『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




第十三話 −SHADOW OF SOMETHING THAT’S NOT WELCOMED

 

 

 

 

 

 

 

「にゃあ〜...どうしよう...」

 

部屋で一人ベッドに横になってため息をつくなのは。

その手には学校で渡されたプリントが握られている。

 

『一日授業参観のお知らせ』

 

明後日に控えた授業参観の案内だった。

なんでこんな時期にと思うようなプリントだが、なのはの通う聖祥の少々変わったシステムにより、夏休みをあと少しに控え、比較的休みの取りやすいこの時期に授業参観を行うシステムとなっている。

ほとんどの子供たちの親は有給をとって自分の子供を見に来ることができる。

この時期にやることによって最低でも親の片方は来れるため、他の学校のように仕事始めで親が両方とも休めずにこれないということを少なくし、親子間のコミュニケーションの活性化にも成功している、親にとってもありがたいシステムなのだ。

しかしどんな状況にも例外はあり、それがなのはだった。

去年こそ翠屋を松尾さんに任せてきたものの、今年は翠屋がタウン誌などで取り上げられたこともあって人気はうなぎのぼり。

恭也たちが手伝いにはいってもなんとかまわせるといったほどに忙しい日が多い。

 

「暑くなってきてお店も忙しいし...やっぱりお母さんは無理だよねぇ...」

 

そうつぶやいてベッドに顔をうずめる。

しばらくそうしてうなっていたが、やがて顔を上げると

 

「しょうがないよね、お母さんが忙しいのはいいことなんだから...」

 

と少し寂しそうに微笑むと、

 

「イチおにいちゃんにパソコン教えてもらお〜♪」

 

とわざと自分を盛り上げるようにいうと部屋を出てイチの使っている隣の部屋へと向かった。

 

「イチおにいちゃぁ〜ん、いいですかぁ〜?」

 

「ん、なのはちゃん。どうぞ〜」

 

イチが返事を返すとなのはがドアを開けて入ってきた。

イチは丁度ノート型のパソコンの設定を終わったところだった。

 

「わぁ〜♪イチおにいちゃん何それ、かわい〜♪」

 

なのはがイチの目の前におかれていたものを見て歓声をあげる。

そこには一昔前に元祖PCメーカーが出したシェル形デザインのノートパソコンのオレンジ色バージョンが置いてあった。

いつも教えてもらうときに使っていたのは比較的最近のパソコンだったが、大手メーカーが作った機能重視の無骨なものだった。

しかし今日はいつもの場所にそれが置かれている。

 

「ちょっとブリジットからパーツとかもらったから組んでみたんだ。なのはちゃん専用機〜♪」

 

といって席を開けるイチ。

なのはは嬉しそうに駆け寄って椅子に飛び乗るとそれを開いた。

その丸っこいデザインとオレンジと白の可愛らしいデザインに嬉しそうにそれをさわるなのは。

そんななのはにイチは優しい微笑をうかべながら

 

「それじゃあなのはちゃん、はじめようか?」

 

となのはの横に座ってコキコキと指を鳴らした。

それになのはは笑顔で頷いて見せたが、イチはそんななのはの見せたほんの少しの寂しさを見逃してはいなかった。

 

(さて...これは僕がどうにかするべきだろうな...)

 

 

 

 

 

 

 

 

「...という訳なんだけど晶、レンちゃん、何か知らない?」

 

パソコンレッスンが終わってなのはが寝静まったあと、風呂上りの晶とレンを見つけたイチは二人を自分の部屋に招きいれた。

 

「そういわれましても...晶なんかわかるか?」

 

「う〜ん...なのはちゃんが隠し事なんてめったにないからなぁ〜」

 

「たぶん家族の誰かに迷惑がかかると思って言い出せないようなことだと思うんだよね」

 

そういってイチはふと何かに気づいたような表情を浮かべると、

 

「ねぇ、去年のこの時期、何があったか思い出せる?たぶんなのはちゃんにとって大切なこと」

 

そういわれた二人は真剣に二人で去年の記憶を探っていく。

そして暫くして

 

「そういえば...」

 

とレンが声をあげた。

 

「それって学校行事?」

 

そう聞いたイチにレンは驚いたような顔をして

 

「なんでわかったんです?そうなんですよ。確かなのちゃんの学校の授業参観がこの時期だったような...」

 

そんなレンの呟きに晶が

 

「そうだ、それだよ!去年はなのちゃん、嬉しそうにプリント桃子さんにみせてた!」

 

と、やっと思い出したといった感じで声をあげた。

それを聞いたイチは大体納得がいったという感じで頷いている。

しかしそれに対して晶とレンは釈然としない顔をして、

 

「でもなんでなのちゃん今年はいってこーへんのやろ?」

 

「そうだよなぁ...去年はあんなに嬉しそうだったのに...」

 

「たぶんね、その日桃子さん翠屋休んで授業参観いったはずだから...店がその日すごい大変だったんじゃないの?」

 

それを聞いた二人ははっとした表情になって思い出した。

たしかに去年のその日、桃子が店を夕方まで休んでいたので松尾さんが一人で厨房に、フロアはフィアッセとバイトが一人だけ入っていた。

そしてそんな日に限って客入りが凄まじく、桃子がなのはを連れて店に戻ったとき、フィアッセとバイトの娘がいっぱいいっぱいの表情でへばっていた。

 

「桃子ちゃんの話だと松っちゃんも結構しんどそうだったらしいです」

 

そのあたりの経緯をイチに話した二人はそこで気づいたように

 

「そうか!それをなのちゃんが見てたんだとしたら...」

 

「うん。なのはちゃんは優しい子だから自分のせいで、と思っただろうね」

 

そんなイチの言葉に二人はそろって辛そうな顔をする。

そんな二人を少し微笑ましげ眺めながらイチはどうにかする手段を考え始める。

そうして程なく彼は一つの結論に達した。

 

「でもその前に...」

 

そうイチが小さく呟いたところで部屋がノックされた。

 

「イチ君、そろそろ鍛錬に出ようかと思うんだが...」

 

部屋を訪れたのは美沙斗だった。

晶がドアを開けると美沙斗は少し驚いたような表情で

 

「どうしたんだい?二人ともイチ君の部屋で」

 

と二人に問いかける。

そんな美沙斗に二人が言おうかいうまいか迷っていると

 

「すいません、すこし大事な話があるんで鍛錬の前にみんなをリビングに集めたいんですが」

 

とイチが少し真剣な表情で美沙斗に告げる。

その表情を見た美沙斗はそれだけで話の重要性を読み取り、

 

「分かった。美由希には私が声をかけてくるよ」

 

と微笑んだ。

イチはそれにたいしてお礼とともに軽く微笑み返す。

 

「ありがとうございます。じゃあレンちゃんは桃子さん、晶はフィアッセさんに声かけてきて。僕は恭也のところに行くから」

 

「りょうかいです〜」

 

「はい!」

 

二人は返事をして部屋を出て行った。

そしてイチと美沙斗もそれに続くようにそれぞれの担当に声をかけに行く。

程なくしてリビングには高町家の面々とフィアッセと一緒にいたアイリーンが集まった。

 

「で、鍛錬よりも優先させた用とはなんだ?」

 

全員そろって早々恭也が少し不満そうに声をあげる。

最近自分が成長しているのを頭でも体でもはっきり分かるようになった恭也は鍛錬したくてしょうがないらしい。

そしてそれは現在三人の師匠に恵まれている美由希にとっても同じらしく少々不満げに座っているが、それでもイチの召集となれば文句を言うわけには行かないといった感じだ。

逆に偶然その場に居合わせた格好のアイリーンは始め席をはずそうと玄関に向かったが、イチに

 

「アイリーンさんも力を貸していただけませんか?」

 

と頼まれて何の話なのか興味津々、イチに頼られて有頂天といった様子である。

そんな両極端な反応に少し笑みを浮かべると、イチは本題にはいった。

 

「あのですね、桃子さん。どうやら明後日、なのはちゃんの学校の授業参観日らしいんですよ」

 

「え?でも私そんなこときいてないわよ?」

 

「俺もなにも聞いてないな」

 

「わたしもだよ」

 

突然切り出された事実に高町一家は困惑する。

 

「本当なんですよ、師匠。イチさんがなのちゃんの様子がおかしいって言って調べてくれたんですから間違いないです」

 

「はい〜。それにフィアッセさんは去年の今頃のことで覚えてることがあるんとちゃいますか?」

 

あくまでもイチを持ち上げるような言い方をする晶と冷静に話をフィアッセにふるレン。

そんな二人の言葉を聞いてフィアッセと桃子は即座に思い出した。

 

「Oh!そうだったよ、桃子!去年それで桃子が抜けてバイトの娘のいなくて大変だったから覚えてる」

 

「そうね、私も帰ってきてあまりの混雑と目を回しかけたフィアッセと松っちゃんを思い出したわ」

 

「でもそれならなんでなのはちゃん今年は何にもいわないの?」

 

そんなアイリーンの当然とも言うべき質問をきっかけに、晶たちは先ほどまでのイチの部屋での会話をかいつまんで話した。

すると桃子がとても心苦しいといった表情で

 

「そうだったの...あのときのあれが...」

 

と呟いた。

フィアッセや恭也たちもそれを痛々しげに見つめる。

 

「しかしそうなると...少なくとも今年は桃子さんは行くべきではないね。なのはちゃんが余計に心苦しいだろう」

 

美沙斗も真剣にこの問題について意見を述べる。

 

「桃子さんには辛いだろうけど、今年は店に集中してもらわないと...」

 

そういいながら心配そうに桃子に視線を向ける美沙斗に、桃子は微笑み返して

 

「そうですね!そのほうが面白そうだし♪じゃあ誰がいく?」

 

とすっかりノリノリおねえさんに変貌を遂げる。

けっこう無理しているであろう桃子にこれ以上気を遣わせまいと、高町家の長兄長女が進行に移る。

 

「では誰がいくかだが...まず俺たちは明後日も学校が...」

 

「そんなもん休みよ!なのはの一大事でしょうが!」

 

多少カラ元気気味の桃子の台詞に恭也は一瞬気おされてしまうが、

 

「それが...俺は休むわけにはいかないんだ...その、普段の授業態度があれだと言われて呼び出しをくらってな...」

 

と申し訳なさそうに尻すぼみに言いよどむ。

 

「わ、私も明後日は古典の実力テストがあるから休めないや」

 

「なに、美由希も?まったく恭也といいこんなときに...といっても私も去年の翠屋メンバーだからいくわけにはいかないだろうし...」

 

「俺とレンは中学生だから問題外ですよ」

 

そういって次々にダウンしていくメンバー。

そんな中、美由希が

 

「かあさんは?かあさんならなのはの保護者で通じると思うんだけど...」

 

と美沙斗に話題を振ってみる。

恭也と桃子も

 

「そうだな。美沙斗さんならぴったりだ」

 

「美沙斗さん、お願いできませんか?」

 

とかなり乗り気で美沙斗を伺う。

しかし当の本人は本当に心苦しそうに

 

「すまないね。隊長から一応、すぐに動ける準備だけは怠らないように言われてるんだ。授業参観中になにかあったら去年の二の舞になりかねない」

 

と否定の言葉を口にする。

本当に申し訳なさそうな美沙斗を慌てて恭也と美由希が宥めていると、

 

「ねぇ、イチ君は?」

 

とアイリーンが軽く手を上げる。

その一言に全員の視線がイチのほうへ向く。

その視線を受けたイチはいつものように軽く微笑むと、

 

「ああ、僕はいくつもりだけど?」

 

となんでもないことかのように言う。

 

「イチ君、ちなみに学校での成績は?」

 

「え〜と...そんなに悪くなかったはずですが」

 

「悪くないなんてもんじゃないぞ。英語、数学、古典、日本史は学年トップクラスだ」

 

「たしか学年平均でいつも二十位内にいるって忍さんと亜子さんがいってた気がする」

 

意外なイチの成績に桃子は唖然として

 

「なんでイチ君恭也と同じような生活おくってるのにそこまで成績が違うのよ?」

 

と恭也にチクチクといやみをいう。

恭也は居心地悪そうにイチに

 

「しかしイチ、授業参観にいくことがそんなに大切か?なのはなら事情を話せば分からないわけがないと思うのだが」

 

と話をそらしてみる。

すると晶とレンが

 

「でも師匠、それでもなのちゃんが寂しそうなのは事実みたいですし」

 

「それにやっぱりきてくれたらうれしいもんですよ」

 

とすこし真剣に恭也に意見する。

 

「やっぱり周りの友達とか羨ましくなるだろうね。自分だけと思うと寂しくもなるだろうし」

と美沙斗も同意すると、恭也もなのはに寂しい思いはさせられないと思ったのか

 

「それではイチ、頼めるか?」

 

と改まる。

それに対してイチは軽く頷くと

 

「いや、むしろ僕が行く許可をもらおうと思ってたんだけどね」

 

と苦笑してみせる。

 

「でも美沙斗さんなら都合がつくかもとおもって一応全員に確認を取ろうと集まってもらったんだ...桃子さんは僕がいってもいいですか?」

 

「それはもうっ♪来年はバイト増やして私がいくから今年はお願いね♪」

 

「あ、じゃあ私もいったほうがいいよね?車出せるし」

 

「ええ、お願いしようと思ってましたから。ありがとうございます」

 

アイリーンが自分から言い出してくれたことに感謝するイチ。

正面からその微笑をみることになったアイリーンは不意打ちに顔を真っ赤にする。

そんなアイリーンをみたイチと恭也はアイリーンの体調が悪いのではないかと近寄って二人で心配そうに覗き込む。

結果アイリーンはますます顔を赤くしてしまい、フィアッセとレンが恭也を、美由希と晶がイチをそれぞれアイリーンから話す羽目になる。

そんな子供たちをみて桃子と美沙斗は楽しそうに微笑みあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

授業参観日当日の授業前、なのはは憂鬱そうに自分の机でため息を一つついた。

もう友達のほとんどは見に来た両親に手を振ったりしている。

そんなみんなを眺めながら

 

「あ〜あ、やっぱり羨ましいなぁ...」

 

と寂しそうにこぼす。

友達の何人かはなのはの家の事情を知っていて心配そうになのはを見ているが、それに対してなのはは苦笑いを浮かべて大丈夫と意思表示する。

やはり強がっているようにしか見えないなのはを友達は心配そうに眺めていたが、やがて後ろの列のほうからどよめきが聞こえてきた。

しかしすっかり意気消沈しているなのはは、それを確かめる気力すらないのか机に突っ伏している。

やがてどよめきはひそひそと話す声に変わり、

 

「ねぇ、あのきれいな外人さんだれかな?」

 

「それよりもその隣の男の人、かっこいいよね〜」

 

「誰の家族の人たちだろう?」

 

「はぁ〜、美男美女のカップルだよねぇ。うらやましいなぁ」

 

といったような声がなのはの耳にも届いてくる。

外人さんという言葉に一瞬フィアッセを連想したが、彼女は翠屋で忙しいはずだと言い聞かせ、自分には関係ないと机に伏せる。

しかしそのカップルのひそひそ話しはどんどん近づいてくる一方で、さすがのなのはも気になってきた。

そんな時、自分の隣の席の女の子が

 

「ねぇ、あの男の人、なのはちゃんの見送りに来てる人だよね?」

 

と話しかけてきた。

それを聞いた瞬間、なのはの頭には恭也が浮かんだのだが、

 

「違うと思うよ。授業参観のこと知らないはずだし、お兄ちゃんは学校にいるはずだもん」

 

と振り返ることなくその子に返事を返す。

しかしその子は

 

「恭也さんじゃないよ!恭也さんならうちのクラスの女の子は殆ど知ってるもん!間違えるはずないよ」

 

と不思議なことをいった。

恭也のことは、考えてみれば翠屋にきたことがある子なら殆どが知っているはずである。

それならば考えられる人物は二人、赤星かイチ。

しかし誰にも言っていないはずなのだから来れるわけがない。

そんな風に多少捻くれていると、すぐ後ろから

 

「あの女の人、もしかしてアイリーン・ノア?」

 

と知り合いの名前が聞こえてきた。

驚いて振り返るとそこにはたしかにアイリーンが、いつもよりも少し女性らしい服で来ていた。

 

「アイリーンさん!?」

 

なのはが驚いて声をあげるとクラス中の視線がなのはに集まる。

しかしそんなことはもはやなのはにはたいしたことではない。

なぜならアイリーンの隣で自分に微笑みかけている顔を見てしまったから。

 

「イチおにいちゃん!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の授業が終わり、それぞれがそれぞれの親のところに向かう中、なのはは一目散にイチとアイリーンのところへ向かった。

 

「イチおにいちゃん!」

 

「や!なのはちゃん、驚いた?」

 

目の前まで駆け寄ってきたなのはに悪戯っぽい笑みを浮かべるイチ。

 

「なんでいるんですか!?それよりなんでわかったんですか!?」

 

なのはは何がなんだか分かってないようだった。

そんななのはにアイリーンが一昨日に夜の話を聞かせる。

 

「そんなわけで結局一番初めに気づいたイチ君と、車を出せる私が今回は来たって訳」

 

「にゃ〜、ばれてたんですか〜」

 

事情をしったなのはは申し訳なさそうに俯く。

そんななのはを見たイチは、視線をなのはと同じ高さまで持っていくようにかがむと、

 

「いやぁ、特殊な授業参観だってきいたから見てみたくてね。アイリーンさんに頼んで車だしてもらったんだ。きちゃまずかったかな?」

 

と微笑む。

なのははすっかり舞い上がってしまい、なんとか首を横に振って意思表示する。

それを見たイチは嬉しそうに笑って

 

「そっか。ありがとう、なのはちゃん」

 

と頭を撫でる。

本来ならばお礼を言うべきなのは自分のはずなのだが、頭を撫でてもらうのが嬉しくてなのははそれも忘れて気持ちよさそうに目を細めている。

そんななのはを羨ましそうな複雑な表情でみるアイリーン。

ほのぼのとした空間が形成されかけたその時

 

「...なのは、そろそろ私たちにも紹介してくれないかな?」

 

と周りをいつの間にか取り囲んでいたクラスメートたちの声が響いた。

なのははごめんといいながら、てへっ、といった感じで舌を出して謝る。

 

「わたしは翠屋のウェイトレスのフィアッセの友達のアイリーン・ノアです。一応歌手やってま〜す♪」

 

とアイリーンは少し子供っぽく挨拶する。

何人かのませた男の子たちと、お父さんたちほぼ全員がそれに見惚れる。

逆に女の子たちとお母さんたちはその場にいる超がつくほどの有名人に言葉もないらしい。

そしてイチも

 

「なのはちゃんのお兄さんの友人で、狼村一太郎といいます。高町家に居候させてもらてます」

 

と律儀に挨拶する。微笑みとセットで。

そしてそれを見てしまった女子生徒とお母さんたちは、アイリーンのときの男と同じく撃沈した。

その場の九割以上(アイリーンとなのはも含み)が顔を赤くしているその状況の異様さをイチが一人首をかしげて見ていると、復活してきたなのはが

 

「イチおにいちゃん、あんまり笑顔をふりまかないほうがいいとおもいます」

 

とイチを困ったような顔でみる。

そんななのはをイチは不思議そうに見ながら

 

「え、なんで?笑顔は会話の基本って誰か言ってなかったっけ?」

 

と軽く天然ボケの入ってそうな回答をする。

そんなイチになのはと、復活したアイリーンが困ったような視線を向けていると、後ろにいた女の子たちの一人が

 

「あ、あの!今日は最後までいられるんですかっ!?」

 

とかなり気合の入った様子で(緊張しているだけなのだが)イチとアイリーンに聞いてきた。

二人ともそのつもりだと返答すると、教室内は嬉しそうな歓声で埋め尽くされる。

二人が顔を見合わせてきょとんとしていると

 

「うちの学校は見に来た父兄も授業に参加するんです。それで今日は音楽と体育があります」

 

と学級委員っぽい女の子が、顔を赤らめながらも勤めて平静を装いながら教えてくれる。

つまりアイリーンの歌とイチがスポーツするところが両方みれることを喜んでいるらしい。

もっとも二人はそんなことに気づいてもいないが。

それを聞いたアイリーンは嬉しそうに

 

「それじゃあ私も歌っていいの?」

 

となのはに聞く。

それに肯定の返事をなのはが返すとアイリーンは

 

「やったぁ〜!イチ君、一緒に歌お〜♪」

 

とイチの手を握って飛び跳ねる。

歌うことが何より好きなアイリーンだけに我を忘れて喜んでいるようだ。

それと同時に男性からイチへの殺気が飛ばされたことも補足しておく。

 

「ちなみに今日の体育の授業って?」

 

「え〜っと、バスケットボールです」

 

「ふ〜ん...まあそれなら恥はかかないですむか」

 

なのはとイチがそんな会話をしているとき、その場の男たちの腹は決まった。

 

『絶対恥じをかかせてやるっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてまずは音楽の授業。

これがはっきり言ってまったく授業にならなかった。

理由は簡単、父兄よりも先生が緊張していたからである。

 

「な、なんであのアイリーン・ノアがこんなところにっ!?」

 

とパニックを起こした音楽教師をイチがなだめにいってしまったためにトドメをさす結果になってしまい、授業がどうなったかというと...

 

「じゃあ今日は私の突発ライブだぁ〜!!!」

 

『イエーーーーーーー!!!!!!!!!!』

 

「んじゃあイチ君、CSSの曲でいくから上、よろしくね?」

 

「...下にしてください...こんなところで物まねやらす気ですか...」

 

「イチおにいちゃん頑張ってください!」

 

といった感じで授業時間丸々使った音楽室でのアカペラライブに早代わり。

途中でなんとか立ち直った音楽教師が授業をやるかと思いきや、ピアノで伴奏を始めてしまい、子供たちの授業は完全になくなってしまった。

まあ誰からも不満が出なかったことと、通りかかった校長が不問にしたことが何よりの救いであった。

 

 

 

 

 

 

 

体育の授業は父兄自主参加でバスケットボール。

アイリーンをみた体育教師(24歳独身)が、かなりはりきって自分の参加を宣言した。

自主参加ならとはじめ参加を拒否したイチだったが、アイリーンとなのは、それに女子生徒とお母さんたちの説得を受け、しぶしぶコートに立つことになった。

それによって殺気、もといやる気の増した男たちは、若いのだからとイチをなのはたち女子生徒のチームにいれ、徹底的に負かす作戦に出た。

しかし...

 

「なのはちゃん、こっち...ナイスパス!...すずかちゃん、シュート!...よし、すごいすごい!」

 

といったふうに暑くなった男たちを全く気にしていないといった感じでチームの女の子たちに公平にボールが回るように気を配っている。

女の子たちもちゃんとボールが回ってくるのと、イチが笑顔を向けてくれるのが嬉しくて楽しそうにプレイしている。

しかしアイリーンとなのはは目立たないようにしているイチがお気に召さないらしい。

しかも試合自体はかなりの点差がつき始めている。

女の子たちも疲れてきたのか結構へばっている子が出始める。

 

「はぁ〜、イチおにいちゃん、疲れましたぁ〜」

 

やがてなのはの足も止まる。

それをみた体育教師は、

 

「お、疲れたらコートから出て休んでいいぞ!」

 

と生徒に声をかける。

しかし試合は続けるつもりらしい。

今やコート上には体育教師チームの大人3人(二人は生徒でもう抜けた)に対してイチ一人。

正直こうなると授業は関係なくなってるんじゃないかと思う。

実際体育教師チームはイチに恥をかかすことしか考えてないらしい。

体育教師本人にいたってはアイリーンにいいところを見せようとしているだけだ。

お母さんたちから沸き起こるブーイングの中、それでもめげないあほな大人たちはイチに勝負を挑む。

 

「もうこれ授業じゃありませんよ、先生?生徒みんな休んじゃってますもん」

 

そういって苦笑するイチに教師は聖職者でありながら

 

「いや、これから試合の見本を見せるんだ。青年は若いんだから一人で頑張ってくれよ?」

 

と明らかにうそ臭い理由をでっち上げて見せた。

それにイチ本人は苦笑いを浮かべていたが、アイリーンはその言い草が気に食わなかったらしい。

 

「ちょっとイチ君!いつまで遠慮してんの!戦ったら勝つもんなんでしょ、貴方たちは!」

 

御神の名前を出さなかったあたりは冷静だったらしい。

しかしそれを聞いてなのはにも火がついたらしく、

 

「イチおにいちゃん、負けないでくださーい!」

 

と声をだして応援し始めた。

そしてそれにつられるかのようにすっかりファンクラブ化したなのはチームのメンバーもあわせて応援し始める。

やがてまわりにもイチが一人で三人の相手をするらしいと知れ渡り、試合中のほかのコートからも声援が届き始める。

それをきいたイチは、やれやれといった風に肩をすくめると

 

「期待には、応えないといけないよね」

 

と挑戦的な笑みを浮かべる。

なんだかんだでノリがいいのは恭也とイチの一番の相違点だ。

そしてそのあとは、分かりきった展開が待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「イチおにいちゃん凄かったです!かっこよかったー!」

 

「そうねぇ!今日は色々とラッキーだったかも♪」

 

「そう?ありがとう、二人とも」

 

そんな会話を帰りの車の中でする三人。

結局バスケットボールは多少本気になったイチの圧勝に終わった。

最後はフリースローラインからリバースダンクなどという離れ業まで決めて見せて、なのはのクラスの女性関係者を根こそぎおとしてしまった。

晶とレンに始めてあったときの野球といい、結構勝負事にはノるタイプの人間らしい。

そんな他愛もない話をしていると、なのはが突然改まって

 

「イチおにいちゃん、アイリーンさん、今日はありがとうございました」

 

と頭を下げた。

そんななのはをびっくりしてみていた二人だったが、やがて顔を見合わせると笑い出してしまう。

 

「にゃ、にゃ〜、何で笑うんですか!?」

 

不満げに頬を膨らますなのはを見てイチは

 

「ククッ、だってなのはちゃんの仕草が恭也にそっくりなんだもん!」

 

といってまた笑い出す。

アイリーンは車の運転が覚束なくなるほど大笑いしている。

そんな二人をみてなのはもついに笑い出してしまった。

おそらく帰ったら色々と聞かれるのだろうなのはは、それならば精々二人の大活躍を一杯話そうと心に誓い、今は自分のためにスキャンダルを二の次に来てくれた姉的存在の友人と、学校をサボってくれた自分にとってもう一人の兄であり、同時に兄というだけではない二人に感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

イチたちがアイリーンの車で翠屋に向かっていた丁度その頃、美沙斗は高町家で緊急の連絡を受けていた。

 

「美沙斗、もしかしたら動いてもらうかもしれない」

 

そういって連絡してきたのは香港警防の隊長。

すこし焦ったような口調から、なにか突発的な事態が起きたと推測する美沙斗。

 

「そちらに、戻りますか?」

 

そう聞く美沙斗の口調には、やはり帰りたくないという気持ちが含まれていた。

そんな気持ちを感じ取ったのか、隊長は電話越しにくすっと笑うと

 

「いや、君にはそのままそこにいてもらいたい。というよりおそらく連中が向かう先はそこだろう」

 

「どういうことですか?」

 

「君はアメリカのギャングやマフィアといった連中を影で束ねている組織のうわさを聞いたことがあるかい?」

 

「ええ、噂だけでしたら...」

 

「詳しいことはまだ確認中のためいえないが、どうやらその組織の中に十数年前アジア各地やヨーロッパ諸国での人身売買とその業者の殺人事件に関わっていた人間がいるらしいんだ。その人物が、今度は組織の任務とは別に動いているらしい」

 

「...そしてその人物が海鳴に来る可能性がある、と?」

 

「ああ。その人物がかなりの策士らしくてね、なにかよからぬ動きがあるのではないかと」

 

「...それだけではありませんね?」

 

「...すまないが今は言うことができない。動くと決まったわけでもないし、こちらとしては何か的確な情報がない限り事件がなくては動けないからね」

 

「それではとりあえずは現状維持、でよろしいですか?」

 

「ああ、あと万が一動いてきた場合、相手が相手だけにかなりの人員が敵本拠に向かう可能性がある。大変心苦しいのだが、そのときは高町恭也と狼村一太郎にも協力を仰ぎたい」

 

美沙斗は二人の名前が出てきたことに一瞬驚くが

 

「隊長らしくありませんね、一般人の彼らに協力を仰ぐなんて」

 

と勤めて冷静に返す。

そんな美沙斗の少々トゲがある言い方に隊長は電話越しにすこし言いよどむと

 

「わかってはいるよ...でも今回は噂が本当なら僕たちの戦力では問題が生じる可能性があるんだ」

 

と真剣に、辛そうに言葉をつむぎだす。

 

「了解しました。その際は隊長から事情説明を受けた後、二人に協力を仰ぐといった形でよろしいですか?」

 

「ああ、おねがいするよ。それでは」

 

そういって電話がきれたあとも美沙斗は暫くその場で立ち尽くしていた。

 

「せっかくの娘との休暇だというのに...やはり不破に関わればおのずとこうなる、か」

 

そういって美沙斗はすこし寂しそうに窓の外をみるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

ついに動かしました!

それはそうと今回のメインストーリーは今までで一番本編と関係がないでしょう

というのもこの話、物語を動かすためのつなぎが主な役割ですので

メインを晶にしようかなのはにしようか迷ったんですが、結局なのはを選びました

理由はつい最近なのはの誕生日だったから...

つなぎの役割となのはの誕生日SSといった要素を合わせ待たせてみました

そして物語は動き出しました

クロスしている作品は...まあ分かる人にはバレバレですねw

分からない人は...私のHNがなんとなくヒントですwww

それでは、ここから先は予告どおりのクロスものとしてお楽しみください

次回でまたお会いしましょう

     

     





授業参観で大活躍のイチ。
美姫 「アイリーンも有名人なんだから…」
まあまあ。ともあれ、なのはは満足だったみたいだし、良かった良かった。
美姫 「とも言ってられないような状況が」
さてさて、一体どうなるののやら。
美姫 「次回も待っていますね〜」



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ