がんばってね。」

そして電話を切ると店に足を向ける。

弓華や美沙斗への礼はどうしたものかと考えながら。

「さて、これで調べ物は心配ないだろう。約束どおり店で頑張るか。」

 

 

つづく





アインさん、投稿ありがとうございます。
美姫 「ございます〜」
さて、恭也の脳裏に浮かぶ少年の面影。
美姫 「果たして、恭也は彼と再会できるのか!?」
それは次回以降のお楽しみ〜♪
美姫 「次回もお待ちしてますね」
ではでは。



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