第17話 闇、再び?

 

 月の明るい夜だった。

 明りの消えた街を満月から僅かに欠けた十六夜の月が静かに見下ろしている。

 闇の降りた通りはどこまでも静寂で、人ももののけの姿もない。

 ……すべてが寝静まった刻の空白。

 こんな時間に出歩いてみるのもたまには悪くないものだと思った。

 夜の巡回よりもずっと遅い時間に草薙優斗は街を歩いている。

 理由は単純だった。眠れないのである。

 いつもの巡回を終えて床に就いても、疲れているはずの体に睡魔は一向に訪れなかった。

 仕方ないので彼はこうして夜の街をぶらついている。

 ……それにしても、一体何だというのだろう。

 帰宅後、目を覚ましてからの優奈の態度はどこかよそよそしいものだった。

 優斗に対してなぜか微妙に距離を取っている。まさか、嫌われたわけでもないだろう。

 美里は何か心当たりがあるようなことを言っていたが、結局は何も話してはくれなかった。

 優奈も女の子だ。何か、男の優斗には言えない悩みがあるのかも知れない。

 ……蓉子に頼んでそれとなく聞いてみてもらおうか。

 そんなことを考えながら歩いていると、不意に視界に人の影が入った。

 路地にぽつんと一つだけある街灯。その明りの片隅に、影の主はひっそりと佇んでいる。

 こんな時間に出くわすものがあるとすれば、それは大抵真っ当な存在ではない。

 自分のことは戸棚の隅に追いやって、優斗はすべての感覚を研ぎ澄ませて戦闘態勢に入る。

「こんばんは」

 掛けられた声は少女のものだった。

 佐藤かおりかと思ったが、違う。声の主は優斗の初めて見る顔だった。

 燃えるような赤い髪。こちらを見つめてくるその瞳の色は赤よりも深い真紅。

「何をしているんです。生きている人間が出歩くような時間ではないはずですよ」

 少女はまるで自分がそうではないかのように気味の悪いことを言う。

「そっちこそ、女の子がこんな時間に出歩くもんじゃないよ」

「では、お互い様ということで」

 言って少女はすっと身を引いた。

 白っぽい服に包まれたしなやかな体が一旦闇の中へと消える。

 半瞬遅れて聞こえたのは金属を打ち合わせるような硬く鋭いあの音……。

 途端にすべての光が消え、――それが合図となった。

 

 二人は同時に地を蹴った。

 突き出される拳と拳。ぶつかって飛ばされたのは少女の方だった。

 少女はすぐに体勢を立て直し、再び優斗へと飛び掛る。

 開かれた右手の指の先。そこから伸びる人のものではない爪が、優斗の肩を浅く切り裂いた。

 裂かれた服に赤いものが滲む。

 優斗は舌打ちして少女の足を払った。

 今の攻撃で体勢を崩していた少女はたまらず仰向けに転倒する。

 そのまま組み伏せようとして、今度は左の爪が優斗の脇腹をかすめた。

「くっ、この」

 優斗は無理やり少女の腕を両方とも捕まえた。

「痛っ、何するのよ!?

「なにって、先に喧嘩を売ってきたのはそっちだろ?」

「うるさいっ!」

「うるさいのはおまえだ。一体何時だと思ってるんだ。少しは周りのことを考えろ」

「…………」

 少女は恨めしそうに無言で優斗を睨んだ。

 優斗はやれやれといったふうに溜息を漏らすと、少女の腕を押さえていた手を放した。

「え?」

 拍子抜けしたように少女はきょとんとした顔になる。

「ほら、立てるか」

 心配そうに手まで貸されては少女もそれ以上抵抗する気にはなれなかった。

「悪かったな。ついいつものくせで。どこも怪我とかしてないか?」

「は、はい……」

「そうか、ならいいんだ」

 そう言って優斗はくるりと少女に背を向けた。

 なんて無防備なと思ったが、そこに爪を立てる気はもう少女にはなかった。

 代わりに思い切って声を掛ける。

「あ、あの」

「何だ」

「……ごめんなさい!」

 振り向いた優斗にぺこりと頭を下げると、少女はダッシュでその場から逃げ出した。

 ……何というか、初々しい光景である。

 出会い頭に一戦交えたことも忘れて、優斗はしばし微笑を浮かべてその後姿を見送っていた。




 ―――あとがき。

龍一「どうにもバトルが弱い気が」

蓉子「精進しなさいよ」

龍一「分かってはいるんだけどな」

蓉子「良いものを書くためには自分が体験するのが一番だって何かに書いてあったわよ」

龍一「確かに、リアリティのあるものが書けそうだよな」

蓉子「というわけで、美姫さんのところに行って相手してもらってきなさい」

龍一「え、そ、それは、ほら、彼女に迷惑が」

蓉子「あたし剣は使えないんだもん。今後のこともあるし、挨拶も兼ねて行ってきなさい」

龍一「既に命令形、っていうか、無理矢理飛ばさないでぇぇぇぇ!」

蓉子「強制転移・バシルーラ(ドラクエ参照)!」

――こうして作者は美姫さんのところへ。

蓉子「それでは美姫さん。うちのダメ作者をよろしくです」

 

 




「のぎょわぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」
何処からか聞こえてくるくぐもった声。
き、聞こえない。俺にはな〜んにも聞こえないぞ。
こ、今回出てきた少女。
果たして彼女は何者なのか。
美姫 「喰らいなさい、離空紅流、無刃蓮華!」
「や、やめてくださ……」
美姫 「まだまだ。ほら、立ちなさい。いいえ、寝てるなら寝ててもいいわよ。でも、容赦しないわよ〜」
……き、聞こえないよ、うん、聞こえない。
と、隣の防音部屋から声が洩れてるのなんか聞こえないよ。
今日、美姫がいないのは、用事があるからだし、うん。
そもそも、ここにはいないから、うん。
あれは幻聴だ、幻聴。
えっと、それで、どこまで言ったっけ。
そうそう、謎の少女。
最後に見せた初々しい姿がとても可愛い。
次はいつ出てくるのか。
新たなキャラが気になりつつ、次回を楽しみにしてますね〜。
「た、助け……」
美姫 「まだまだよ〜」
き、聞こえない、聞こえない。
さっさと寝よう、寝よう。
美姫 「フフフ。次は浩の番よ」
………………き、聞こえない、聞こえない(滝涙)



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