TRIANGLE HEART BEAT 〜三人目の『不破』の物語〜




第二十七話 −BREAKTHROUGH: HEART AND COMBINATION

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではフィリス先生、この館にいるスタッフの皆さんの事はお願いします」

 

「それは任せてください。イチ君のほうこそ無理はいけませんよ? 貴方は恭也君よりも危なっかしいから」

 

そういってまるで恭也に対しているときのように人差し指を立てるフィリス。

イチは苦笑いをこぼして返事を返し、それを聞いたフィリスはいまいち信用していないような視線をイチに向ける。

 

「フィーアさん、貴方のほうが圧倒的に軽傷なんですからいざという時は私が来るまでお願いしますよ?」

 

「分かっています。今の私にはこの人の言葉を信じる以外ありませんから」

 

フィーアにも、それでもくれぐれも無理はしないように念を押すフィリス。そして先ほどからフィーアのイチに対する態度にただならぬものを感じてなにやら面白くなさげに聞いていたブリジットに、

 

「ブリジット、貴方がどれだけ迅速に連絡してくれるかが二人の命に関わるんですからね? くれぐれも二人の事、頼みますよ?」

 

と言い残して病室を後にした。

フィリスの言葉にブリジットが気を引き締めなおすかのように頭を振った後、イチは二人に向き直る。

 

「さてと、それじゃ二人ともよろしくね?」

 

「わかっています。貴方のほうこそ……、よろしくお願いします」

 

「イチ、無理しちゃダメですよ? 怪我、治ってないですよね?」

 

「大丈夫だよ、二人とも。それよりブリジット、これ預かってて」

 

表情には表れているかいないかの差はあれど自分の事を心配してくれている二人に軽く微笑みかけると、イチは先ほどフィリスから渡された自分の忍者刀と小太刀をブリジットに差し出した。

突然の事に唖然としているブリジットは誘われるように二本の刀を受け取ろうと手を伸ばすが、フィーアが静かに二人の間にわってはいる。

 

「貴方は自分の武装を手放して何をする気なのですか? とても正気とは思えませんが」

 

「?! あ、そ、そうですよイチ! 二本ともボクが預かっちゃったらイチ戦えないです!」

 

フィーアの言葉にブリジットも我に返ったようにそういいながら刀を返そうとする。しかしイチはそれを受け取ろうとはせず、かわりに二人に真剣な眼差しを向けて語りだす。

 

「正直言うとね、今の僕の状態じゃろくに戦えないんだ。傷口は少しでも激しく動くと開いちゃうしね。フィーアと戦った時はそれでもまだ何とか直撃してないからよかったんだけど、最後の四発は流石に、ね」

 

「で、でもだからって……」

 

「僕はね、無駄な事はしたくないんだ。それにね、この状態だからこそ出来る戦い方もあるんだよ」

 

そんなイチの言葉に二人は首を傾げるばかりだったが、結局隣の部屋で待機して合図があれば飛び込むといった風に丸め込まれ、いまいち納得のいっていない様な表情で隣の部屋に身を潜めるためにイチを部屋に残した。

 

「……貴方はイチに対して好意を抱いていますか?」

 

部屋に入ると同時にフィーアはそうブリジットに問いかける。

何を言われたのか理解していないといった表情でフィーアの顔を見つめるブリジットを見て、フィーアはもう一度言い直すことにした。

 

「貴方はイチを愛していますか?」

 

「……な?!」

 

よりストレートな言い方で流石に理解できたのか、ブリジットは瞬間湯沸かし器の如く顔を真っ赤にしてフィーアを指差し、口をパクパクとさせている。

そんなブリジットの態度をみてフィーアは自分の知りたい事は分かったとばかりに軽く頷いて、

 

「そんなに敵意を出さずとも、私はイチに対して貴方と同じような感情は抱いていません」

 

と淡々と告げる。

 

「現在私にとって彼は恩人であり、そして道標です。ゆえに彼に倒れてもらう訳にはいきません。それだけの事です。言ってみれば歳が上の家族に対する情のようなものは、たしかにありますが、貴方のような恋愛感情はありません」

 

「……お父さんとかお兄さんみたいってことです?」

 

「兄、ですか……。立場上私に、いえ私達にとってはツヴァイがそれにあたりますが……、そうですね。そのようにとって頂いてかまわないと思います。ですからそんなに鋭い目付きで見ないでください」

 

「え?! そ、そんなボクは!……そ、その……ほんとです?」

 

恥ずかしそうに、しかしそれでも上目遣いに拗ねるような睨むような視線を向けるブリジットに、フィーアは軽く頷いて肯定する。それを見てブリジットはようやく先ほどまでの強めの視線を和らげ、フィーアに微笑みかける。

 

「それならいいです。それじゃ、イチにはお互いに生きてもらわないといけないですね?」

 

「ええ。連絡役、お任せします」

 

そう言うフィーアが、ブリジットには一瞬微笑んだように見えた。自分が愛しいと慕う男に前面の信頼を寄せ、兄のようと慕うフィーア。二人の間の奇妙な関係は、段々とその形を変えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……、そこのドアなら開いてるからどうぞ?」

 

フィーアとブリジットが隣の部屋に移ってから暫くして、イチは自分の病室のドアに向かってそう声を投げかけた。

ドアの向こうに少しの同様が走った後、ドアがゆっくりと開いてそこから銀髪の長い髪を長く伸ばした少女が入ってきた。

 

「狼村一太郎……、覚悟は出来ているのか?」

 

滲み出る憎しみを隠そうともせず、押し殺すような声でそう呟いた少女。イチはその少女を暫く見つめ、そして合点がいったとばかりに頷く。

 

「君はあの時僕を撃った娘の一人だね? そんなに僕に向かって殺気をぶつけてくるって事は君は……、ノインか」

 

「?! なぜお前が私を知っている!?」

 

「簡単だよ。あの時僕は最後までフィーアと話していたんだから。君の姿も確認してたしね。それよりもノイン、話を聞いてくれるかい?」

 

「……時間稼ぎには応じない」

 

「いいじゃない。このとおり僕は武装していないし、君に撃たれた傷は塞がってないから仮にここで戦っても僕が勝つ可能性なんてないに等しいでしょ?」

 

相変わらず笑顔でそういうイチを見てそれを死を覚悟したものの開き直りに近いものだと判断したノインは、暫く考えた後黙って頷き、そして壁にもたれかかった。

 

「いいだろう。お前の人生最後の日だ。望みを聞いてやる」

 

「ありがとう。それじゃあ話そうか。フィーアが望んでいた事について」

 

「! ……ねえさ、フィーアの、望み?」

 

イチの言葉にノインは今までと違って明らかな動揺を見せる。それはノインにとってやはりフィーアという存在が他のファントム達と比べて特別なものだったという事の現れだった。

そしてイチはそんなノインから視線を外すことなく、静かに語りだした。

 

「初めて僕がフィーアとあったのは君たちが玲二や恭也が女の子達と出かけてた日だった。君ももしかしたらみてるかもれないね。フィーアにぶつかった女性があの時僕が変装してた姿だったんだよ」

 

「……それで?」

 

内心の動揺を必死に隠しているノイン。わざと威圧するような声で先を促し、動揺を悟られまいと姿勢を直す振りをしながら息を吐く。

しかし感情の色がはっきりと視えてしまっているイチには何の意味もなさない。そんな行動すらただイチに視えている色の裏付けにしかならない。それを悟られないように、イチは調子を変えずに続ける。

 

「あの時の彼女が凄い辛そうだったからこっちから仕掛けるとき、わざと彼女を狙ったんだ。話を聞きたくてね。……やっぱり思ったとおりだった。君たちは完全な記憶消去も受けてなければ暗殺者としての徹底調教をされたわけでもないらしいね? それじゃあ今回の事をきっかけにでもしない限り、玲二みたいな暗殺者は出来ない。なにせ生きるために言う事を聞くしかないという意識しか君たちは持ってないんだから」

 

「だったらどうだというの? たしかにドライ以外の私達には自分に関する記憶以外は残っているし、暗殺者としての教育もここ数年にわたっての事。たしかにマスターは今回前のファントム達や高町恭也と私達を戦わせ、そして私達を次なる段階へと導くと言っていた」

 

「そうだよね。だからフィーアには迷いがあった。このまま言われるままに人を殺していていいんだろうか?ってね。君にはいっていなかったかな?」

 

問いかけられたノインは心当たりがあると言わんばかりに、今度は隠すこともせずその動揺を表情に表した。

 

「それに気付いて僕はフィーアに話を聞きにいったんだ。あの日ね。それで何とか説得しようとして、それで…………失敗した。いや、正確に言えばフィーアにとってその迷いから解放されることよりも大切な事があった。君に分かるかな?」

 

「…………教えてくれ。フィーアが、ねえさんはどうして……」

 

「君達だよ」

 

「……え?」

 

「だからね、フィーアはこう言ったんだ。自分と同じ立場で苦しみ、もがき、戦っている妹達を残して自分だけ救われるわけにはいかないって」

 

イチはそう言ってノインに軽く微笑みかける。しかしノインはそんなイチの表情にすら気付かす、暫く唖然としてその視線を虚空に彷徨わせた。そして……

 

「……? な、なんだ?……」

 

自分の頬をつたう液体の意味が分からずに戸惑うノイン。そんな感情など、そんなものなどとうに尽きたと思っていたものがまたこみ上げてきている。そしてそれを受け入れた時、ノインはイチにその濡れた瞳に怒りを宿して睨みつける。目の前の男がそこまで自分達を思ってくれていた姉を殺したんだ。そんな怒りでノインは今にも銃を抜きそうなくらい殺気を放っていた。

しかしイチはそんな視線を受けてなお、微笑みを崩さずにノインに問いかける。

 

「ノイン、僕からいうことはこれで最後だ。これが終ったら君の好きにすればいい。さて、君はもしフィーアが望んだら一緒にやり直す気は、救いを探す気はあるかい?」

 

「あたりまえだ! 私はねえさんに支えられて今まで生きてこれたんだ! もしねえさんがそう言ってくれていたら私は、……私は!」

 

怒気をはらんだ涙に濡れたその瞳でしっかりとイチを睨みながら、最後は言葉にならなくなるノイン。ついには腰のハンドガンに手を伸ばし、銃口をイチの額に押し付ける。しかしイチは全く動じる気配すらなく、むしろそれを満足げに眺める。そして眼前に迫ったノインに向かって悪戯っぽく微笑むと、

 

「だ、そうだよフィーア。よかったね」

 

と奥のドアに向かって声をかけた。

 

「え?」

 

ノインが何を言っているのか分からないといった表情でゆっくりと開くドアに目を向けるとそこには、

 

「ノイン。今の言葉、とても嬉しく思う」

 

ノインが今の今まで死んだものと思っていた姉、フィーアが立っていた。

そして……

 

「分かりました。ねえさんの決めた事なら、私はそれに従います。それでたとえインフェルノに追われる事になったとしても」

 

フィーアは今までの経緯をすべてノインに話し、そして自分で決めたこれからをノインに伝えた。先ほどの言葉のとおりすべてを受け入れたノインは、所在なさげにフィーアの横に立ち尽くしていた。なにしろ敵だったとはいえ殺しかけた相手とその相手を慕う女性が目の前にいるのである。

しかしイチはそんな事は機にした様子もなく、ノインに普通の調子でたずねる。

 

「てことは君一人でここ、もう一人が忍の家、そして学校に二人とサイスに一人。これで全員だったんだね?」

 

「は、はい。後は礼拝堂にドライ、そして……」

 

「高町家に梧桐組の人間、か?」

 

言いにくそうにするノインに代わり、フィーアが言葉を繋いだ。

本来ならば取り乱してもおかしくない状況だが、イチの笑顔は崩れない。

 

「大丈夫。高町家にはケイが行ってくれたから。相手が君たちレベルじゃない以上、問題はない。忍の所にしても、あそこにはノエルさんがいるし……、そうだね。僕達は様子を見て回ろうか。ブリジット、ちょっと肩借りていいかな?」

 

「え?! あ、は、はいです!」

 

そういって真っ赤になるブリジットに肩を借りて、イチは歩き出した。そしてそれにフィーアとノインも続く。

 

「さて、みんな上手くやってくれてるのかな?」

 

不安とも取れる台詞を呟いたイチのその顔は、そんなものなど一切感じさせないほどまでに皆に信頼を寄せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、中も始まっているようだが……」

 

「こっちもそろそろ始めないと、ね?」

 

「何人だ?」

 

「えっと……二人。礼拝堂の屋根の上だね」

 

美由希の答えに満足そうに頷くと、恭也はなんの前触れもなく飛針を頭上へと投げつけた。

軽い金属音と共に投げた元が帰ってくるのを、恭也は何も見ずに受け止める。そしてその間に、二人の前に金色の髪を高い位置でおさげに結った少女が降り立ち、そして時間差で恭也達の後ろに茶髪のポニーテールの少女が降り立った。

 

「人数、場所、共に正解だ。気配の探りはもう合格点をやれるな」

 

「えへへ、って恭ちゃん! なんでわざわざ挑発するの?!」

 

「中での戦闘に水を刺されないようにだ。どうせこの二人の相手は俺たちの仕事だぞ?」

 

「……まぁそうなんだけどさ……。どうする? むこうは二人で連携する気満々みたいだけど?」

 

恭也と美由希がやりとりしている間に二人の少女はハンドガンを右手に、コンバットナイフを左手に構えて互いに目配せを交わしている。それを見た恭也は美由希と背中合わせになるように立つ。

 

「美由希、どうやら本当にイチの言ったとおりだったらしい。暗殺者としてこれでは、な」

 

「そうだね。で、どうする?」

 

「数年程度の訓練では御神の連携を破る事などできん、という事を見せてやろうかと思っている。美由希、やれるか?」

 

背中越しの恭也から自分に対する信頼が感じられた美由希は嬉しそうに微笑みながら頷いてそれに答え、両手に小太刀を握った。

 

「というわけだ。中の邪魔がしたければ俺たち二人、退けてみろ」

 

恭也の声にあわせるように、少女達は銃を二人の腰下に向けて連射しながら距離をつめてくる。

恭也と美由希は揃って互いの右に飛びのいて銃弾をかわすと、まるでシンクロしているかのようにぴったりのタイミングで飛針を投げつける。距離をつめながら発砲してくる二人の少女はいきなり視界から相手が消えた事で対処が少し遅れ、銃を飛針によって落とされる。が、その飛針が飛んできた方向から素早く相手の位置を把握すると、腰の後ろに備え付けていた長めのブレードを構えて二人で恭也に向かう。

 

「まずは俺、か……。なめられているのか、力量が測れていないのか……。いずれにしても……」

 

連携して斬りかかってくる二人のブレードを両手の小太刀で受けると、恭也は初めからわかっていたかのように第二波であるコンバットナイフを後ろに飛びのきながらかわす。そして尚詰め寄ってくる二人を見てその場に無防備に立ったまま、

 

「美由希を放って置くとは、俺の弟子をなめ過ぎだ」

 

恭也の言葉と同調するかのように、美由希が二人を同時に貫くように真横から突っ込んできた。

 

−御神流奥義之参 射抜−

 

神速で突っ込んできた美由希に対して、美由希側にいた茶髪の少女はこのままよければ隣の金髪の少女に当たると悟り、咄嗟に両手のナイフを交差させて刃を受け止めようとする。あるいは美由希が普通の射抜を放っていたならば、その方法で捌けていたかもしれない。しかし美由希には初めから少女達を殺す意思はなく、ゆえにその射抜は貫くためのものではなかった。

 

「柄か……考えたな」

 

目の前で起きていることを冷静に見極めていた恭也。そう、美由希は刃ではなく柄で射抜を放ち、そして受け止めた少女に更にそこから回し蹴りを叩き込んでその後ろの少女と共に吹き飛ばした。

なんとか地面に足をつけて踏みとどまった二人だったが、美由希の攻撃を防いだ二本のナイフのうちの短い一本は完全に真っ二つにへし折れてしまい、徹を込められたその攻撃によって両腕は完全に痺れてしまいマヒ状態になっていた。一緒に飛ばされた少女が肩を支えて何とか後ろの木に叩きつけられるところを踏みとどまる。

 

「柄で射抜か。どこでそんな事覚えたんだ?」

 

二人の少女から視線を逸らすことなく、恭也はそういってとなりに立った美由希の頭に軽く手を置く。

美由希ははにかんだ笑みを浮かべながら、

 

「今回の件の前に何度かかあさんがお兄ちゃん相手に使ってるのを見て自分で練習してたんだ。射抜って派生させても結局斬撃になっちゃうけど、初めからこうやって使えばここから体術にも移行できて柔軟性が利くんだよ」

 

と少し誇らしげに胸を張る。

そんな態度に恭也は美由希の頭をわしゃわしゃと強く撫で、少しだけ嬉しそうに微笑んだ後、

 

「で、今のは美沙斗さんとイチ、どっちから教わった?」

 

と意地の悪い笑みにその表情を変える。

 

「うぅ、何でばれるのぉ? ……両方です。使ったのを見た後かあさんに射抜を教わって、その後お兄ちゃんに回し蹴りに繋げる体の捌き方を……鍛錬の後に家でこっそり……」

 

バツの悪そうな表情を浮かべる美由希に、恭也はあきれ返ったような表情を浮かべる。

 

「なにをそんな表情をしている。弟子の成長を喜ばない師匠だとでも思ったか? そもそもそのための二人だろう」

 

そういって態勢を立て直した少女達に向き直る恭也。美由希もそれにあわせるように向き直って小太刀を構えた。

それを合図にするかのように、感情の籠もらない視線を二人に向けていた少女達がまた襲い掛かる。眼前に迫った二人の少女に対し、恭也と美由希は威嚇の飛針を投げつける。左右に飛びのいてそれを避けた少女達だったが、それを予め見越して恭也達はそれぞれの少女の目の前に現れる。そして美由希が一人を恭也のほうへ行かせまいと対峙し、恭也は、

 

「全員助ける、か……。つくづくお前と美沙斗さんが戻った後でよかったと思うぞ」

 

と呟くと、目の前の金髪の少女に両手の小太刀を突き出した。それを両手のナイフで弾く少女。しかし恭也の小太刀はまるで円を描くように弾かれた先からしなやかに動き回り、そして全く違うタイミングで波状攻撃のように斬撃を派生させ続ける。

 

「あれって、お兄ちゃんの……?」

 

恭也の見せている怒涛のような波状攻撃は、イチが以前使っていた両手の刀による刺突からの派生攻撃、双狼牙のようだった。恭也はその技にアレンジを加え、弾かれた後、避けられた後、そして斬りつけた後自分で更に刀を円状に回しながらの斬撃を繰り出す事でその連携度を高め、こうした怒涛の波状攻撃を生み出した。そしてついにじれた相手が二本同時に下に力任せに叩き落した。前のめりに倒れそうになる恭也。完全に自分の勝ちを確信した金髪の少女だったが、その確信が致命的な隙を生む。前のめりに倒れるかに見られた恭也は自分から頭を足のほうへ引くとそのまま地面を力強く蹴る。空中で一回転する形になった恭也はそのまま右足の踵を少女の肩口に叩き落した。油断していた少女は為すすべなくそのまま引き倒され、そして、

 

「終わりだ」

 

無防備な首筋に八景の柄を叩き込み、意識を刈り取った。

力なく倒れる少女に少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべた恭也は、しかしすぐに美由希が足止めしていた茶髪の少女に視線を向ける。

 

「これで一対二だけど、どうする?」

 

目の前の少女に美由希がそう問いかけた瞬間、少女は何処から取り出したのか小型の銃を美由希に向けて発砲し、恭也に短いナイフを投げつける。

 

「え?! ちょ、どこからそんな!」

 

驚きながらも後ろに跳躍してそれをかわす美由希だったが、着地した頃には少女はもう背を向けて校舎の方向に走り去っていた。慌ててそれを追おうとする美由希だが、

 

「美由希、深追いはするな」

 

と恭也が背後から声をかけた。

 

「礼拝堂の中の邪魔さえされなければ今はいい。よくやったな」

 

「えへへ、って恭ちゃん! さっきのあれ、前にお兄ちゃんが恭ちゃんにやったのと同じじゃなかった? その前のあれ! あれって確か双狼牙でしょ?!」

 

「まあな。なにも鍛錬してたのはお前だけではないという事だ。イチにも言われていただろう。盗め、とな」

 

そう言って悪戯な笑みを浮かべる恭也。

そんな笑みに少し納得のいかないものを感じながら、美由希は恭也が無力化した少女を銅糸で拘束する。

 

「この子、多分晶と同じ歳くらいだよね?」

 

気絶して眠っている少女は先ほどまでの機械のような感じは全くなく、歳相応の表情をしている。

 

「ああ、……こんな子達を物の様に扱って自分の駒にするとは……」

 

恭也の静かな口調から激しい怒りを感じた美由希は、何も言わずに拘束した少女を優しく木に寄りかからせる。

 

「中は……、大丈夫かな?」

 

「それは玲二自身がけりをつけないといけない問題だ。しかし……」

 

恭也の心には、エレンの玲二に対するある意味異常とも言えてしまうほどの感情が引っかかっていた。

 

「エレンさんが目の前で苦しみながら戦う玲二に耐えられるか……」

 

恭也はまさか自分が懸念していることがより悪い形で起こっているとは知らず、優しげな目で少女を見守る美由希を横目に礼拝堂を見上げた。只中の三人の縺れた糸のような関係が少しでも解れてくれる事を祈るように。

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

さて、言った事守れずに礼拝堂の中まで到達しなかった二十七話ですゴメンナサイ

イチのほうは結局戦闘無し。フィーアが生きている事を隠したままで相手の感情を揺さぶって……とまあ意地の悪いイチならではの心理戦と言えなくもない展開、になってるかなぁ? どうだろう

恭也と美由希は少々連携w 兄妹であり師弟である二人の御神流に挑ませてしまったフェンフとゼクスにはちょっと申し訳ないことしました。だってどちらか一人に二人がかりでも多分勝てないですもん。あまりにあれなんで一人逃がしてみましたw

次回の礼拝堂の中の戦闘も、キャスト的に原作のままになりかねないのが悩みどころですが、まあなんとか頑張っていじってみますのであと少し、ファントム達と関わる恭也達を見守ってやってください。

それではまた次回に〜。

     





いよいよ次回は礼拝堂のやり取りか!?
美姫 「今回はイチと恭也たちだったわね」
まあ、危なげなくって感じで切り抜けたな、どっちも。
美姫 「うんうん。いよいよ持って、次回が楽しみね」
ああ。一体、どうなるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
ではでは。



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