『TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜』
第二十一話 −FALL OF TRICKMASTER−
「……お兄ちゃん!ねぇ、返事してっ!お兄ちゃん!!!」
血の海に沈む男に向かって叫び続ける美由希。
その瞳からはもう涙が止め処なく溢れている。
「……なぜだ?俺より強いはずなのに、なぜこんなことに……」
義妹が叫び続けている相手を唖然とした表情で見つめる恭也。
普段の冷静さなどまるでない、混乱した表情を浮かべてただ呆然と立ち尽くす。
「恭也先輩、まだちゃんと息はある!早く病院に連絡してくれ!」
叫び続ける美由希を押しのけて冷静に状態を確認する玲二。
「かなりの数の銃創だが致命傷にはなっていない!だが出血が多い!はやくしてくれ!掛かりつけのHGSの医者がいただろう!?」
そしてエレンは、同じ場所に倒れているもう一人の少女を確認する。
おそらく美由希と同じ年くらいのショートカットの少女。服装や所持品から察するに、間違いなくサイス直属の、アインと同じ調整された兵士なのだろう。
「こっちの娘もとりあえず生きてるわよ。無数の刀傷と腹部への一刺し、どれも致命傷じゃないわ。でもこっちも放っておいたらじきに出血多量ね」
淡々と話しながら、それでも何処となくその口調には当惑が感じられる。
「それで、どうする?この娘は」
エレンが立ち直りつつある恭也に指示を仰ぐと、それに対して低い位置から弱々しい返事が返ってきた。
「エ、エレン……、そ、その娘を……殺し……駄目」
「お兄ちゃん!?ねぇ、お兄ちゃん!?しっかりして!?」
一言発したきりでまた苦しそうに呼吸を繰り返す。
弱々しくもはっきりとエレンにかけたその言葉を、エレンはしっかりと受け取る。
「恭也先輩、フィリス・矢沢に早く。重症二人って」
「ああ、分かっている」
そういって携帯電話をポケットから取り出し、コールする。
一言二言はなしただけで、フィリスはリスティとも連絡を取って二人でテレポートしてきた。
「何がどうなってるんだ、恭也!」
「リスティ!今は早く二人を病院に!!!」
飛んできて早々恭也に掴みかかったリスティだったが、妹の言葉に我に返るとすぐに二人を連れて病院へとテレポートする。
「なにが、なにがどうなっているんだ、イチ……」
再会して以来いつもとなりで笑って問いかけに答えていたその存在は、恭也の隣にはいなかった。
病院内にあるフィリスの部屋に集まったのは、恭也たち当事者とブリジット、ケイト、そしてケイ。
イチともう一人の少女は現在、となりの部屋で意識の回復を待っている状態だ。
「……とりあえず、イチ君もあの女の子も、手術は成功しましたので、あとは意識が戻るのを待つだけです。血液が足りるかどうか心配だったんですが、ブリジットさんのおかげでどうにかなりましたし。有難う御座います、ブリジットさん」
フィリスの礼に、弱々しく微笑んでみせるブリジット。無理をしているのが丸分かりだ。
「それで……」
明らかに苛立っている口調で口を開いたのはケイだった。
「なんでアニキがこんなことになってんだ、あ!?説明しろよ!?」
「ケイ!落ち着いてください!お願いだから、落ち着いて……」
完全に頭に血が上ってしまっているケイを、ケイトが泣きそうな表情で押さえにかかる。
その顔をみてケイはバツが悪そうに俯くと、
「悪いっす。アニキがどういった人間かは分かってるんすけど、ただ何でこうなったのかが……」
「気にしないでくれ。君からしてみれば当然のことだ」
恭也はそう言ってケイの顔を上げさせる。
「謝罪は私からしなければならないだろう。許して貰えるなどとはおもわないが……」
「美沙斗さん!?」
声のしたほうを振り向くと、そこにはインフェルノ本隊のほうに取り掛かっているはずの美沙斗がリスティと一緒に立っていた。
「ボクがつれてきたんだ。話をしたらどうしてもっていうから」
そういってぐったりと椅子に腰を下ろすリスティ。
連続的な力の使用で、もう体力は限界なのだろう。
美沙斗はケイたちの前に立つと、深々と頭を下げて謝罪し、そして今回のすべてを話し始めた。
「なるほど、つまりマフィア達の元締めの所の最高の暗殺部隊を相手にこの人数で戦ってたってわけか」
「ああ、正確には美由希にも詳しい話はしていなかったはずだから、事実上四人だ」
「へっ、まったくアニキらしいぜ。人のため、人のためって肝心の自分は二の次、三の次だ」
何処となく誇らしげな表情のケイを、訝しげに見つめる他のメンバー。
するとケイはその視線に気付いたのか、
「アニキはいつだってまわりの人間を最優先にするんだ。あの人が助かればいい、あの人が笑えればいい、ってな。それで無茶して目を……」
「……まってくれ。イチの目がどうしたって言うんだ?」
ケイの何気ない一言に恭也は困惑する。そしてそれは他の皆もほぼ同様だ。
しかし美沙斗だけは、心苦しそうに唇を噛んでいた。
「……かあさん、知ってたの?」
美沙斗の表情の変化にいち早く気付いた美由希は美沙斗を問いただす。
恭也や玲二、エレンたちもみんな美沙斗に目を向けていた。
「実は、もう少ししたら戻ってきてイチ君を止めるつもりだったんだ」
美沙斗は重々しく口を開いた。
その場の皆は、ただ黙って美沙斗の言葉に耳を傾ける。
「イチ君の戦闘中の不可解な行動と不可解な過去。香港警防の総力をあげて探ってみたら行き着いたんだ。結論から言おう。イチ君は剣士として恭也以上のハンデを背負っている」
「…………え?」
意味が分からないといったような声をあげる恭也。
「なんで?お兄ちゃんは私にも恭ちゃんにも鍛錬じゃ勝ち越してるし、かあさんにだって勝ってるんだよ?」
美由希もわけが分からないといった表情だ。
他の者にいたっては、イチが鍛錬とはいえこの三人に勝っていたという事実のほうが信じられずに唖然としている。
「それはとりあえず後だ。ケイ君」
「あ、はい」
「イチ君は一年間、オーストラリアで目の療養期間があったね?」
「…………はい」
暫く沈黙した後に短く一言で返事を返したケイ。イチに口止めされていたのか、その表情は浮かない。
「彼が一学年遅れているのは書類ミスではなかったんだ。イチ君は自転車に引かれかけた男の子を庇ってその前に飛び込み、そして運悪くその自転車のハンドルで目を強打してしまったらしい。なんとか視力は戻ったらしいのだが、両目とも極度の集中に長時間耐えられないらしく、もって十五分ほどが限界らしい」
そこで恭也はようやく合点がいったというふうに声をあげる。
「そうか、イチが目を瞑ったまま戦闘していたのは、純粋に時間の限界があるからだったのか」
「いや、もちろん挑発の意味もあっただろうけどね。それよりも問題は神速なんだよ」
「……なるほど。そんな目では集中力を極限まで高める神速を何度も連発できない」
「そう、だからイチ君はいつも戦闘中の会話で限界が来る前に終らせるように私達に仕向けていたんだ」
そういわれて思い出す二人。
確かに美由希も恭也も話に乗せられて、イチのペースで試合っていた。
もはや完全に蚊帳の外になってしまっている玲二たちも、そのイチの秘密に呆然と聞き入っている。
「そう、彼は強いんじゃない。上手かっただけなんだ。そして、だね」
そういって美沙斗は一呼吸おくと、言葉を繋げる。
「イチ君は御神の剣士。この認識はおそらく間違っている」
美沙斗が発した一言は、他の誰よりも恭也と美由希の耳に深く残る。
皆言葉もでない状況で、美沙斗は話を進めていく。
「彼は確かに一臣に連れられて御神にやってきた。そしてあの事件の後、兄さんが彼を一臣から引き継いでいる。しかしだ。おかしいとは思わないか?恭也よりも遅く始め、恭也よりも短い鍛錬期間で、彼はどうやって恭也を超えたというんだ」
そういって恭也をみる美沙斗。
しかし恭也は何かを否定するように、
「で、でも!イチが俺以上の才能の持ち主なら……」
「それはありえないよ、恭也。彼は確かに凄い才能の持ち主だけど、恭也、君は確実にその上をいっているんだ。なにせかあさんが明言してたんだから。不破の次期当主は恭也だ、って」
「なっ!?俺が、次期当主ですって!?それじゃあ……、それじゃあイチの存在はなんだったんですか!?次期当主の教育係、乗り越えるべき壁としてのイチは!?」
「そのとおりだよ。だから彼はいつも君の周りにいただろう?でも壁というのは多分彼が作り上げた嘘だ。彼はね、君のために御神にきたんだよ」
「……恭ちゃんの、ため?」
美由希が首をかしげて恭也をみる。
恭也も、何を言われているのかわからないといった表情で美沙斗を見ている。
そんな中、ブリジットがポツリと一言呟いた。
「親友、ですね」
「……親友?」
合点がいかないといった表情の恭也だったが、ブリジットは美沙斗に、
「イチは恭也の友達、親友になるために貴方達の家にいったんじゃないです?」
「……君は彼のことをよくわかっているようだね。そのとおりだ。彼は一臣への恩返しとして、御神の正統後継者候補である恭也の友人として生きていくことを選んだんだ」
そうして美沙斗は一呼吸おくと、その視線をまた恭也に向ける。
「恭也はあの頃、同年代の人間を極端に避けていたからね。一人でも友人がいれば心も軽くなるというのに……。そんな話を一臣がイチ君にしたら、彼が言い出したそうだ。僕、その子なら友達になれそう、って」
「ボクのほうでも調べてみたんだけどね、どうしてもイチが一臣って人に会うまでのことに関しては調べが及ばないんだ。おそらく恭也となら、といったのもその頃の何かが原因なんだと思うんだけど……」
申し訳なさそうにいうリスティだったが、恭也はそんなリスティに、
「いえ、それはアイツがいずれはなしてくれるでしょう。勝手に首を突っ込んでいい問題でもなさそうですし」
と先ほどまでよりしっかりした調子でかえす。
「少し話がそれたね。イチ君が御神の剣士ではないだろう、ということなんだが……。恭也、彼は今まで君や美由希とまともに刃を交えたこと、なかったんじゃないか?」
「ええ、アイツはいつも本当に必要最低限しか……!そうか!」
「え?でもそれってお兄ちゃんの戦い方なんじゃないの?そうやって相手を苛立たせるって……」
誰よりも術中にはまっていた美由希が声をあげるが、恭也には合点がいったらしい。
「つまり、イチは知識として御神の、いえ、不破の剣を知ってはいるが使いこなせているわけじゃない。そういうこと、なんですか?」
「そのとおりだよ、恭也。推測でしかないが……。打ち合いになってしまえば力量の差が歴然としてしまう。おそらく彼はそうやって隠していたんだ。自分が不破の剣士ではなく、狼牙の忍者だということを」
「でも、なんでっすか?なんでアニキはそうまでして……」
「そこまでは分からないよ。現時点でいえるのは、イチ君は忍びとしては超一流かもしれないが、不破の使い手としては一流どまり。彼に不破の剣士としての力を求めてしまったら、それは彼の命を縮めることに繋がってしまう。だから……」
「今更それはないでしょう、美沙斗さん……」
美沙斗が言葉を最後まで口にする前に、そういいながら体を引きずって奥の部屋から出てくる影。
体中包帯だらけになっているその影は、今までの話題の中心人物でもあり、そして現在は意識不明で寝ているはずのイチだった。
「イチ君!貴方寝てなくちゃ駄目じゃないですか!」
「さっきまでちゃんと寝てましたよ」
フィリスの医者としての言葉に軽口で応じるイチ。
「それにどうやら話さないといけないこともあるみたいだし」
そういってドアの横の壁にもたれかかるイチ。
しかしそこに恭也とブリジットがすぐに駆け寄る。
「分かった。話しは聞かせてもらうから、とりあえずベッドに戻ってくれ」
「そうです!まったくどんなに心配させたかと思ったらすぐこれです!」
二人の後ろからどんどん詰め寄ってくるほかの皆をみて、イチは肩をすくめると、
「わかったよ。とりあえずベッドに戻るからさ……、肩かしてくんない?恭也」
といって恭也にいつものように微笑んで見せた。
「さてと、たぶん美沙斗さんが殆ど話したと思うからその辺りは省かせて貰うよ」
ベッドで上半身だけ起こした状態のまま、イチは話しだした。
「僕のこの髪の毛なんだけどね、これ前にも言ったかもしれないけど精神的なストレスから色が抜け落ちちゃったんだ。それでね、そのストレスっていうのが……恭也、君は今不安と安堵、そして怒りと喜びを抱いているね?」
突然イチがなんの脈絡もなく言い出した言葉に、皆が少なからず困惑する中、
「皆も大体一緒かな?割合はそれぞれ異なってるけど……あ、困惑してる」
と皆を見渡してそんなことを口にするイチ。
皆何がなんだか分からないといった感じの中、リスティとフィリスが真っ先に気がついた。
「まさか、イチ君……」
「君、心が読めるのかい?」
HGSである二人の言葉に皆がまた絶句する中、イチは寂しそうに微笑むと、
「そんなに強力ではありませんよ。僕に視えるのは色だけですから。感情がね、色になって皆の周りに視えるんです」
「色、ですか……」
「まあボクたちの似たような力であることに変わりはないね」
「初めは意味が分からなくてただまわりの人たちの色をその人たちに言って回ったりもしていました。親も含めて……。それであるとき気付いたんですよ。嬉しそうなときは皆黄色、怒っているときは赤、みたいに感情と色が繋がっていることに。そして……まわりからの僕に対する感情がある一色に染まっているのを視てしまったとき……」
「分かった。もういい、イチ」
いつも微笑んでいるイチの辛そうな表情に耐えられなくなってしまった恭也がイチを止める。
リスティとフィリスも、自分達の通ってきた道をもっと幼いときに経験していた少年に共感して表情を暗くする。
恭也の言葉に少しだけ微笑んだイチは、その先に話を進めた。
「そうして自暴自棄気味になってたときに一臣さんが現れたんだ。僕の力を知っても、心を読まれるくらい日常茶飯事だよ、って笑ってくれて、凄く嬉しくて……。それで恭也のことを聞いたとき、そんな一臣さんの家の人なら友達になれる気がして頼み込んだんだ。僕をその子の友達にしてください、って」
一気にそこまで話すと、イチは深く一息はく。
その様子を心配するブリジットと美由希に軽く微笑んで見せると、イチは話しを続ける。
「不破の剣のことに関しては美沙斗さんの言うとおり。僕は技の知識もあるし、手本は見せられるけど、完全には殆ど使いこなせない。出来るのは士郎さんが叩き込んでくれた薙旋と雷徹くらいなんだ。僕は高め合う者ではなく、教材として不破の剣を持ったんだ」
「なるほどね。確かに君の技は一貫して綺麗ではある。手本にはもってこいだ」
美沙斗の言葉にイチは嬉しそうに微笑む。
「そういってもらえれば僕も一臣さんに顔向けできますよ。でもその後は本来ならやってはいけなかった。僕は高め合うものとして僕を必要としてくれる恭也の期待に応えようとしてしまったんです。そして本来ならば御神の使い手としては教科書程度で、しかも欠陥品の僕がそうするには、皆を騙して自分をイメージ上で強く植えつけるしかなかった」
「……つまり、俺と美由希は初めてお前と試合う前、美由希が一緒に鍛錬しようと持ちかけたときからずっと騙されていたわけか」
憮然とした表情で静かに言葉をつむぎだす恭也。
イチはそれを寂しそうに見ながらも、
「そうだよ。それに薫さんと耕介さん、美沙斗さんにエレンと玲二もね」
とすべての真実を告げる。
「え、俺達もか?」
唐突なイチの言葉に玲二は少々素っ頓狂な声をあげる。
エレンも軽く首を傾げて、なぜ?といった視線をイチに向けている。
「恭也の強さが皆の基準だったから、恭也一人を騙せればあとは恭也がすべて広めてくれるでしょ?イチは俺より強い、って」
イチのその言葉にエレンたちは皆、何か思い当たったように軽く表情を見張る。
「エレンは新月と神速の合わせ技を一度見せただけで信用してくれたし、美沙斗さんだって僕を御神不破流を使う剣士として見ていたからこそ僕はそのに付け入った。でもね、一番謝らないといけない相手は美由希ちゃんなんだ。僕の力不足のカモフラージュと恭也を信じ込ませるための手段として利用しちゃったんだから。美由希ちゃんが剣士としてショックを受けるだろうって分かってたのに……」
そういって辛そうに美由希に目を向けるイチ。
「君がお兄ちゃんと呼んでくれる人間は、こんなに卑怯で嘘吐きで、そのくせ肝心なときに役にも立たない男なんだよ。本当に、ごめんね」
そこまで言って顔を伏せるイチ。
そして俯いたままくぐもった声で、
「僕はね、あの日以来初め、人間が怖かった。でも一臣さんに会って、恭也や美由希ちゃんと会って、今度は見捨てられるのが怖くなったんだ。またとおさんやかあさんみたいに僕にあの色を向けられるのが怖くて……。だから狼村の声帯模写もマスターして、歌も唄って、料理も出来るようになって、ゲームだってやって、漫画だって見て……、一人でも多くの人に僕の存在を認めて欲しくて、一人でも多くの人に僕の周りで笑っていて欲しくて……、そして強くなろうとしたんだ。僕の周りで笑ってくれる人たちを守れるように。それが、一臣さんが僕に残してくれた本当の形見だから」
今までの懺悔のごとく言葉を重ねるイチ。
その自嘲するような微笑が痛々しくて見ていられなくなったとき、金髪の少女がイチにそっと近づいて頭を抱え込んだ。
「もう、いいんです、イチ。イチは頑張ったです、好きな人たちを騙してまで頑張ったです。だから……」
目に涙を浮かべながら静かにイチを抱え込んだブリジットは、そういってあやす様にイチの頭を撫でる。
「だからいつものイチに戻ってください。いつも笑ってて、いつも意地悪で嘘吐きで、でもいつも優しくて強いイチに……あれ?イチっていつもこんなでしたです?」
慈愛に満ちた聖母のような台詞の後に、しっかりとボケてくれる金髪ポニーテール。
皆が肩透かしをくらった様に呆れていると、ブリジットの胸元から小さな笑い声が漏れた。
見ると、イチが笑っていた。目に涙を浮かべながら。
「まあ、いいんじゃねぇか?そうじゃなきゃアニキらしくねーよ」
そういって笑い出したケイにつられる様に、皆も小さく笑い出した。
「そうですね。イチは剣士ではなく忍者。侍ではなく詐欺師ですから」
安心したのか言葉がいつもより辛辣なケイト。しかし顔はちゃんと笑っている。
「まあ、君は完璧すぎるから何かあるとは思ってたけど……なかなかいいじゃないか。その弱さゆえの強さみたいな矛盾も」
「そうですね。誰かさんに結構似てる気がしますよ」
そういって微笑むのは、おそらくイチの気持ちを一番理解出来るであろうリスティとフィリス。
「一杯食わされたってわけだな、俺達」
「そうね。でもここまで綺麗に騙されると逆に感心してしまうわ」
と肩をすくめる玲二とエレン。感心してしまうといいながらもエレンはどこか悔しそうだ。
「そうだね。君はやはり忍者としてのほうが向いているよ。ぜひ弓華に合わせたいな」
美沙斗も楽しそうに微笑む。頭の中では忍者としてのイチとの再戦を考えているのか、目は戦士の目になっていたりするが。
そして……、
「お兄ちゃんの嘘はいつも誰かを護るときや誰かの為につく嘘だから……。でもこれで私でもお兄ちゃんに勝てるかもしてないね、恭ちゃん?」
「なにを戯けた事を……。今までどおりなら確かに分があるかもしれんが、忍者として戦われたら完全に騙しあいを仕掛けられるぞ?そうしたら馬鹿正直なお前は格好のカモだな」
「うぅ〜、ちょっとくらい夢見させてくれたっていいじゃない。恭ちゃんだって騙しあいじゃ不利でしょ?……で、ブリジットさん?いつまでそうしてるのかなぁ?」
「え?あ、いえ、なんか役得かなぁ、なんて……」
「そろそろ視線が痛いから離してくれないかな?」
どさくさにまぎれてイチの頭を胸に抱え込みっぱなしだったブリジットを、見かねた美由希が刺々しく指摘する。
イチにも言われて渋々イチからはなれる、かと思いきやそのまま横に座るブリジット。
なにも言わないイチをみて、美由希は複雑そうな顔をしながらも引き下がる。
「イチ、今まですまなかったな。とおさんがいなくなってから初めて頼れる相手を見つけて嬉しくて、結果的にお前に無理させてしまった」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。私達のせいで無理させちゃって」
「こっちこそ、騙してて本当にごめん。でも、出来ればこれからも戦力としてはあてにして欲しい」
「なにいってるんですか、イチ君!?貴方危うく失血死しかけたんですよ!?」
イチの台詞にフィリスは信じられないといった口調で怒鳴る。
「傷は全部銃創でしたから、なんとかなりますよ。それに戦力ってのは戦うだけじゃないですから」
「……そうね。正直イチ先輩の頭はマスターを出し抜く武器としてほしいところよ」
「そうだな。頭脳戦の得意な奴なら策もなくいくのは危険すぎる」
そういってフィリスを見るエレンと恭也。
その視線に晒されたフィリスは、暫くして盛大にため息をつくと、
「はぁ、分かりました。でも無理は禁物ですよ?イチ君も神速つかうのには制限かかってるんですから、くれぐれも戦闘は駄目ですよ?」
そういって人差し指をイチの鼻先に突きつけるフィリス。
それに微笑みながら頷いてみせるイチをみて、フィリスは安心しながらも、どこか恭也に対する不安と同じようなものを感じる。
「それじゃあイチ、ここからが本題だ」
フィリスの視線が自分に向いたのを感じ取って、恭也は話を先に進めることにした。
「俺達と別れてから何があった?」
そういって視線を隣のベッドに横になっている少女に向ける恭也。
イチもそれに習うように視線を向けると、
「もうそろそろ起きてもいいんじゃない?」
と少女に話しかけた。
その言葉にケイたちは困惑し、恭也たちは臨戦態勢に入る。
しかしイチはいつもどおりの口調で、
「大丈夫だよ。君が何もしなければ此方もなにもする気はないから」
と優しげに話しかける。
すると、その少女はゆっくりと目を開けて、その視線をイチのほうに向けた。
その視線を受けてイチは微笑んで見せると、恭也たちに向き直った。
「みんな、僕はこの娘を……、この娘達を助けてあげたいんだ」
あとがき
ひさしぶりのHEARTBEATです、アインです
さてと、このお話、圧倒的にイチの台詞数多いし、登場回数も多いんですが、あくまでも最強はイチではありませんよ〜。どちらかというと最弱ですw
今回のお話で何となくわかりますが、まともに戦ったら美由希と良い勝負な感じが本当だったりします
え〜、なんだよそれ!と思った方は、是非戦隊物の六人目を想像してくださいw
ガオシルバーあたりとか、仲間になってから段々弱くなっていく典型でしたね♪そんな感じがイチだったりします
次のお話でなにがあったのかを語るわけですが、たぶんファントムとのクロス中、イチの戦闘シーンはあってもあと一回だけですね。ないかもしれませんけど……
ここから先は22話以降は恭也とファントムたちの時間になりそうです。
イチは作戦参謀wあえていうならばサイスとの頭脳戦をやりたいかも、なんてw
それではまたいずれ〜♪
意外な事実。
美姫 「でも、これはこれで面白そうね」
確かに、頭脳戦というのも、面白そうだな。
美姫 「一体、どうなるのかな」
そして、イチが助けたいといっている女の子は。
美姫 「次回も楽しみに待ってますね〜」
待ってます。