不意に光が途切れた。故障か電池切れかと思ったが、違う。消えたのは懐中電灯の明りだけではなかったのだ。

 近隣の民家や商店の明り、二人の側に立つ街灯までもが消失していた。

 突如、訪れた無明の空間。そして、静寂……。

 星と月の輝く青い夜の中、蟠る漆黒の闇の奥でまたあの音が鳴っていた。

 それは高く鋭く、鼓膜の奥に反響して。

 音が途絶えたその瞬間、優斗は反射的にかおりを突き飛ばすようにして身を投げ出していた。

「きゃっ!?

 悲鳴を上げて倒れるかおりに優斗が覆い被さり、そのすぐ上を何かが高速で通り抜けた。

 それは反対側の路地の入り口あたりに着地すると、そのまま闇の奥へと走り去る。

「いたたた……。ちょっと、いきなり何するのよ!?

「君がぼーっと突っ立っているからだ。見えなかったのか」

「何のこと?」

「いや、ならいいんだ」

 倒れたかおりに手を貸して立たせると、そのまま引きずるようにして歩き出す。

「とにかく、今日はもう帰ろう。さすがにこれ以上は危険だ」

「あ、ちょっと!」

 有無を言わせない優斗の様子に戸惑いつつ、かおりは慌てて落とした懐中電灯を拾う。

 その時彼女はいつの間にか戻っていた光の中に浮ぶ姿無き者の影を見たような気がした。

 ―――――――

  第13話 邪妖の影

 ―――――――

「通り魔?」

 優斗は微かに眉を顰めてその単語を口にした。

 寝起きのせいか、いつにも増してぼーっとした顔をしている。

 昨夜はなぜだかひどく疲れていて、いつ眠ったのかもはっきりとは覚えていない。

 朝になって目を覚ましたのは布団の中ではなく、リビングのソファの上だった。

 いつの間に来ていたのか、気がつくと蓉子が向かいのソファに腕と足を組んで座っていた。

 眠っているらしく、目を閉じて小さな寝息を立てている。

 起こさないようにそっと立ち上がると、優斗は顔を洗うために洗面台へと向かった。

 ついでにシャワーを浴びようとして全裸の美里と鉢合わせたのは不幸な事故であった。

 美里は歓喜に満ちた表情で優斗を押し倒し、朝っぱらから一騒動起こすハメになった。

 リビングで仮眠を取っていた蓉子が飛び起き、キッチンから優奈が顔を出す。

 騒動は五分ほどで収まり、身支度を整えた優斗はリビングで蓉子に応対した。

 何でも近頃邪気に不穏な動きがあるとかで、妖狐の族長から調査を頼まれたのだという。言われるままに調べを進めるうちに、彼女はある事件に行きついた。それが最近世間を騒がせている通り魔だったというわけである。

 ――立て続けに7件。

 被害者の大半が瀕死の重傷を負いながらも犯人の姿を見たものは誰もいない。

 だが、それだけではまだ普通の事件だ。不可解ではあるが、邪気との結びつきは見えない。

 優斗がそれを指摘すると、蓉子は頷いて鞄から透明なビニール袋を取り出した。

 中には動物の毛のようなものが入っていて、それを見た優斗は思わず息を呑んだ。

 一見してすぐにわかった。

 すべての調和を掻き乱す暗黒の意思の力。邪なるものの気配がそこにはあった。

「通り魔事件の現場で見つけたの。見ての通り、邪気を帯びてる」

「この赤いのは血か?」

「たぶん、事件の被害者のものでしょうね」

「しまってくれ!」

 優斗はハッとして叫んだ。

 紅茶を持ってリビングに入ってきた優奈が驚いて足を止める。

 蓉子は慌てて手を鞄の中に突っ込んでいた。

 そんな二人の様子に怪訝な顔をしつつ、優奈はテーブルの上にお盆を置いた。

 慣れた手付きで載せてきた物を二人の前に並べていく。

「どうぞ」

 最期に蓉子と優斗の前にカップを置くと、彼女は軽く一礼して退室した。

「なんか、メイドさんみたいだね」

 蓉子が率直な感想を口にする。

「着せてみるか、メイド服」

「あんた、そんなの持ってるの?」

「あいつの私物だよ。ネットオークションで落札したとか言ってた」

「へぇ……」

 呆れとも感心ともつかない溜息を漏らしつつ、蓉子はカップに口をつけた。

「あの子、素材がいいからさぞかしかわいく見えるんでしょうね」

「仕事もプロ並にこなすんだ。あそこまでやられるともう文句のつけようがない」

「仕事、ねえ」

「何だよ」

「別に。あんたとあの子がどういう関係になってたってあたしには関係ないから」

 そう言いながらも、どこか拗ねたような態度で紅茶を飲む蓉子。

「それで、俺は何をすればいいんだ?」

 空になったカップを戻しつつ、優斗は聊か強引に話を元に戻した。

 場の空気を変えるための強行手段のつもりだったが、蓉子は意外そうに目を見開いた。

「協力してくれるんだ」

「初めからそうさせるつもりだったんだろ」

 やれやれというふうに溜息を漏らす優斗。

「まあ、このあたりでも事件は起きてるみたいだしな」

「ありがとう。恩に着るよ」

 そう言って蓉子は頭を下げた。

「よかったんですか、あんなこと言って」

 蓉子を見送った後、少し責めるような口調で優奈が言った。

「今のお話、お仕事の依頼だったんでしょ?」

「なんだ、聞いてたのか」

「はい」

 まいったなと苦笑する優斗に、優奈は申し訳なさそうに頭を下げた。

「いや、いいよ。どうせ、話すつもりだったから」

「そうですか……」

 途端に不安そうな顔をする。

「危険なことは何もしないよ。蓉子もそれでいいって言ってたからな」

「なら、いいんですけど」




 ―――あとがき。

龍一「謎の存在との遭遇?」

蓉子「何で疑問系なのよ」

龍一「あれを遭遇って呼んでいいか分からないから」

蓉子「…………バカ」

龍一「そんなはっきり言わなくても」

蓉子「うるさいわね。大体、あんたなんで普通にいるわけ?」

龍一「あ、いや、それは、その」

蓉子「もはや燃やしただけじゃダメみたいね。なら!」

龍一「お、おい、今回は何もやってないだろ!?

蓉子「すべての力の源よ。輝き揺れる赤き炎よ」

龍一「うげっ、ファ、ファイヤーボール!?

蓉子「我が手に集いて力となれ!」

龍一「や、やめ……」

蓉子「ファイヤーボール!」

どごぉぉぉぉぉぉぉんっ!

龍一「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

――こうして作者は星になりましたとさ。

蓉子「……………さ、さて、もう時間も遅いし帰ろうかな」

何やら煙を上げている消し炭はきれいに無視して席を立つ。

蓉子「それじゃ、また次回で」

 

 

 




謎の存在との遭遇。
美姫 「そして、蓉子から持ち込まれた仕事の依頼」
この二つは関係があるのか。
美姫 「それとも、全く別物なのか」
徐々に謎に迫りつつも、更なる謎が。
美姫 「シリアス〜」
サービスシーンが少なくなってきた事に嘆きながら、次回を待て!
嘘です、冗談です。ごめんなさい。だから、その剣をお仕舞い下さい。
美姫 「全く、バカな事ばっかりやってるんじゃないわよ!」
ゆ、許して〜〜〜。
美姫 「それでは、次回も楽しみに待ってますね〜」
ぐがぁっ、げばぁ! ごふっ。



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