第11話 握られた秘密

 

 開店直後の喫茶店は閑散とした空気に包まれていた。

 店は数年前にオープンしたばかりのものだが、決して流行っていないわけではない。

 建物はまだ新しく、白い外壁もきれいなものだった。

 かおりは一番奥の席で待っていた。

 優斗が来たのを見ると、彼女は軽く手を挙げて微笑んでみせた。

「早速だけど、用件を聞かせてくれないか」

 優斗はかおりの向かいの席に腰を下ろすなりそう言った。

「せっかちな人ね。せっかく喫茶店に来たんだからまずは何か飲めば?」

「いや、俺は家で飲んできたから」

「そう」

 かおりは少し残念そうな顔をしてから、自分はホットコーヒーを注文した。

「さて」

 注文を取りにきたウェイトレスが去るのを待って、かおりはようやく本題に入った。

「この前、幽霊の話しをしたのは覚えているかしら?」

「ああ」

「で、その幽霊なんだけど、捕獲するから手伝ってほしいの」

「は?」

 優斗は思わず間の抜けた声を漏らしていた。

「捕獲って、何でまたそんなことするんだ」

「うーん、何となくかな」

「冗談だろ?」

「わたしは本気よ」

 かおりはまっすぐに優斗の目を見てそう言った。

「深追いするなって、そう言ったはずだけど」

「追いかけはしないわ。捕まえるだけ」

「危険なことには変わりないだろ」

「だからあなたに頼んでるんじゃない。二人なら、怖いこともないでしょ」

 かおりはこともなげにそう言った。

 まったく、どこの世界に何となくという理由で幽霊を捕獲しようとする人間がいるのか。

 しかも、それを他人に手伝わせようとするなんて……。

「悪いが俺は手伝わない。どうしてもって言うんなら君一人でやってくれ」

 そう言って優斗は席を立った。

 その瞬間、かおりの口元がにやりと笑みの形に歪む。

「君、女の子と同棲してるでしょ」

「なっ!?

 優斗は慌てて周囲を見回した。

 コーヒーを運んできたウェイトレスがびっくりしたようにこちらを見ている。

「ど、どうしてそのことを」

 優斗は動揺を抑えるように声を潜めてそう聞いた。

 そういう反応をしてしまった以上、ごまかすのは却って逆効果である。

 ここは控えめに肯定しておいて、相手の出方を見るより他ない。

 かおりは答える代わりに軽く右手を持ち上げてみせた。

 握られているのは小型のカセットテープレコーダーだった。

 それで一体何を録音したのか、そんなことは聞くまでもない。

 優斗は今度こそ完全に冷静ではいられなくなった。

 かおりの手からテープをレコーダーごと奪い取ろうと手を伸ばす。

「無駄よ。例え、このテープを潰したところで、あなたに証拠を隠滅することは出来ない」

 追い討ちを掛けるように、かおりはきっぱりとそう断言した。

「録音物はいろいろな媒体に複製してきちんと保存するようにしているの。諦めなさい」

「誰が」

「往生際が悪いわね。何なら、証拠写真の方も出しましょうか」

「…………」

 優斗は沈黙した。

 握った拳を小刻みに震わせ、恨めしそうにかおりを睨み付ける。

 かおりは涼しい顔でその視線を受け流している。

 やがて優斗は諦めたように溜息を吐いて椅子に座り直した。

 満足そうに微笑むかおりの顔がたまらなく憎らしい。

「でも、正直、意外だったわ。学園では地味だけど、実はやることやってたのね」

「君のやっていることは明らかに犯罪だぞ」

「そうね。でも、あなたはどこへも訴えられないでしょ?」

「くっ」

 優斗は悔しげに奥歯を噛み締めた。

 普通は逆じゃないか。男が女のいやらしい姿を盗撮してそれをネタに揺するのだ。

 それこそ犯罪だが、18禁PCゲームの主人公にもやってる奴は結構いる。

 優斗にそんな趣味はないが、ここでそれを主張したところで状況が好転するわけもない。

「協力してくれるわよね」

 かおりがにこやかな笑顔で聞いてくる。

 それは美しくも残酷な悪魔の笑みだった。




 ―――あとがき。

龍一「第2章終了〜」

かおり「ふふふ、ようやくわたしが出てきたわ」

龍一「分かっているとは思うけど、ばれたら刑務所行きだからな」

かおり「わたしがそんなヘマをするとでも思う?」

龍一「いや、いばって言うようなことじゃないかと」

かおり「細かいことは気にしない。それより、これからどうなるの?」

龍一「次回、夜の街。秘密を握られ、脅迫された優斗は仕方なくかおりの手伝いをすることに」

かおり「何かひっかかる言い方ね」

龍一「果たして二人は無事に朝を迎えられるのか。噂の幽霊の正体とは?」

かおり「どきどき」

龍一「では、次回、もう一つの日常でお会いしましょう」

かおり「まったね〜」

 




かおり、実は物凄いキャラだったんだな〜。
美姫 「脅迫とは、やるわね」
いや、感心する所じゃないって。
美姫 「さて、噂の幽霊というのは、一体何なのかしら」
お〜い、聞いてるか〜。
美姫 「次回、その謎が明らかになるのかしら」
もしも〜し。
美姫 「ああ〜、楽しみ〜」
美姫ちゃ〜ん。
美姫 「もう、五月蝿いわね、聞こえてるわよ」
ぐえっ! だ、だったら、返事しろよ……。
返事もなしに、いきなり肘鉄ですか……。
美姫 「それじゃあ、次回でね〜」
ぐっ、またも無視ですか……。



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