『TRIANGLE HEART
BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第五話 −LET'S SING TOGETHER−
「さて、最後はボクかな?リスティだよ。警察関係の仕事をしてる。恭也に依頼されて君を探し出した者だよ。」
イチと不破の関係の話も一通り終わり、さざなみの住人から始まった自己紹介も最後のリスティまで回ってきた。といっても今は知佳とみなみがいないので全員ではないが。
「それはそれは...驚いたでしょう?まさかクラスメートを探してくれなんて...」
「まったくだよ。約束がなかったら途中でばかばかしくなってやめてたかもしれない。恭也、ちゃんとまもってくれよ?」
「ええ、あんなことでよろしければいつでも言ってください。」
「恭也、約束って?」
ちゃっかり恭也の隣に陣取った忍が耳ざとく聞きつけて問いただす。恭也がイチを探してもらうかわりに買い物に付き合う約束をしたことを告げると周りの女の子たちの顔色が変わる。空気が変わったことだけは認識できているものの理由がわからずに首をかしげる恭也をみて苦笑いをもらすその他の男性陣。その男性陣もそれぞれまわりを女の子が取り巻くという小ハーレム状態になっている。
「さてと、これで名前を知らない人はいない?イチ君。」
「ええ、ありがとうございました。それじゃあ一応僕とケイも自己紹介したほうがいいですよね?それじゃあケイ。」
「狼村圭っす。ケイって呼んでください。風高1年、高町さんとはクラスメートっす。よろしくおねがいします。」
「ケイは剣道部と野球部を掛け持ちしてて、剣道では俺の弟弟子にもあたるんですよ。野球部のほうでも1年でいきなりスタメン抜擢されたらしいですけど、剣道部のほうでももう俺とまともに打ち合えるのはこいつしかいないくらいです。」
「へぇ、赤星君とまともにうちあえるんならなかなかの腕前みたいやね。うちともお手合わせお願いしたいな。」
「勘弁してくださいよ。恭也さんと打ち合うような人じゃ俺なんか相手にならないっすよ。勇吾先輩と藤代先輩相手で精一杯っす。」
「...赤星君、なんかここにいると私たち弱いんじゃないかって思ったりしない?」
「もうなれた。ここの連中ときたら、俺らじゃたぶん耕介さんとくらいしかいい勝負できないよ。しかも霊力なしって条件付でね。」
「いや、霊力なしなら俺はまだまだ相手にならないよ。キャリアが違うんだから。」
「そうやね。耕介さんはまだかなり御架月に助けられとるから...せっかく神咲の剣おしえとるんだから早く強くなってくれないと。」
「まあまあ薫、耕介はよくやってるだろ。それにそっちに取り組みすぎて料理の味が落ちるのはあたしゃいやだよ。それに最後の一人の自己紹介もまだすんでねーし...お小言はあとにしな。」
「あ、そうですね、ごめんなさい。続けてください。」
「そうね、それじゃあイチ君、最後はあなたよ。」
桃子にいわれて自己紹介をするのかと思いきや、何もいわずに入り口にむかう。みんながどうしたのかと思っていると、
「いえ、なんかまだ僕が知らない人が残ってたみたいで...」
といってドアを開ける。するとそこにはスポーティな格好をしたロングヘアーの女性とリスティそっくりの女性が立ち尽くしていた。
「アイリーン!?」「フィリス先生じゃないですか。」
「...とりあえず中に入ってください。」
イチに促されて中に入る二人。
「じゃあまずはアイリーン、何でここに?」
フィアッセがまずルームメイトでもあった友人に声をかける。
「え、ああ、長期休暇もらったから遊びに着たんだけどフィー部屋にいないし、恭也君の家にも誰もいなかったからここかなぁって...」
と説明するアイリーンだったがどうも落ち着きがない。ちらちらと見知らぬ銀の混じった黒髪の青年に視線をむける。
「フィリス先生はどうしたんですか?」
そんなアイリーンを気に留めることなく今度は恭也がフィリスに声をかける。
「どうしたじゃないですよ、恭也君。今日は診察の日なのにまたすっぽかして...今日こそは押しかけて強引に...じゃなくてご家族にも話しておこうと思ったら閉店してるはずの翠屋の前でアイリーンさんを見つけて...」
「近づいたところにイチがドアを開けた、と。すいませんでした、フィリス先生。今日はどうしても優先しないといけないことがあって...」
とフィリスに事情を話す恭也。
「...しょうがないですね、そういった事情じゃ。でも次からは電話くらい入れてくださいね?」
「はい、申し訳ありませんでした。」
「それじゃアイリーンさんとフィリス先生も自己紹介お願いします。」
「あ、はい。フィリス矢沢といいます。リスティの妹で恭也君たちの主治医です。」
「ア、アイリーン・ノアです。歌手やってます。」
「ありがとうございます。それじゃあ改めまして...狼村一太郎です。イチで通してるんで、そっちで呼んでください。明日から高町家にお世話になることになりましたので、これからよろしくお願いします。」
「はい!これで全員ね?それじゃあ皆グラスもって〜!」
桃子の号令で各自好きな飲み物を手にする。
「それでは!高町家の新しい家族にして恭也の親友との再会に......」
『かんぱ〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!』
「さーて、それじゃあそろそろあれを出しましょうか、フィアッセ?」
「そうね、料理も一通り終わったし...じゃあなのはと忍、手伝って。」
「「はーい!」」
「恭也、あれって?」
自分の周りと恭也の周りの女の子を通り抜けてとなりに座ったイチが恭也に話しかける。
「たぶんカラオケだろうな。あの二人が言い出して、手伝うのがなのはと忍ならそれくらいしか思いつかん。」
「恭也は歌うの?」
「いや、今日は俺よりもお前とケイだろうな。あとはかあさんのほかはフィアッセ、ゆうひさん、アイリーンさんの歌手たちと忍、晶、レンとなのはが積極的に歌うだろう。」
「美由希ちゃんは?」
「あいつは下手ではないんだと思うんだが自分からは歌わないな。那美さんも同じようなものだ。」
「ふーん、で?なんで僕等が歌うことになってるの?」
「...断れると思うか?あの人たち相手に...」
「無理かな、やっぱり。まあいいや、僕は歌うのは好きだからね。」
そんなことを話してるうちに恭也の予想通り、カラオケの準備が進められていく。
「なのはぁ〜!忍ちゃぁ〜ん!どぉ!?準備できたぁ〜!?」
待ちきれずに声をかける桃子になのはが対応し、その間に忍が配線をチェックするという絶妙のコンビネーションでどんどんと進めていく。
「できましたぁ〜!最初は誰ですかぁ〜?」
「はいはいっ!桃子さんいきまーす!」
こうして桃子たちがカラオケを始める。恭也とイチのところにはなのはと久遠がジュースをもってやってきた。
「お兄ちゃんたちと一緒にいてもいいですか?」
「くおんも〜」
「ああ、かまわないぞ。イチも問題ないだろ。」
「もちろん。どうぞ。」
それを聞いて二人は座ろうとするが、カウンター席は椅子が高めに作られているため、二人には座れない。
「イチ、ボックスの席に移るか。」
「いや、満席状態だよ?」
どうしようかと二人が考えていると久遠が恭也のひざの上に座ってしまう。
「くおんはここ〜」
「じ、じゃあなのははイチさんの膝に座らせもらってもいいですか?」
「なのは、それではイチに迷惑がかかってしまう。久遠、片足をなのはにあけてくれ。」
「いや、僕はいいよ。恭也のほうこそいくら二人とも軽いからって膝壊してるんだから無理はだめだよ。んじゃなのはちゃん、ちょっと失礼するよ。」
そう断って抱え上げると膝の上に座らせる。
「あ、ありがとうございます。えへへ」
「すまないな、イチ。なのはもあんまり甘えるのは良くないぞ。」
「だからいいって。それこそなのはちゃんが生まれたばっかりの頃は預かったりもしてたんだから、いまさらでしょ?」
「ってことはイチさんもなのはのお兄ちゃんみたいな人なんですね?」
「そうだね、それこそ美由希ちゃんが僕をお兄ちゃんって呼んじゃうくらいだから。」
「それじゃあなのはもイチお兄ちゃんって呼んでいいですか?」
「ああ、いいよ〜。こうして僕の家族は増えていくわけだね。」
「人の家族を気安く持っていかないでくれ。」
「お兄ちゃんもお兄ちゃんです。つまりなのはにもう一人お兄ちゃんが出来たわけです。」
「くおんもいちおにいちゃんってよぶ〜」
「いいよ、呼びやすいように呼んでくれれば。」
こうしてイチに妹分が二人増えた頃、桃子たちも一通りカラオケを一巡してイチを呼びに来た。
「イチく〜ん、今日はあなたが主役なんだから一番歌ってもらうわよ。フィアッセから全部聞いたんだから。」
「それはかまいませんがケイは誘わないんで......わかりました、行きましょう。」
言いかけたイチの視線上に飛び込んできたのは真雪とリスティと耕介と一緒に酒盛りを繰り広げる義弟の姿だった。あきらめたイチはなのはを抱え上げて席を立ち、そのままなのはを座っていた席に下ろすと桃子についてカラオケセットに向かうのだった。
「で、なにを歌いましょうか?」
到着するなり桃子たちにそんなことを聞くイチ。
「なんでもいいわよぉ〜。好きな曲を探して。」
「うーん、それじゃあとりあえず『涙の誓い』をお願いします。」
そういってマイクを握るイチ。皆もイチがカラオケマシンに近づいたときからずっと注目している。
「狼村君、歌うまいと思う?」
「さあ、どうだろう?なにせ今までケイのこと以外ではあまり話したことすらなかったわけだし。」
などと話している亜子と赤星。
「イチおにいちゃ〜ん、頑張ってくださ〜い!」
「がんばれ〜」
と声援をおくる妹分になったばかりのお子様コンビ。
そんなこんなしてるうちにイントロが終わり、歌声が響く。
人とは〜違ってる〜君の目を〜♪
その歌声は男性の声にしては中性的ともいえる声だった。実際の曲より多少低く聞こえるその声は圧倒的に人を惹きつける声だった。
「...お兄ちゃん...うますぎ...」
「...ですねぇ...CSSの方たち並なんじゃないですか?」
とただただ感心するドジッ娘コンビ。
「...お兄ちゃん...イチお兄ちゃんってなにものなんでしょうか?」
「いや...俺にもいまだによくわからん...」
「すご〜い」
と高町兄妹と久遠。
「さすがにうまいわね。ママがわざわざ聞きに言っただけのことはあるわぁ。」
「え!?校長先生がスカウトしにいったほどなの!?」
「なんやその話きいたことあるなぁ。そうか、あれってイチ君のことやったんかぁ。」
とCSSの卒業生であるプロ歌手たち。
「でもなぁ...」
フィアッセが一人、なにか納得がいってなさそうではあったが。
そんなこんなで曲がおわると待っていたものは拍手の大喝采だった。
「お粗末でした。」
そういってお辞儀をし、ステージを降りるイチ。そのまま先ほどまで座っていた席にもどると、
「イチお兄ちゃんすごーい!」
「すごーい」
と妹分たちからの大絶賛がまっていた。周りの皆も感心したような表情で拍手をおくっている。
「ありがとう、二人とも。なのはちゃんも今度は一緒に歌おうか?」
「にゃ〜、それじゃあなのはが余計下手に聞こえちゃうだけです。」
「大丈夫だよ、好きな歌を楽しく歌えばいいんだから、ね。」
「いや、それにしたってお前はちょっと普通じゃ一緒に歌うことをためらうほどにうまいと思うぞ?」
「そうね、恭也の言うとおり。私たちが一緒に歌いたいくらいだもの。」
ふりむくとフィアッセがたっていた。
「でもイチはあれ以上のことできるわよねぇ。私は聞いたことがあるんだからごまかせないわよ。」
「...ここであれをやらせるんですか?フィアッセさん。」
「Of Course!きっともりあがるよ〜!」
そういってフィアッセはイチを強引にステージのに引き戻す。そうなるとイチも力で抵抗する気はないらしく、おとなしく引きずられていく。その後姿に漂う少しばかりの哀愁に、恭也は自分を重ねずにはいられなかった。
暫くしてステージ上にイチが上がると、
「すいませんけどみなさん、もし聞き苦しいようでしたら言ってくださいね。」
と妙なことを言い出す。フィアッセ以外の全員が頭上にはてなマークを浮かべながらイチを見ていると、曲が流れ出す。
「あ、これって...『君よ、優しい風になれ』だよね?フィー。」
とステージ上のイチを熱のこもった目で見つめながらフィアッセに声をかける。
「そう。私の曲の中でもお気に入りなんだよ。ゆうひとの思い出と関係ある曲でもあるよ。」
「そやったなぁ...でもイチ君歌えるんか?この曲かなり音が...」
「まあ聞いててみてよ。きっと二人ともびっくりするから。ほら...」
肩を並べ〜君と歩く〜夕焼けの道で〜
『え?』
フィアッセ以外の心の声が見事に一致する。みんな一斉にフィアッセに眼を向け、そしてすぐにステージ上の青年に眼を向け信じられないものでも見ているかのように唖然とする。
「「...これってどういうこと(や)?フィー(フィアッセ)。」」
耳の肥えたCSSの二人が図らずも同じタイミングで声を上げる。それに対してフィアッセはいたずらが成功したような満足そうな笑顔で、
「ん?なぁに?二人とも。」
「なぁに?じゃないわよ、フィー...この声って...」
「うん。フィアッセの声や...」
マイクを通してスピーカーから流れてくる声は間違いなくフィアッセのものだった。それこそ歌い方から息継ぎのタイミングまですべてがフィアッセそのものだ。
「...ねぇ、さくら。私の耳がおかしくなったんじゃないよね?」
「ええ、私の耳にもあなたの聞いているのと同じものが聞こえてるわよ。」
「恭也が友達って呼ぶくらいだから只者じゃないとは思ってたけど...ここまでってのはさすがに...」
「でも...すごいきれいな声よ...本物と大差ないくらいいつまでも聴いていたくなるような、澄んだ声...」
すっかり酒を空ける手が止まってしまったさくらと次に自分が歌う曲を探していた手が止まってしまった忍がステージ上で歌うイチをみて深く息をつく。
翠屋店内のところどころで似たような会話が交わされる中、曲は最後のサビの部分に差し掛かろうかというところになる。するとステージ上にはいつの間にかマイクを持ったCSSの三人がイチを囲むようにして一緒に歌いだしていた。その中でイチは急に歌うのをやめると一呼吸おくようなそぶりを見せる。そして最後のサビのところで顔を上げて、また歌いだした。
一人ずつ〜それぞれが〜歩き〜だす〜、だから〜もう今からは〜泣かな〜いで〜
四人の声のハーモニーが翠屋全体に響き渡る。みんながその歌に酔いしれる中、恭也と美由希がそれに気づく。
「「...ティオレさんの声がする?」」
少し離れた場所で同じことに気がついた二人は、ティオレが隠れているのかと店内を見回す。しかしやはり今ここにいる人間以外の気配はない。でも聞こえてくる歌にはたしかにティオレの声がする。もう一度恭也がステージをみると、なんとか歌い続けながらも驚いたようにイチをみる3人がいた。美由希が近寄ってきて恭也の考えと同じ事を口にする。
「...恭ちゃん...やっぱりこれって...」
「...イチ...なんだろうな...」
「...本当に何者なの?お兄ちゃんって...」
「さっきなのはにも聞かれたが...俺にもよくわからん...」
優しい風〜になれ〜
曲が終わる。
さすがにもう全員が最後のサビで起きた不思議な現象に気がついている。なにしろいきなり世紀の歌姫の声が入ってきたのだ。しかも最後はご丁寧にハモりまでいれている。聞いていた誰もがそのことについて4人に聞こうと身構えていたが、一番初めに声をあげたのはステージ上の3人の歌手たちだった。
「ちょっとちょっと!イチ君あれなにっ!?」
「そや!いきなり校長センセの声で歌いだしたりしてっ!」
「イチ君、ママの真似出来るなんてきいてなかったわよっ!?」
「いや...ちょっと落ち着いてくださいよ。僕だって3人入ってきたからどうしようかと思ったんですから。」
そしてそのやりとりでようやく事の成り行きが掴めたほかのメンバーが声を上げ始める。
「えぇ〜!あれってイチさんやったんかぁ!?」
「はじめのほうのフィアッセさんの声もやっぱりイチさんみたいだぜ!?」
「やっぱり〜!?桃子さんはじめ信じられなくてフィアッセが歌ってないかみちゃった!」
高町家の面々は素直に驚いている。
「...なあ、お前のアニキって本当に男か?」
「...そうだね、ボクよりも女っぽい声で歌ってたし...」
「本当にどうなってるんだ、イチ君って?」
「あんまりいうと斬られるっすよ、アニキに。あれはアニキの特技のようなもんす。セイタイモシャっていってたっけ?意味わかんないんすけどね。」
そういって笑ってるケイの言葉に納得しているリスティと耕介、それに新しい作品のアイデアが浮かんだのかニヤニヤしている真雪の、すっかり酔いがさめてしまった酒飲みたち。
「...あのさ、赤星君...」
「...なに?藤代...」
「...狼村くんってあんな人って想像できた?」
「いや、たぶん高町ですら掴みきれてないんだろうな、あの顔をみるかぎり。」
と珍しく驚きが顔に出ている恭也の方をみながら、もはや驚くこと意外にすることもなくなってしまった一般人二人。
「...ノエル、今の歌声どうだった?」
「声のことをおっしゃられているのでしたら始めの狼村様の声は最高値92%、フィアッセ様の声と一致していました。最後のティオレ様の声に関してはあの曲を歌ったデータがないので正確ではないですが、おそらく80%以上は確実ではないかと...」
「80%以上!?それってつまり声紋鑑定ですら判別出来るか出来ないかギリギリのラインあたりってこと!?そんなのってありえるの!?」
「少なくとも人間の聴覚でしたらほぼ確実に騙せるでしょうね。とんでもない人です。」
「......ノエルにもあんな感じの機能、つけてみようかな...」
いつの間にか脱線してマッドサイエンティストチックな事をつぶやき始める忍とおっ○いロケットとどちらが自分にとって害が少ないかを計算し始めるノエル。
そんなこんなで騒がしい翠屋店内を、イチはいまだに騒ぎ続ける歌姫たちをつれて恭也たちのところに戻る。
「どうだった?似てたかな?さすがにティオレ・クリステラはつらかったんだけど...」
「似てたなんてもんちゃんわ!本人でてきたんかおもてあせってもうたやん!」
「そうだよ!それに始めのフィーの声もっ!!イチ君ほんとに何者!?」
「...とまあ俺たちが答えるまでもないわけなんだが...フィアッセはコイツが自分のまねをするのは知ってたのか?」
「うん、オーストラリアに行ったときに目の前でやられたから...でもまさかママまで出来るなんて思ってなかったよ!」
「ほんとにすごかったよ、お兄ちゃん!どうやってるの、あれ?」
「ほかの人も出来るんですか?イチお兄ちゃん。」
と、戻ってきて一言感想を聞いただけでその場にいた全員が口々に声のことを話題に大盛り上がりを見せる。久遠はわからずにただ笑顔で拍手するのみだった。こういった場面では一番ありがたいのかもしれない。
「えーっと、僕は狼村一太郎以外の何者でもありません、アイリーンさん。それとどうやったかは...声帯模写ってやつだよ、美由希ちゃん。つまりなのはちゃん、ほかの人も出来ることは出来るよ。」
「...聖徳太子か?お前...って声帯模写?そんなことどうして出来るんだ?」
「狼村は忍の家系だからね。そういった訓練もあったりするよ。歌はないけどね。こっちは完全に趣味だから。」
「...ほとんどなんでもありだな...どこまで規格外になるつもりだ?お前は。」
「それにしたってなんでいきなりママの真似を?」
「なんでって...同じ声が二人になっちゃうからってだけで、誰でも良かったんですが...まあフィアッセさんの声からだと一番変えやすいのはやっぱりティオレ・クリステラだったりするんで。」
「やりやすかっただけかいな。でもな、イチ君。校長の声はここでは一部の人間が過敏に反応してまうからあんまやらんほうがいいよ。」
そういってそこに集まった人間に目配せするゆうひに神妙な面持ちでうなずく4人。
アイリーンとフィアッセ、そして最後には恭也と美由希も加わって全員でその理由(主に今までにやられてきたいたずら特集のようなもの)を力説すると、その甲斐あってか
「.........すいません、エレン・コナーズとかにしておくべきでした...考えがいたらず、不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした。」
と、勘違いなまでに恐縮しきって頭を下げるイチ。
それをみて今度は恭也たちがフォローをする羽目になり、そしてなんとか最後にはなんとか、
「つまりいたずら好きの人だから、声が聞こえるとなにかされるんではないかと体が反応してしまう、だからいきなりはびっくりするからやめてくれ。ということですか?」
「そうそう!そういうこと!ね、恭ちゃん?」
「ああ、はじめからお前だと分かっていれば、むしろあの歌に文句などつけようもない。」
「そやで〜。まあ、あんなことされるとうちらプロとしてはちょっと複雑やけどね。」
とティオレに対する正確な意見とイチの歌に対する評価のインプットに成功する。
「じゃあさ、イチ君。私の真似なんかも出来るのかな?」
「アイリーンさんですか?あんまり自身がないんですが...肩を並べ〜君と歩く〜夕焼けの道で〜 こんな感じですか?」
「わ〜、そっくり〜!イチお兄ちゃんすご〜い!」
「本当、でも力がたりないかな?」
「そうなんですよ。アイリーンさんは澄んだ声なのにパワーがあるんですけどさすがに両立が難しくって...普通の話し声ならなんとかなるんですが」
「ってそれは恭也君の声やんか、自分!」
「あ、あはは...一瞬恭ちゃんのほうみちゃった。」
「なのはもだよ〜。」
「じ、じゃあさ、イチ君。恭也の声でなんかかっこいい台詞言ってみてよ。」
「お、おいフィアッセ、何を!それにイチ、マイク取りに行くなっ!!」
恭也の制止も聞かずにステージでマイクを取るイチ。ついてきたアイリーンが
「は〜いみなさ〜ん。今からイチ君が恭也君の声で何かいってくれるそうですので、目を閉じて聞いてみてくださ〜い!」
それを聞いた誰とはいわない女性人が期待に胸を膨らませたような表情で目を閉じる。
恭也はフィアッセとゆうひに取り押さえられ、恨みがましい視線だけをイチに向ける。
それに対して、
「まあまあ、せっかく開いてくれたパーティーなんだから。今まで僕のこと忘れてた罰ゲームとでも思っといて。それより、えーと真雪さん。なにかいいのありませんか?」
「そうだな〜...おお〜!あるあるっ!漫画であいつをモデルにしたキャラの最後の決め台詞。」
そういってステージに歩み寄りイチに耳打ちする真雪。それを聞いてイチも少し顔を赤らめている。
「...確かにかっこいいですけど、かっこよすぎていってる僕もけっこう恥ずかしいかも...まぁ、いいか。んじゃ、いきます。」
そういって喉をかるく触るような仕草をするイチ。女性人の約半数は目を閉じ、あとは男性も含めてなにを言うのかと期待してステージに注目する。そしてイチが顔をあげてマイクに向けて声を発する。
「何があっても、誰が相手でも、お前は俺が守るっ!」
そして翠屋を静寂が包む。まさに完膚なきまでの静寂。
そしてその静寂を完膚なきまでに打ち破ったのは、声の本当の主の母だった。
「すごいわ〜、イチ君!まさに恭也そのものだったわよ〜!ああ〜、はやく恭也がそんな台詞を言うような相手を連れてきてくれないかしらねぇ〜!!!」
それが口火を切ったようにステージ上のイチに大喝采をおくる。
なんとかアンコールを断ってアイリーンと一緒に戻ってきたイチを始めに迎えたのは誰あろう先ほど物まねした声のご本人様であった。
「なんて事をしてしまったんだ、イチ。お前、現状を理解しているか?」
「僕が恭也の真似をして恭也のファンの皆さんにサービスした。そしてみなさん喜んでる。」
「ファンというのが何のことだか分からんが...ともかくそれだけじゃない。お前、このパーティーが全部記録されてるの、知っていたか?」
「うん、なのはちゃんがたまにチェックにいってたあれでしょ?」
「ではその映像がすべてティオレさんの元に送られるだろうということは?」
「...初耳だね。」
「最後だ。この中にとてつもなくデジタルに強く、編集などを朝飯前でこなしてしまう人間が複数いるということは?」
「...つまり、恭也がいいたいのは...」
「ああ、ほぼ間違いなく今の台詞も何かしら都合のいいように編集されてしまうということだ。」
「...恭也...」
「...なんだ...」
「...ごめん...結果的に仕返しがやりすぎになっちゃった...」
「...いや、まあ、いいさ。それに値するほど酷いことだとは思うし...被害はお前の方に主に行くはずだから...」
「なんで?僕なんかみたって恭也に比べればたいしたことないでしょ?」
(なにいってんのかな、恭也)
(こいつ、自覚がないのか?)
結果的に両方とも鈍感であることは疑いようもないのだが、今回にかぎってはゆうひは真雪と騒ぎにいってしまい、その場に残った美由希とフィアッセは先ほどの台詞でトリップ状態。アイリーンも間近で言われたため、イチを意識するように軽めのトリップ。なのはと久遠は睡魔で半分ダウン状態なため、今回は勘違いのままになってしまう。
「まぁ、いいか。もうなるようにしかならないよ。それより恭也、楽しかったんだけどそろそろお開きにしないと...」
そういってなのはたちに視線をうつす。
「そうだな。俺らも明日があるしな。」
そういって桃子のところに行き、進言する恭也。多少渋っている様子が見えたものの、なんとか納得してもらえたのかみんなが片付けを始める。
そうして翠屋を出た頃は、もう11時を回っていた。
「さすがになのちゃんはもうだめそうだなぁ」
「せやな、いつもなら9時にはもう寝てるもん」
とうつらうつらしているなのはをみて苦笑いを浮かべる晶とレン。
「すこし荷物が多いからな...家まで頑張ってくれ。」
そういってなのはに声をかける恭也。両手が荷物ですでに塞がっている。後ろにたっている美由希と桃子も同じ状態。晶とレンもそれぞれ恭也と美由希、桃子とフィアッセの荷物もかかえていて余裕がない。
真雪たち社会人組とアイリーンはこれから二次会らしく、先ほど分かれて駅のほうへむかった。アイリーンがすこし名残惜しそうにみていたが、イチの、今度は一緒に歌いましょう、発言に見ている人間が恥ずかしくなるくらいの満面の笑みで答え、上機嫌で歩いていった。
赤星と亜子、それにケイはそれぞれ帰宅路についた。ここでも亜子が名残惜しそうにしていたが、じゃあまた明日、といわれて思い直し帰っていった。
というわけで現在一番身軽なのは、今日の主賓ということで荷物もちを許されなかったイチであり、彼がなのはを放っておくことも、またありえなかった。
「なのはちゃん、ひさしぶりにおんぶさせてくれないかな?」
なのはが断りにくくするように、そして恭也が口を挟みにくくするように言葉を選ぶイチ。
案の定、なのはは、いいよね、といいたげな視線を恭也にむける。恭也は心の中で礼をいいつつ、
「イチがいってるんだ。してもらえ」
となのはをぶっきらぼうに後押しする。そうしてイチの背中に収まると、なのははすぐに寝息を立て始めた。
「ひさしぶりにって、お兄ちゃん、なのはをおんぶしたことなかったよね?」
いまさらながらに疑問をあげる美由希に恭也は呆れ顔で告げる。
「あのな、美由希。今のはイチが気を使ってくれたんだ。してあげようか?などといったらなのはは遠慮してしまうだろうし、俺も甘えるのは良くないといってしまう。だからどちらも封じる言葉を選んだわけだ。」
「え?そうなの?」
「いや、まあ...いいじゃない。なのはちゃんが眠たそうだったから甘やかしたくなっただけだよ。」
そういって笑うイチに向ける恭也の目は憧れのまなざしと少し似ているものがあった。
それを見透かしたように桃子が、
「そういったところを真似したかったのよね?恭也は」
と小声で恭也をからかい始める。
「だからイチ君の真似し始めたんでしょ?もっともイチ君のは何気ない優しさで恭也のは不器用な優しさって感じだけど。」
「え、そうなの、恭ちゃん?」
「本当、恭也?」
「まあ...な。なんとなく一臣さんみたいな雰囲気で...俺もああなりたかったんだが。」
「それはそれで恭也の良さだよ。」
と小声だったはずの会話にはいってくる当事者。
「不器用だということはまっすぐだと言う事。なにも恥じることはないでしょ?」
そういって恭也に微笑むと、それがいやおうにも視界に入る恭也のとなりを歩く美由希と桃子、フィアッセが頬を染めて俯く。まじめに言葉を聞く恭也かわりに声をあげたのは前を歩くレンと晶だった。
「ほえ〜、なんやイチさん、ほんまはおししょーより年上やないですか?」
「なんか哲学者みたいだし...大人って感じだよな。」
「そう?これでも結構子供っぽいところ、あったりするんだけどね。」
「へぇー?どんなです?」
「ふつうにゲームとか漫画、好きだし...」
とイチの子供っぽさ談義に花を咲かせているうちに、高町家に到着する。
「さあ、これからしばらくここがあなたの家よ。」
「そうだな。暫くよろしく頼む、イチ。」
「またよろしくね、お兄ちゃん。」
「よろしく、イチ君。」
「よろしくお願いします、イチさん!」
「イチさん、よろしくおねがいします〜。」
「イチお兄ちゃん、よろしくですぅ〜。」
背中のなのはまで起きて挨拶をする。それを聞いてなのはをおろしてあげると、
「はい、これからよろしくお願いします。」
と全員が通った敷居の中に最後にゆっくりと足を踏み入れる。
それを待っていたかのように全員が声をそろえる。
『おかえりなさい』
そしてイチは懐かしい顔とその新しい家族たちに戻って最初に言うべき言葉を笑顔で伝える。
「ただいま。」
つづく
あとがき
なんか勢いだけでここまでかきました。
ブリジット「長いです〜。このカラオケって意味あるです?」
まあそんなに重要ではないんだけど、高町家でパーティーっていったらお約束でしょ?
ブリジット「そうかもですけど...って声帯模写ってなんか意味あるですか?」
いまのところは...でも後にシリアス書いたりしたときにだすかもしれないから...
ブリジット「伏線はったですか?」
うん、一応不破をつかう「忍者」って設定だからなんかそれらしいものを...あとティオレさんだすのにもネタ仕込んどこうかな〜と
ブリジット「つまり使う予定はあるです?」
ええ、まあいまのところは...ってはい、書いたからには使いますから木刀納めてください。
ブリジット「あとはなにかありますか?」
えと、これでとりあえず再会編らしきものが終わりました。これからはイチを絡んだ日常をメインにしていくつもりですので、しばらくはまったりコメディー(?)らしきものが続きます。ブリジットもこの間にどこかで出す予定です。
ブリジット「わたしでるですか?もうちょっとででるですか?」
うん、まあいま構想中の日常編のネタがつきたら新しいの思いつくまでの繋ぎとして...
ブリジット「それはどういう意味ですか!?わたし便利な女ですか!?」
いえ、唯一話がある程度固まってるんでそういった意味で...けしてないがしろにしたわけではない。
ブリジット「...そですか。まあ登場の目処がAboutにでもついたのはいいことです。今回はこの辺でお別れしときましょうです。」
そうだね、それでは次はウィッグを取ってしまってからの学校での初日を予定してます。それでは。
ブリジット「バイバイです〜」
という訳で、新たな家族が加わった高町家。
美姫 「より一層、騒々しくなりそうね」
うんうん。
これから、どんな物語が繰り広げられるのかな。
美姫 「次回も楽しみね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」