第2話 日常

 

 ラッシュで混み合う通学路を普通の人間に混じって普通に歩いて登校する。

 優斗の気分は重かった。一学期もようやく終わり、いよいよ明日から夏休みだというのに。

 狩をするたびに思い出す。自分が人ではないというその事実。

 この身に流れる獣の血が、本能が、理性を食らい尽くそうと忍び寄ってくるのだ。

 幼い頃は耐え切れずにそれに身を任せてしまうこともあった。

 得られたのは僅かな開放感と強烈な自己嫌悪。そして、後悔……。

 気がつくと、優斗は往来の真ん中に足を止めていた。

 世界が遠ざかっていくような、そんな錯覚に恐怖すら覚えてしまう自分がいた。

 ……何やってるんだろうな、俺は。

 溜息。そして、苦笑を浮かべて優斗は止めていた足を再び学校へと向ける。

 時間に急かされることが今は少しだけありがたかった。

 

 予鈴とともに校門を潜り、シューズボックスの前で靴を履き替えて、教室へと向かう。

 クラスメイトの何人かと適当に挨拶を交わし、優斗は自分の席に着いた。

 そうして、ホームルームまでの僅かな時間をそれぞれが思い思いに過ごす。

 ……そこまでは確かにいつも通りの日常だった。

 男子連中のバカ騒ぎも、女生徒たちの黄色い声も、そして、この自分も……。

 不意に背後から肩を叩かれた。

「よっ、相変わらずぼけた顔してるね。そんなんじゃせっかくの夏休みが逃げちゃうぞ」

 とても気軽に失礼なことを言ってくれる。

 それだけで優斗には声を掛けてきた相手が誰なのかわかった。

 典型的な世話好きで、何かと面倒を見たがる幼馴染。自分と同じ、人ではない側の存在。

 顔を上げると案の定、そこに見慣れた少女の姿があった。

 彼女は城島蓉子。人の姿に化け、人間社会に溶け込んで生きる狐妖怪の少女である。

 彼女に限らず現代を生きる妖怪たちの中にはそういうライフスタイルを選択するものが多い。

 昔のように勝手気ままな生き方が出来るような時代でなくなったこともある。

 賢明な彼らはそのことを理解した上で、最も有効な生き方としてそれを選んだ。

 無論、すべての妖怪がそうしたわけではない。

 中には馴れ合うことを良しとせず、過激な侵略行為に走るものもいる。

 人間達の方ではもはや彼らの存在すらほとんど忘れてしまっているというのに……。

 それはそれとして。

 優斗は何日かぶりに顔を合わせた幼馴染の様子が、いつもと違うことに気づいていた。

 口調こそ普段通りだが、自分の前に立った彼女の笑顔はどこかぎこちない。

 ……何かあるな。

 そういう空気を察してか、優斗の返事は幾らかぶっきらぼうなものになってしまった。

「わざわざ人をからかいに来たのか」

「まさか」

「用事か。なら、早くしろよ。もうホームルーム始まるぞ」

「わ、わかってるわよ……」

 そう言いながらも蓉子はなかなか用件を言おうとしない。

 よほど言いにくいことなのか、彼女にしては珍しく、恥ずかしそうにもじもじしている。

 ぎりぎりまで粘った挙句、蓉子は思い切ってそれを優斗の眼前に突きつけた。

 それが限界だったらしく、彼女は顔を真っ赤にしたままでどこかへ走り去ってしまった。

 呆気に取られて見送る優斗の手にはラブレターと思しき一通の封筒が残されていた。

 慌てて周囲を見回すと、目が合った端から視線を反らされた。

 ……あいつ、よりにもよってこんなこと……。

 ひどい誤解、あるいは確信犯に、優斗は思わず眩暈を覚えた。

 

 ――放課後、いつもの場所で。

 

 ホームルームの後でこっそり開けたその紙面には、彼女の字でそう書かれていた。




 ――あとがき――

龍一「続けて第2話です」

蓉子「ちょっと、これは何なのよ!?

龍一「おわっ、い、いきなり何だ」

蓉子「何だ、じゃないわよ。人にあんな恥ずかしい真似させて。当然、あたしがヒロインなんでしょうね!?

龍一「いや、前にも言ったように、ヒロインは優奈」

蓉子「だったら、あたしのあれは何?まさか、既に玉砕決定なんて言うんじゃないでしょうね」

龍一「……えー、次回以降の内容に関してのコメントはここでは控えさせていただきます」

蓉子「尤もらしいこと言ってごまかしてんじゃないわよ。あー、何かむかつくわ」

龍一「お、おい、ちょっと待て!」

蓉子「問答無用!」

龍一「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

……作者の穏やかなあとがきは二回目にして脆くも崩れ去った。

蓉子「ふぅ。さて、作者が燃えてしまったので、今回はここまで。また次回でお会いしましょう」

 




良いな、蓉子のあの態度。
美姫 「実際、どんな話なのかしらね」
早速、次回が待ち遠しいな。
美姫 「本当よね。次回が楽しみ♪」
うんうん。
美姫 「さて、といった所で、保留にしてたのを何とかしないとね」
えっ!?
美姫 「まさか、許されるとは思ってないわよね」
あ、あはははは〜。
美姫 「丁度、作者さんも同じような目にあったわけだしね」
いや、だからって、俺までなる必要は……。
美姫 「くすくす。そんなの、ただのこじつけに決まっているじゃない。
本音は、私がただお仕置きしたいだけよ」
ほ、本音をそんなにあっさり言うのもどうかと……。
美姫 「ふふ〜ん。それじゃあ、行くわよ〜」
い、いやじゃぁぁぁぁ!
美姫 「ぶっ飛べ〜〜!」
のっぴょろにょ〜〜〜〜〜〜!!
ま、また次回を楽しみにしてます〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。(キラン)
美姫 「ふー。さて、それじゃあ、次回を楽しみに待ってますね♪」



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