序章 白と紅の幻影
晴天の空はどこまでも高く、遠い。
本当に一点の曇りもなかった。
見事な快晴と言えばよいのだろうけれど、あいにくわたしにとってはうっとうしいだけの代物でしかない。
燦燦と降り注ぐ真昼の太陽は影ばかりを追い求めて生きてきたわたしには眩しすぎた。
人との関りを避けるように、本当に日の当たらない場所ばかりを選んでいた。
ぬくもりに触れることが恐ろしかったのだと思う。それを知ってしまったら、もうわたしはわたしではなくなってしまうから。
誰からも離れたところに身を置き、遠くに行き交う人の往来を眺めている。
行き交う人は誰もたった一人の子供のことを気に留めたりはしない。
それでもよかった。ずっとそうしてきたから、今更そこに戻りたいとは思わない。
誰にも侵食されない。誰も侵食しない。それがわたしが決めたわたしの生き方のはずだった。
―――――――
ぽつん、ぽつん……。
冷たい雫に頬を叩かれ、わたしは今日も目を覚ました。
ゆっくりと目を開けると、天上から滴る水の粒が見える。
もうすっかり慣れてしまった、ひとりぼっちの朝は昨日と何ら変わらない。
わたしは寝返りを打って水滴に背を向けた。
遠くに聞こえる雨音は激しくもどこかよそよそしい。
瞼の裏に広がる薄闇の中、床を叩く小さな水の音だけがやけに大きく聞こえていた。
慣れ過ぎるほどに慣れたはずの孤独の闇に抱かれていることが今はたまらなく心細い。
決して知るはずのなかったぬくもりを知ってしまったのは運命の悪戯とでもいうのだろうか。再び冷え切った心はまだそれを求めている。
結局、わたしは無にはなれないのだ。
もしも、人の世界に戻ることが出来たなら、そのときはもう一度あの人に会いたい。
わたしの存在を知り、ぬくもりを与えてくれたあの人に……。
―――あとがき。
というわけで、新たな長編スタートです。
本作はわたし、安藤龍一が初めて書いた長編を大幅に加筆修正してお送りする予定の現代世界を舞台にした剣と魔法のファンタジー(?)。
またか、とか思った人すみません。自分あんまりいろいろな物は書けないので。
その代わりというわけではありませんが、今回は全8章で1章あたりのボリュームを大幅に増量する予定です。なぜにそんなに急ぐのか、それはおいおい明らかにしていくとして。本作もお楽しみいただけると幸いです。
それではまた次回で。
新シリーズ〜。
美姫 「今回は、どんな物語が綴られて行く事になるのかしら」
まだ序章だから、どんなお話になるのかは分からないけれど。
美姫 「次回から、楽しみに待ってますね」
ではでは。