第4話 放課後の悪夢

 5限目の現国の授業を優斗は午前中3時間と同様に寝て過ごした。

 さすがに眠ったまま回答するのは不可能なので1限目だけはちゃんと起きてテストを受けた。

 そして、この時間はほとんどが一昨日に実施された小テストの返還と回答に費やされた。

 各自の成績は優斗が8割、かおりが9割強といったところだ。

「何だ、ちゃんと勉強してたんじゃない」

「あまり悪いと優奈に怒られるからな。それで娯楽を没収されちゃ叶わん」

 横からひょいと答案を覗き込んで言うかおりに、優斗は苦笑しつつそう返す。

「大変なのね」

「いろいろとな」

 曖昧な調子でそう答えると、優斗は答案をしまって再び机に伏せる。

「どうでもいいけど、次はホームルームよ」

「俺はパス。何か決まったことがあったら後で教えてくれ」

 かなりいい加減なような気がしないでもないが、学園での彼はこんなものである。

 しかし、このときばかりはこの選択はまずかった。

 ――今日の議題は学園祭。

 実行委員としてクラスの代表を選出するその第1回目だった。

 基本的に騒ぐのは好きだが面倒くさいことはやりたがらない連中の多いクラスである。

 互いに押し付け合った結果、眠っていた優斗にその役がいったのは自然の成り行きだろう。

「では、男子の委員は草薙君ということで」

 そんな声が遠くで聞こえたような気がしたが、夢と現の間を彷徨っていた優斗には定かではない。

 後にその決定を聞かされた優斗は激しく抗議したが、それこそ既に後の祭りである。

「しょうがないでしょ。他に誰もやりたがらなかったんだから」

「だからって本人の了解も取らずに決めるか、普通」

「どうせまた寝てたんでしょ。自業自得よ」

 などと談笑しつつ昇降口へと向かう3人。

 上からかおり、優斗、蓉子の順である。

 かおりは他にもたくさん友達がいるのだが、なぜか最近はこの二人と一緒にいることが多い。

 その関係で、優斗や蓉子にも話しかけてくる生徒がずいぶん増えた。

「別に俺たちとばかり一緒にいなくてもいいだろう。友達、多いんだからさ」

「迷惑?」

「別に。ただ、俺と一緒にいると……」

 言いかけた言葉を飲み込みふと優斗は上を見る。そこには普通の人の目には見えない程度の低級霊が浮遊していて、優斗の姿を見るなり襲い掛かってきた。

「こういうこと、多いからさ」

 何気ない動きで透明化させた蒼牙を投擲してそれを撃退しつつ、優斗は言った。

「はぁ、このあたりは昨日粗方払ったはずなんだけどな……」

 隣では蓉子が消えていく霊を見上げてぼやいている。

「ま、まあ、わたしも巫女だし、これくらいは平気よ」

 そう言いつつ、かおりはやや引き攣った笑みを浮かべる。

 ――ここは学園にほど近い交差点。

 付近には様々な商店が立ち並び、幹線道路とまではいかないもののそこそこに交通量は多い。

「せっかくだからどこか寄っていきましょうよ」

「いいね。あたし、お腹空いちゃった。優斗、何かおごりなさいよ」

「おまえはまた。少しは遠慮というものをだな」

 そんな感じで話しつつ、優斗達が横断歩道を渡ろうとしたそのとき。

 急に反対車線に一台の車が突っ込んできた。

 そちらに誰もいないのをいいことに信号無視をしようとしたのだろう。それがまずかった。

 車が向かったその先に最悪のタイミングで一人の少女が飛び出してきたのだ。

「――危ない!」

 優斗は慌てたがこの位置からでは到底間に合わない。

 かおりが悲鳴を上げ、蓉子が目を閉じ耳を塞ぐ。

 遅すぎるブレーキ音と周囲の人々の悲鳴が聞こえる中、車は少女へと突っ込んだ。

 どんがらがっしゃーーーーーーんしゃんしゃんしゃん……。

 ものすごい音がして、跳ね飛ばされたのはしかし少女ではなく車のほうだった。

「おい」

「う、嘘でしょ!?

 呆然と呟く優斗達の前で、衝突の衝撃から立ち昇っていた白煙がゆっくりと晴れていく。

 そこには先ほど飛び出した少女がやはり呆然とした様子で立ち尽くしている。

 そして――。

「お怪我はありませんか。お嬢様」

 凛とした声で傍らの少女へとそう言葉を掛けたのは白い和服に身を包んだ金髪の女性だった。

 腰まであるさらさらの金髪を首の後ろで無造作に束ねている。

 隣の少女が慌てて頷くのを見て、金髪の女性はほっとしたように表情を緩める。

 それからふと視線を巡らせ、優斗と目が合うと女性は小さく会釈した。

 慌てて会釈を返しつつ、優斗は反対側へと道を渡る。

「あ、ちょっと、優斗!」

 批難の声を上げる蓉子に知り合いなんだと一言返して、優斗は女性たちの元へと走った。

 そう、彼はその女性を知っている。

 流れる金髪と抜けるように青い瞳。

 そして、雪のように白いその肌は一度見たら忘れようがない。

 ――四天宝刀・アカツキの雪那。

 それが彼女の名前だった。




 ―――あとがき。

龍一「新キャラ登場〜!」

蓉子「何やら人間離れしてそうな人ね」

龍一「おまえほどじゃないと思うが」

蓉子「あたしは妖狐だからいいのよ」

龍一「さて、ここで一つ目のキーワード」

蓉子「四天宝刀のことね」

龍一「詳細は次回以降になるが、物語の重要な鍵の一つだということだけ覚えておいてほしい」

蓉子「優斗の蒼牙や美姫さんの……もこれに入るのよね」

龍一「わわっ、それはまだ秘密なんだって」

蓉子「え、そうなの?」

龍一「って、ここに来る前に言っただろうが。言いつけを守れない悪い娘にはおしおきだ」

蓉子「きゃぁぁっ!?

龍一「逃がさん!」

蓉子「で、ではでは」

 




おお、新キャラ及び、謎の単語が。
美姫 「一体、どんなキャラで、どんな役割を持つのかしら」
いや〜、楽しみ、楽しみ。
ガンガンガン!
ピンポーン、ピンポーン。ピピピピピピンポ〜ン!
…………え〜っと、次回が楽しみだなー。
美姫 「浩、お客さんみたいよ」
えっ!? 俺は何も聞こえなかったけど?
?? 「あ〜け〜て〜。ねえ、開けてってば〜」
美姫 「ほら、何か聞こえたでしょう」
あははは〜、幻聴じゃないのか。
美姫 「それにしては、やけにはっきりと聞こえるんだけど」
気のせい、気のせい。
美姫 「じゃあ、私が開けて確かめようか?」
いえ、そんな美姫様の手を煩わせるほどの事でも…。
美姫 「じゃあ、浩が確認に行く?」
いや、幻聴だし。
?? 「うっ、うぅぅぅ…。ぐすぐす。お願いだから、開けてよ〜。私、何も悪い事してないのに…」
うわぁー、泣くな! 今すぐ開けるから!
頼むから、泣かないでくれ!
ガチャリ。
?? 「うぅぅ。こ、こんにちは」
ああ、こんにちは。そして、いらっしゃい。
美里 「グスグス」
ああ〜、頼むから泣かないでくれ〜。
ほらほら、上がって上がって。
美里 「お邪魔します〜。これ、お土産のケーキです」
おお、ありがとう。どうぞ、どうぞ〜。
美里 「鍵が掛けられているから、てっきり、私嫌われたのかと思ったよ〜」
そんな訳ないじゃないか! 鍵は、最近物騒だから、ほら、用心のためにね。
で、ちょっと用事をしてたから、すぐに気付かなかったんだよ。
俺が美里ちゃんを閉め出す訳ないだろう。
ほらほら、奥へどうぞ〜。すぐにジュースをお持ちしますので。
美姫 「浩〜、私、紅茶〜」
ええい、自分で淹れろ。
美姫 「あ、そんな事言うんだ。美里ちゃん、実はね、さっき…」
わーわーわー!
誠心誠意、淹れさせて頂く所存でございまする。
美姫 「ちょっと言葉がおかしいけれど、まあ良いわ」
はっはー。ありがたき幸せ〜。
美里 「……ふ〜。上手くいったね、美姫さん」
美姫 「ねえ、言った通りでしょう。浩には泣き真似が一番効くのよ」
美里 「うんうん。今度から、この手でいこう」
美姫 「駄目よ、美里ちゃん。この手は、いざという時に取っておかないと。
     そんなに毎回、毎回使っていたら、流石に通じなくなるわ」
美里 「あ、そうか」
美姫 「それにね、女の涙は最後の武器なんだから、ここぞという時まで使わないものなのよ」
美里 「なるほど、勉強になります。という事は、美姫さんもここぞという時には」
美姫 「勿論、使うわよ。ただ、私が泣く真似をすると、美里ちゃんの時とは違う反応なのよね。
     何か、怖がっているというか、あり得ないものを見るような目で見るというか。
     まあ、通用するから良いんだけどね」
は〜い、ジュースと紅茶でございます。
所で、美姫、何が良いんだ?
美姫 「こっちの話よ。まあ、簡単に言うと、浩の淹れたお茶は美味しいという事よ」
そうか、そうか。お代りもあるぞ〜。
美姫 「いやー、本当に扱いやすいわ」
はっ?
美里 「何でもないですよ、こっちの話です。ね〜」
美姫 「そういう事。女の子には、秘密がいっぱいって事よ」
はぁ…。
美姫 「何か言いたそうな顔ね」
べ、別にそんな顔してないだろう。
えっと、そうそう、次回が楽しみだよね。
美姫 「露骨な話の逸らし方ね」
そんな事はないぞ。
あ、美里ちゃんは何か知らない?
美里 「うーん、私も知らない〜。それより、このケーキ美味しいよ」
おお、そうか。それじゃあ、頂きます〜。
美姫 「私も食べよ〜っと」
美里 「それじゃあ、また次回でね〜」
美姫 「まったね〜」
次回を楽しみに待ってます〜。



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