『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




第十四話 −PHANTOM OF HEART BEAT

 

 

 

 

 

 

 

なんであんなのが好きになったんだろう、美緒。

この学校美形ぞろいなんだからもっといいひといるでしょうが!

高町先輩、かっこいいわよねぇ〜、なんかあのクールな人が翠屋で微笑んでるの見るとそれだけで今日一日幸せでしたって思っちゃう。

赤星先輩もいいわぁ〜、なんか年上なのにどっちかって言うと可愛いって感じで。

でも剣道部の主将でめちゃくちゃ強いから守ってくれそう♪

狼村先輩だって魅力的よねぇ、なんかいつも凄く優しそうに微笑んでるところとか、なんか大人の男って感じがするのよね。

最近まで鬘かぶって隠れるように生活してたらしいから殆どみんなノーマークだし♪

一年の狼村先輩の弟もワイルドな感じでちょっと悪そうだけどそこがたまらないのよねぇ。

しかもこの四人、なにかと女の子に囲まれてるのに彼女がいるような素振りが全くないし。

美緒もどうせ好きになるならもっといい人がこんなにいるのに、なんでよりよってアイツなんだ?

まあたしかにアイツは帰国子女で見た目はそこそこ悪くないかもしれない。

成績だって悪いわけではないし、悪いやつではないことくらいあたしにもわかる。

でも、それでもアイツはなんか違う気がする。

授業中もぼーっとしてることが多いし、っていうかあたしの知る限りいつでもぼーっとしてるわ、アイツは!

そんなちょっと顔がいいだけの冴えないやつを美緒が好きになるなんて...

 

「ってやめやめっ!なんかあたしが嫉妬してるみたいじゃない、あほらしい!」

 

「なにがアホです?早苗」

 

「え、は、ええぇーーーー!!!!」

 

自分の頭の中に自分でつっこんでいたところを聞かれてしまったらしい。

 

「な、な〜んでもないわよ、ブリジット。それより早く行かないでいいの?狼村先輩、今日は高町先輩と掃除当番のはずだから今頃女の子に囲まれてるかもよ?」

 

「そうですね、あのお二人は自分のことをなにもわかっていません」

 

「あなたもよ、ケイト。狼村弟君、今日野球部の練習でしょ?あっちは剣道部と違ってうるさくないから今頃ファンの女の子に差し入れのひとつでももらってるんじゃない?」

 

恥ずかしいところを見られてしまったという気持ちと、先ほどの自分に対する否定から、早苗は二人の外国人転校生にあわててそう言い、話をそらす。

しかしその効果は思った以上にあったらしく、二人は顔を見合わせると、

 

「それじゃあケイト、ケイをとられないように頑張るですよ」

 

「ブリジットのほうこそ、ライバルはそちらのほうが手強い方たちばかりなのですから」

 

と互いの健闘を祈って走り出してしまった。

それを自分でけしかけたとはいえ唖然と見送ると、

 

「はぁ〜、まああたしも親友の恋のための用事を済ませにいきますか」

 

と目の前の教室に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(やれやれ、また早苗か...)

 

吾妻玲二は自分の背後から息を潜めて近づいてくる気配にすでに気がついていた。

思えばもう何ヶ月になるだろう。

記憶を消され、命じられるまま、生きる為に人を殺してきた自分が、めぐりめぐって生まれ育った故郷の地で学生として生活している。

この国ではもう人を殺す必要もなく、またまわりにいる人間もそういった命のやり取りとは無縁の生活を、ただ流されるように送っている。

そんな中に逃げ込んで手に入れたこのつかの間の日常にいつまでも浸っていたかったのだが、どうやらこの学友はそれすら許してくれる気はないらしい。

どうやらいつものように背中からどやしつける魂胆らしく、相手は間合いをつめてくる。

もう背中を鞄で叩かれるタイミングまで把握してしまっている玲二は、

 

「玲二!たったまま寝るなぁ!!!」

 

といういつもの早苗の声に律儀に飛び跳ねて驚いてみせると、早苗は首をきょとんと傾げ、

 

「どしたの?またボーっと空見上げて。電波でも受信してた?」

 

の顔を覗き込んできた。

その少年のような無邪気な顔は、明らかに悪戯の成功を喜んでいる顔だった。

玲二はため息を一つつくと、いつもと同じように

 

「やめろよな...心臓止まったらどうすんだよ」

 

と不満をいってみる。

それに対して心臓マッサージをやってみたかったとのたまう早苗を見ながら、玲二はそんなやり取りの中に自分がなくしてしまったものを取り戻せているような錯覚にとらわれ自嘲する。

そんな玲二をいぶかしげに見ながら早苗は思い出したように

 

「それより玲二、ちょっと相談したいことがあるのよ」

 

となにかたくらんでいるような笑みを見せた。

そんな早苗に

 

「また英語の歌詞か?そんなら憧れの狼村先輩にでも聞いてこいよ。ブリジットに頼めば彼女だってやってくれるだろうし」

 

といやそうな口調で断ろうとする玲二。

狼村先輩といわれて一瞬言葉に詰まった早苗だったが、今回はそれどころではないと思い直し

 

「今日はそんなんじゃないわよ。あんたにとってもいい話なんだから嬉しそうにしなさい」

 

と話の軌道修正になんとか成功する。

玲二は早苗の性格をそれなりに分かっているつもりだ。

悪戯好きで噂好き、お節介も大好きな彼女が持ってくる話が自分にとっていいものであるとはどうしても思い切れない。

 

「...とりあえずどんな話か聞かせろ」

 

「それにはまず、屋上にきてほしいのよね」

 

多少冷たく言い放ってみるがまったく気にすることなく、あまつさえ玲二はついてくるものとばかりに先に足を勧めていってしまう早苗。

一瞬逃げてやろうかと思い立ったが、それでは明日会ったとき何を言われるか分かったものではないと思い直し、

 

「ここは言われたとおりについていくか」

 

と小さく呟くと、玲二は先をズンズンと歩いていく早苗の背中を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

早苗につれられて玲二が屋上に行くと、そこには一人だけ先客がいた。

玲二もその子には見覚えがある。

なんとか思い出そうとしていると早苗が

 

「美緒!」

 

といつもの大声でその子を振り向かせる。

緊張気味で、どこかすくみ上がってしまっているかのような彼女は

 

「あの、早苗ちゃん......やっぱり私......」

 

とすこし居心地悪そうにしている。

 

「あー聞こえない聞こえない。あたしもう何も見えないし聞こえないからね。じゃ、サヨナラ」

 

そんな友人をその場に残し、早苗は高笑いとともに逃げるようにその場を去る。

あとに残された玲二と少女は、ぎくしゃくした雰囲気のなかでお互い沈黙してしまっている。

どうやらこの少女が自分に用があるらしいと気づいた玲二は

 

「えっと、君はたしか...」

 

と現状を打破するべく口を開く。

 

「エレンの友達、だったよね。藤原さんだっけ?」

 

「藤枝です」

 

慌てたように訂正した彼女は、すぐに慌てたことを恥じるようにまた言葉を詰まらせてしまう。

 

「......藤枝、美緒といいます」

 

名前を聞いて玲二はその子が自分の“双子の妹のエレン”の親友と紹介されたことを思い出す。

当たり障りのないところから、早苗とも知り合いだったのか、と確認したところ、どうやら一年のときに同じクラスだったらしい。

それはさぞかし苦労しただろうと思いをすこし巡らせた玲二だったが、すぐに思い出したように自分に何の様かを尋ねる。

そわそわと視線を彷徨わせて言葉を捜す彼女からどうにか自分に聞きたいことがあるらしいことを確認すると、玲二は

 

「何か、エレンのことで相談があるとか?」

 

と現状での二人の一番強い接点をあげてみる。

エレンの素性などに対して彼女が疑問などを抱き始めたのではないかと内心すこしひやひやしていた玲二だったが

 

「いえ、違うんです」

 

といった彼女の言葉にひとまずほっとする。

 

「あの、伺いたいのは...玲二さんのことなんです」

 

「俺の?」

 

「はい......」

 

表面上は笑顔を浮かべていた玲二だったが、心の中では緊張が走る。

自分について何か知ってしまったのかと身構えた玲二だったが、美緒は

 

「玲二さん、今......好きな人っていますか?」

 

と玲二の予想だにしていなかった言葉を紡ぎだした。

 

「でも、私なんかじゃ、駄目......ですよね」

 

緊張が解けてゆく中、彼女は視線を床に向けて今にも泣き出しそうだった。

一般的な男なら、この状況は喜ぶべきもの以外のなんでもない。

しかし玲二は身分を隠して潜伏生活をおくる身である。

他人から必要以上に関心を引いてしまうのは、それこそ命取りになりかねない。

沈黙が二人にのしかかり、玲二が返答に苦しんでいると、その沈黙は意外な形で破られた。

 

「美緒?どうしたの?こんなところで?」

 

状況を全く理解していない者といった悪気のない仕草で、エレンが首を傾げていた。

 

「それに、誰と話してるかと思えば...兄さん、美緒に何か用?」

 

「いや...ああ.........お前こそなんでここに?」

 

吾妻エレン。玲二の双子の妹ということになっている彼女。

実は玲二と同じく組織の暗殺者だった。

玲二と二人で組織から脱走し、今学期の頭から風芽丘高校の二年生として潜伏している。

 

「美緒を探してたのよ。翠屋でシュークリーム食べたくなったから誘おうと思って。ね、行かない?」

 

そんな無邪気ともいえるエレンに、美緒は少しだけ表情を歪ませると

 

「私.........今日は、いいわ。ちょっと用事があるから」

 

と言い残し、逃げるようにそそくさと屋上をあとにした。

 

「たいへんだったわね」

 

まるでスイッチが切り替わるかのように笑顔を消すエレン。

 

「...見てたのか?」

 

「気付かなかった?鈍ったわね、玲二」

 

「ここじゃ、日頃から神経尖らせてる必要なんてないしな」

 

「...で、どうするつもり?あの子」

 

玲二の台詞にすこし考える素振りをみせたエレンだったが、やがて確信をしっかりとついてくる。

 

「やっぱり、まずい...よな」

 

そういって考え込む玲二に、エレンは

 

「そうでもないわ。むしろ好都合なのよ、彼女の気持ち」

 

と平然と言ってのける。

 

「...どういうことだ?」

 

エレンの言葉に玲二はなにか打算的なものを感じながらも、とりあえず知っていることを聞くことにする。

 

「歩きながら話すわ」

 

エレンはそういって背中を向けると、いつもの、校舎の隅のほうにある小さな礼拝堂を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

道々聞いた話は玲二にとって衝撃的なものだった。

藤枝美緒は実は広域暴力団・梧桐組の組長の娘。

それは玲二にとっても因縁浅からぬ話である。

二年前、組織を抜けるきっかけともなった事件の中心人物、梧桐大輔。

その男は自分が殺したといってもいい人物であった。

つまり藤枝美緒は梧桐大輔の実の妹であり、そしてそのことをひた隠しにしている現状において梧桐組の最大の弱点なのだ。

その事実を隠していたエレンは、やはり彼女を巻き込みたくなかったというのが本音のような気がする。

玲二としても、なにも知らない彼女を利用するのは間違っていると思っていた。

やがて礼拝堂に到着し、エレンは告悔を始める。

 

「あなたには思い出してほしくなかった。できることならいつまでも忘れていてほしかった。昔のことなんて」

 

故郷の日本で玲二の心が裸になっていく。

そんな話をしていたときにエレンがいったこの一言は、玲二の中に染み渡っていった。

助けると誓ったこの娘を置き去りにして、自分はまた一人で勝手に安らぎを見つけてしまったのではないか、と思い悩む。

 

「藤枝さんのところに、いってあげて」

 

突然思考の海から引き上げるようにエレンは玲二に声をかける。

 

「残酷よ、放っておくのは...」

 

そういわれた玲二は、とりあえず行動に移ることにした。

 

「なんて返事をすればいいのかわからないけど...とりあえず、探しにいってくる」

 

そうエレンに告げると、彼女はすこしだけ微笑んだような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったくもう、せっかく骨折ってお膳立てしてあげたってのに、なんであんたはそぅ要領悪いの!?」

 

美緒を探して校内をうろついていた玲二は、目の前にある教室から流れ出る聞き覚えのある声に立ち止まって中の様子を窺った。

そこには探していた人物と、できれば会いたくなかった人物が一人。

 

「ただ打ち合せ通りにやりゃあ良かったのよ。『好きです彼氏になりなさい』って二言、あとは首締めてでも頷かせてオシマイ!...所要時間5秒よ。電撃作戦なのよ告白は!なぁにをモタモタしてたわけ!?」

 

「...でも、わたし、やっぱり駄目」

 

そういって俯く美緒を強引に説得する早苗。

とても見ていられなくなり、玲二は話の腰を折ることにした。

 

「早苗!」

 

突然呼ばれて振り返り、玲二の姿を確認する二人。

しかし早苗はすぐに立ち直ると

 

「ちょぉぉど良かったわ。吾妻!!これからあんたを探しに行こうと思ってたのよ」

 

と玲二に指を突きつける。

 

「見つかったんだから、気は済んだだろ。藤枝さんと話がある。消えてくれ」

 

「へ?あ、あぁら、そぉ」

 

予想外の反応だったのか、早苗はごまかすように笑顔を作ると、なにやら“ドロン”がどうとか不可解な言葉を残して教室から逃げるように出て行った。

しかししっかりと美緒に発破はかけていたらしい。

玲二の背中越しに何かを見ていた美緒が困惑した表情を浮かべていた。

 

「藤枝さん...あのな」

 

「......はい」

 

ここまできて玲二は自分がなんの返事も用意していなかったことに気付く。

しかし状況はすでに進んでいて後戻りは出来ない。

なんとか相手を傷つけずに、と思っていると、昔よんだ漫画のフレーズが浮かんでくる。

 

(たしかに彼女は利用価値がある。しかしそんなことは絶対にしたくない。かといってこの場で拒絶してしまえば彼女は深く傷つくだろう...ありふれていてどうかとも思うが、しかたない)

 

「.........」

 

「気持ちは、本当に嬉しいんだけど...」

 

そこまでいっただけで美緒は極端に落胆の表情をみせる。

どうやら断られることを前提に身構えているらしい。

実際玲二もぎりぎりまで断る気でいた。

しかし用意した返事は拒絶ではなかった。

 

「俺、藤枝さんのこと、エレンの友達ってくらいにしかしらないんだよね」

 

思い人の口から紡ぎだされる、自分の予想とは少し違う返事に美緒はきょとんとした表情を浮かべる。

 

「だから、さ、本当にガキっぽくて呆れるかもしれないけど...君を知る時間を、くれないか?」

 

「......それって、つまり...」

 

「...ああ、在り来たりな台詞だと...お友達から始めさせてください、ってことかな」

 

そういって恥ずかしそうに頬を掻いた玲二だったが、目の前の美緒が、すとんっ、と糸の切れたマリオネットのように座り込んでしまったのをみて慌てて駆け寄る。

 

「藤枝さん!大丈夫か?」

 

「へ?あ、はい...なんか緊張の糸が切れてしまったみたいで...」

 

そういって微笑む美緒に、ひとまず安心した玲二は、ほっと息をついたあと、

 

「それで、出来れば返事をもらいたいんだけど」

 

と先ほどとは立場を逆転させる。

そんな玲二に、美緒は

 

「...駄目だとばかり思ってましたから...少しでも私に可能性があるなら...ぜひ、よろしくおねがいします」

 

といって微笑んで見せた。

 

 

 


あとがき

 

というわけで13話の最後で気付いた人も多いと思いますが、

PHANTOM OF INFERNOとのクロスでした!

実はこの作品、結構思い入れ深くて...

実はこれと月姫に出会ってなかったら私はここにいなかったってくらいです

それくらいこの作品は自分の中のそれまでの18禁ゲームの価値観を壊してくれたものです

大まかな設定は作品どおりですが、少々とらハと関わらせるのでいじります

どういじるかは楽しみにしててください

それでは、次回でまたお会いしましょう♪

    

  




ファントムから登場〜。
美姫 「さてさて、前回の不穏な動きと合わせて、どんな事態が起こるのかしらね」
楽しみにでもあり、怖くもある。
美姫 「ファントムと不破が手を組む事はあるのかしら」
それとも、敵対するのか!?
美姫 「その辺りも楽しみよね」
一体、どうなるのか。
美姫 「次回以降も楽しみに待っています〜」
ではでは。



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