第16話 邪妖顕現

 

 戻ってみると案の定、そこには美里だけが呆然と立ち尽くしていた。

「美里。優奈は、優奈はどうしたんだ!?

「あ、あそこ……」

 震える手で美里が指差したのは数メートルも沖の海。そこに優奈がいた。

 何かに足を取られたらしく、必死に溺れまいともがいている。

 その姿を確かめるや否や、優斗は服も脱がずに海へと飛び込んだ。

 無我夢中で優奈の元へと向かい、彼女の足を捉えているものを強引に引きちぎった。

「ゆ、優斗っ。あれ!」

 優奈を連れて浜に戻った優斗を美里の悲鳴が出迎える。

 振り返るとついさっきまで優奈が溺れかけていたあたりに女の上半身が浮いていた。

「溺死した女の霊。いや、違うな。あれは妖怪か」

 優斗が苦い顔で呟く。

 虚ろな目でこちらを睨んでいる。濡れた髪が張りつくその顔に生気はない。

「あいつだよ。あたしに小賢しい真似してくれた邪妖は」

 蓉子が叫んだ。

「わざわざ出てきてくれるなんてね。今度こそ逃がさないんだから」

「やる気十分みたいだな。それなら、この場は任せるぞ」

「オーケイ!」

 応えて蓉子は波打ち際まで走る。

 邪妖の女が吼えた。

 水が立ち上がり、流れとなって蓉子に襲い掛かる。

「あまいっ!」

 蓉子は炎を灯した両の拳を胸の前で打ち合わせた。

「お、おい、ちょっと待っ……」

 察して叫んだ優斗の声が届くより僅かに早く、炎は雷となって真っ向から水流を迎え撃った。

 雷は水を伝って女を直撃、粉砕する。

「あちゃぁ、またやっちゃった」

 自分で引き起こした惨状に蓉子は思わず目を覆った。

 ―――――――

「じゃあ、あたしこっちだから」

 軽く手を挙げてそう言うと、蓉子は荷物片手に自分の家へと帰っていった。

 時は夕暮れ。

 西に傾いた太陽を背に、優斗たちは帰路に着いている。

 あの後、四人は場所を変えて遅めの昼食を摂った。

 後でわかったことだが、あの浜はいわくつきで地元の人間ですら滅多に近づかないらしい。

 優奈は少し水を飲んでしまっていたけれど、別段命に関わるようなことはなかった。

 その彼女も今は優斗の背中で眠っている。

 初めての海で怖い思いをさせてしまったことが優斗には辛かった。

 今日のことがトラウマにならなければいいのだけれど……。

「ねえ、優斗」

「ん?」

「もしも、あたしが溺れてても優斗は同じように助けてくれた?」

「当たり前だ。おまえも優奈も俺にとって大事な家族なんだ。どんなことをしてでも助けるよ」

 唐突な美里の問い掛けにも答える優斗の声は優しい。

 その優しさが、ときには罪になることを彼は知っているのだろうか。

「そう、だよね。あたしたち、家族なんだよね」

 美里は笑った。

 心なしか優斗にはその微笑がどこか寂しげなものに見えた。




 ―――あとがき。

龍一「これにて海編終了〜」

蓉子「果たして今回のことが今後にどう関わってくるのか」

龍一「次回、闇、再び」

蓉子「深夜の街へと出掛けた優斗はそこで新たな出会いをすることに」

龍一「どんどん行きます」

 




海編は終了か〜。るるる〜。
美姫 「何、哀愁を漂わせているのよ。って言うよりも、何で無事なの!?」
何だ、その言い草は。
美姫 「いや、だってさっき呪文を喰らって」
ふっ。伊達に何度も喰らってないさ。
いい加減、耐性も付くというもの。
美姫 「いや、耐性が付いたんなら、普通は平気になってるはずでしょう。
     アンタの場合、単に再生が早くなってるだけじゃ……」
ははは、負け惜しみか!
見苦しいぞ、美姫。今や、時代はお前ではなく、俺を…………ごめんなさい、私が悪うございました。
美姫 「全く、すぐに調子に乗るんだから」
うぅ〜、すいません。
美姫 「と、それよりも、次回が楽しみね」
うん。タイトルが『闇、再び』だもんな。
美姫 「一体、何が起こるのかしら」
ワクワクしながら、次回を待ってます。
美姫 「それでは」



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