第32話 地下迷宮を制覇せよ!(前編)

  〜開かれた扉〜

   *

 ――私立・聖流学園地下1F 地下古代要塞への扉前

 全員がほぼ時間通りに集合し、一同はかおりの案内でここまで来ていた。

「じゃあ、最終確認」

 巨大な扉を背に振り返ると、かおりはまるで点呼を取る委員長のような態度でそう言った。

「全員、お弁当と水筒は持ったかしら」

「おいおい、子供の遠足じゃないんだぞ」

 場の雰囲気を和らげようとお約束をやってくれるかおりに、優斗がすかさず突っ込んだ。

「あら、未知の領域に踏み込むのよ。水と食料はちゃんと持っていかないと」

「おまえは留守番組だろう」

「あはは、そうでした」

「ったく……」

「あの、おやつは一人300円までなんですか?」

「ファミリア、君まで合わせるんじゃない」

「弁当の中のバナナやゆでたまごはおやつに含まれるのか?」

「ディアーナ、おまえもか」

 優斗は段々頭が痛くなってきた。

「そういう草薙君だって、ばっちりリュックサック用意してるじゃないの」

「これはそんなんじゃない」

 そう言って持っていたリュックを潜行組の5人に配る。

「役に立ちそうなものを備品庫から掻き集めてきた。必要に応じて使ってくれ」

「それじゃ、そろそろ出発しようか」

「なるべく早く帰ってきてくださいね」

「気をつけて。中は何があるか分からないんだから」

「お土産よろしく〜」

 見送りに来た人たちの声を背に、優斗たちはその扉を潜った。

 連盟が調査を行なった関係で、途中までは整備された道が続いている。

 問題はその先である。

 天然の洞窟と良く分からない昔の技術を組み合わせて作られたそこは完全に未知の領域だ。

「最後に人が入ったのっていつごろだったっけ?」

 明りを手に先頭を歩く優斗に後ろから蓉子が話し掛ける。

15年くらい前だな。連盟の管理局が調査団を派遣してる」

15年って、どうしてそんなに長い間放っておかれてるのよ」

 答える優斗に蓉子が更に疑問をぶつける。

「調査が終了したからじゃないでしょうか」

「ってことは、ここにはもうお宝はないの?」

「いや、調査が終わってるんなら、奥がどうなってるか分からないってことはないだろう」

 ファミリアの推測に話が違うと一文字が声を上げるが、それをディアーナが否定する。

「それじゃ、何で連盟の人たちはここを放置してるんだ」

「さあ。優斗、何か知ってる?」

「いや、ただ、可能性があるとすれば……」

 再び蓉子に問われ、優斗は答えかけた言葉を止めて立ち止まった。

「放置せざるを得なかったんだろう」

 言って前方へとライトを向ける。

「なっ!?

「嘘……」

「酷いな……」

「マジかよ、おい……」

「そんなことって……」

 目の前の光景に、一同は言葉を失った。

 照らし出されたのは白骨化した人間の死体。それも一つや二つではない。

「状態からして10年以上は経過している。おそらく当時の調査隊だろう」

「そんな、こんなにたくさん……」

「当時の資料が少ないわけだな。最悪全滅したか」

 比較的冷静でいられた優斗とファミリア、ディアーナの三人が口々にそう言った。

「蓉子、悪いけど弔ってやってくれないか」

「う、うん……」

 優斗に言われ、蓉子はやや蒼い顔をしながらも頷いて前に出る。

 彼女の銀色の炎が遺骨を浄化し、遺灰を残すことなく燃やし尽くした。

「さて、ここから先は完全に未知の領域だ。俺たちもいつああなるか分からない」

 言外に引き返すなら今のうちだと言う優斗に、全員が改めて覚悟を決める。

 託されたから。そして、護りたいものもある。

 引き返すものは、誰もいなかった。

 優斗にとって意外だったのは本郷と一文字の二人が残ったことだった。

 トレジャーハンター気分で参加したように見える二人だが、実はそうではないのか。

 先の戦闘の様子を聞く限りではてっきり白骨を見て逃げ帰ると思っていたのだが。

 彼らも護るべき何かのために戦う戦士だということか。

 だったら、良いんだけどな。

 そんなことを考えながら、御影石の敷き詰められた通路を先頭に立って進む優斗。

 と、不意に横手から何かが飛び出してきた。

 確かめるよりも早く、優斗はとっさに懐中電灯を手放すと腰から蒼牙を引き抜いた。

 手を離れた懐中電灯が落下を始め、同時に抜き放たれた刃が宙を滑る。

 飛び出してきた何かはその一撃で両断され、べちゃりと嫌な音を立てて床に落ちた。

「ちょっと!」

「こんなところに生息してるんだ。どうせモンスターか何かだろう」

 批難の声を上げる蓉子を遮って、優斗は落とした懐中電灯を拾う。

「バカな、スライムだと!?

 明りの中に浮かび上がった姿を見て、驚きの声を上げる優斗。

 床に飛び散った水色のゲル状生物は正しくRPGなどに出てくるあれだった。

「誰の趣味だよ」

「さあ、でも、ガーディアンとしてはえらく役不足だよね」

「だが、こんなのが自然発生しているとは思いたくないな」

 上から優斗、蓉子、ディアーナの順である。

「そういえば、8月の事件のときにも似たようなモンスターが出現していましたよね」

「ってことは、ここにも邪気が侵入してるってことかよ」

 思い出したように言ったファミリアの言葉に、本郷が嫌そうに顔を顰める。

「その通りだよ」

 本郷のぼやきに頭上から答える声があった。

 見上げると、そこには紫の髪を腰まで伸ばした少女が一人。

 腰のあたりで手を組んで何やら楽しそうにこちらを見ている。

「ああっ、あんた、あたしを生き埋めにしてくれた奴ね!」

 数時間前に対峙した敵の姿を思い出して叫ぶ蓉子。

 言われた少女はきょとんとした顔で小首を傾げている。

「ごめん、それあたしじゃないよ」

「とぼける気。あたしはちゃんと覚えてるんだから」

「うーん、何て言えば良いのかな」

 びしっと指を突きつけられ、少女は困ったように腕組みをして考え込む。

「なぁ、蓉子。あの子が敵なのか?」

「見た目に騙されちゃダメよ。うちのホラーハウスを全壊させたのあいつなんだから」

「だから、あたしじゃないって。やったのはクローヴァイサー」

 眉を吊り上げて叫ぶ蓉子に、少女が再度否定する。

「つまり、おまえと瓜二つの姉だか妹だかがいて、やったのはそっちだと」

「まあ、そんなとこだね」

 ディアーナの推測に頷く少女。

「で」

「ん?」

「詫びを入れに来たわけじゃないんだろう。用件を聞こうか」

「さすが、話が早いね」

 食って掛かろうとする蓉子を抑えて聞いた優斗に、少女はにっこり笑って頷いた。

「このまま先に進まれると困るんだよね。悪いけど、ここで死んでもらうよ」

 そう言って少女が腕を振ると、あちこちからこれまたRPGに出てくるようなモンスターがぞろぞろと姿を現した。

「デビルプラントにマンイーター、ヒトクイソウにマンドラゴラって、植物ばっかじゃない」

「あんまり派手なのは使うなよ。こんなところで生き埋めなんて嫌だからな」

 一気に燃やし尽くそうとする蓉子に優斗がそう言って釘を刺す。

「だが、ああいうのは物理的な打撃には強い。やはりここは燃やそう」

「しょうがないか」

 ディアーナの提案に優斗も頷き、素早く全員に指示を出す。

 蓉子が火炎球を炸裂させ、焙れた敵はディアーナとファミリアの炎の矢が各個撃破する。

 そうして開けた少女への道を本郷の投擲を援護に優斗と一文字が駆け抜けた。

 少女は牽制に衝撃波を放つが、飛んで来るナイフのせいで上手く狙えない。

 それでも範囲を絞って4発撃つことで、後衛3人と一文字の足を止めさせた。

 そこへ懐へと飛び込んだ優斗が小太刀モードの蒼牙で切りかかる。

 少女はそれを身を捻ってかわすと、カウンターとばかりに剣を抜き放った。

「小さな体でよくやる。だが、まだ甘い!」

 返す刃でそれを受け止めると、優斗はもう一本も抜いて左右から連撃を加えた。

 繰り出される連撃を少女は剣で受け流し、力を集束させた掌で逸らす。

「良いのかな。こんなところで遊んでて」

「何?」

 連撃を捌きつつ、時折飛んで来るナイフや魔法を避けながらそう言った少女に優斗は思わず聞き返す。

 その隙に少女は素早く体を回転させて二刀を弾くと、空いているほうの手で優斗の鳩尾に掌打を叩き込んだ。

「くっ……」

 その小さな体からは信じられないような衝撃に、堪らず後方に吹っ飛ぶ優斗。

「優斗!?

「優斗さん!?

 他の敵を一掃した蓉子とファミリアが飛ばされてきた優斗を辛うじて受け止めた。

 そこへ更に一撃を加えようと迫る少女へと、本郷がナイフを投擲する。

「草薙さん、ここは俺たちに任せて先に行ってください!」

「な、何を……」

 言っていると続けようとした優斗の目の前で一文字が少女に鍵爪を振り下ろす。

「ここに一人しかいないってことは残りはこの奥。早くしないと先を越されてしまうわ!」

 少女の剣と鍔迫り合いを続けながら叫ぶ一文字。

「し、しかし……」

「自惚れないで。あなたたちなんていなくてもこんな小娘一人どうにでもなるわ」

「そういうこった。分かったら早く源流とかに行ってミッションコンプリートしてきな」

 憎まれ口を叩く一文字に本郷も軽口で便乗する。

「済まない。……皆、行くぞ!」

「行かせると思ってるの」

「おっと、おまえの相手はこっちだぜ」

「わたしのことも無視しないでもらいたいわね!」

 突破を阻止しようとする少女に本郷がナイフを投げ、一文字が蹴りを放つ。

 その隙に4人はその場を駆け抜けた。

「死ぬなよ。二人とも」



   *

  あとがき

龍一「ついに踏み込みました地下迷宮」

蓉子「でも、そこであたしたちを待っていたのは敵の刺客」

龍一「仲間を行かせるために残った本郷と一文字。二人の運命やいかに」

蓉子「次回、第33話 地下迷宮を制覇せよ!(中編)」

龍一「〜その名はライダー〜でお会いしましょう!」

二人「ではでは」

   *

 





一体、何が待っているのかと思えば…。
美姫 「やはり現れた敵」
残った本郷たちも気になるが、先に進む優斗たちを待ち受けるものも気になる。
美姫 「この先はどうなっているのかしら」
ワクワクしながら次回を待つべし!
美姫 「それでは、次回を待ってますね」
ではでは。



頂きものの部屋へ戻る

SSのトップへ